あの騒がしい伊豆春祭が終わり、数日がたった。
今日は5月になったばかりだというのにも関わらず、じんわりと汗ばむほど良い天気である。
数日前の二日酔いをすっかり忘れ、北原伊織は下宿先のダイビングショップ、グランブルーの一角にて大学の友人、今村耕平と共にビールを飲んでいた。
伊織の叔父である登志夫に労働力と若者の貴重な時間を提供した彼らは、対価として手に入れた刺身とビールに舌鼓を打ちつつ話し込んでいた。
「珍しく、部室に集まったのは俺たちだけだったな。」
「人の部屋を勝手に部室にするな。俺はまだ納得していないぞ。」
まったく、とビールを片手にぼやく伊織。耕平の言う通り、現在グランブルーにはほとんど人がいない。伊織と耕平を除くと、同居人であり、いとこでもある奈々華が店番をやっているくらいだ。
部屋の中は連日連夜の騒ぎとは打って変わり、穏やかな波の音だけが聞こえている。
「古手川もいないのは珍しいな」
「ああ、お前が来る少し前かな。荷物をもってどこかに出かけて行ったよ。」
ふぅん…とどこか気の抜けた返事を返す耕平。
「まあたまにはこんな日もあっていいだろう。久々にゆっくりとできるのにこれを逃す手はないぞ」
テレビのニュースを眺めながら、伊織が一息にビールをあけた。
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珍しく穏やかに酒を飲んでいた二人であったが、深刻そうな顔をした奈々華に声をかけられる。
「伊織くん、耕平くん。今朝から千紗ちゃんの様子がおかしかったんだけど何か知ってる?」
「千紗が?」
「何か知っているのか?北原」
…ふむ。
言われてみれば、今朝は妙にそわそわとしていたような気もする。
「まあ、確かに。千紗が休日に出かけるのはかなり珍しいですね。やたらと落ち着きがなかったようにも思えますが…様子がおかしいってほどでもないでしょう。」
千紗だって友人と遊びにいくことだってあるだろうし、よほど楽しみなことでもあるのかもしれない。
すると、奈々華さんが首を振りながら答えた。
「確かに千紗ちゃんが休日に出かけるのは珍しいけど、それだけじゃないの。」
「というと?」
「千紗ちゃん、きょう予定してたダイビングをキャンセルして遊びに行っちゃったの」
「「そんな馬鹿な!!」」
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「いいか北原。俺が今までプレイしたゲームを参考にすると、古手川がおかしくなった原因として考えられるのはこの三つだ」
伊織の部屋においてあるホワイトボードに何かを書き込み、順番に指さす耕平。
① 恋人ができた
② 知らずの間に改造された
③ 弱みを握られ、凌〇手前
「確かに、それ以外に千紗がダイビングをキャンセルするなんてありえないか…!」
こいつのオタク知識も案外馬鹿にできないな。
①ならまだいいが、②や③だった場合、目も当てられないぞ。
耕平はうなずき、言葉を続ける。
「無論、①なら問題はない。しかし万が一②③の合わせ技だった場合、古手川の体は感度が三千倍に改造されているだろう。」
「しょうがねえ、耕平!千紗の後を追いかけるぞ!」
身内が感度三千倍に改造されることだけは防がなければ!!まってろ千紗!!
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奈々華さんが千紗の行き先を知っていたのは僥倖だった。すぐさま最寄りの繁華街まで電車で向かい、駅周辺の捜索を始めた。
「ほら、あそこ。古手川だ。」
捜索を始めて15分ほどたっただろうか、耕平から千紗を発見したという連絡を受け、耕平と合流した伊織。遠目から見た千紗はやはり今朝と同じようにそわそわと時間を気にしているようだった。
「耕平、どう見る?」
「安心しろ北原。少なくとも
なんでそんなことがわかるんだ?と耕平に尋ねると耕平は真剣な面持ちで言った。
「よく見ろ。全身タイツを着ていない。シロだ」
どうやら改造されると全身タイツを着なければならないらしい。よくわからんがこいつが言うのならそうなのだろう。
「さらに言えば、あの古手川の表情。あれはまるで恋する乙女のそれじゃないのか?」
言われてみれば、千紗の表情はどことなく楽しそうに見える。ちらちらと時計を確認していることからも、弱みを握られているなんてこともなさそうだ。
「なんだ、ってことはマジで
「まあ、杞憂であることに越したことはないだろう。ちょうど古手川の待ち人も現れたみたいだぞ。」
別に千紗が恋人を作ろうと、あまり興味がないが...念のため、どんな奴か確認して帰るとするか。
「どんな奴だ?」
伊織の目に映ったのは、ニット帽にサングラスとマスク。5月だというのに厚手のコートを羽織って荒く息をした不審者が千紗の手を引く姿であった。
「
対〇忍シリーズは最高というお話がしたくてこの話を書きました。後悔はしていません。