また恋を教えて、と屋上で君は笑った。   作:和鳳ハジメ

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第6話 好きな物はなぁに?

 

(あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!! 僕はどうしてあんな事をしてしまったんだああああああああああ!!)

 

 大五郎は今、屋上へ続く扉の前で踞っていた。

 時間が経てば冷静にもなる。

 顔を隠して風紀委員を突破、それはベストな判断だったかもしれない、だが。

 

(なんでお姫様だっこまでしちゃうかなぁ? いや追いつめられてたからって、僕は本当に何をしてるんだ!?)

 

 正直な所、授業中も休み時間もずっと恥ずかしくて隣の席の美人さんを見れなかった。

 そして現在、このドアノブの重いことよ。

 勢い百パーセントだとしても、あんな事をしてしまった相手にどんな顔をして会えはいいのだろうか。

 

(というかさぁ、なんでこんなに恥ずかしいワケ? すっごい胸がドキドキ言ってるんだけど……落ち着けぇ、落ち着けよ僕、僕には素晴らしい恋人がいるんだからね!!)

 

 開くぞ、回すぞ、ドアノブを捻って中へ入るのだ。

 深呼吸を何回も、永遠に続きそうな躊躇いに大五郎が襲われている中。

 ――その、反対側では。

 

(うわーーーーーーーーーーーーッ!! 何なの!? 何なのアイツ!? バカじゃないのホントにバカじゃないのッ!?)

 

 なるべく考えないようにしていたのに、いざ放課後となると緊張してしまう。

 顔どころか、全身が茹で蛸になっている気がする。

 なんて卑怯、あんな不意打ち心の準備をする間もない。

 

(落ち着け、落ち着くのよ、私になら出来るはずよ。アイツはただの友達で、アレはヤケクソで私を巻き込んだだけなんだから――――)

 

 だから、こんなにドキドキする必要なんてない。

 真っ赤になって唸る必要なんてない。

 

「こんなのずるい……」

 

 幸か不幸か、か細いその声は誰にも届かず。

 

(うぅ……、もうすぐ神明くんが来るってのに顔が赤いのが戻らない…………)

 

 基本的に己の美にしか関心がない咲夜だが、手慰みにドラマやマンガを見ることだってあるのだ。

 お姫様だっこなんてフィクションの産物で、バカらしいとすら思っていた。

 この美貌なら相手次第で、とても絵になるだろうなと少しぐらいなら想像をしていたが。

 

(実際にされてみると、あんなに破壊力があるものだったとは…………)

 

 とにかく、シャンとしなければと大きく深呼吸を一つ。

 平然とした顔をしたつもりで、扉が開くのを今か今かと待ち受けて。

 ――キィと扉が開く。

 

「や、やぁ! 今日も早いねぇ! 水仙さん! 同じ教室だってのに僕の方が毎回遅いよね!!」

 

「そ、それはあたッ、当たり前よ神明くん、ボッチの私と違って? アンタは他の人とダベってから来るじゃない!!」

 

「…………」

 

「…………」

 

 お互いにどもり不自然な強調、視線は泳ぎ四方八方へ動揺を隠せていない。

 だが。

 

(いよおおおおっし!! ベストコミュニケーション!! 完璧な受け答え! 平然と会話できたぞ!!)

 

(はッ、そーよそーよ! やれば出来るじゃない! これで私が動揺してるだなんて気づかれないわね!!)

 

 残念ながら第三者は不在である、故に両者ともパーフェクトなつかみだと確信して。

 ならば、次の言葉は決まっている。

 

「そうそう、朝のことだけどさ。……元凶は僕にあるとはいえノーカンにしない?」

 

「奇遇ね、私もそれを言い出そうと思っていたのよ。この世紀の美貌の持ち主である私の初めてのお姫様だっこは、金持ちで優しいイケメンだって決まってるのだし!!」

 

「……」「……」

 

(ふぅ~~~!! 水仙さんがチョロくて助かったぜ!)

 

(流石は美しい私ね、神明くんがチョロくて助かったわ!)

 

 満足そうに仁王立ちする咲夜、大五郎としても一安心ではあるが。

 

(…………やっぱ、これの所為なのかなぁ)

 

 彼の他には誰にも見えない運命の赤い糸、それは確かに二人の間で揺れて。

 ――今の、はまるで彼女を意識しているみたいだった、彼には「あっちゃん」という最愛の彼女がいるのに。

 

 繋がっている、運命の赤い糸が目の前の少女と。

 繋がっているのが見えない、最愛の彼女と運命の赤い糸で。

 

(会いたいよあっちゃん、今すぐ抱きしめて欲しい、あー……今そばに居るのがあっちゃんならなぁ)

 

 彼女ならば言いたいことも分かるし、こちらの気持ちも分かってくれている。

 なにより幼馴染みで、何もかも知っている仲だ。

 

「………………あ」

 

「どうしたの神明くん、そんなに私を見つめて。――ああ、惚れた?」

 

「見つめたとか惚れたとかは全然まったくこれっぽっちも無いけどさ」

 

「そこまで否定する事はないと思うわよ?」

 

「僕は水仙さんのこと、名前ぐらいしか知らないなって。…………強いて言うなら、すっごい美人だけどアホっぽいところがあるとか?」

 

 誉めているのか貶しているのか分からない言葉を気にせず、咲夜も彼のことを思い出す。

 

「そういう神明くんは分かりやすいわね、幼馴染みが何人かいて今も仲がいいって聞くし、クラスでは頼れる変人枠だし、実際には行動力のあるバカだし。その癖テストでは、奇跡の毎回全教科75点キープ」

 

「平凡なやつだよ僕は」

 

「恋愛大明神とか一部で言われてて、クラスで一人はいそうなお調子者の神明くんが平凡? アンタ、もう少し自分が変人だって自覚したら?」

 

「水仙さんが自分の美しさを自覚してるように?」

 

 からかう様な言葉に、彼女も同じように返した。

 

「ええ。そして知るべきね神明くん。アンタは自分が思ってるより、私を困らせるのが好きみたいよ?」

 

(ちょっとは自覚してッ、屋上で会うようになってから私の心は神明くんに乱されっぱなしって!!)

 

 これで少しは自覚した筈だ、そう咲夜が思った瞬間であった。

 彼は、至極なっとくいったと言わんばかりの顔で頷き。

 

「なるほど、――――でもそれって水仙さんも同じだよね。君って僕を困らせるのが好きっていうか、困らせるのに明後日の方向へ全力尽くしてる節すらあるよ?」

 

「ッ!? そ、それって…………――――!?」

 

「ああ、そうさ。君も考えてる通り…………」

 

 目を丸くして驚く咲夜、美人が驚くと可愛く見えるのはずるくないか、と大五郎は思うが。

 ともあれ、二人の出した結論は。

 

「「――――ライバル!!」」

 

「そう! 僕らは――」「ライバル! 友達にしてライバル!」

 

 途端、大五郎と咲夜はお互いの右手をがっしりと握りあい。

 

「ふっ、そうと決まればこれからは遠慮なしで行くよ水仙さん!」

 

「望むところだわ神明くん、私もアンタを困らせるから……全力で私を困らせなさい!!」

 

 二人は今日も、楽しそうに放課後を過ごしたのであった。

 

 

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