「何度も壊すと腕動かせなくなるって言ったの、忘れたのかい?」
「ごめんなさい……でも今回は右じゃなくて左腕なので大丈夫ですよ!……たぶん」
試験直後の私とかっちゃんは、リカバリーガールの治癒を受けていた。
「何が大丈夫なんだい全く……」
「――リカバリーガール、二人の様子は……?」
モニター室に、痩せたオールマイトが入ってくる。
「オールマイト、あんたその姿……」
「いいんだ、彼も既に知っている」
「……あまり言いふらすもんじゃないよ」
「二人とも無事さ、あんたにしちゃあ上手く加減できたほうだね」
「そうですか……」
「爆豪少年、君は――」
「話しかけんな、テメェみてえな奴は知らねえよ」
「認めねえ……俺が憧れたのはオールマイトだ」
「ちょっと!?かっちゃん!!」
「治癒は終わったんだ、行っていいだろババア」
「……フラフラじゃないか、校舎の方で休んどきな」
「……ああ」
「ホント失礼ですいません、後で言っときますから!……待ってよかっちゃん!」
「随分と嫌われたねえ、何したんだい?」
「……必要なことなのです」
翌日のHR《ホームルーム》、相澤先生が教室に入ってくる。
「おはよう、今回の期末テストだが……残念ながら赤点が出た。したがって……」
「林間合宿は全員行きます!」
「そもそも目的は強化合宿だ、赤点連中は別途で補習させるからな。筆記は全員合格、実技で芦戸・上鳴・切島・佐藤、あと瀬呂が赤点だ」
「合宿のしおり配るぞ、しっかり読んどけ」
「明日休みだし、A組みんなで買い物行こうよ!」
「爆豪おまえも来い!」
「行ってたまるか、かったりぃ」
「なんで!?行こうよかっちゃん!」
「行かねえよ!」
「かっちゃんホントに来なかった……」
大型ショッピングモールに来た私たちは、各自で欲しい物が違うため自由行動をすることになった。ボーッとしてるうちに、みんな散らばっていってしまったようだ。
「デコちゃん、なんか欲しいものある?」
「……服とかかな……」
お茶子ちゃんと二人で見て回ることにした。……とりあえず行こう。
「どんな服が欲しいの?」
「うーん、私そういうセンスないからさ……お茶子ちゃんに選んでもらおうかなって」
「私だってオシャレは分かんないよ」
「大丈夫、私よりは絶対上」
「なにその自信……」
「いやあ、昔こんなことがあってさ……」
『かっちゃん!この服どう?自分で選んだの!』
予想していた反応『ははっ!ダッセェ』
実際の反応『……デコ、やめとけ』
『……え?』
『やめとけ』
『…………』
「……結構ショックだった」
「その服、超気になる……」
「おっ!君たち雄英の子だろ?サインくれよ!」
「ええっ!?サインだなんて急にそんな……」
「やっぱりそうだ……君たち二人とも、アレだろ?あの…爆豪って奴にボコボコにされてたよな?」
「お詳しいですね」
「私のことまで……」
サインか……でも、有名になるってことはそういうことなんだろうなあ……
――致命的な油断……そして平和な日常はいつだって、ヤツらの気まぐれで崩れ去る――
「緑谷さん、だっけ?保須事件でヒーロー殺しに遭遇したんだよな?」
「そんなことまで……」
お茶子ちゃんの肩にその手が乗る。
「また会えるなんてなァ、しかも偶然こんなところで!」
「――お前は――」
「動くなよ?大声を出すのも禁止だ……俺は話がしたいだけなんだ、緑谷出子」
「俺が五指で触れたものは、塵となって崩れる。人間なら1分と経たずに全身が塵と化す。死にたくなければ……そして死なせたくなければ、大人しく付いてこい」
「――デコちゃん、私はいいから――」
「オイオイ落ち着けよ、ヒーロー志望はこれだから……お前を壊したら次は周りの人間だ、状況をよく考えろ……これだけの人ごみの中だぜ?人質は大人しく黙っててくれ」
「緑谷、俺がその気で動いたとして……捕まるまでに何人殺せるだろうな?」
私の方が速い
周りに被害が出る前に仕留めきれる
逃せばいずれ他の場所で被害が出る
今動けば犠牲になるのは一人だけだ
「――っ……話って何……?」
「……座って話そうか」
死柄木に連れられベンチに座った。お茶子ちゃんを間にして、その肩に手を回したまま続ける。
「俺が聞きたかったのは『ヒーロー殺し』についてだ。何故世間はアイツに注目する?俺がやった雄英襲撃も、保須で放った脳無たちも、全部奴の踏み台にされた」
「何故、誰も俺を見ない?俺もアイツも、気に入らないものを壊してただけだろ?」
「……その認識で合ってるよ、平気で人を傷付けるただの犯罪者だ」
「もう少し誠実に答えてくれよ、俺とアイツは何が違うんだ?」
「何が違うって……?」
「ヒーロー殺しは逃げなかった……応援が駆けつけても」
「強い意思があった……必ず目的を達成するという意思が……アイツが私を助けたのも、信念に基づいて行動していたから……信念の先にある理想の為に」
「オールマイトを殺すって息巻いて、結局そのまま帰っていったお前とは違う」
「信念か……アイツにも言われたな」
「つまりは、自分で言ったことはやり遂げるってことだろ?俺は今まで何を悩んでいたんだ……!」
「……ありがとう、話せて良かった」
「オールマイトを殺す、その先……あやふやな正義とかいうやつを、俺がこの手で壊してやるよ」
死柄木がお茶子ちゃんを乱暴に立たせる。
「っ!!」
「ッこの!!」
「お前は座ってろ」
「充分離れたら解放するさ、そんなに怖い顔するなよ。話がしたいだけって言ったろ?間違っても追ってくるなよ?」
二人が人ごみの中に消えていく……
程なくして、お茶子ちゃんが帰ってきた。
「お茶子ちゃん!怪我は!?」
「……大丈夫だよ」
「無事で良かった……本当に……」
「私、デコちゃんに助けられてばっかりだ……足手まといばっかりで……」
「っそんなことないよ!そんなこと……」
警察への通報でショッピングモールは一時閉鎖され、ヒーローと警察によって辺りが捜索されたが、死柄木は見つからなかった。
そして私たち二人は、警察署で事情聴取を受けた。
「色々ありがとう、もうすぐ君の母親が迎えにくるよ」
「塚内さん、お茶子ちゃんは……」
「彼女は一人暮らしのようだからね、さっき警察の方で送っていったよ。実家の両親には連絡済みだ」
「……私、動けませんでした……もっと何かできたはずなのに……」
「そんなに自分を責めないでくれ、犠牲者が出なかったのは君たちの冷静な対応のおかげだ。それに、全ての責任は我々警察にある」
「緑谷少女、塚内くん!」
「オールマイト?どうしてここに?」
「塚内くんと個人的な話があってね。……そばにいてやれなくて、すまなかった」
「いえ、オールマイトが謝ることでは……」
「……オールマイト、人質を取られたらどうするべきですか?」
「……難しい質問だ……一番は人質を取られないこと、すでに人質を取られていたら、犯人の要求に大人しく従う。ヒーローである以上は、見捨てることはできない」
「あまり気負いすぎないほうがいいよ、オールマイトは参考にならない。人質なんて通用しないからね」
「ええ、ですから……」
「君は適切な対応をしてくれた……死柄木は警察が必ず捕まえてみせる。だから君は、君の目標に向かってくれ」
「……はい」
塚内さんは、私とオールマイトの関係を知っている。私がワン・フォー・オールを継いだことを……
「出子、出子!」
「お母さん……」
「無事で良かった……」
「……うん」
警察の車で送ってもらう、その道中……
「二人とも無事みたいで、本当に良かった……」
「……お母さん、私……」
「どうしたの?」
「……やっぱり何でもない……」
夏休み前、最後の登校日。
「……とまあそんなことがあって、ヴィランの動きを警戒し、合宿先を急遽変更します。行き先は当日まで明かさない運びとなった」
「集合場所、時間は変更なしだ……お前ら遅刻すんなよ?」
とりあえず、合宿が中止にならなくてよかった。滅多にない機会だし、やっぱり楽しみだなあ……