『今ちょうど保須市を通るよ、そっちはどんな感じ?』
……飯田くんからの返信、こないなあ……いつもなら、既読ついたらすぐに返ってくるのに……
「……グラントリノ、あっちに着く頃には夜ですね」
「まあな、そのつもりで出発したんだ」
『お客様、座席にお掴まり下さい。緊急停止します――』
「……?」
ドガァン!!!
――壁を破って人が飛んできた!この服装……ヒーローだろうか?
「きゃああああ!!!」
コイツは……!?脳無!!!でも、あの時と色も体格も違う……色白で手足が長い。
「座って待ってろ!!」
「え!?」
グラントリノが飛び出し、脳無を突き飛ばす。
「グラントリノ!!」
――もうあんなに遠くに!!……爆発、別のとこにも火の手が!!
どっちに向かう……?
……グラントリノは私なんかよりよっぽど強い、爆発の方だ!!
「ちょっと君!待ちなさい!」
「ごめんなさい!!」
車掌さんの制止を振り切って、停止した新幹線から飛び出した。建物の上を飛び移り、騒ぎの中心に向かう。……そろそろだ……!
「なっ……!?脳無!?他にも……!?」
翼の生えた白いのと、体の大きい黒い脳無!!何人かのヒーローが既に集まって応戦している。この脳無たちが雄英襲撃の時と同じ強さなら、危険すぎる……!!
「ちょっと君、何をしてるの!?下がってて!!子供がいていい場所じゃないの!!」
「っ私も加勢します!」
「ダメ!!何考えてるの!?早く避難して!!」
「でも――」
「――くん!天哉くん!……何でこんな時に限ってどっか行っちゃうんだ!!」
「――っ!!」
「ちょっと!?避難はそっちじゃないよ!どこ行くの!!」
天哉くん……飯田くんのことだ……いなくなった?こんな非常時に、あの真面目な飯田くんが?この保須市で?ヒーロー殺しがインゲニウムを襲った、この保須市で……
私が向かうべき場所は……スマホで地図アプリを開く。
ニュースでやっていた……ヒーロー殺しの被害者の多くが、
現在地、そして『マニュアル』事務所、この辺りを手当たり次第に探すしかない!
「殺してやる!!」
「あいつをまず救けろよ」
「目先の憎しみに捉われ、私欲を満たそうなど……ヒーローから最も遠い行いだ……ハァ……」
「だから死ぬんだ――」
――瞬間、インパクトの瞬間!!20%!!
SMASH!!
「救けに来たよ、飯田くん!!」
「緑谷くん……!?何故……!?」
「――っ飯田くん動ける!?」
ヒーロー殺し……!!20%をまともに食らわせたのに、なんで立っていられる!?
それに、飯田くんの他にもう一人倒れている……!!少し離れていて、怪我の具合は分からない。
「身体を動かせない……!斬りつけられてからだ、恐らく奴の″個性″……!」
「斬られてから――っ!!」
飯田くんの両腕から血が!!特に左腕、見てすぐ分かるぐらいに傷が深い……!!
よくもこんなことを……!!激しい怒りが込み上げてくる。
「緑谷くん、逃げろ……!君には関係ないだろ!!」
「何を……言ってるの……?」
「『救けに来た』、良いセリフじゃないか」
「だが俺はこいつらを殺す義務がある。ぶつかり合えば当然、弱い方が淘汰されるわけだが……さあ、どうする?」
冷たく燃える眼……ぞくりとするその感覚に、さっきまでの怒りをかき消されたかのようだった。
……応援を呼ばなければ……でもそんな余裕はない、ワンタッチでできる連絡……位置情報を……
「殺す義務……?どういうこと……?」
送信、あとは時間を稼ぐ……
「……偽物のヒーローを粛清する義務だ……ハァ……そして本物の英雄、正しき社会を取り戻す……!」
「……ふざけないで……!!」
恐怖で引いた怒りが戻ってくる。
「そんなことの為に、たくさんの人を殺したの……?そんなことの為に!人を傷つけて!!どうして平気でいられるの!?」
「……誰かが正さねばならんのだ……俺がその使命を全うする……」
「お前は目的を果たせない!!私が今ここでお前を倒す!!」
「やめろ……!逃げろ……!君には関係ないんだから!!」
――ふと思い出したのは、雄英襲撃事件……あのとき駆けつけたオールマイトの、あの表情。私と相澤先生を抱えて、激しい怒りに震えるオールマイトは……それでも私に、大丈夫だと笑いかけた。だから私も……
「……大丈夫だよ飯田くん……必ず救けるから!!」
「ハァ……良い……!」
「違うんだ……そいつは僕が……僕がやらなきゃ……!」
落ちていた飯田くんのヘルメットを拾い上げる。しっかり狙って……瞬間、20%!!
投げると同時に、一気に詰め寄る。ヘルメットは軽く躱された……長刀の間合いより少し外、地面を狙って拳を振り下ろす!
SMASH!!
ヒーロー殺しは大きく引いて避けた。その隙に倒れていたもう一人を抱えて戻り、飯田くんのそばに横たえる。これで守りやすくなった。
ヤツが左手を懐に……!!
顔めがけて飛んできたナイフを避ける。来るぞ、こっちも詰める!!
長い武器は無茶な振り方ができない、よく見て……!!
タイミングを合わせて飛び上がり、頭部を狙って右足を振る!!しゃがんで避けられた、ヒーロー殺しは返す刀で斬り上げ!私は相手の肩を掴んで前に飛び出し、なんとか躱す。
二人から離れるわけにはいかない、振り返ってもう一度突っ込む!さっき上に避けたから今度は……!!
先程よりワンテンポ早く踏み込み、振る刀の内側に滑り込んで股下をくぐる。すぐに飛び上がって反転、ここだ!!
――遠い!!警戒されていた!!
「ハァ……速いな……仕方がない……」
「もうやめてくれ…逃げてくれ……!!」
またナイフを投げてくる!!……低めに飛んで来た、これを避け――
――避けちゃダメだ!!
「っうう!!」
ナイフが2本、ブーツを貫いて左足に突き刺さる。
まだ投げてくる!咄嗟にマントを外して広げ、倒れている二人を隠した。
「……もう飛び回れないな……ハァ……」
「っ……!!」
ヤツが近づいて来る。足は痛いけど、動かせないわけじゃない……ヒーロー殺しの″個性″、発動条件はなんだ……?とにかく、チャンスは一回……見極めろ!!
「――緑谷!!伏せろ!!」
「っ!!」
熱い!!炎……!?この声!!
「こういうのはもっと詳しく書くべきだ、遅くなっちまっただろ」
「轟くん!」
「すぐにプロが来る、それまでの辛抱だ」
「轟くん!私は足をやられた、この二人はアイツの″個性″で動けない!!斬られないように注意して!!」
轟くんが炎と氷を交互に撃つが、ヒーロー殺しを捉えることができない。
「クソッ!!速え!!」
大きな氷結で、壁ができた。私は二人を引きずり、何とか距離を取ろうとする。
「二人とも……何故なんだ……やめてくれ……!!」
「兄さんの名を継いだんだ……僕がやらなきゃ……そいつは僕が……!」
「継いだのか、おかしいな……俺が見たことあるインゲニウムは、そんな顔じゃなかったけどな」
氷壁がバラバラに斬り壊され、ヒーロー殺しが轟くんに迫る。
「自ら視界を遮る……愚策だ」
「そりゃどうかな――っ!?」
炎を出そうとしたその左腕に、ナイフが突き刺さる。何本持ってるんだ……!!
私は自分に刺さっているナイフを1本抜きとり、投げつけた。当たるとは思っていない、少しでも気を逸らせられたら……!
――ヒーロー殺しは、そのナイフを避けずにキャッチする。炎が広がり、再び距離が空いた。
――アイツがそのナイフを舐めると、背筋に悪寒が走った。
「っ!?身体が……動けない!!」
「緑谷!?……そういう″個性″か……!」
ナイフを……いや、血を舐めるのが条件か!!
まずい、轟くんが一人になってしまった……!!動けない……!!どうすればいい!?誰か、誰か……!!
ヒーロー殺しが轟くんへ向かっていく――誰か――
「――飯田くん!!」
「やめてくれ……もう……僕は……!」
「やめて欲しけりゃ立て!!」
「なりてえもんちゃんと見ろ!!」
「レシプロ……バースト!!」
ガキィン!!
飯田くんが、刀の側面を蹴り折った。
「飯田くん!!」
「解けた……制限時間があるみてえだな」
時間で解けるなら……私も、この人もきっと……
今の私にできるのは……二人を信じて、なるべく静かにその時を待つこと。
「二人にこれ以上血を流させるわけにはいかない」
「感化され取り繕おうとも無駄だ。お前は私欲を優先させる贋物にしかならない……!」
アイツに色々言ってやりたいけど我慢!!落ち着け!!まだ動けない!
「それでも、折れるわけにはいかない……俺が折れれば、インゲニウムは死んでしまう……!」
「論外……!」
炎の波を躱したヒーロー殺しが、再び轟くんにナイフを投げる。″個性″に集中していて、足が止まっているのを狙われている。そのナイフから、飯田くんが右腕を伸ばして庇い、バランスを崩して倒れる。ヒーロー殺しが飛び上がった。
――きた!動ける、飛び出せ!!
右足で地面を蹴って壁沿いに飛び上がる。――気づかれたがかなり近づいた、あと少し!!
「これをくらえ!!」
足から抜いていたもう一本のナイフを投げつける。
――すぐに気がつくはずだ、山なりに投げたナイフが見当違いの方向へ飛んでいくことに。それでも一瞬、キャッチできるかどうか考える。″個性″の為に、そのナイフが欲しいから……
痛みをこらえて、瞬間20%!!両足で壁を蹴ってさらに飛び込む!!
これで決める、右足に集中……だいたい40%!!
「はあああっ!!!」
SMAASH!!
振り抜いた右足の風圧で、ヒーロー殺しが壁に叩きつけられた。反動で自分も反対側の壁にぶつかる。
……痛い!!右足も、左足も……私はもう動けない。
「レシプロ……エクステンド!!!」
落下するヒーロー殺しの身体を、飯田くんの右足が捉えた。