時刻は11時を少し回ったところだろうか、薄暗い部屋の一室で短髪の赤茶けた髪の男がベッドの上でのそりと体を動かしている。
寝ぼけ眼で壁にかかったカレンダーを見るなり、ため息を一つ零し肩を落としている。
男が着ているタンクトップの裾から、多少なりとも鍛えているのかある程度筋肉質な身体がちらりと見えた。
意外なことかもしれないが、たった今起床した男__金一にとって世間一般で遅めと評されるこの時間に起床するということは比較的珍しい部類に入った。
といっても、たいそうな理由ではない。私生活を賭け事に汚染されたこの男は、基本的に朝からパチ屋に並んでいるからである。
個人的な所感だが、パチンコに依存しているかの判断は、朝パチ屋に並ぶかどうかで大きく変わる(気がする)。
並ぶのはイベ日*1だけだから...などと考える学生諸君が増えないことを願うばかりである。
閑話休題
金一が日課の賭け事に奔走していないのは無論、彼が改心したからではない。
所属しているダイビングサークルで同期となる女の子、古手川千紗との買い物の約束があるためだ。
とある事情によって千紗に高価なダイビンググッズをプレゼントすることとなった金一は、本日予定していた雀荘荒らしの予定をずらし、普段よりも比較的ゆったりとした寝起きを迎えていた。
金一も年頃の男性である。世間一般的に十人が十人とも美少女だと認める女の子と共にデート(?)に行けること自体は喜ばしいことだ。高価なプレゼントだって所詮あぶく銭をばら撒くだけだ。美少女の喜ぶ顔が見られるのであればご褒美といえる。
普通に考えれば、ため息などつく必要がない筈の金一が憂鬱であるのは、千紗の姉である奈々華が常軌を逸したシスターコンプレックスであることに起因する。
自分が愛する妹とギャンブル狂いの男がサシで買い物に行ったなどと知られると、冗談ではなく命の危険がある。
刺激的な出来事を好む金一ではあったが、自身の命が担保ともなると話が違ってくるようだった。
体型や顔を隠すためだろうか、暖かくなってきたにも関わらず厚手のコートを身につけ、サングラスとマスクを装備する
洗面台にて自分の姿を確認し、満足そうに頷いた。
「完璧だな。」
どうみても変態であった。
——
なぜだろうか。妙に視線を感じる。
集合場所にたどり着いた金一は疑問に思いながらも千紗を探す。5月とはいえ、この格好だ。大分汗をかいてしまったが、必要な犠牲だ。辺りを見回すと涼しげなワンピースに短いパンツを身につけた千砂を発見した。白く輝くおみ足が麗しい。
『ハァ…ハァ…千紗ちゃん…ハァ…ハァ…お待たせ…』
汗を拭いながら遅れたことの謝罪を告げる。
『私もさっき着いたばかりだか…』
こちらを振り向くと、一瞬固まる千紗。素早く携帯を取り出し、迷いのない手つきで何処かへと連絡を取ろうとしている。反射的に手元を押さえ、連絡を阻止した。国家権力(おまわりさん)は洒落にならん。
『落ち着け千紗ちゃん。俺だ、金一だ。』
『薬院くん…?何その格好』
サングラスをズラし、身元を告げる。どうやら変装は完璧なようだ。
『事情があってね。あまり気にしないでくれ。さあ、時間もないんだし早くショップに行こうぜ。』
千紗は幸か不幸か自身の姉の実態を知らないし、変装の理由を説明するわけにはいかない。
あまり悠長にもしていられないしな。今回のデートがサークルメンバー(特に伊織と耕平)に見つかった場合、迷いなく彼らは自分を
「…まぁいいけど。通報の察知と阻止が手慣れ過ぎてない?」
その辺は昔取った杵柄という奴である。クセになってんだ、反射で通報を阻止するの…
ガハハ、善哉善哉。と笑って誤魔化し、明後日の方向を見つめる。Tol○veるのスロット出るらしいけど楽しみだなぁ。激熱演出でどエロい一枚絵とか出るんだろうなぁ。
じとっとした目でこちらを見つめる千紗の手を引き、事前に調べていたダイビングショップへと向かいはじめた。
——-
地図アプリが指し示す方向へ向かってしばらく歩いていくと、目の前に似たような薄暗い細い道が2本並んでる。
電波の通りが悪いためだろうか、どちらに向かえば良いかいまいちハッキリとしない。
「道がわからないの?」
「どうやら電波が届いていないようだ。どっちかの道の突き当たりにあるみたいなんだが…」
「もうお店自体は近いんでしょ?それなら一旦適当に行ってみて探せばいいんじゃないの?」
確かに と千紗に合意し、携帯をしまう。道を間違えても戻ってくればいいだろう。そうなるとどちらの道に行くかだが…これは?!
瞬間、脳裏によぎる直感が完璧な回答を導き出した。
「わかったぞ千紗ちゃん。間違いなく右の道だ。」
右手の道に設置された赤い看板を指差し、千紗に告げる。
「?ダイビングショップとは関係のない看板みたいだけど…」
「よく見てみな、千紗ちゃん。看板の色が赤だ」
いまいち意図が伝わっていない様子だ。千紗は首を傾げ、それが?というような顔をしている。
やれやれ、学業優秀な彼女らしくもないが、ここはひとつ教えてあげることにしよう。
「いいかい、千紗ちゃん。小学校で習ったと思うけど、保留は基本的に白、青、緑、赤、金の順番で信頼度が高いんだ。」
「は?保留?」
「白文字と青文字なら青の方が熱いし、緑shock*2よりも赤shock*3の方が脳汁ぶしゃぶしゃアヘアヘぴょいってことだよ。つまり赤い看板がある道の方が信頼度が高いってわけ。」
最近はリゼロの先バレっぽいものが流行ってるけど、昔ながらの色演出もいいよね。
美少女デートRUSHに突入してるし、信頼度70はあるだろ。(確信)
「大丈夫だ千紗ちゃん。俺はこの手の2択を外したことはない*4」
「何一つとして言っていることがわからないんだけど…」
なぜか呆れる千紗を引き連れ、意気揚々と右の道を突き進む。いかがわしいお店や休憩できるホテルが沢山並んでいるが、問題ない。
…やはり見つけた。目的のダイビングショップだ。治安と立地があまりに悪いと言わざるを得ないが、お店の経営は大丈夫だろうか。まぁ、俺が気にすることではないな。
「千紗ちゃん、ここみたいだよ」
「あ、うん」
店舗の入り口を指差し、心なしか顔を赤くする*5千紗に向かって声をかける。どうしたんだろう。トイレでも我慢してたのかな。(失礼)
なぜか恥ずかしそうに口籠る千紗とともに店に入ろうとし、
咄嗟に右方向へと前転した。地面を転がり、全力の回避行動を取る。ガガガッと地面に何かが突き刺さる音が響く。間違いなく敵襲、しかも得物持ちだ。体制を整えつつ、先ほどまで俺がいた場所を確認すると、
無数のア○ルビーズが突き刺さっていた。
なんて恐ろしい武器使ってやがる…!
私事ですが、去年大型二輪の免許を取得しました。そして新車でバイクを買いました。
アーマードコアも買いました。
この小説のことは忘れていました。
要件はそれだけだ、じゃあな