ポケットモンスター:エキスパンションレポート   作:224番道路

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とある助手の日記⑤

 

9月30日

 

 

 

 日記をつけてて本当に良かったと思う。

 私の日記がちょっとだけ役に立った。

 

 昨日、マサキ先生が帰って来た。

 ポケモン転送装置から突然現れた。

 

 日記を読み返していて、そういえばかなり前から転送装置も含めた研究機材がやたらと不具合を起こしやすくなってた事を思い出した。

 なんでそれをオーキド博士に言ったのかは覚えてない。

 何の手掛かりもなくて焦ってたから、何でもいいから言ってみようと思ったのか。

 でもそのおかげでオーキド博士は何かに気付いて、ポケモン転送装置を常時ずっと起動し続ける事を思い付いたらしい。

 これが一週間前。

 

 そして昨日、マサキ先生が転送装置から現れた。

 私は何が起きたのか分からなかったけど、マサキ先生とオーキド博士は、何か知ってるみたいだった。

 マサキ先生からありがとうと言われた。私が命の恩人なんだって。

 あの人からお礼を言われるの、初めてかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

10月4日

 

 

 

 今日判明した事がある。

 どうやら私は自分が知らないうちに、とんでもなくヤバい事をしでかしていたらしい。

 私はルザミーネさんに、思ったよりひどい事をしていたみたい。

 

 

 マサキ先生が教えてくれた。

 私は転送装置の操作をミスして、彼女を装置から装置へ転送しただけだと思ってたけど、実際は違っていた。

 私はあの時、『装置内の全生物の転送』と『ポケモンのみの転送』を同時に行っていたのだ。

 この二つは似ているようだけど、全く違うシステムが働いてる。同時に行おうとすれば致命的なエラーが出る。

 で、実際にエラーが出た。その結果、ルザミーネさんの体が治ったのだ。

 正確には治ったわけではないけど。

 

 

 転送装置は物体を転送させる時、まずは物体を「物体の情報を保持した粒子」に分解して、それを電波通信を利用して遠距離に送り、送った先で粒子を元の形に再構築するのだという。

 これは人間だろうがポケモンだろうが同じらしい。

 問題はこの再構築の際に、私の操作ミスのせいで大きなバグが起きてしまった事だ。

 ルザミーネさんの体が再構築される時、どうやら『ポケモンの毒も肉体の一部』と装置が認識してしまったらしく、彼女の肉体は『毒に侵された病体』ではなく、『毒も含めた状態がデフォルト』として再構築されてしまった。

 

 

 ルザミーネさんが元気を取り戻したのはそれが原因だった。彼女の肉体は今、「体内に特定のポケモンの神経毒を含んでいる状態が最適になる」よう、組成そのものが変化してしまっている。

 毒が肉体の一部になった事で、毒が体を攻撃する事も、そして体が毒への拒絶反応を起こす事もなくなった。

 

 

 私は、とんでもない事をしていたらしい。

 肉体組成の再構成なんて、私はあまり生物に詳しくないから何が何やらで実感が湧かないけど、でも多分、すごくダメな事をしてしまったという確信がある。

 人がやっていい事の範疇を越えてる。

 それに伴って、もう一度ルザミーネさんをアローラ地方から呼んで来て、検査をする羽目になった。

 どう謝ったらいいのか、全然思いつかない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

10月7日

 

 

 

 タマムシ病院でルザミーネさんの体を検査したけど、異常は見られなかったらしい。

 彼女に事の次第を全て説明した。私がしてしまった事も全部。

 それでもルザミーネさんは、怒るどころかさらなる研究支援をしようと言ってくれた。

 

 どうやら彼女の所属する財団は、傷付いたポケモンの保護を一番の目的にしているらしく、今回私がやってしまった「肉体再構成による病や傷の治癒」を、良い方向に応用できないかという狙いらしかった。

 

 本当に申し訳ないけど、お断りするしかなかった。

 体が治ったのは結果論だ。逆にもっとひどい事になっていた可能性もある。

 この現象を研究する事自体が危ない。

 

 

 とりあえず、彼女の体に異変がないのだけが不幸中の幸いだった。

 これからも定期的に検診する必要はあるみたいだが、そんなに難しい検査は必要ないから、地元のアローラでの医療施設でも構わないらしい。

 

 話は変わってしまうけれど。

 今度、色んな事が落ち着いたら、マサキ先生から全部教えてくれる事になった。

 先生が何を研究してたのかも。

 そしてあの日、なんで消えちゃったのかも。

 あんなに聞きたいと思っていた話が聞けるのに、今はちょっとだけ、聞くのが怖い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

10月18日

 

 

 

 ラボにある研究機材のほとんどを、他の地方のシステム管理会社に受け渡す事が決まった。

 決めたのはマサキ先生本人。しばらく研究業から身を引きたいそうだ。

 今回の件で、先生は完全に懲りたらしい。少しの間、頭を冷やすと言ってた。

 何に懲りたのかは分からない。そもそも私は、彼が何の研究をしていたのかすら知らない。

 

 

 先生は自分の研究を諦める代わりに、私の研究の手伝いをしてくれる事になった。

 立場が反対になった。これから先生が私の助手になる。

 あまり喜べない。

 研究を続ける覚悟が自分には足りないって気付いてしまった。

 それになにより、私はルザミーネさんやリーリエちゃんに、何かひどい事をしてしまったような気がして、完全に自信を失ってしまった。

 

 でも、やってしまった事は戻らない。

 私ができる事と言えば、ルザミーネさんが振り込んでくれた支援金を、どうにか何かの役に立つような使い方をするしかない。

 それが、彼女の気持ちを裏切らない方法だから。

 もっと研究を続けなきゃ。でも自信が湧かない。

 研究を続けるためにも、しばらく私も休学する事も考えたい。

 

 

 

 日記には書かなかったけど、実は昨日、先生は私に全てを話そうとしてくれた。

 自分の研究の事。あの日の失踪事件の事。そしてその他にも、私に言わなきゃいけない事もあるらしかった。

 

 でも、私の方から断った。それを聞くのは早過ぎると思った。

 正直に怖いと思った。

 彼が何を研究していて、その結果何を見たのか。それを知った時、なんだか先生を見る目が変わってしまうような気がして。

 

 なんとなく直感している。先生と私は多分、踏み込んじゃいけない所に踏み込んだ。

 研究者であろうとなかろうと、絶対に入ってはいけない領域に。

 私はまだ未熟だから、それを知ったら多分、彼も自分も許せなくなるかもしれない。

 だから、先生から話を聞くのは、もっと成長してからにしようと思う。

 

 

 この日記を読み返している自分が、どんな事実でも受け入れられるほど成長している事を願う。

 まだページは余ってるけど、切り替えの意味も込めて、これからは新しく買ったノートに日記を書く。

 余ったページは、計算用紙にでも使おう。

 

 

 

 

 

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