また恋を教えて、と屋上で君は笑った。   作:和鳳ハジメ

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第10話 友達を紹介しよう?

 

 

 今日も今日とて放課後は屋上である、運動部達の騒がしい声を下に。

 二人、静かに遠くを眺めているだけ。

 毎日こうして二人だけの時間があるのだ、こういう日も出てくる。

 

(不味いのはさ、……嫌じゃないんだよねこの沈黙)

 

 苦にならない。

 気まずさに襲われない。

 むしろ安心して、リラックスできていると感じる程だ。

 ――言葉の無い時間が、こんなにも心地よい。

 

(本当に不味い)

 

 大五郎はちらりと横にいる咲夜を盗み見る、彼女は何が楽しいのか機嫌良く目を細めて。

 絵になる、美しいと思う、その姿に暖かみを感じてしまう。

 隙間の空いた心に、するりと入ってきて場所をとる。

 

(水仙さんも同じ気持ちなら……なんて思っちゃいけないんだ)

 

 遠い、愛しい恋人が普段より遠く感じる、思い出が戸棚にしまわれたアルバムの中身のように思い出せなくなっていく感覚。

 

(まだ僕はさ――)

 

 その先は心の中でも続けられなかった、認めてはいけない、認めてしまったら終わってしまうから。

 大五郎はそっと目を伏せる、考える、このままではいけない。

 

(というかね、僕たち二人っきりなのが原因だよねこれ、水仙さんの様な美人と肩がふれあう距離に放課後毎日二人っきりとか、どんな錯覚をしても不思議じゃない)

 

 とはいえ、だ。

 

(この空間に誰かを参加させる、というのはダメだね)

 

 彼女を独占したいという訳ではない、けれど不思議な事に。

 この場に誰かを参入させることは、彼女の気分を害するという「確信」があるのだ。

 ――ちらりと視界の隅に、赤い糸が風もなく揺れて。

 

(………………忘れてた、相性が良い相手ってこういう事だったね)

 

 苦笑をひとつ、大五郎は思考を切り替えた。

 

(つまるところ、水仙さんがぼっちで放課後の予定が僕だけって事が問題なんだよね。――まぁ、僕がトールや輝彦の誘いを断って一緒にいる事も、事態に拍車をかけてる訳だけど)

 

 ならば、彼女の交友関係を増やせば良い。

 

(ねぇ水仙さん、ちょっと提案があるんだけど…………いやなんで僕は声に出さないんだ?)

 

 確かに口を開こうとしたのだ、声に出して、彼女に友人を増やそうと。

 けれど、出来なくて。

 

(うーん、自分が分からない……、それとも、分かってないフリをしてるだけかねぇ?)

 

 トホホ、と悩ましい顔をする大五郎。

 一方で咲夜もまた、彼の様子を密かに観察していた。

 

(一人でころころ表情変えて、愉快なのね神明くんって)

 

 何かを言いたげに、でも止めて。

 普通なら気になる所だ、これが他の誰かなら完全に無視するか、冷たく問いただす所ではあるが。

 

(なーんか、それでも良いって思うのよね)

 

 こんな気持ちは初めてだ、こんなにも他人が気になるのも初めてだし。

 なにより、……不快ではないのだ。

 

(誰かと一緒にいて、話さなくても大丈夫なのね)

 

 そう思うのは、隣にいるのが神明大五郎だからか。

 それとも、別の理由があるのだろうか。

 

(自分の気持ちが分からなくなるなんて、こんな気分なのね)

 

 でも。

 

(うん、うん。イヤじゃない、神明くんとならこうしていて安心できるもの)

 

 水仙咲夜という人物は、美という観念を常に意識している。

 それが疲れるという訳ではない、むしろ楽しんでやっている。

 けれど……、取り繕うという言葉は相応しくないが。

 

(気を使う必要がない、そういうコトなのかしらね?)

 

 彼はまだ、咲夜の視線に気づかず表情を変え続ける。

 楽しげに、ちょっと怒って、不満そうに、悪い顔もしてぶんぶんと頭をふって自制する。

 そして、――寂しそうな。

 

(いつかは……話してくれるのかしら)

 

 以前はあれだけ気になっていたのに、隣にいる、その事実だけで許せてしまう。

 いつかは、絶対に打ち明けてくれる。

 そんな確信めいた予感さえ、不思議と心を暖かくした。

 

「…………」

 

「…………」

 

 言葉はない、風は少ない、地上のざわめきだけが聞こえる。

 今日の二人は、それがたまらなく安心出来たのであった。

 

(――――――最近、付き合いが悪いと思ったら…………我が遠き翼の伴侶よ!! これは異端審問をかける必要があるぞ!?)

 

 そんな二人を、隠れて伺う者が一人。

 黒く日焼けしたギャルそのもの、しかして中身は未だ完治しえぬ中二病の持ち主。

 

(これは絶対に!! 話を聞かせて貰うべきであろう!!)

 

 『あっちゃん』の姉にして、大五郎の幼馴染みの紅一点。

 ――『えーちゃん』こと、加古絵里(かこ・えり)その人。

 

(……聞かせて貰うべき…………いえ、わたしにその権利が? でも気になる……埋もれし愚かな天才よ、そなたは何時、月光の使者と仲良く……?)

 

 眼前の二人は、もはや熟練カップルの域。

 それはいつか見た、妹と彼と同じ光景。

 喜ぶべきことである、関係を壊さぬよう見守るべきかもしれない。

 

(けど…………、また、大五郎と皆で……)

 

 うん、うん、絵里は深く頷いて。

 

(明日、そう明日! まずは大五郎を捕まえてからである!!)

 

 大五郎と咲夜の間に吹く風が、変化を起こそうとしていたのであった。

 

 

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