「……どうだい、動かしてごらん?」
右腕を曲げて伸ばして、少し力を込める。もう一度曲げて伸ばして、軽くジャブ。
「痛くない、大丈夫そうです。よし、それじゃあ次も出ていいですか?」
「全くしょうがない子だね……これ飲んでからにしなさいな」
リカバリーガールから、よく見るあのゼリー飲料を手渡された。
「次はアンタだよ、……チユ〜〜〜!!」
「…………」
イマイチ感情が読み取れない表情の轟くんが、無言で治癒を受ける。……私、謝らなきゃ……
「……折っちゃってごめん」
「……試合だ、やられた方が悪い」
「……ひどいこと言って、本当にごめん」
「……ああ」
「アイツを許すことなんてできねえ……でも、もっと大事なこと、思い出したんだ」
「緑谷、ありがとな……。……勝てよ」
「……うん、行ってくる!」
「ちょっと待ちなさい」
「ええ!?今いい感じの流れで――」
「身体を壊しすぎだよ。今回はよくても、何度もぐちゃぐちゃに損傷するとキレイに治癒しなくなる。酷い場合、腕を動かせなくなるかもしれない。アンタ、肝に銘じておきな……」
「……はい……」
「……腕一本すっかり治癒して、まだ動けるとは……体力バカだね」
出張保健室を出て歩いていると、こちらに向かってくる人影。ゆらめく炎と、その威圧感……生で見ると迫力が違う。
「先程の試合、よく見せてもらった」
「エンデヴァー……」
「素晴らしい″個性″だ。パワーとスピード……特にパワーは、オールマイトにも匹敵する。よく似た″個性″だ」
「……そうですかねえ?」
「……この試合も、次への糧となる。今回は君の勝ちだったが、いずれ焦凍はオールマイトをも超えるヒーローに――」
「――エンデヴァーさん!」
「やっぱり、息子さんが勝ったら嬉しいですかね?」
「……当然だ、焦凍はいずれ――」
「
「……何が言いたい?」
「私も、私を応援してくれる人が喜んでくれると思うと、とっても嬉しいです」
「……保健室はあちらです……それでは!私は次の試合があるので!!」
「…………」
絶対険悪ムード、あとはしーらないっと。
「ベスト4おめでとう、緑谷少女。相変わらず無茶をするね」
「オールマイト、ありがとうございます!……ホント、誰に似たんでしょうね?」
「ははは……君には敵わないな」
「君、途中わざと攻撃やめただろ?」
「……なんのことでしょう?私にはさっぱり……」
「いや、君がそうしたかったならいいんだ」
「……見ていてください、オールマイト」
「……ああ、頑張っておいで」
長かったステージ修復も終わり、競技が再開された。私の次の相手となる、飯田くんvs塩崎さん。ぶっちゃけ塩崎さんの勝ちだと思ってました。
「塩崎さん場外、飯田くんの勝利!」
『なんっって速さだ飯田ああ!!誰かこの男を止めてくれええ!!』
「はっや!!!どうしよ!?」
思ってたより何倍も速い。観戦席から見てあれじゃあ、反応するのは多分ムリ。常にあの速さで駆け回られたらどうしようもない……持続時間はどのくらいだろう?さすがにあのトップギアは長くもたないはず……塩崎さんと違って私は近接のパワーがあるから、場外へ投げる前に意識をトバしに来るか?そうなると体格を活かした蹴り……それをどう凌ぐか……」
「緑谷、声に出てるぞ」
「え?」
「お茶子ちゃんが引いてるわ」
後ろに座ってた峰田くんと梅雨ちゃん。まじか、自覚なかった…ごめん。
かっちゃんと切島くんの試合が始まるとこだけど、そろそろ控室に向かおう。そう思って客席を出ると、試合終わりの飯田くんに会った。
「緑谷くん、気が早いな……見てから行かないのか?」
「……まあね」
「……悪いが勝たせてもらう」
「こちらこそ悪いね。飯田くんが負けるとこ、君のお兄さんに見せちゃうから!」
「……兄は仕事中だそうだ」
「……ごめん」
「…でもいいんだ、勝ってNo.1で報告するさ」
『準決勝!!緑谷出子vs飯田天哉!!』
『パワーとスピード!勝負を制するのはどっちだ!?』
自然体で構えて待つ。
『スタート!!!』
「レシプロバースト!!」
ガードを高く!!
――やはり速い――目で追えない――
ドスッ!!!
「っ……!!」
「何っ!?」
逃がさない!足を抱え込み、もう片方の手で――
「ミズーリスマッシュ!!」
「ぐっ!!」
「ダメだよ飯田くん、女の子相手でも頭狙わなきゃ」
『飯田、立ち上がれないーっ!!肉を切らせて骨を断つ!緑谷、決勝進出!!』
紳士な飯田くんのことだ、そう来ると思っていた。高めのガードも、わざと甘くしてボディを誘い、蹴りを食らってからスムーズに手を動かすため。
でも正直、超効いた。鈍い痛みが内部に響いてる……こんなの頭に食らったら頭骨割れる。
「……兄さん……」
「…………」
決勝戦の開始を控室で待つ。
……やっとここまできた……オールマイト、見ていてください。継いで欲しいと言ってくれて、本当に嬉しかったんです。憧れだったヒーローに、やっと手が届く……
私は必ず――
バァン!!
「ひゃあ!?」
「あ?」
「あれ!?何でてめぇがここに……あ、ここ2の方かクソ!!」
「びっくりした……かっちゃん部屋間違えたの?珍しいね、もしかして緊張してる?」
「してねえわ!!テメェなんざにするかよ!!」
「……ババアが治せる程度に加減はするが、手加減はしねえ。覚悟しろよ?」
「……うん」
「俺が勝ったら……デコ、分かってんな?」
「…………」
『俺が勝ったら、てめぇの″個性″について教えろ』
「……うん、わかってるよ」
オールマイトの秘密、勝手に賭けてごめんなさい。でも、それでも私は……
『さあ!いよいよラスト!!雄英1年生の頂点が決まる!!』
「よく来たなあ?ブッ殺されによォ!!」
「笑っていられるのも、今のうちだよ!」
『決勝戦!緑谷vs爆豪!!今……!!』
かっちゃんには今まで、数えきれないほど相手してもらったけど……たぶんきっと……
これまで一度たりとも、本気で相手してもらえてない。
『スタートォォォォ!!!!』
かっちゃんへの対策なんてない、とにかく攻める!!
ワン・フォー・オール、全身10%!!
あっちは爆破で加速して向かってくる。
間合いの外でかっちゃんが右手を構える、牽制かフェイントか――
BOOOM!!
『先制の大爆破!!緑谷に直撃ィ!!』
――なんだその範囲!!避けようがない、吹き飛ばされた!
まずい、来る!!着地――いや、反撃!!
空中で身を捻り、上に向けて蹴りを繰り出す。かっちゃんは爆破でさらに上へ回避。当たらなくても、着地までの時間稼ぎにはなった。
反転して手で着地、間髪入れずに横へ飛び退く。
BOOOM!!
姿勢を戻してすぐに切り返す、今度はこっちが着地を狙う!煙で見えないけど、それは向こうも同じ……見えた!!このあたり!!!
横に大きく振った右足が空を切る。
――姿勢が低い!!そんなのけぞった体勢で何を――
「っぁ……!」
右のアッパーが私の鳩尾に突き刺さる。あの姿勢でこの重さ、体幹が強すぎる……
BOOM!
左の爆破で横に突き飛ばされた。地面を転がり、起き上がる。
『目まぐるしい攻防が続く!!爆豪が有利かあ!?』
「その程度かあ!?オイ!!」
「まだまだぁ!!」
避けきれないなら突っ込む!!飛ばされないように踏ん張れ!!そのためには……
全身20%だと、維持に意識を割きすぎて動けない……
足に集中、20%!!タイミング合わせて踏み込め!!
BOOOM!!
「――っああ!!」
「ッ!?」
潜り込んだ!全身10%――前傾姿勢じゃ蹴りは無理――
右ストレート!!顔面入る!!
――痛っ!!同時に右の頬を殴られる。
『男女平等パンチ炸裂ゥ!!』
次は左で――
「っ……!」
爆破で勢いをつけた拳で左の頬を殴られる。私の拳は浅い……
そのまま襟を掴まれて、払おうととっさに左足を振り上げた。かっちゃんの右腕を蹴り上げ、お互いの姿勢が崩れる。
――振り上げた足を、横から左手で掴まれた。
BOM!
「っ〜〜!!」
飛び退いて距離を取る。
『掴んで爆破!?やりすぎだろ!?』
「……足吹っ飛ばすわけにもいかねェからな、表皮が焼けただけだ。まだ動けるかは知らねェが……」
「っ……動ける!!」
「じゃあ避けてみろよ!!!」
BOMBOMBOMBOM……
そんなのあり!?爆破の勢いを乗せて、空中で回転してる!!
もうさっきまでのように速くは動けない、迎え撃つしかない!
右……いや、左腕に意識を集中……20%でも足りない、腕が壊れないギリギリ……以前『脳無』に撃ったあのとき!!何%かわからないけど――
ワン・フォー・オール……!!
「ハウザーインパクトォ!!」
「デトロイトォ!!」
BOOOOOM!!!
SMAAASH!!!
風圧で爆炎と煙を消しとばす。
……フィールドには依然、二人の姿があった。
『今年の1年、ホントにどうなってんだよオイ!!?』
「うううっ……!!」
「……クソが……!」
左腕、折れてはいない……痛いけど動ける!!
かっちゃんが自分の手を気にしてるのを見逃さなかった。特大火力が使えないなら、勝機はある!!
「あああっ!!!」
痛みをこらえて飛び出した――
『オールマイトって、やっぱカッケーよな!どんだけピンチでも、最後は絶対勝つんだよなあ!』
ガキの憧れなんて単純だ。
『オールマイト、かっこいいー!わたしも、オールマイトみたいなヒーローになる!』
『デコ、おまえがオールマイトみたいに?ナマイキなこというなよ!』
本当に生意気なのはどっちだ?
俺には出来て、アイツには出来ない。それが当然だと思っていた。
『私……ヒーローになりたい……!かっちゃんみたいに、強くなりたい……!!……なれる、かなぁ……?』
その
怒りも憎しみもない、ただ縋るようなその目をやめてほしくて、その手を取って無責任な返事をした。
『なれる……かもな……』
俺がそうさせたのか?あの日のあの一言だったのか?
『はああ!?緑谷!?』
『ムリムリ!お前″無個性″だろ!?』
『勉強出来るだけじゃヒーロー科は入れねえぞ!』
持っているお前らが、なんでそうやって笑っていられる?
何でわざわざ雄英なんだ?他のヒーロー科なら、こいつらを見返してやれるんじゃないのか?
『かっちゃん……私ね、″個性″が出たの』
今までのテメェは何だったんだよ……!!
『俺が勝ったら、てめぇの″個性″について教えろ』
『……わかった、約束する』
――その
「……泣くぐらいなら降参しろよ」
何度も向かってくるソイツを何度も返り討ちにした。途中から実況も観客も、何も言わなくなった。
ゲロを吐いて倒れたソイツがついに立ち上がれなくなり、主審ミッドナイトの声が響く。
「緑谷さん行動不能!よって、爆豪くんの勝ち!!」
誰も何も言わない。
泣き腫らしたソイツが手を伸ばす。
「わたし、あなたに追いつきたくて……!やっとここまでこれたのに……!!」
「……治してもらいに行くぞ」
手を握り返した後、ソイツをゆっくりと抱え上げた。
『……今年度、雄英体育祭1年!優勝は!!A組爆豪勝己!!!』
出口を抜けて、会場の歓声が遠ざかっていく。
「かっちゃん……私の″個性″、オールマイトに貰ったの……」
「……そうか……よかったな……」