デコのヒーローアカデミア   作:かにかまとかにたま

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No.9 登竜門の決勝トーナメント

「オイ轟、ツラ貸せ」

「……なんだ?」

 

 

 

「テメェ、さっきの騎馬戦……なんで炎使わなかった?」

「……使わねえと決めたからだ」

「……返答になってねェよ半分野郎、ナメてんのか?」

「…………」

()()()()()()がなんで使わねえ!!舐めプしてるヤツに勝っても意味ねえんだよ……!!」

「……話せば長くなる」

「じゃあさっさと話せよ!!この――」

 

「かっちゃん!なにしてるの?早く食堂に……」

「…………」

「…………」

 

「あー……。ごめん二人とも、お邪魔した?ええと……」

「デコ、テメェもテメェだ……コソコソ逃げ回りやがって」

「それは作戦だから……。ええと、なんか話してたみたいだし……私先に行ってるね?じゃあ――」

 

「待て緑谷」

「え?」

「……デコは関係ねえだろ」

「いや、ある……緑谷は『オールマイト』のお気に入りなんだろ?」

「!?……いやその、お気に入りというかその……」

「…………」

「……別にそこを探ろうってわけじゃねえ。ここからは俺がお前らに、一方的に話すだけだ」

 

 

 

「俺の親父『エンデヴァー』は、オールマイトに次いで万年No.2のヒーローだ。極めて上昇志向の強いあいつは、自分ではオールマイトを超えれねえと感じて、次の策に出た」

「″個性婚″だ」

 

「自身の″個性″をより強化して継がせる為だけに、配偶者を選んで結婚を強いる。倫理観の欠落した前時代的発想……親父は自分の実績と金で、母の親族を丸め込み、母の″個性″を手に入れた」

「俺をオールマイト以上のヒーローに育て上げることで、自身の欲求を満たすってんだろう……鬱陶しい……!そんな屑の道具にはならねえ」

 

「記憶の中の母はいつも泣いている……」

「『おまえの左側が(みにく)い』と、母は俺に煮え湯を浴びせた。これはその時の火傷だ」

「……!」

「…………」

 

「ざっと話したが……俺が炎を使わないのは、見返すためだ。クソ親父の″個性″を使()()()()1()()()()()ことで、奴を完全否定する」

「…………」

「…………」

 

「……長くなった、じゃあな」

「私は……」

 

 

「……私のおでこの火傷、幼稚園のときにかっちゃんがやったんだ」

「…………」

「…………」

 

「私、みんなと同じ時期に″個性″が発現しなくてさ……″無個性″でもヒーローになれるかどうかで、かっちゃんと喧嘩して、負けてボコボコにされて……それでも突っかかったら、トドメに爆破されて病院送りになったの」

「…………」

「…………」

 

「そんなことがあったけど……今、私はこの舞台に立っている。……もちろん、その全てが自分の実力だとは思ってないよ。いろんな人に救けられてここにいる」

「でも、なにより……()()ヒーローになりたかった。笑って誰かを救けられる、オールマイトのような最高のヒーローに」

「……だからその、ええと……私が言いたいのは……」

「……いつか、許せるといいね」

 

「……いこっか……」

「…………」

「…………」

 

 

許す……だと……?ふざけるなよ……

 

 


 

 

「ごめんねかっちゃん、話しちゃって……他の人には言ってないよ!」

「……勝手にしろよ」

 

「緑谷さん、お待ちしていましたわ。少しよろしいでしょうか?」

 

食堂へ向かう途中、ヤオモモちゃんがいた。

 

「ヤオモモちゃん、どうしたの?あ、かっちゃん先行ってて」

「言われなくても待たねえよ」

 

「……あのですね、クラスの皆さんを採寸しようと思いまして」

「え?」

 

なにこれ、高度な煽り?

 

「衣装を創るのに必要なんです」

「あーなるほど、おっけー」

 

衣装ってなんのだろう?

 

 

 

 

「峰田さん上鳴さん!!騙しましたわね!?」

 

A組チアガール隊結成……というかモモちゃん、スカート短くしすぎ。

 

「デコちゃん筋肉すごい!触っていい?」

「お茶子ちゃんやめて……」

「張り詰めててもシンドイしさ、やったろ!!」

「透ちゃん好きね」

 

 

『最終種目は……16名によるトーナメント!!一対一のガチバトルだ!!』

『……その前に!今から始まるレクリエーション!!みんな楽しんでくれよ!!』

 

トーナメントはくじ引きで決められる。

尾白くんとB組の庄田くんの2名が棄権、繰り上がりでB組の鉄哲くんと塩崎さんが出場することになった。

 

「トーナメントの組み合わせはこうだ!!」

 

かっちゃんは反対の山、そうか……

初戦の相手は……心操くん……

 

「またお前か……まあ、よろしく頼むよ」

「…………」

「というかなんだその格好……」

「っ……!」

 

 

 

 

「1、2!3、4!ファイ、オー!ファイ、オー!さあみんなも!」

「おー!」

「おー……」

 

 

 

その後、体操服に着替え終わり、会場の裏で待機していると……

 

「やあ、緑谷少女」

「オールマイト!」

 

「緊張してるかと思ったが、杞憂だったな!」

「緊張はずっとしてますよ、でも調子はいいです」

「体育祭の前に私が言ったこと、覚えてくれてるかい?」

「もちろんです!障害物競走と騎馬戦はアレでしたが……この最終種目で!」

「私が来た!って見せつけますよ!!絶対勝ちます!!」

「……うん、いい笑顔だ」

 

 

 

 

 

『色々やってきましたが!結局はこれだぜ、一対一のガチンコ勝負!!』

『ルールは簡単!相手を場外に落とす、行動不能にする、まいったと言わせる、のいずれかで勝利だ!!』

『ケガ上等!!我らがリカバリーガールが待機してるからな!』

『だがもちろん、命に関わるよーなのはクソだぜ!!ヒーローは、ヴィランを()()()()()に拳を振るうのだ!』

 

『一回戦、第一試合!こう見えても予選3位の実力者!ヒーロー科、緑谷出子!!』

『対するは……ごめん、まだ目立つ活躍なし!普通科、心操人使!!』

 

「……強く想う将来があるのなら、なりふり構ってちゃダメなんだ……」

「あの猿は、プライドがどうとか言ってたけど」

「チャンスをドブに捨てるなんて、バカだと思わないか?」

 

『スタート!!!』

 

「…………」

 

騎馬戦が終わった直後、四人で確認してある。心操くんが攻撃をするそぶりはなく、突然意識を失った。私とお茶子ちゃん、常闇くんはそうなったが、発目さんはなんともなかった。心操くんがしたことは、話しかけてくることだけ。私たちも、言葉を発しただけ。

ではなぜ、発目さんは無事だったのだろう?これは難問だった……発目さんは、自分が興味のないことにはまともに答えてくれず、質問してもなにがあったのか正確にはわからない。

そう、これはあくまで仮説……心操くんの呼びかけに応える、これが発動のきっかけだと思う。発目さんに効かなかったのは、しゃべってはいても応えてないから……?

 

「あいつ、ホントは自信なかったんじゃないか?カッコつけて棄権して、注目されたいだけだったとか?」

「…………」

 

話しかけてくるだけ、決まりだ……もう警戒しなくていい。

 

『どうしたどうした!?睨み合ってても始まらないぜえ!?』

 

「お前はいいよなあ、恵まれてて!人三人分の体重を抱えて跳べる、″個性″のおかげなんだろ!?」

 

『緑谷が仕掛けた!一気に距離を詰めていく!心操は距離を取ろうとジリジリ下がる、ビビってんのかあ!?』

 

「俺はこんな″個性″のおかげで、スタートから遅れちまったよ…恵まれた人間にはわかんないんだろ!!」

「なんとか言えよ!!」

 

()()()使()()()()()()駆け寄り、間合いに入った。右腕を大きく振りかぶる……空振り、本命はこっち!

踏み込んだ右足を軸に、後ろ蹴り!!

 

「っ……!!」

 

『カンペキ入ったああ!!心操たまらず、その場でうずくまる!!』

 

後ろ襟、体操服を掴んで引きずる。そろそろ場外……

 

「っクソ!!」

「…………」

 

手を払われ、勢いよく立ち上がってそのまま右手を振るってくる。冷静に掴んで引き寄せ、背負い投げ。

 

「心操くん場外!緑谷さんの勝利!」

『緑谷出子、二回戦進出!!素朴な顔して容赦ねえぜ!!』

 

「……もっと鍛えたほうがいいよ、戦術の幅が広がる」

「……お前になにがわかるんだ?お前は――」

「″個性″そのものに戦闘能力がなくても……プロヒーローとして活動するなら、正面から戦わなきゃいけないときが必ずある。私はそれを知ってるから」

「……は?」

「君が本気で目指すなら……私は応援してるよ、心操くん」

「…………」

 

 

 

一回戦第二試合は瀬呂くんvs轟くん、勝った方が私の次の相手。瀬呂くんが、超大規模な氷結でカッチコチに氷漬けにされてしまった。

さらに試合が進み、一回戦の半分に差し掛かる。

 

「っし、そろそろ控え室行ってくるね」

「お茶子ちゃん、ちょっと待って」

 

「……無理しないでね」

「……うん」

 

 

かっちゃん、やりすぎないでね……?

 

 

……ダメでした。

 

『小休憩を挟んだら二回戦行くぞー!!』

 

控え室に向かう途中、客席に戻るかっちゃんに会った。

 

「あ、かっちゃん」

「んだデコ」

「やりすぎだよ」

「……知るかよ」

 

「……テメェがなんか教え込んだのか?」

「ううん、私はなにも」

「……あっそ」

 

 

 

「お茶子ちゃん!!」

「あ、デコちゃん」

「……大丈夫?」

「うん、平気!リカバリーされたし!程々の回復だから、まだちょっとキズ残ってるけど」

 

「いやあ、やっぱ強いね爆豪くん……完敗だった!もっと頑張らんといかんな私も!」

「……私が決勝で、お茶子ちゃんの分もブン殴ってくるよ」

「…デコちゃん決勝っても、次の相手……」

 

「……うん、行ってくるよ」

 

 

 

「デコちゃんは強いなぁ……。私は…………っ……!」

 

 

 

『さあさあ二回戦の始まりだあ!!まずはこちら、緑谷vs轟!!どちらもここまで優秀な成績、注目の対戦カードだあ!!』

 

開幕の氷結、規模は予想できない。瀬呂くんに向かって放ったあの大範囲だと、跳んで避けれるかどうかは怪しい……初っ端から賭けはしたくない、どの規模の攻撃にも対応できる一手を……

右腕のみに意識を集中、ワン・フォー・オール……!

 

『スタートォォ!!!』

 

20%!!デトロイト……

SMASH!!!

 

地面を叩いた衝撃で、迫る氷から身を守る。完全に相殺するには足りないが、逸らすには充分。

 

『なんてパワーだ緑谷!!轟の氷結を防いだ!!まだまだ実力を隠していたのかあ!?』

 

そして、完全に打ち消していないということは、私と轟くんとの間に氷が残っているということだ。遠距離攻撃が無い私に、おあつらえ向きの牽制手段が……!

OFA(ワンフォーオール)全身10%!細かく砕きすぎないように蹴り飛ばす!

SMASH!

 

『轟、向かってくる破片から氷壁で身を守ったああ!!』

 

それをしちゃうと、私を一瞬見失う。轟くんは左右どっちから顔を出す?そんなの決まってる、右腕を振れる右側。私も右回りに近づいて視認を遅らせる……

ではなく、真っ直ぐ突っ込む!!

 

『緑谷速い!!どんどん近づいていくうう!!』

 

轟くんの氷結は、足より手の方が精度が高い。この速さで近づけば、必ず腕で狙ってくる。

 

振りかぶる右腕に合わせて、氷結を左に躱す。

人間の腕は、振って伸び切れば内側に動く。轟くんが右腕で咄嗟に狙えば、外側に動いた私を捉えきれない。

 

『もう目と鼻の先だぞオイ!!?』

 

「チッ……!」

 

伸ばしてくる右手にあえて左腕を掴ませ、空いた腹に肘打ち!!

 

「っ……!」

「冷たっ!!」

 

裏拳で頬を打ちながら左手を振り解く。

私はちょっと凍ったけど、大したことはない、軽症だ。

 

「……あれ、顔面NGだった?」

「…………」

 

反応はない。もうちょい煽る、口角上げずに冷たい表情を意識して……

 

「炎使われてたら、こんなに近づけてなかったなあ〜」

「……うるせえよ……!」

 

明らかに冷静さを欠いたまま、あちらから向かってくる。――右足が上がった瞬間!!大きく踏み込み、左の上段蹴り!!

バキィ!!

 

「っ……!!!」

 

『お、お……折ったああああああ!!!腕折ったぞこの女!!!』

 

「大丈夫、ちゃんと治るよ」

「…………」

「どうする?右腕使えなくなっちゃったけど……まだ炎使わない?」

「……てめえ……!」

 

「……無理してヒーロー目指さなくてもいいのに」

「…………は?」

「轟くん、ホントにヒーローになりたいの?」

「…………」

「もうわかったでしょ?氷だけじゃ私に勝てないって。それでも使わないなら、ホントはなれなくてもいいんでしょ?」

「………ぇ…」

「それに、そんなにお父さんが嫌いならさ……ヒーローにならないのが一番の当てつけじゃん?お母さんもきっと喜ぶよ」

「…………うるせえ……」

 

「じゃあね、私は本気だから……あなたと違って――」

「うるせえ!!!!」

 

ボワッ!!

 

「俺だって……本気で……!!」

「ふふっ……なんだ、やっぱり勝ちたいんだね」

 

轟くんは左半身から炎を出したまま、右足から氷を張り広げる。……何をするつもりだろう?

 

 

――やばい、確実にやばい……これは100%じゃないと太刀打ちできない、でも腕は壊したくない……!!

どうする、避ける……逃げ場……逃げ場なんて――

上!!!20%――

 

直後、爆風が辺りを包んだ。

 

 

 

 

 

『おまえのクラス、どうなってんだよイレイザー……煙で何も見えねえ、オイこれ勝負はどうなって……』

 

「ぅぅぁぁああああああああ!!」

 

こんなに高く飛ぶつもりなかったのに!!!!爆風で押し上げられた!!落ちる、落ちていく……!!

……いや、前にもあったなこんなこと……入試の時……

あの時と違うのは、両手両足が無事だってこと。手足を広げて少しでもスピードを落としつつ、ステージから外れないように位置を調整……。スカイダイビングってこんな気分なんだ……

下の煙が晴れた、轟くんはステージの端……直接巻き込まないように注意して……

 

「よけてええええ!!」

 

『降ってきたああああ!!』

 

結局100%撃つ羽目に……!!

 

「デトロイトおおおおお!!」

 

SMAAAAAASH!!!

 


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