ポケットモンスター:エキスパンションレポート 作:224番道路
とある大学教授の講義の録画映像
20XX/5/10 録画時間01:29:21
―――を見るに、宇宙には、何かしらの『指向性』が存在している可能性があるのです。
たとえば、この惑星には多くの大陸が存在しますが、それらは元々、1つの大陸だったと考えられております。
その1つの大陸が、地底深くのプレートの活動により、いくつもの断片に分かれ、それがまたプレートの動きに伴って離れ離れとなり、現在の各地方の位置関係が形成されたと。
これは1940年頃ですね、当時、惑星科学の権威でありましたツワブキ先生が提唱した、プレートテクトニクスという考え方ですね。
地表で起こる現象は、地底深くのプレートの運動によって引き起こされる、という理論です。
この理論において、プレートとは『レール』のような役割を果たします。
「こういう方向に大陸が動きやすい」、あるいは「こういう場所で地震が起きやすい」「ここに火山が生まれやすい」というように、物理的事象の『指向性』が、プレートという『レール』よって決まるのですね。
これと同様の事が、宇宙にも言える可能性があるのです。
我々が住んでいるこの惑星は、多くの微惑星が衝突・合体を繰り返した事で形成されたと言われていますが、ここで注目すべきは、「何故そうまで微惑星が都合よく集まったのか」という点にあります。
当然、「偶然である」という結論も否定はできません。
惑星は長ーい時間をかけて形成されましたので、その分『偶然』の確率も上がります。
長い時間をかけ、偶然同じ地点を通過した惑星がぶつかり、この惑星が形成されたと。
さらには、万有引力の法則もあります。質量が増えれば増えるほど物体を集めやすくなる。そうした様々な要因により、この惑星は形成されたと考える事もできます。
が、ある時ですね……もう10年前になるでしょうか、当時の私の研究室のある学生がですね、面白い仮説を立てたのですね。
すごく優秀な学生さんでした。彼は当時……16か7だったかな? 飛び級でこの大学にやって来た子でして。
彼はですね、「地球におけるプレートのように、宇宙にも目に見えない『レール』のようなものがあり、それに沿って宇宙空間の物体は動いている」と唱えたのです。
つまり、「微惑星が特定の一ヵ所に集まったのも、この惑星が形成されたのも、現在の太陽系・銀河系が形成されたのも、全てはこのレールに沿った『必然的な事象』である」と言うんです。
当時は私も、「随分と妄想が得意な子だ」と思ったものですが、どうもその仮説がずっと頭から離れなかったものでして。
そこで……1年半前、ホウエン地方のトクサネから、宇宙探索ロケットが発射されましたのを覚えていますか? ええ、最近帰って来たでしょう。
実はその乗組員にですね、宇宙の『水素原子』の濃度調査を依頼していたのです。
そして、その結果が半年前に届いたのですが……これが本当に驚きました。
この惑星の周囲だけでも、明らかに水素原子の濃度勾配があったのです。
要するに、宇宙空間の物質は、宇宙全体に均一に広がっているのではなく、座標によって濃度の偏りがあるのです。
観測可能な水素原子ですら、濃度の偏りが見られました。
おそらく宇宙の大部分を占めるダークエネルギーやダークマターも同じように、それぞれの座標で偏った濃度を示すのではないかと考えられます。
……あるいはこれが、当時彼が言っていた『レール』ではないだろうかと考えています。
物質やエネルギーの濃度の偏りが、「こういう方向に物体は動きやすい」という、川の流れ、プレートの動きのような『指向性』を生み、微惑星がその流れに沿って動いたため、都合よく特定の場所に集まり、数多の惑星が誕生したのではないかと。
いや凄まじいものです。
今回明らかになった事実もそうですが、何より当時の彼です。あの時すでに、彼はこの事実に気付いていたんです。
もっと真面目に話を聞いていればと、後悔するばかりです。
……彼ですか? さあ、それがまったく……。
私も気付かないうちに、彼はいつの間にか大学をやめていて……その後はどこで何をしているのやら。
しかし、研究者としてのセンスがズバ抜けた子でしたから、どこか別の所でも、きっと宇宙を研究していますよ。
案外、今頃とっくに、宇宙の真実に近付いているじゃないですかね。