『今年のレースは荒れる』
週刊誌、春の一面はこれで持ち切りだった。
冬のレースは軒並み中止、新人ウマ娘達はレースに飢えている。春に行われるメイクデビューはジュニア級だけでなくクラシック級まで入る始末だった。
「えーと、今年の目玉は··········」
3番人気ヒシアマゾン、2番人気アグネスタキオン、そして1番人気。
「フジキセキ、か」
才色兼備、豪華絢爛、そんな言葉が似合うウマ娘。
美しさ、コミュ力、ダンスの腕前、そして走り。
どれもこれも1級品だ。
そんな彼女のレースは見ている者を引き込む、まさに夢心地のようにさせる走りだ。
「極めつけはこのセリフがネェ··········」
彼女が先週のレースで放った一言。
『スカウトは、今度の選抜レースで受ける』
レースに出るだけでスカウトが来る様なヤツが、いちいち公の選抜レースでトレーナーを決めるとは。
「余程の自信があるのか·····しかし周りも一流が多い。さて、どうしたものか··········」
恐らく、フジキセキの争奪戦になるだろう。
「しっかし、レースを見なきゃ始まらないか」
『今ゲートが開かれた!各ウマ娘一斉にスタート。先頭に躍り出たのは13番。2番手につけるはアグネスタキオン、3番手は4番、4番手フジキセキ、その後ろにヒシアマゾン、続きまして··········』
『第4コーナー、先に仕掛けたはアグネスタキオン!しかし後続も追いすがる。おっと、ヒシアマゾン後ろから仕掛ける!フジキセキも食らいつく!残り200!フジキセキが上がってきた!フジキセキが上がってきた!なんとここで大加速!アグネスタキオンを差し返し、今1着でゴールイン!選抜レースを、まるで夢の如く走り抜きました!』
レース後のウイニングライブも大いに盛り上がり、そしてスカウトに移る。
「ぜひウチに来いフジキセキ!」
「いえ、私のところよ!」
「残念だけど、今回はお断りさせてもらうよ。また次の機会にね」
1時間掛けてもフジキセキが認めるトレーナーは現れない。
「もう、いないみたいだね··········それじゃあ、今回はここでお開きといこうか」
「ちょっと待ちな」
大きくはないが、よく通る声。腹からしっかり声を出している。
「解せねぇな。なんで前々のレースでトレーナーを決めず、メイクデビューで決めるのかと思いきやそれもしない。お前は一体何がしたいんだ?」
「おやおや、不快にさせてしまったかな?今回は私の探すトレーナーさんがいなかっただけさ。また次の機会がある。私の実力は、みんなに知ってもらいたいからね」
少し声が荒くなる。
「そうじゃねえ。お前はどんなトレーナーを探してるんだッて聞いてんのヨ。今のお前は、何を探し求めてるんだ!?」
「そう声を荒げないでくれ。私はただ、色んな人に私のレースを見てもらいたいだけだと、」
「違う!」ドンッ
思わず、フジキセキの後ろの壁を強く叩いてしまう。
「お前には強い目的があるはすだ!その為にトレーナーを探してるんだ!三冠か?ティアラか?そんなモンは何でもいい!ただな、お前が何かしたい、その為に協力し、指導するのがトレーナーだ!そのトレーナーに向かって、みんなから決めて欲しいだァ?巫山戯るなよ。俺は自分に正直になれないヤツは大嫌いなんだ!だから、お前が自分の口で言え!遠回しじゃなくて、本音でな!」
傍から見ればただの暴論だ。誰もが『アイツはダメだ』『嫌われたな』そう思っていた。
沈黙を破ったのは··········
「プッ、ハハ、ハハハハ!」
「··········フフッ、ククク、カーッカッカッカッ!」
2人の笑い声だった。
「いやー、最高だね。私も久しぶりに
「僕もヨ。中々に腹を割ったショーだった」
2人は暫く笑い続け、やっと止まったと思ったその時、
「それじゃあ、これからよろしくお願いします。トレーナーくん」
「ああ、よろしくフジキセキ」
会場の誰もが口裏を合わせたように、声を上げた。
この2人の出会いから始まるおとぎ話。
いや、笑い話。
2021/10/10 所々変更しました