「轟くん、やはり俺が引く」
「おまえ腕ズタズタだろ、いいから任せとけ」
あの直後、轟くんと飯田くんのさらなる追撃によってヒーロー殺しは意識を失った。ロープで拘束したヒーロー殺しを轟くんが引きずる。
自力で歩けない私は、プロヒーローの『ネイティヴ』さんに背負ってもらっていた。
「悪かった、プロの俺が完全に足手まといだった……」
「仕方ないですよ。私や飯田くんが先に動けるようになったのは、何かそういう条件があるんだと思います」
「人によって時間が違う……血の摂取量、順番、あとは血液型とかかもな」
大通りに出ると、遠くから見覚えのある人が飛んでくる。
「なっ、何故お前がここに!?」
「グラントリノ!!」
「座ってろっつったろ!!」
「いたい!!私ケガ人ですよ!?」
「何ケガしとんだお前!!」
「左足はナイフが刺さって……右足はその、ええと……調整ミスりました……」
「バカタレが!!」
「ヒビ入ったぐらいだと思うので、大丈夫ですよ……たぶん」
他のヒーローたちも駆けつけてくる。広場の方はエンデヴァーさんに任せたようだ。
「二人とも……済まなかった。僕のせいで傷を負わせた」
「何も……見えなくなってしまっていた……本当に済まない……」
飯田くんが、そばにいた轟くんと、地面に降ろされて座りこむ私に向かって頭を下げた。
「私もごめん……なんて声かければいいのか分からなくて……『気をつけて』じゃなくて、ちゃんと止めるべきだった」
「……しっかりしてくれよ、委員長だろ」
「……うん……」
「――伏せろ!!」
バサバサッ!!
「うわあああ!!」
「緑谷くん!!」
翼の生えた脳無に、空中へと攫われる。
何で私!?いや、確かに動けなくて狙いやすかったのかもしれないけど!!両腕は無事だ、これ以上高く飛ばれる前にやるしかないか……!?ワン・フォー・オール――
突然、羽ばたきが止まって落下し始める。
「うわあああ!?」
「――徒に力を振りまく犯罪者も……粛清対象だ……ハァ……」
抱きかかえられて地面に降ろされた。……理解が追いつかない、一体何が……?
「全ては正しき社会の為に……!」
脳無の頭部に刺したナイフに力を込め、引き裂いた。
「とどめを刺した……殺した……!?よくも、このッ!離せ!!」
「何をしているお前たち!こっちに一人逃げたはずだが!?」
「……エンデヴァー……」
ヒーロー殺しは私を無視して、ゆっくり歩き始めた。その顔を覆っていた布が剥がれて落ちる。
「正さねば……誰かが血に染まらねば……!英雄を取り戻さねば……!」
「来い、来てみろ贋物ども……!!俺を殺していいのは」
「本物の英雄、オールマイトだけだ!!」
「……気を……失ってる……」
後日病院にて、保須警察署長から話があった。
資格未取得者である私たち三人が、保護管理者の指示なく″個性″で人を傷つけたのは、たとえ犯罪者が相手でも規則違反に当たると。
そこで、この事実を関係者のみに留め、世にはエンデヴァーの功績として公表させて欲しいと提案があった。私たちは快く引き受け、かわりに署長からの賛辞を受け取った。
『無事で良かった……飯田くんも……アドレスだけ送られてきたとき、すごくドキドキしちゃって……』
「急いでてアレしか思いつかなくてさ」
『まだ治ってないんでしょ?安静にね……?』
「うん、ありがとお茶子ちゃん」
『――あ、はい――じゃあまた学校でね!バイバイ!』
最後は慌ててたけど、あっちも職場体験中だし当然か。
通話を終えて、車椅子を動かして病室に戻る。松葉杖で充分です、歩けますって言ったら看護師さんに怒られた。
ちなみに、かっちゃんにもメッセージ送ったけど既読無視。まあいつものことだけど……向こうから用事が無いと返信くれないし。
「戻ったよ〜。飯田くん、さっきお茶子ちゃんがね――」
「緑谷……飯田の診察、今終わったとこなんだが……」
「左手、後遺症が残るそうだ」
「とは言っても、多少の動かしづらさとしびれくらいらしく、手術で治る可能性はあるらしい」
「だが、この腕は残そうと思う。ヒーロー殺しは憎いが、奴の言葉は事実だ。だから忘れぬよう、自らへの戒めとして残す……俺が本当のヒーローになれるまで」
「そんな……そんなことしなくても、飯田くんは立派に――」
「緑谷」
「……飯田が自分で決めたことだ、周りがとやかく言うことじゃねぇ。……それに、傷だけが消えても過去が消えるわけじゃない」
轟くんが、顔の左側に手を当てながら言う。無意識に私も手を当てていて、それを誤魔化すように振り払った。
「大事なのは、これから自分がどうなりたいかだろ?飯田、緑谷、頑張ろうな」
「……ああ、ありがとう」
「…………」
――戒めだなんて、私はそんな立派な理由じゃない――
「グラントリノ、お世話になりました」
「大して世話してねえな。無鉄砲な誰かさんの責任は取らされたが」
「ホントにごめんなさい……」
「まあいいんだ、そもそも俺はヒーロー活動に興味ないからな」
「友人に頼まれて、オールマイトを育てる為だけに取った資格だ」
「……それが、亡くなったというお師匠さんですね……」
「……知っていたか……ああ、名前は志村菜奈……オールマイトの先代だ」
「……俺から話せるのは以上だ、あとはオールマイトに聞いてくれ。じゃあ、達者でな」
「……ありがとうございました!」
「……小娘!!」
「こむ……」
「誰だ君は!?」
「ええっ!?緑谷です、緑谷出子!」
「違うだろ」
……そっか、とっさに自分から名乗るのはまだ慣れないな……
「『デコ』っていいます、応援よろしくお願いします!」
翌日学校に行くと、髪をピシッと整えられて不機嫌そうなかっちゃんの姿が。
「「アッハッハ!!マジか爆豪!!」」
「笑うな!クセついちまって洗っても直んねえんだ……!」
「ブフッ!……私は似合ってると……思……フッ!」
「バカにしてんのかデコ!!」
「ひゃあ!?」
「似合ってるってよ8:2坊や!!」
「テメェらもブッ殺す!!」 BOM!
「「「直った!!」」」
「――ま、一番変化というか大変だったのは……お前ら三人だな!」
三人……?上鳴くんの目線の先には二人しか……
「あ、私のことだ。かっちゃん離して?」
「あ?」
午後になり、久々のオールマイトの授業。その内容は、工業地帯を模した運動場での救助訓練レースだった。
「デコちゃん、どうしたのそのマント!」
「勝手に追加されてたの」
「似合ってるよ!ヒーローって感じ!」
「えへへ、ありがとお茶子ちゃん」
「さあ!最初の組は位置について!!」
最初の五人は、飯田くん・尾白くん・瀬呂くん・三奈ちゃん、そして私。立体的な機動力なら、ライバルになりそうなのは瀬呂くんかな。
「よーい、スタート!!!」
ワン・フォー・オール、全身10%!!
そして踏み込む瞬間、足だけ20%に上乗せ!
「――うわっ!?滑る!!」
「お先に失礼!!」
体勢を立て直すあいだに、瀬呂くんに追い越された。
……危なかった、もっとしっかり足場を見極めて……!
「待てー!」
「待たない!こーゆー課題ぐらいは勝ちてえ!」
平らな足場、ここだ!踏み込む瞬間、30%!!
大きな跳躍で巨大な貯蔵タンクを飛び越えた。そのタンクに登っていた瀬呂くんを追い越す。ゴールは目前、私の勝ちだ!!
「……高く飛びすぎだろ……」
「――足場がない!?うわああ!!」
空洞のように何もない空間が広がる。あるのは細いパイプだけ、次の足場まで届かない……!
瞬間、30%!!右足を振りかぶる――
SMAASH!!
上体を引いてのけぞり、そのまま反転しながら蹴り下ろす。
風圧で加速をつけて空中を移動し、奥の高台に転がり込んだ。
「いったあ……」
なんとか下までは落ちずに済んだ……
「助けに来てくれてありがとう!そしておめでとう!」
「あざーっす!」
あのタイムロスがなければ勝ってたのに……いや、反省だ。焦らず飛びすぎなければよかっただけだ。
「一番は瀬呂少年だったが、皆″個性″の使い方に幅が出てきたぞ!この調子で期末テストもファイトだ!」
みんなが観戦に戻る中、オールマイトが小声で私に話しかけてきた。
「それ、よく似合ってるよ」
「あ、ありがとうございます」
「この授業が終わったら、私の元へ来なさい」
「……?」
「君に話さなければならない時がきた。ワン・フォー・オールについての、詳しい話を」
更衣室で制服に着替え直す。話さなければならない時がきた、ワン・フォー・オールについて……グラントリノも言っていた、あとはオールマイトに聞けと……大事な話だ、心の準備をしておこう。
「……ん、なんか聞こえる」
「耳郎さん、どうかしましたか……?」
「みんな静かに、ちょっと離れてて」
『八百万のヤオヨロッパイ!芦戸の腰つき!緑谷のプリケツ!葉隠の浮かぶ下着!麗日のうららかボディに蛙吹の意外おっぱアアア!!!』
『あああああ!!!!!』
「……ありがと響香ちゃん」
「何て卑劣……!すぐに塞いでしまいましょう!」
「…………」
響香ちゃんの表情は陰になって見えない。私たちは叫び声以外はよく聴こえなかったけど、何て言ってたのかな?
「……掛けたまえ」
いつもと雰囲気が違う、ピリピリしている。
「色々大変だったな、近くにいてやれず済まなかった」
「いえいえ。それより……話って……」
「君、ヒーロー殺しに血を舐められたらしいね。力を渡した時に言ったこと、覚えているかい?」
「……『髪を食え』って言われて、『セクハラですか?』って言ったはずです」
「違うそこじゃない」
「『DNAを取り込めるなら何でも良い』と言ったはずだ」
「……じゃあまさかヒーロー殺しに!?」
「いや、それはないよ。ワン・フォー・オールは、持ち主が渡したいと思った相手にしか譲渡されないんだ。無理矢理奪われることはない、無理矢理渡すことは出来るがね」
「DNAを取り込むのと、渡す側の意思、ですか……」
「特別な″個性″なのさ……その成り立ちもね」
「ワン・フォー・オールは、元々ある一つの″個性″から派生したものだ」
「『オール・フォー・ワン』……他者から″個性″を『奪い』、それを他者に『与える』ことができる″個性″だ」
その個性によって悪の支配者として日本に君臨した男。その弟が持っていた『与えるだけ』の意味のない個性と、兄が無理矢理に弟へ与えた『力をストックする』個性が混ざり合い、『ワン・フォー・オール』が生まれた。オールマイトはそう語った。
「そして今、オール・フォー・ワンが再び動き出した!」
「そんな……大昔の話ですよね……?」
「成長を止める″個性″を奪えばいいだけさ。とにかくその弟は敗れ、この力を後世に託した。少しずつ力を培い、いつの日か奴を止める為に」
「そして遂に、私の代で討ち取った!!はずだった……しかし、奴は生きていた。脳無もおそらく、奴が作り出したものだ」
「ワン・フォー・オールは言わば、オール・フォー・ワンを倒す為に受け継がれた力だ!君もいつか、奴と……巨悪と対決しなければならないかもしれん……」
継いで欲しいと言われたときから、覚悟していたことだった。具体的な敵は知らなくても、平和の象徴オールマイトの後を継ぐということは……力と責任とは、そういうことだと。
「あなたが私を選んだのなら…オールマイト、他ならぬ……あなたの頼みなら!!」
「……ありがとう……」
私は席を立ち、ドアに手をかける。
「爆豪少年を呼んできてくれ。彼にも話がある」
「……嫌です……」
「……すでに約束してある、呼んでくれ」
「……私が秘密を漏らしたからですか……?私が巻き込――」
「緑谷少女」
「君の責任ではない、私の意思だ。私は彼に話がある」
「……わかりました」