エンデヴァーとの離婚から12年後………
「うっ……うーんっ………」
「ほーらイゾルデ、もう朝ですから起きて下さい。髪、酷いことになってますよ」
「………?なんで香山さんにここに………?」
「ここは職員室なんだから当たり前でしょ。しっかり目覚まして下さい」
「……………そっか……香山さんごめんね。また私ここで寝ちゃったみたい………」
「ここではミッドナイトって呼んでって言ってるでしょ。さぁ早く洗面所行って下さい。息子さん、今日受験なんですから」
香山さん……じゃなかった。ミッドナイトさんの言葉にハッとなった私は時計を見て慌ただしく教師用洗面所へと向かった。
なるべく家に帰って寝るようにはしてるのだが受験シーズンとなる2、3月になると忙しさが一気に10倍ほどにまで跳ね上がる。
それ故に大量にある書類整理や志望書の記載ミスなどを洗い出しているを長時間やっているうちについ目を閉じ、そのまま寝てしまうのだ。天下の雄英高校ということもあって教師用のシャワーと広い浴場が完備されていることが、私の不摂生な生活に拍車を掛けているのかもしれない。
「おはよう御座いますイゾルデ。また職員室で寝ていたんですね」
「13号さんおはよう御座います。ここにはシャワーとかも完備されてますし、つい時間を忘れて仕事に没頭しちゃうんですよね」
「あなたも女性なんですから少しは体を労って下さい。これ、私がよく使ってる化粧水なので良かったら」
「おはよう御座いますイゾルデ。こっちの書類終わらせておいたのでここに置いときます」
「Everybody say!!朝から全員テンション上げてるかテメーら!!!」
「山田うるさい!!朝っぱらから大声出すんじゃないわよ!!!」
静かだった職員室も徐々に騒がしくなり、1人1人が個性あふれる教師の面々が職員室に集まった。私もヒーロースーツを身に着け、職員室に小走りで戻る。
「みんなおはよう!受験シーズンとなって忙しいと思うが、ここでビッグニュースの来訪だ!!」
個性的な面々の中でも特に頭が抜けているげっ歯類こと根津校長がひょこっと姿を見せ、ここにいる教師陣の視線を集めた。
「それでビッグニュースというのは?」
「オールマイトが現在大きな傷負い、次世代へと力を託そうとしているのは皆知っているよね?」
イレイザーヘッドさんの問に根津校長は神妙な面持ちで言葉を返した。
リカバリーガールがいる雄英高校の教師と根津校長、そして各組織のトップのみが知っている情報だが、オールマイトは数年前に悪の権化である
そしてオールマイトの個性、
「先日、ヘドロヴィランが中学生の体を乗っ取り、その後オールマイトに吹き飛ばされた後捕縛されたんだ」
「タシカソノ際、ヒーローガ真ッ先行動セズ、同級生ノ学生ガ真ッ先二行動シタコトガ問題二ナッテイマシタネ」
「ヒーローなら人質真っ先に救出しなきゃいけないってのに動かないだなんて……こりゃヒーローの質がまた一段階落ちたってことじゃねーの?」
「その事が今回の話と何の関係が?」
「……その時、オールマイトは活動限界を迎え、動けない状況だったんだ。オールマイトすらが動かなかった状況でその中学生は動き、そしてオールマイトを動かしたんだ。それ故に彼はその中学生に……それも無個性の子供に個性を譲渡することを決めたんだ」
「無個性の子供ですか。それで?彼の名前は?」
「折寺中学3年生、雄英高校第一志望、緑谷 出久さ」
緑谷 出久……確か整理していた書類の中に彼の志望書も入っていたな。オールマイトさんが認めた子供……一体どんな子なんだろう?
「元々は後継者探しという目的でここの教師をやってもらう予定だったんだが、個性を譲渡した彼の教育するという目的でオールマイトはここの教師を務めてもらうことになった!!みんな仲良くして上げてくれ!!」
「それについてはわかったんですけど、その当人はどこに?」
「彼は緑谷君に今朝方個性を譲渡して現在大急ぎでこっちに向かってる途中さ!!」
「しかし、いくら後継と言っても彼は一般の学生。特別扱いはできませんし、ここの誰もそんなことするつもりはありませんよ」
「そこは入試の彼の奮闘に期待するしかないね!!ここの入試をできなかったら彼はそこまで。彼がプルスウルトラする事を期待しよう!!」
「あくまで彼は他の学生と同じ扱いのままということですね。他になにか連絡は?」
「いいやないよ!!忙しいのに時間を作って貰って悪かったね!!!」
「デハ各自持チ場二ツイテ準備を始メヨウ。ソレゾレ動キヲ開始シテクレ」
エクトプラズムさんの声でそれぞれが机から立ち上がり、筆記試験の会場を始めとした各会場の最終確認を開始した。私もミッドナイトさんとともに移動し、実技試験の会場の最終確認を始める。
「確か焦凍君は推薦入試での入学を目指してるんだっけ?本人のとこ、行ってあげなくていいの?」
「私には試験官という立場がありますし、なにより行ったら甘やかしそうなのでやめときます。ほんとは真っ先に行って抱きしめてあげたいんですけどね」
「家族相愛で羨ましいわね。あーあ、私も早く結婚したい」
「とりあえず男の人はしっかり見極めて選んでくださいよ。最悪の場合、離婚した後も気持ち悪いくらい子供達にすり寄って来ますからね」
「それって……まんまエンデヴァーじゃないですから………」
「ほんと自己中で駄目な人ですからね。ミッドナイトさんも変な男に捕まらないよう気をつけてくださいね」
「だからって実体験を持って私を脅す必要はないじゃないですか!!変な想像しちゃうからやめて下さい!!」
そんな会話をしつつ、私達は演習会場の最終確認を終えた。
できることなら焦凍を活躍を見た上で合格通知を迷わずあげたいところだが、実の家族相手は情が混ざってしまうが故に試験結果を決めることは許されていない。少し残念に思いながらも私は一般入試実技の様子が映し出されるモニターを観覧する。
「私が少し遅れてキタァァー!!!!」
「あっ、オールマイトさんこんにちわ。隣の席、空いてますよ」
「すまないねイゾルデ!緑谷少年を送った後迷子のおばあさんを見つけてね!!駅まで案内していたら遅くなってしまった!!」
「試験がもう直に始まるんですから静かにしてくださいよオールマイト。あなたが個性を譲渡した少年も、試験に参加してるんでしょ?」
「おっとこれは失礼相澤くん!年に1度の試験を邪魔するところだったよ!!」
『じゃあハイSTART!!!!』
しーーーん…………
「今年もやはり、直様動かない子が多いですね。これは大幅な減点だ」
「直ぐに行動を起こせるか。ここが最初の大きな判断点でもありますからね。動けているのは……折寺中の爆豪 勝己君ぐらいなもののようです」
『どうしたあ!?実践じゃカウントなんざされねえんだよ!!走れ走れぇ!』
プレゼントマイクの声でようやくハッとなった受験者達は走り出し、目の前に現れるヴィランロボをバッタ、バッタとなぎ倒していく。……毎回思うのだが、この試験にかかるお金は一体いくらかかっているのだろう。
「さて……こっからが本番ですね。皆さん、
「試験者ナンバー30214、葉隠 透に20点。理由は瓦礫に挟まった受験者を透明である事を生かして救助したというとこだ」
「試験者ナンバー20914、拳藤 一佳に30点。ロボよりも救助を優先した行動は大いに評価できる」
「試験者ナンバー12098、 切島 鋭児郎に25点。迫るロボの攻撃を受け止め、受験者を攻撃から守った」
「試験ナンバー40972、近衛 剣に−15点。他の受験者を攻撃に巻き込むのは感心しない」
こういった勢いで各受験者に次々にポイントが与えられていく。
ただ戦闘力を見るだけであれば誰もが雄英高校に入学できるが、うちで最も重要視されているのはレスキューポイント。如何に誰かを助けられたかだ。
競争下という緊迫した状況で他者を迷わず助けるというのはかなり難く、実行に移そうとはなかなか思わない。そのような中で人助けをできるというのはヒーローの本質に近く、磨けば輝く原石であるという証明でもあるのだ。
………最も、現在の一位はそんな事を考えるつもりなんて一切ないようだが。
「今年の受験者はどの子も輝いてるね!!これは未来のヒーロー社会は安泰!!って言ったところかな!!」
「……しかしあなたが後継に選んだという緑谷君はまだヴィランポイントを一切稼いでいませんよ?本当に彼に継承して大丈夫だったんですか?」
「彼はまだOFAをベタ振みしてる状態だからね!!こうなってしまうのも仕方ないことだ!!」
「そんな心配しなくても大丈夫さイゾルデ。ここからが受験者の本性が暴かれる真の本番だからね。
この入試は敵の総数も配置も伝えていない。限られた時間と広大な敷地…そこからあぶり出されるのさ
状況を早く補足するための 情報力
遅れて登場じゃ話にならない 機動力
どんな状況でも冷静でいられるか 判断力
そして純然たる 戦闘力
市井の平和を守るための基礎能力がポイント数という形でね」
「今の彼はこれらのどれも満たしていません。彼の本性、それは真にヒーローに近いのですかね?」
「さぁね。まだわからんよ。真価が問われるのは…」
これからさ!!
一室の中央に置かれた
それにとともにビルの一角に配備されていた0ポイントロボの偽装が剥がれ、受験者を襲おうと動きを始めた。
「ハハハハッ!!これだよこれ!!人の本性というのは未知なる脅威が現れた瞬間にこそ現れる!!試験っていうのはこうでなくちゃ!!」
「あらあら、どの受験者も蜘蛛の子を散らすように逃げていくわね。流石にこれは荷が重すぎたかしら?」
「ロボの攻撃で動けなくなった者を救っているのは塩崎 茨、蛙吹 梅雨、峰田 実………今年は思ったより多いな」
「峰田 実という子に関しては卑わい的な目的なようですけど……あれって得点入れていいんですかね?」
「……一応助けてるし、今回は得点入れておこう」
『おいおいおい!!受験ナンバー13098、麗日 お茶子ががっつり動けなくなってるぞ!!しかもロボが迫ってるし助けたほうがいいんじゃないか!?』
「ちょっと待て!!緑谷 出久が動いたぞ!!」
麗日という子を助けたいと思ったのか、緑谷君は迷うことなく0ポイントロボの元に走っていった。
「圧倒的驚異……それを目の前にした人間の行動は正直さ………。助けるなんてメリットは一切ない。だからこそ色濃く……浮かび上がる……自己犠牲の精神っていうのは……!!!」
『
その大きな声とともに放たれた一撃は巨大なロボをいとも簡単に吹き飛ばし、圧倒的驚異を正しくヒーローの如く退けた。
彼のその姿に、部屋中は感嘆の声を上げる。
『Year!!これはすんげーなおいっ!!あの0ポイントロボをぶっ飛ばしやがった!!!』
「今の彼最高にカッコよかったわね!!文句なしの25点よ!!」
「荒削りではあるが、彼の自己犠牲の精神が現れたいい動きだったな。俺からも10点を彼に与えよう」
『俺からも20点彼にプレゼントだ!!すんげーなおいっ!!まじですげんげーよ!!』
「だろ!!彼は最高なヒーロー志望という意味で、彼は最高の人間なのさ!!イゾルデもこれで納得したかい!?」
「……そうですね。確かにあの子ははあなたの力を受け取るに値する強い子です。つい先程の疑うような発言、申し訳ありません」
「納得してくれたなら文句なしさ!!ちなみに君は得点をあげないのかい?」
「……そうですね。彼には5点、あげることにします」
「意外と少ない点数ね。もっとあげてもいいんじゃない?」
「皆さんがたくさんあげてるので十分ですよ。それに彼……着地……どうするんでしょう………」
『「「あっ」」』
『おおおおおおおおおお!?!?!?!?!?!?』
「緑谷少年!!!!!」
私の心配通り彼は落下し、ボロボロになった状態で身動きが取れずそのまま地面に墜落していった。彼に助けて貰った麗日さんの個性で無事地面の衝突は防がれたものの、彼女がいなければ間違いなくただではすまなかっただろう。
「……オールマイトさん。彼にしっかりOFAの使い方、教えてあげて下さいね。今のが何度もあると思うとこっちも気が気でありません………」
「はいっ………すみません…………」
やはりこの人はどこか締まらないな思っている間にコールはなされ、雄英入学試験は幕を閉じた。