ポケットモンスター:エキスパンションレポート   作:224番道路

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とある開発者の手紙

 

 

オーキド先生へ

 

 

 マサキです。

 本当はしっかりお会いして話をしたいのですが、僕の方が色々な用事が重り、しばらく直接お会いする事ができなくなりました。

 手紙という形になってしまう事を、ご容赦ください。

 

 

 改めて謝罪します。本当に申し訳ございませんでした。

 あの時の自分は、どうかしていたとしか思えません。完全に常軌を逸していました。

 研究者として、人間として、越えてはいけない一線を何度も越えました。

 

 助手の子にも大きな迷惑をかけました。

 しばらく研究からは手を引きます。あるいは、助手の研究の手伝いが終わったら、そのまま研究業を引退しようと思っています。

 償いや反省以前に、僕の性根が、開発者や研究者としての道徳から大きく外れてしまったように感じています。このままでは同じ事を繰り返すかもしれません。

 これからどうするか、模索していくつもりです。

 

 

 まずは巻き込んでしまった責任として、なぜ今回の事件が起きたのか、そのあらましをお伝えします。

 オーキド先生にも以前、電話でお話しましたね。あなたを怒らせてしまったあの研究内容です。

 より詳細にお伝えしようと思います。

 

 

 

 

 

 

 僕が研究していたのは、ご存知の通り『ポケモンの増殖技術』です。

 昔、オダマキ先生が語ってくれた話、覚えていますか?

 

 ホウエン地方のポケモン預かりシステムが何らかの不具合を起こし、ボックス内でポケモンが何匹も複製されてしまった『ポケモン増殖事件』の話です。

 あの事件の収拾には、僕も関わっていました。

 そして関わっていく中で、預かりシステムによってポケモンがコピーされる現象に、徐々に興味をもち始めました。

 本格的に増殖現象を研究し始めたのは、ここ二、三年です。

 

 

 最初は正義感でした。

 この増殖現象を応用すれば、近い将来訪れる食料難や、資源不足による貧困なども解消できるんじゃないかと。

 しかし研究すればするほど、興味は加速し、当初の目的も忘れてしまいました。

 この一年はもっぱら、人間とポケモンを体を使った動物実験ばかりを繰り返していました。

 そして数ヶ月前、増殖現象の再現をついに成功させました。

 

 

 僕のラボにいたゾロア、覚えていますか?

 あの子、実は一時期、二匹に増えていたんです。

 ゾロアを使い、増殖実験を行いました。ホウエン地方で起きた事件の再現です。

 結果は成功です。どんな操作をすればポケモンが完全にコピーされるのか、全てデータに残しました。

 増殖のみならず、増殖したポケモンを再び一匹に戻す実験も成功していました。

 ラボにいた一匹のゾロアは、二匹に増殖した後、元の一匹に戻った個体です。

 

 

 増殖実験成功のきっかけは、僕の助手でした。

 ルザミーネさんの治療中、彼女が転送装置の操作を誤り、それによってルザミーネさんの肉体組成が変化してしまったのが、大きな手掛かりでした。

 

 俗な言い方をすれば、『バグ』でしょうか。

 転送装置の、ではありません。この世界そのもののバグです。

 

 本来、転送装置の操作をミスしたからと言って、人間の肉体組成が変化するなんて現象が、この世の物理法則上、起こるはずがないんです。

 しかし、僕の助手はそれを成し遂げてみせた。

 この世界の法則には抜け穴があると、僕はあの日、初めて気付いたんです。

 

 

 

 それからは、転送装置にあえてエラーを起こし、どんなバグが発生するかばかりを研究しました。

 その中で、決まった手順を踏むと物体が増殖する事に気付きました。

 初めは植物で実験していました。

 あのゾロアが、初めての動物実験の成功例です。

 

 先生が怒るのも無理はありません。

 明らかに、僕のした実験は生命の冒涜であり、この世の理を超えた行為でした。

 

 

 

 

 

 しかし、僕の好奇心はその実験を境に、さらに暴走しました。

 動物や植物までも自由に増殖・組成変化・合体できるなら、この世界そのものを自由に改変できるんじゃないかと、悪魔のような事を思い付いてしまいました。

 

『世界シミュレーション仮説』をご存知ですか?

 この世界はコンピューター上のシステムが作り出した仮想世界である、という仮説です。

 

 当初は眉唾ものと思っていましたが、増殖実験を繰り返すうちに、あの仮説が真実ではないかと思い始めていました。

 そして、所詮はシステムなら絶対に介入し、干渉できる。そんな夢のような妄想に取り憑かれる事となりました。

 それと同時期です。

 僕は実験中、不可解な現象と遭遇しました。

 

 

 

 ある手順に従って転送装置を起動すると、転送したはずの物体が、忽然と姿を消すのです。

 データ上では明らかに転送が完了しているのに、転送先に指定した場所に、いつまでも転送物が現れないのです。

 物体が完全に消滅するのです。

 

 普通はあり得ません。この世は常に、エネルギーにも質量にも保存法則が働いています。

 しかし、それを無視して物体が、質量が、エネルギーが消滅する。

 まるでこの世界の抜け穴を通って、『向こう側』へ行ってしまったみたいに。

 今にしてみれば、馬鹿げた妄想です。

 しかし、その頃の僕は自分の妄想を止める事もできなくなっていました。

 

 

 それが、僕が一ヶ月以上に渡って姿を消した原因です。

 物体消滅実験を、自分の体で試しました。

 その際、なぜか町中が停電になったと聞きましたが、そればかりは本当に原因が不明です。

 あの時の出力は、決して停電するほどの電力を使うような強度ではなかったはずです。

 

 

 

 

 

 

 ともかく僕は、一度消滅しました。

 その後の事をどのように語ればいいのか、まだ分かりません。

 不思議な体験でした。まるで夢を見ているみたいに支離滅裂で、意味不明な感覚です。

 

 

 僕は全てにいました。

 意味が分からないと思うでしょうが、感覚的にはそう表現するしかありません。

 とにかく全てです。

 全ての大陸、全ての地方、全ての森、全ての海。そして全ての平行世界。

 こことは違うポケモンの進化形態が存在する世界。

 あるいは、この世界とひどく似通っているが、何かが少し違う世界。

 たとえば、ルザミーネさんが異世界のポケモンと融合しなかった世界。

 そういう全てを、一瞬で感じ取れる。そしてその一瞬が永遠に続く。そんな『どこか』を、僕は漂っていました。

 

 

 帰りたいと思っていました。

 でも、まるで壁に弾かれるように僕は「その場所」から出る事ができませんでした。

 多分、扉が閉じていたからです。

 ここでいう扉は、おそらく転送装置です。

 オーキド先生が転送装置を常時起動させ続ける事で、扉を開きっぱなしにしてくれなければ、僕は帰って来れなかったでしょう。

 

 助手が書いていた日記が手掛かりだと聞きました。彼女にも、頭が上がりません。

 本当は、彼女にもこの話をするべきなのですが、彼女の方から聞く事を断られました。

 

 

 

 

 

 

 最後に一つだけ、オーキド先生に報告したい事があります。

 これも、助手の書いていた日記が手掛かりでした。

 

 

 実は6月初め頃から、僕のラボにある実験機材が、妙に不具合を起こすようになっていました。

 ただ機材が古くなっただけと思っていたのですが、どうも違うようです。

 データを調べてみてようやく気付きました。

 

 

 どうやら一年前から、ポケモン転送装置が僕の知らない時間に何度も起動していたようでした。

 実験時間は必ず別の文書資料にメモを取るようにしているので、その時間と照らし合わせてみましたが、どう考えても合致しません。

 あの転送装置は、僕らがいない時間も独りでに起動し、『何か』をコチラへ転送し続けていたんです。

 

 

 それが何かは全く分かりません。

 そして、転送されて来た『何か』は一体どこへ行ってしまったのか、それも不明です。

 分かった事は一つ。転送装置が僕らの想定を超えて何度も起動していたために急激な負荷がかかり、不具合を起こしやすくなっていた、という事だけです。

 

 

 

 

 

 

 言い訳のように思うかもしれませんが、自分が自分じゃなくなったような感覚です。

 好奇心のタガが完全に外れていました。

 この一年、僕は見えない何かにずっと甘い言葉を囁かれているような、夢見心地な気分でした。

 

 

 あるいはそれこそが、転送装置から送られ続けた『何か』の正体だったのかもしれません。

 扉の向こうから、誰かが僕に向かって、ずっとそれを転送し続けて来たのかもしれません。

「やってみたいだろう」「試してみたいだろう」「見てみたいだろう」「知りたいだろう」という際限のない欲求。

 世界の抜け穴を知って、普通ではできない事をしてみたいという欲求。

 つまり、好奇心です。

 

 

 覚えがあります。

 昔やってたゲームで、バグを利用した裏技を知って、とっても興奮した時の事。

 あれと全く同じ感覚でした。

 

 

 

 

 

 

 すみません。まだ妄想癖が抜けていないようです。

 諸々の事情が片付き次第、すぐに先生の許へ伺います。

 そして、直接謝罪させてください。

 

 

 此度の一件、本当に申し訳ございませんでした。

 そして助けてくださり、ありがとうございました。

 助手の子には、彼女の研究を精一杯手伝うという形で償おうと思います。

 責任を、しっかり果たします。

 

 

 

 

 

マサキ

 

 

 

 

 

 

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