ポケットモンスター:エキスパンションレポート   作:224番道路

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とある男の手紙

 

 

 ここに書かれているのは、死んだ人間の懺悔だ。

 もしこれを読む者がいるなら、そのつもりで読んで欲しい。

 

 

 俺の一族は昔、吉夢を見せるポケモン、クレセリアを信仰対象として崇める一族だった。

 この信仰は、俺の時代では“クレセリア信仰”と呼ばれていた。

 

 

 それまでこのシンオウ地方では、悪夢を日常に取り入れる風習があった。

 悪い夢は、未来で起こる厄災や、身内に起こる不幸を、あらかじめ教えてくれているのだという思想が根付いていた。悪夢を見る事で、人は安心を得て、日々の生活に全力を注げていた。

 そしてそれこそが悪夢を見せるポケモン、ダークライが存在する意味であり、役割だった。

 

 

 そんなある日、このシンオウ地方に、クレセリアがやって来た。

 クレセリアはダークライとは対照的に、心地の良い夢を見せる力を持っていた。

 それ自体は悪い事じゃない。ポケモンが生来持っていた力を恨む事などできない。

 だから悪かったのは、俺の一族だ。

 あろうことか俺の一族は、「クレセリアが見せてくれる吉夢こそが幸せの象徴であり、悪夢は人を怯えさせる不幸の象徴」だと勝手に解釈し、その思想を言い広め、一つの信仰にまで築き上げた。

 

 

 その後の事は、言うまでもない。

 人々は悪夢を恐れ、それを見せるダークライを全力で迫害するようになった。

 そして、それが現代のシンオウ地方を襲う、悪夢災害の始まりだった。

 

 

 当時、この地に住み付いていた多くのダークライは、突然自分たちを迫害し始めた人間に恨みを込めて、あるポケモンを生み出す事にした。

 自分たちの持つ悪夢を見せる力と、人間への憎しみと、そして己の生命エネルギーを全て注いで、ある意味人工的に、一匹のポケモンを生み出したのだ。

 

 

 それが、現代の君たちがダークライと呼ぶポケモンだ。

 彼は、俺の時代のダークライたちが、自分の命を材料にして作ったポケモンだ。

 

 

 彼は生まれた瞬間から、従来のダークライとは比にならない力を持っていた。

 本来ダークライの見せる悪夢なんて、単なる夢以上の意味を持たなかった。しかし常軌を逸した彼の力は、もはや悪夢で生物を殺せるほどに進化していた。

 

 

 彼はこの世に誕生してから、瞬く間に近くにいる人間、ポケモン、全ての生き物を眠りにつかせ、悪夢を見せ、そして殺していった。

 何より悲惨だったのは、彼自身はひどく温厚で、争いを好まない性格だった事だ。

 未だに覚えている。多くの人間たちの死体の中で、ただひたすら己の力が暴走するのを見ている事しかできない、幼い彼の絶望した姿を。

 

 

 俺たちクレセリア信仰の一族は、代々よりクレセリアから三日月の羽を受け取り、その一部を摂取する習慣があった。だから彼の力で死ぬ事はなかった。

 だが、俺の住む町の住人全員が死んだその日、クレセリアは人々の前から姿を消した。

 おそらく、自分の存在が人間たちに利用されている事に気付いたんだろう。

 そして、気付けばダークライもどこかへ消えていた。

 

 

 それから俺は固く誓った。一族の罪と贖罪は、俺が背負うと。

 なんとしてでも、ダークライをこの地獄から救い出すのだと。

 死んで魂だけの存在となっても、絶対にこの罪を償うのだと。

 

 

 俺は数百年も魂となって彷徨い続け、ようやくダークライの居場所を突き止めた。

 そして、降霊術を嗜むある男の体を借り、実験を開始した。

 

 

 俺は、ダークライが悪夢を見せていると思われる者の許へ医者を騙って訪れ、ある薬品を投与し続けた。

 この手紙と共に、その薬品の調合法も記載しておく。

 それは、人間が悪夢から目覚めやすくなる薬、今で言うワクチンのようなものだと思ってくれていい。

 

 

 俺は肉体が死ぬまでの間、漢方の調合師として働いていた。

 死ぬ少し前に、眠りから覚めやすくなる薬の調合法を見つけた。それを応用し、作ろうとしていたのが悪夢ワクチンだ。

 

 

 過去、五回に渡って実験を行った。

 全国各地を回り、ダークライの悪夢にうなされている者を見つけ、試作ワクチンを投与し、記録をつけ、データを蓄積してワクチンを完成させるつもりだった。

 

 

 だが、それも全て失敗に終わってしまった。

 あまつさえ、俺のせいで死者まで出してしまった。

 いいや、そもそも最初から成功なんてできなかったのだ。

 こういう世界に、俺たちがしてしまったから。

 

 

 ダークライは、もう二度とこの世界に希望を持たないだろう。

 というより、最初から持っていなかったのだろう。

 生まれた時からずっと、彼に希望など無かったのだ。

 結果はまさにその通りだった。

 俺は彼に希望を見せてやる事も、絶望から救ってやる事もできなかった。

 俺にはどうする事もできなかった。何もできなかった。

 俺に、許される資格など初めからなかったのだ。

 

 

 もしも、この手紙を読んでいる者の中に、ダークライを救える者がいるとしたら、後の事はお前に託す。

 どうか彼を、救って欲しい。

 

 

 俺は、地獄で罪を償う事にする。

 

 

 

 

 

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