ポケットモンスター:エキスパンションレポート 作:224番道路
とある助手の日記①
6月19日
マサキ先生がまたポケモンと合体してしまった。
今回でかれこれ五度目になる。
今日はゾロアと合体したみたい。
わざわざイッシュ地方の知り合いに連絡して、野生のゾロアを連れて来てもらったらしい。
本人は「ただの事故だ」なんて笑ってたけど、それは絶対に嘘。明らかにわざと。
あれってポケモンの虐待になるんじゃない?
バレたら大変ですよって伝えても、本人は「大丈夫」としか言わない。何も大丈夫じゃない。
私、ヤバい人の助手になっちゃったのかも。
もし先生がこれからも一線を超えるようなら、私が止めるしかない。
必要とあらば、この日記を証拠として警察に提出して、逮捕してもらうしかなくなる。
そうならない事を祈る。
6月20日
マサキ先生の助手になって一年が経つけど、未だに彼が何の研究をしてるのか全然分からない。
ちょっと前までは、ポケモン預かりシステム技術開発の現役トップだったみたいだけど、今では相談役という立場に落ち着いて、開発に直接関わる事はなくなったらしい。
でも研究業から身を引いたのかと思えばそういうわけでもないようで、現在、彼は預かりシステム開発に使っていた実験装置で、別の何かを研究している。
でも、何を研究してるのかは全く教えてくれない。
「その時が来れば教える」なんていつも言ってるけど、その時がどの時なのかも教えてくれない。
普段はすごくフランクな雰囲気なのに、頑固なくらい秘密主義者。
研究データの入ったパソコンのログインパスワードも、毎日変えているらしい。
イーブイ好きのクセに。
カワイイもの好きの秘密主義者なんて怖過ぎる。あの人は一体なんなの?
6月21日
今日のマサキ先生。ずっとパソコンを『にらみつける』。
最近、妙に研究機材の調子が悪いのは、彼がにらみつけ過ぎて防御力が下がったせいだと思う。
メンテナンスや修理をするのは私なのに。本当に勘弁して。
今日に至ってはイーブイの世話まで押し付けて来た。
イーブイはカワイイからいいけど、自分の研究時間が減るのは嫌だ。
そもそも私は先生の召使いじゃない。
とはいえ、マサキ先生の集中力にはいつもびっくりする。
今日の先生は朝の8時から夜の7時まで、ぶっ通しでパソコンと睨めっこ。
何かをメモしては消し、メモしては消しをずっとくり返してた。休んでる姿を全く見てない。
私だけ先に帰ってきちゃったけど、今も先生は、ラボでパソコンを睨み付けているのだろうか。
何をメモしてたんだろう。
というか彼は何を研究してるの?
6月22日
ラボの仲間に、ゾロアが加わった。
以前、マサキ先生が合体したゾロアだ。
カワイイ。信じられない。この世のものとは思えないくらい尊い。
あんな訳分かんない人に無理やり合体させられたのに、全然人間に警戒心を持ってなかった。むしろ人懐っこい。
ポケモン図鑑を見た。ゾロアも進化するらしい。進化した名前はゾロアークだそうだ。
ゾロアークもカワイイ。大きな毛がフワフワしててとてもいい。あそこに顔を埋めたい。あの毛で全身を包みたい。
話は変わり、今日のマサキ先生。
今日の先生は『はねやすめ』。昨日頑張り過ぎて疲れたから、今日は一日寝るらしい。
研究所にいるポケモンは、みんな先生の手持ちだから、今日のラボには私一人。
ゾロアくらいは私が引き取ればよかった。
先生の使ってる机の上に、昨日先生が色々書いてたメモ用紙が残ってた。
先生の研究内容を覗いちゃおうと思って読んでみたけど、何を書いてるのか全然読めなかった。数式の意味も分からなかったし、書かれた文字も分からなかった。
字が下手過ぎる。いくらメモでも。
6月23日
研究がまったく上手くいかない。
モンスターボールの機能改善をテーマにしてあれこれ頑張ってるけど、未だに何の成果もない。
ていうか、ポケモンの縮小現象や電子化現象の段階から覚えなきゃいけない事が多過ぎて頭がパンクする。
修論、後一年じゃ絶対に足りない。
どうしたらいいんだろうってマサキ先生に相談しても、「楽しもうや」としか言ってくれない。
ポケモンと合体するのがそんなに楽しいの?
変態だ。気を付けよう。
6月25日
ラボに入る直前、マサキ先生が誰かと電話してる声を聞いた。
オーキド先生って言ってたから、多分オーキド博士。ポケモンを研究してるすごい博士。
結局何を話してたのかは全然聞こえなかったけど、あまりいい雰囲気じゃなかった。
電話が終わったのを見計らってラボに入ったけど、先生もちょっと元気なかった。
あの人も落ち込むらしい。新鮮。
ポケモンと合体したがる変態だと思ってたけど、すごい博士と知り合いだったりするし、余計に訳が分からない。
ちょっとキモい。