異世界転生して騎士になった僕(男)は、メスオークどもからくっころを強要されていた。    作:寒天ゼリヰ

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第二章 王都内乱
第89話 くっころ男騎士と王都再び


 あっという間に、王都に向かう日が来た。もともとリースベンに配備されている一騎とアデライド宰相が寄越した二騎、合計三騎の翼竜(ワイバーン)に分乗し、僕たちは空の旅を開始する。

 結局、王都行きのメンバーは僕とカリーナ、ロッテ、そして部下の騎士のジョゼットの四名に決まった。ロッテを連れて行くのは、カリーナの精神安定のためだ。この頃必ずカリーナとロッテを一緒に行動させているのも同じ理由だったりする。

 なにしろ、カリーナにとってうちの部隊は敵中みたいなもんだからな。結構な精神負荷がかかっているはずだ。敵味方の感覚が薄い民間人、かつ獣人のロッテが近くに居れば、ガス抜きになるだろうという判断だ。人間ってやつは簡単に病んじゃうからな、注意はいくらしてもしたりない。

 ついでにロッテの教育も出来るんだから一石二鳥だ。あいつ、現状では四則計算も文字の読み書きもできないからな。この世界では義務教育なんてないから、上流階級の人間以外みんなこんなものではあるんだけど……。個人的には、やはり気になる。

 

「ぴゃあ……」

 

「うひぃ……」

 

 それはさておき、王都である。馬なら半月かかる旅程も、翼竜(ワイバーン)なら二日に短縮可能だ。しかしその代わり、翼竜(ワイバーン)の乗り心地は非常に悪い。着陸したとたん、カリーナもロッテも地面にへたりこんでしまった。

 

「ほーら、持ってきてよかっただろ、おしめ(・・・)。昨日に引き続き今日も大活躍だ」

 

 げらげら笑いながら、翼竜(ワイバーン)の騎手が二人に話しかける。翼竜(ワイバーン)騎兵たちは旅の直前に、おしめを用意するよう言ってきた。なんでも、フライト中に恐怖のあまり失禁してしまう者がそこそこいるのだという。ま、鞍を汚されちゃたまったもんじゃないからな……。

 

「も、漏らしてないわよぉ……」

 

「へ~え? 本当か?」

 

「本当! 本当だって!」

 

 顔を真っ赤にするカリーナだが、彼女だけを責めることはできないだろう。カリーナと同じ鞍に跨っていた(本来翼竜(ワイバーン)は二人乗りだが、二人とも小柄ということで強引に三人乗りさせられていたのだ)ロッテも同様の状態だからな。ロリ二人ほどではないにしろ、ジョゼットも顔色は悪い。

 空の旅はすでに二日目だが、一回くらいで慣れるものではないという事か。確かに、ロープ一本で不安定な鞍の上に固定され、地上から数千メートルの高度を飛行するわけだから怖くないはずもない。しかも翼竜(ワイバーン)は竜種としては比較的小柄なため飛行時の安定性も低く、ちょっとした突風で振り落とされそうなほど揺れる。

 

「アルベールさんは平気そうですね」

 

 僕が乗っていた翼竜(ワイバーン)の騎手が、妙につまらなそうな顔で言ってくる。僕に関しては、前世でヘリコプターに箱乗りしたりロープ一本で地上に降下したりした経験があるからな。この世界の人間よりは高さに対する恐怖心は薄い。

 

「見苦しい姿をさらさないよう、やせ我慢してただけだよ」

 

「ちぇっ、抱き着かれたりするんじゃないかって期待してたのになあ」

 

 騎手は唇を尖らせてそういった。……彼女は野性味のある雰囲気の美人さんだ。正直、抱き着いていいなら僕だって抱き着きたい。とはいえ世間体もあるし、何より前世から持ち越した価値観がそれを許さない。

 

「それはさておき、久しぶりの王都なわけだけど……」

 

 視線を北へ向ける。僕たちが降り立ったのは、王都からやや離れた場所にある小高い丘だ(流石に都市部に直接着陸するような真似はできない)。ここからなら、王都全体を一望することができる。

 頑丈な外壁によって幾重にも守られたその街は、まさに城塞都市を名乗るにふさわしい威容だ。しかし外壁の内側には、垢ぬけた瀟洒(しょうしゃ)なデザインの白い石造りの住居が並んでいる。無骨さと優雅さが同居した奇妙な大都市、それが王都パレア市だった。

 

「……今日中に入れるかちょっと怪しいな」

 

 大陸屈指の大都市である王都だが、それ故に往来も激しい。外壁に設けられたいくつもの街門からは、某テーマパークでもそう見ないような長さの長蛇の列が伸びている。真面目に列に並んでいたら、間違いなく街へ入る前に日が暮れてしまうだろう。

 

「わざわざ待たなくても、衛兵に事情を伝えればすぐに入れるのでは?」

 

 騎手が当然の疑問をぶつけてくる。僕は一応貴族だし、その上今回は王命で招集されたわけだからな。本来なら顔パスのはず……ではあるのだが。

 

「これでも政敵が多い身でね。いろいろ注意が必要なんだよ」

 

 とはいえ、衛兵の中にはオレアン公の手の者が混ざっているはずだ。監視されるだけならまだいいが、なにかしらの妨害を仕掛けてくる可能性も高い。何しろ僕は、オレアン公が手に入れるはずだったミスリル鉱脈を横から掻っ攫っていったわけだからな。相当恨まれているに違いない。下手をすれば暗殺すらありうる。

 リースベンを押し付けてきたのはお前だろ! と言いたいところだが、そんな正論が通じる相手でもあるまい。とにかく、向こうの思惑通りの動きをするのは危険だ。平民に変装してこっそり街に入る、くらいの警戒はすべきだろう。

 

「なるほどねえ。女爵どのも大変だ」

 

 騎手は腕を組んで唸った。彼女もアデライド宰相の配下だ。ある程度の事情はなんとなく察しているのだろう。

 

「とはいえ、政治は宰相閣下の得意分野。きっと何とかしてくれるでしょうよ」

 

 そう言って騎手は、視線を下へと向けた。そこには、馬に乗って丘を登ってくる一人の女性の姿があった。おそらくはアデライド宰相が寄越した迎えだろう。こちらに向かって手をぶんぶんと振っている。


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