異世界転生して騎士になった僕(男)は、メスオークどもからくっころを強要されていた。    作:寒天ゼリヰ

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第85話 メスガキ騎士と朝食

 水浴びと言っても、タライにためた井戸水で汗を流すだけの簡単なものだ。それでも、冷たい井戸水を頭から浴びるのは気持ちがいい。汗を流し、少なくとも体の外側はスッキリすることが出来た。内側の方は、相変わらずだけどね。アルベールがいちいちエロいのがいけない。

 

「ウオーッ! 朝からご馳走ッスね!」

 

 テーブルについたロッテが歓声をあげた。焼きたてのパンと目玉焼きが二つ、そして夏野菜のサラダ。貴族の朝食としては質素だけど、平民であるロッテも同じメニューだ。『自分だけイイものを食べていると、兵から恨まれる。食べ物の恨みは怖いぞ』とは、アルベールの弁だ。

 

「それじゃ、まずは朝食前のお祈りを」

 

 アルベールが音頭を取って、食前のお祈りをした。祈りの言葉を口にしながら、こっそり周囲をうかがう。大テーブルについているのは、アルベールとお母様、そしてソニアをはじめとする騎士たち。

 立場的に微妙な私や平民のロッテが同じテーブルで食事を取っていいのかちょっと不安だったけど、文句を言うものは誰も居なかった。まあ、この食堂に私たちを連れてきたのはアルベールなんだから、その辺りを気にするのは杞憂だったみたいね。

 

「むぐむぐ」

 

 お祈りが終わると、即座ににパンにかじりついた。もうお腹はペコペコで、我慢なんかできない。リースベンのパンは、私の故郷であるズューデンベルグのものにに比べて茶色っぽく、おまけに硬くてパサパサしている。最初は面食らったものだけど、慣れてしまえば気にならない。

 下品にならないように気を付けながらも、ガツガツと料理を平らげていく。なにしろ朝から全力で運動したものだから、私の食欲は底なし沼状態だった。あっという間に皿の上の料理を平らげ、給仕にお代わりを頼む。まずはパン、次にタマゴだ。お代わり自由はすでに確約済みなので、遠慮なんかしない。そんな私を見て、アルベールは楽しそうにしていた。

 

「そういえば、アルベール殿。王都へ行くと聞いたが、いつ頃になりそうなんだ?」

 

 しかし、母様がそんなことを言いだしたのを聞いて、私の手は止まる。王都! 神聖帝国に住んでいた私には、耳慣れない言葉だ。しかし、知識としては知っている。ガレア王国の首都、パレア市のことだ。このリースベン領からは、馬を使っても半月以上かかるとか。

 そんな遠くに出張か……。往復を考えれば、一か月以上。実質的な庇護者であるアルベールがそれだけの長期間不在になるというのは、ちょっと不安だ。別にいじめられたりしてるわけじゃないけど、やっぱり私は不安定な立場にいるわけだし。

 

「今月中には、なんとか。中央の用事に熱中しすぎて代官の仕事が疎かになっている、なんて民に思われたら困るからさ。当面はそっちを優先したい」

 

「大丈夫なのか? 王を待たせて。いや、元敵であるあたしがそんなことを心配するのもおかしな話だが」

 

 眉をひそめながら、母様が聞いた。

 

「まあ、王都には翼竜(ワイバーン)で行くから、少々遅れても問題はない」

 

「ああ、アレか……戦争中もずっとあたしらの頭上を飛び回ってたヤツだな。費用をケチって鷲獅子(グリフォン)を導入しなかったことを激しく後悔したね。上を取られるのがあんなに厄介だとは……」

 

 珍しい事に、母様はあからさまに落ち込んだ様子でため息をついた。平気な風を装ってはいても、やっぱり敗北の責任は感じているんでしょうね。励ましてあげたいけど、私は私で敵前逃亡なんて真似をしてるわけだから……そんな言葉をかける資格なんかない。

 

「……」

 

 ロッテが無言で私の背中を叩いた。そちらを見ると、彼女はニッと笑って親指を立てる。……まったく、この子は! 私はちょっと泣きそうになった。

 

「ま、まあ、そういうわけで、意外と時間的な余裕はある。あるが……流石にそろそろ準備はし始めなきゃいけない。具体的に言うと、人選だな。国王陛下に今回の件を報告しに行くだけだから、お供は二人か三人も居ればそれでいい」

 

「人選も何も、アル様とわたしの二人がいれば十分でしょう」

 

 すました顔でソニアが言った。

 

「いや、悪いけどソニアは留守番だ。……僕とソニアが二人ともリースベンを留守にしたら、誰が責任者をやるのさ」

 

「エッ!? は、ええっ!?」

 

 ソニアの表情が引きつり、私は吹き出しそうになった。この女のここまで焦った顔は、初めて見る。危ない危ない。笑っているところがバレたら殴られるだけじゃすまないわ、絶対。

 

例の件(・・・)もある。僕としても、出来ればソニアにはついて来てもらいたい。でも、お前の他にリースベンの留守を任せられる人間がいないんだ」

 

「うっ……」

 

 確かに、という顔でソニアは黙り込んだ。アルベールは申し訳なさそうな表情で自分の顎を撫でる。

 

「本当に申し訳ないが、人手不足だ。王都に帰ったついでに、その辺りを何とかできないか頑張ってみる。それまではすまないが我慢してほしい」

 

「……はい」

 

 いかにも不承不承と言った様子で、ソニアは頷いた。どうやら、アルベールは何かを警戒している様子だ。部外者の私には、よくわからないが……。

 

「そういう訳で、ソニアは留守番。じゃあ代わりに誰を連れて行くんだって話になるんだけど……とりあえず、カリーナはほぼ確定だ」

 

「はあっ!? 私!?」

 

 そんなことを考えていたら、矛先が突然こちらに向いた。私は驚きのあまり、反射的に立ち上がってしまう。いや、王都には興味があるし、アルベールと一緒に旅をするのも楽しそうだ。連れて行ってくれないかなあ、とは思っていた。しかし、あくまで妄想だ。唐突にそれが現実になったんだから、驚くどころの話じゃない。

 

「うん。……とりあえずお前は、僕の両親に紹介しておく必要があるからな」

 

 えっ、何、両親に紹介!? もしかして結婚報告!? ええ、もしかして知らないうちに私大勝利の流れになってたの!?


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