異世界転生して騎士になった僕(男)は、メスオークどもからくっころを強要されていた。    作:寒天ゼリヰ

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第96話 くっころ男騎士と昼食

 購入した新型後装ライフル銃と弾薬は、すべて実家に送ってもらった。ラ・ファイエット工房を後にした後もアデライド宰相に同行して、いくつかの視察や非公式会談などを行う。ガレア王国の宮廷貴族としては最大の権勢を誇る(もっとも、オレアン公やスオラハティ辺境伯などの大きな領地をもった領主貴族にはさすがに劣るが)大貴族が文字通りバックについているわけだから、話がスムーズに進んで有難い事この上ない。

 昼になると、アデライド宰相に昼食に誘われた。夕食に辺境伯の所へ行くのなら昼食はうちで取れ、ということらしい。もちろん、こちらとしても否はない。王都の一等地に建つ宰相邸で、一流シェフの作る立派なランチに舌鼓を打った。

 

「そう言えば、午後はどうするつもりなのかね?」

 

 食後の香草茶を頂いていると、アデライド宰相が唐突に聞いてきた。一応、彼女とは午前中で別れることになっている。

 

「パレア大聖堂へ行く予定です」

 

 パレア大聖堂というのは、王都パレア市の中心部にあるこの国最大の教会だ。何十年もかけて建築したという立派な聖堂で、ガレアの各地からたくさんの巡礼者が訪れる星導教の聖地のひとつだ。

 

「叙爵の時に、僕をリースベン代官にするよう進言していたのが司教様でしたので……少し気になっていましてね。知り合いの聖職者に、調査を頼んでいたんです」

 

「たしかにそんなこともあったな」

 

 香草茶のカップをいじりながら、アデライド宰相が考え込む。

 

「……君の知り合いの聖職者というと、フィオレンツァ司教か。最年少で司教位に上り詰めた、生ける聖人」

 

「はい。彼女であれば、何か知っているのではないかと……」

 

 この世界は宗教の権威が強いからな。聖職者と仲良くしていると、いろいろとメリットがある。お布施(・・・)をしてみると、目に見える形で現世利益を授けてくれたりな。腐ってるなあとは思うけど、まあ仕方がない。潔癖ぶって余計な敵は増やしたくないので、僕も事あるごとにそれなりの額のお布施と言う名のワイロを教会に納めている。

 もっとも、宰相の言うフィオレンツァ司教はそう腐った人物ではない。貧民救済や孤児院経営に携わり、司教になった後も信徒一人一人の告解や相談を親身になって聞く。まさに聖人の鑑のような人物だった。

 

「奴はどうも胡散臭くて、私は好かんな」

 

 うさん臭さでは人後に落ちない金持ち貴族、アデライド宰相が口をへの字にして唸った。

 

「とはいっても、彼女に悪い噂はないですよ。信徒たちの評判も上々ですし」

 

 そこらの生臭坊主は平気で肉体関係や大金を求めてくるが、フィオレンツァ司教はそんなことはしない。どこぞの宰相と違って尻を触ってきたりしないし、お布施に関しても多すぎると逆に受け取らないくらいだ。

 

「それがかえって怪しいんだよ。清廉潔白なヤツが、あの若さで司教まで上り詰められるものかね。絶対、裏では相当汚いことをやっているはずだ」

 

「異様な出世に関しては僕も人のことを言えないので、ノーコメントで」

 

 僕だって、裏じゃ宰相や辺境伯に竿を売って便宜を図ってもらっている男娼騎士なんて陰口をたたかれてるからな。状況証拠だけ見れば真っ黒なんだから、仕方がないが。

 

「ハハハハ……確かにな。どうだね、噂通り私と寝てみるか? 伯爵くらいならポンと上げてもらえるかもしれんぞ?」

 

「どうぞご勘弁を。貞操は将来の妻に捧げると決めておりますので」

 

 内心は滅茶苦茶寝たいけどな!! あー、残念でならん。とはいえ、誰にでも腰を振るような淫乱男にマトモな嫁が来るわけがないからな。ブロンダン家の将来を考えれば、安易な手段に流されるわけにはいかない。母上も父上も、明らかに異常なガキだった僕をしっかりと育ててくれた恩があるからな。二人の名誉を汚すような真似は絶対してはいけないんだよ。

 

「そうだ、君はそれでいい。くれぐれも、自分を安売りするような真似をするんじゃないぞ」

 

 なんか宰相が良識派みたいなこと言ってるけど、そう思うならセクハラをやめてもらいたいもんだよな。僕の評判が悪いの、七割くらいアデライド宰相のセクハラのせいなんだが。アンタのせいで嫁になりそうな人が寄り付かないんだよ! ……あ、もともとか。前世の時点で嫁どころか恋人すらできなかったもんな……

 しっかし、宰相の真意がわからないな。事あるごとに(もちろん今日の移動中や屋敷を訪れた時にも)ケツを触ってくるくせに、貞操は大切にしろという。宰相にとっては、ケツ揉みくらい挨拶のうちなんだろうか? 『そんなカタいことを言っている男を墜とすのが気持ちが良いのだよグヘヘ』みたいなことを言われて手籠めにされてもおかしくない立場のはずなんだけどな、僕。

 

「だからこそ、フィオレンツァ司教のような女には気を付けるんだ。ああいう聖人ヅラしたヤツほど、裏では人に言えないような異常性癖を抱えていると相場が決まっている」

 

「……」

 

「孤児院の子供たちを毒牙をかけていても、私は驚かんからな。教義で婚姻を禁止されているせいか、聖職者という連中はどいつもこいつも性癖を拗らせている。性的なものを抑圧しすぎると、かえって健全な精神からは程遠くなってしまうものだ」

 

「なるほど」

 

 フィオレンツァ司教の顔を思い浮かべながら、僕は頷いた。もっとも、内心はまったく納得していない。あの人とも長い付き合いだからな。慈悲という言葉が擬人化したような女性、そういう印象がある。もっとも、アデライド宰相にそう反論したところで無意味だろうから、口には出さない。第一印象ってやつは、なかなか覆るものではないからな。

 

「とにかく、用心しておくことだ。何なら、私の騎士を何人か連れて行くといい。ジョゼットも優秀な騎士だが、一人だけでは手が回らない部分もあるだろう」

 

 僕の後ろに控えたジョゼットにちらりと視線を向けて、宰相は言う。フィオレンツァ司教云々はさておき、オレアン公の件もある。護衛は多いに越したことはないだろう。ここは上司の厚意に甘えておこうか。

 

「そうですね、よろしくお願いします」

 


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