『グラントリノ』……聞いたことない名前だけど、オールマイトの元担任で、お師匠さんの盟友……絶対すごい人だ、そうに決まってる。
「……わあ、建物ボロすぎ……」
「お邪魔しまーす……」
扉を開けた私の目に映ったのは……
赤く染まり、床に倒れ伏す人の姿。
「うわああああ死んでるうう!!!」
「生きとる!!」
「うわあああ!!」
「あ、これケチャップだ、よかった……」
「誰だ君は!?」
「雄英から来ました、緑谷出子です!」
「何て!?」
「緑谷出子です!」
「誰だ君は!?」
「……こんにちはおじいちゃん!!気軽にデコちゃんって呼んでね!!」
「飯が食いたい!」
「はーい、今用意しますよ〜!」
こりゃダメだ、とりあえずオールマイトに報告を……
「……ワン・フォー・オール、何%まで扱えとる?」
「……え?」
「うーむ、女っ気のないコスチュームだの……」
「余計なお世話ですよ!てか何勝手に開けてるんですか!」
「おお、こりゃいいマントだ!」
「え!?私それ知らないですよ!?」
説明書、説明書……あった!
「ええと……『味気ないのでマントつけときました、是非どうぞ!!』……まあ、そういうことなら……」
「ほうら、着替えてきなさいよ」
「はーい……」
というか、グラントリノさん普通に話せるじゃないですか……
膝裏の辺りまで靡く黒緑のマント。思ったより動きに影響はない、着けてても大丈夫そうだ。
「……よし、早速撃ってきなさいよ!」
「撃てって言われても……」
「小娘、俺を年寄りだと思ってみくびっとるなァ」
「こむ……」
プシュッ!!
――消えた――後ろっ!!
「ぐっ……!」
間に合わなかった……!
「反応は悪くないが、まだまだ甘い……」
全身10%……!!
「はあっ!!」
「遅い!!」
目で追えない、速すぎる……!!右、上、左!!いつ仕掛けてくる……!?多分また後ろ……
――ここだ!!
「っダメか…!!」
「分析と予測、なるほどなァ……だが、それじゃあ足りん」
二度も背後を取られた、とても敵わない……
「自分より速い相手、目で追えないなら無理に追うな」
「……?」
「やってみりゃすぐにわかる」
プシュッ!!
速い!!……無理に追うな……?いったい……
――そうか!これなら、見失う瞬間を……!
次も後ろなら、視界から外れるそのタイミング……
「っここだ!」
「……そういうこった」
あれ、来てない……後ろの壁に張り付いてる……
「点で追えないなら線で捉える、視界から外れて後ろを取りにくるその瞬間だけは見逃すな」
「でも、後ろ取られ続けたらどうすれば……」
「そりゃ負けだろ」
「ええ……」
「とし……オールマイトのヤツ、こういう具体的なアドバイスはしとらんだろ?」
「……言われてみれば……」
「だからアイツは素人なんだ……」
「ええ……」
「小娘、さっきの%が限界か?」
「無意識で使えるのはそうです、さっきのが10%……20%を全身で維持すると上手く動けなくて……肉体の限界はもうちょっと上のはずです」
「……オールマイトのヤツは初めから自在に使いこなしていたからな、先は長いぞ」
「うへえ……やっぱり長期のトレーニングですよね……」
「だがな……時間も敵も、お前が強くなるのを待ってはくれん」
「…………」
「ワン・フォー・オールを、もっと身体に馴染ませろ」
「必要なときに必要な出力を。体育祭で、ほとんどできていたはずなんだが……それがどういうことか、自分で考えてみろ」
「メシ買ってくる、掃除して待っとれ」
さて……掃除終わったし、ちょっと練習を……
コスチュームは脱いで閉まってある。見せる相手がいないなら着てる必要ないし。
とりあえず、馴染ませる……全身20%!!
「はっ!!」
ブワッ!
カーテンが大きくはためく。
「ええっ!?」
狭いとこで20%試すの初めてだったんだけど、素振りだけで思ったより風圧が!
せっかく掃除したのに……!!
というかこの建物、そもそもホコリっぽい。日頃の掃除サボってるでしょ。
「メシ買ってきたぞ……ん?なんじゃこりゃ」
「……あはは……おかえりなさい……」
「……もっかい掃除だァな」
2日目
「おはよう!」
「おはようございます!」
「まずは朝飯だ!」
「何食べるんですか?」
「昨日買ってきた冷凍たい焼きだ」
「朝食たい焼きですか!?」
「俺は甘いのが好きなんだ!」
「ダメですよおじいちゃん!バランスよく栄養摂らなきゃ!」
「年寄り扱いするな!」
「年齢関係ないですよ!私ちゃんとしたもの買ってきますからね!!」
無事に健康な朝食を終えて、トレーニングが始まった。
「さて、とりあえずは……20%までを自在に扱うのが短期目標だ」
「20%ですか……昨日の感じだと、家の中ぐちゃぐちゃになっちゃいそうで……」
「必要なときに必要な分だけ、まだ分からんか?」
「え?」
「さあ、遠慮せず撃ってこい!」
……全身10%!!
「はあっ!」
「遅い!」
ここだ、右腕に集中、20%――わっ!?
足を払われてすっ転んだ。
「足が解けてちゃ意味ねえな」
「……なるほど……」
今まで、一部に集中すると他の全体が解けてたのか。
「必要なときに必要な分を……そもそも全身の強化は常に必要で、攻撃の瞬間に一部を上乗せする……」
「全身のイメージと一部のイメージ……別々に切り替えていたから間に合わないんだ……!」
「やっと気付いたか……ほれ、まずは立ったまま10%で構えて、20%で振る!」
「……はっ!……はっ!」
「……やっぱりできとるじゃないか……動きながら撃って馴染ませるぞ、来い!!」
「結局実戦形式ですか!?」
「見るだけなんざ、俺でなくともできるわな……広いとこ行くぞ、ついて来い!!コスは置いとけ!」
「……はいっ!!お願いします!!」
職場体験3日目 16時
「……そこそこ慣れてきたな」
「いや、まだまだです!」
「…おやつの時間だ、一回帰るぞ」
「なんでですか!?」
「たい焼き食うの!!お前が朝食たい焼きを禁止したから!!」
「……もう、しょうがないですね……」
「それだけじゃねえ、身だしなみ整える時間がいるだろ」
「……え?」
「職場体験だ、着替えて仕事に行くぞ」
シャワーを浴びて髪を乾かし、前髪をピンで留める。ついでにたい焼きも食べてから、コスチュームに着替える。……マント着けるの、やっぱり恥ずかしい。
「行き先は渋谷だ」
「渋谷!?この格好でですか!?」
「よく似合っとるぞ、なあに折角のデビューだ……それと、都市部の方が揉め事も多くて仕事が多いわけよ」
「そりゃあそうですけど……」
「渋谷までは、甲府から新幹線ですか?」
「うん」
保須市を横切るな……飯田くん……
職場体験、出発時を思い出す。
『飯田くん!』
『……緑谷くん、麗日くん、どうかしたかい?』
『……気をつけてね……』
『……ああ』
『デコちゃん、不安だよ……』
『……うん……』
飯田くんの職場体験先、ノーマルヒーロー『マニュアル』事務所のある、保須市。
そしてそこは……飯田くんのお兄さん、『インゲニウム』が襲われた場所でもある。ニュースによると、一命はとりとめたがヒーロー活動は続けられないそうだ……
犯人は、ヒーロー殺し『ステイン』。過去に17名ものヒーローを殺害し、23名ものヒーローを再起不能に陥れた、凶悪犯だ。
飯田くんは何も言ってくれなかったけど、わざわざその場所を職場体験先に選んだということは、もしかしたら……
心配だ、連絡してみよう……
笑った顔がそっくりだ……
さて、生半可な扱いはできんな……
「……よし、早速撃ってきなさいよ!」