また恋を教えて、と屋上で君は笑った。   作:和鳳ハジメ

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第31話 「また恋を教えて」と屋上で彼女は言った。

 

 

 

「それで、答えは見つかったの?」

 

「ま、まぁね……っ!!」

 

「じゃあ、正解を期待しても良いのかしら?」

 

 少し歯切れの悪い大五郎に、咲夜はくすりと微笑んだ。

 実の所、彼が正解に辿りついた事は手紙を貰った時点で分かっていたのだ。

 最初の受け答えもそうだ、彼はあの時の再現をしようとしている。

 

(顔を真っ赤にしてガチガチに緊張しちゃって、ふふッ、可愛いわね大五郎くん)

 

 彼は何度も何度も深く深呼吸し、続きを言おうとしている。

 

(頑張って、私は貴方から聞きたいの。私の事だけを一生懸命に考えて悩み抜いた貴方から)

 

 そんな将来の夫の、恋人の、本当の意味で愛する男になるだろう男の精一杯の茶番劇につき合わない咲夜ではない。

 彼は、彼女をまっすぐに見つめて。

 

「――すぅ、はぁ、すぅ、はぁ。……ごめんね、まだ緊張してるみたいなんだ」

 

「ええ許すわ、だって貴方が愛する私を前にしてのコトだもの。紙袋のことだって多めに見てあげるわ」

 

「…………それ、光栄だねって言いたいけど。結局キスしたよね? しかも皆の前で堂々と」

 

「青春よ青春、それぐらい男の勲章だと思って受け入れなさいな」

 

 満足そうに笑う彼女に、大五郎としては苦笑するしかない。

 なんというか最早この先、一生涯において頭が上がらないのではないか。

 

(でも、嫌じゃないどころか嬉しいって思う自分が居るんだよね)

 

 水仙咲夜、愛する人。

 藍へとは違う愛を覚えた人、大五郎を救ってくれた人。

 そんな彼女の、最初の願い。

 

「…………そろそろ本題に入っても良いかい? これはとても光栄で、なんで忘れてたんだろうって思ったけど。それ以上にさ」

 

「根に持ってるって言いたいの?」

 

「違うよ、乙女チックっていうか。ああいやバカにした訳じゃなくて、なんて言えばいいか……」

 

「上手く言えないなら、帰りましょうか?」

 

「早いっ!? 早いって咲夜っ!?」

 

「じゃあちゃんと言って、全部聞いて上げるから」

 

 柔らかく微笑む咲夜に、大五郎は見惚れながら頷く。

 本当に、もう完全に手遅れだ。

 そして不覚にも。

 

「逆なんだ、そう逆」

 

「逆?」

 

 問い返す咲夜に、大五郎は深呼吸をひとつ。

 

「…………あの時の言葉、まるっきり逆になっちゃったから」

 

「ふーん、抽象的でまだ分からないわね。もっと詳しくお願い」

 

「ううっ、可愛い意地悪だね咲夜。……僕が教えられたんだ、君に、愛を」

 

「あら、そんな内容だったかしら?」

 

「………………『私に、恋を教えなさい』」

 

「ああ、――――良く出来ました大五郎くん」

 

 にっこり笑う咲夜に、彼は心底胸をなで下ろした。

 だが彼女は首を横に振って。

 

「でも、今は少し違うわね。ちょっとだけ相応しくないって思うのよ」

 

「えっ!? 何がどこがっ!?」

 

「考えてもみて、あれはあの時の言葉。今からそうするには……少し、そう、少しだけ違うの」

 

「つまり?」

 

「言葉を足して、ええ、私から言わなきゃ」

 

 そう言うと、彼女は祈るように胸の前で両手を組み。

 大五郎を紅潮した頬で見つめ、真摯に、歌うように言葉を紡いだ。

 

 

「私に、――また恋を教えて。貴方の過去の恋じゃなくて、これからの私達の恋を教えてくれませんか」

 

 

 ああ、と大五郎は納得した。

 確かにそれは大事である、たかが一語、されど一語。

 でも新たに関係をスタートさせる二人には、とても大切な一語

 

(『また』――嗚呼、そうだ『また』恋を教えて、だ。うん、そうなんだ僕らは……)

 

 これからなのだから。

 

「そっか、僕は君に恋を教えていたんだね」

 

「ええ、とてもとても悲しい結末の恋だったけれど。それでも確かに教えて貰ったわ、でも」

 

「うん、僕は、僕らの恋を教えてない。……いや違うね、僕からも言わせて欲しい」

 

「喜んで」

 

 大五郎は咲夜の手を己の両手で包むと、しっかりと目を合わせる。

 

「僕に、君にまた恋を教えさせて欲しい。今度は悲しい結末じゃなくて笑って最後まで、僕が居なくちゃ生きていけないってぐらい――惚れさせてみせるから」

 

「もう、逃げない? 恥ずかしさで隠れない?」

 

「勿論、恥ずかしくなったら君にキスするか抱きしめるコトにする」

 

「もう、死にたくない?」

 

「それは藍に対しても、咲夜に対しても。そして今、君を愛している僕自身に失礼な事だから。……二度と言わない、ううん、きっと二度と思わない」

 

「――――嬉しい、嬉しいわ大五郎くん」

 

 咲夜は目尻に少しの涙を浮かべ、彼の胸に額を寄せた。

 大五郎は彼女を大事そうに抱きしめ、小さく「ありがとう」と呟いた。

 もう、過去に囚われる事はない。

 もう、二人は共に前を向いて歩いていける。

 ――人生は長い、これから先にまた違う困難が立ちふさがる事だろう。

 

(けど、……僕はもう大丈夫だから)

 

(大五郎くんと一緒だから、私は自分の美しさに覚えてボッチだった私じゃないから)

 

 歩んでいける、幸せになれる。

 否、幸せである。

 その確信を、きっと寿命で死んだ後でも疑わないだろう。

 はぁ、と大五郎は幸福な溜息をひとつ。

 その時であった。

 

「――――あ、そう言えば大五郎くんに伝えないといけない事があったの、すっかり忘れてたわ」

 

「成程? でも重要なことじゃないなら、もう少し雰囲気に浸らない?」

 

「いいの? 今日の夜、ウチの家で貴方のご両親と勿論のこと私達も同席して婚約祝いをするんだけど」

 

「すっごい重要だったっ!? え、なんで僕は知らされてないの!? 何着ていけば良いのっていうか!! 君のお父さんに僕はなんて言えばいいのさっ!?」

 

 一難去ってまた一難とはこの事か。

 寝耳に水、それとも青天の霹靂だろうか。

 

(不味い、これはかなり不味い事態じゃないのっ!?)

 

 然もあらん、今の二人は結婚前提の同棲をしている。

 しかも、大五郎の実家でだ。

 事前に両親同士で話がついているとはいえ、咲夜が説得しているとはいえ。

 

「どうしよう、今の今まで君のご両親と挨拶の一つもしてないんだけどっ!? これ不味いよ超不味い事態だって!?」

 

「あ、ちなみにお父さんの夢はお前なんかに娘は渡さんって殴り合うことだから」

 

「もう少し早く言って!! そしたらファイトスタイルとか調べ上げて対策したり、弱みとか好物とか調べて精神的に揺さぶる事とか出来たのに!!」

 

「そういう言葉が出てくるって事は余裕ありそうね」

 

「全然無いよ!! 取りあえず速攻で帰ろう、今すぐ帰って着替えて挨拶の言葉考えて――いやその前に手土産とか結納の品とか用意しなきゃいけないし」

 

 あーだこーだと慌てて悩み始める大五郎を、咲夜は実に楽しそうに笑って。

 

「じゃあ提案なんだけど、恋を教えて貰うついでに手土産買うデートでも今からしましょうか」

 

「お、それ良いね。あんま時間無いだろうけど服も頼も選んでくれないかな?」

 

「予算はあるの?」

 

「勿論、ダイアモンドの指輪を即決で買えるぐらいには余裕はある…………金銭的には余裕あるのになぁ」

 

「それは逞しいことね、――じゃあ行きましょうか」

 

「よし来た! じゃあ急ぐよ!!」

 

 そして駆け出す大五郎、しかし扉の前まで来ると足を止める。

 何故ならば、咲夜がまったく動いていなかったからだ。

 手をひらひらさせて待つ咲夜の下へ、慌てて引き返すと。

 

「慌てん坊の大五郎くん? もうデートは始まってるのよ? それに急いでも無駄に焦るだけだわ」

 

「うーん、さてはもう一つ理由があるね?」

 

「ええ、分かるでしょ?」

 

「勿論、とても大切な事だった」

 

 大五郎は彼女の手を取って、キザったらしく一礼し。

 

「デートしてくれないかな咲夜? エスコートもしたいからお手を拝借」

 

「今日は短い時間だけど、楽しませてね。――ふふっ、その後の方がもっと楽しそうだけど」

 

「それを言われると痛いけど、うん、僕にメロメロになるぐらい夢中にさせてあげる」

 

 大五郎は咲夜の手を取り、彼女はしっかりと握り返す。

 二人は屋上を後にして、幸せそうに笑いあってデートに出発したのであった。

 

 

 

 

 

 ――――終。

 

 

 

 




はい、という訳で完結です。
最後まで楽しんで頂けたなら嬉しいです。
ではでは、また。
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