「かっちゃん、おやつになんか食べる?」
「なんで隣座ってんだテメェ」
合宿先へ向かうバスの中は、番号順を促す飯田くんの呼び掛けもむなしく、各々が好き勝手に座っていた。
「だってA組の女子、7人で奇数だし」
「んなこと聞いてねえ」
「ほら、大豆バーとかどう?プロテイン入りだよ」
「いらねえよ!」
「じゃあ柿の種は?辛いの好きでしょ?」
「…………」
「シートに零れンだろが、後にしろ」
「……はーい」
「休憩だー!」
「休憩っても、ここパーキングじゃなくね?」
バスが止まったこの場所は、眺めこそいい場所だけど何もない。
「よーうイレイザー!!」
「……ご無沙汰してます」
「煌めく眼でロックオン!」
「キュートにキャットにスティンガー!」
「「ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ!!」」
「今回お世話になるプロヒーロー『プッシーキャッツ』の皆さんだ」
「4名1チームのヒーローグループで、得意は山岳救助!お二人は『マンダレイ』と『ピクシーボブ』!」
「補足ありがとにゃん」
「いい歳してきちィな」
「……そこの君、ちょっとこっち来ようか?」
「ピクシーボブ、まあ落ち着いて……説明が先でしょ?」
「ここら一帯は私らの所有地なんだけど……今回あんたらが泊まる宿泊施設は、あの山のふもとね」
「「遠っ!!」
「何でこんな半端なとこに?」
「……バス戻ろうか、な?早く……」
みんながざわつき始める。
「今はAM9:30、早ければ12時前後かしらん?」
「12時半までにたどり着けなかったらお昼抜きね」
「バスに戻れ!早く!」
――足元が盛り上がって、踏ん張りが利かない……!!
私たちは土の波によってなすすべもなく崖下に流された。
上から声が聞こえる。
「私有地につき″個性″の使用は自由だよ!今から三時間、自分の足で施設までおいでませ!」
「この、魔獣の森を抜けて!」
魔獣……?そんなの普通にいたらダメじゃない?
困惑する私たちの前に、巨大な影が迫る。
「「マジュウだーー!?」」
「静まりなさい獣よ、下がるのです!」
口田くんが呼びかけるが、反応はない。口田くんの個性は動物を従えることができるはず……効かないってことは、あれは生き物じゃない……
ワン・フォー・オール、全身10%!!前に飛び出し、魔獣を粉々に蹴り砕いた。
しかし、次の魔獣が木々の間から続々と現れる。
「……やっぱりそうか……かっちゃん!ここはお願い!」
「ああ!?なんだテメ――」
後ろを向いて駆け出し、崖に近づく。私なら一瞬で登れる……!両足に意識を集中、瞬間40%!!
崖の上まで一気に跳んだ。
ピクシーボブの″個性″は″土流″、土を自在に操る。あの魔獣たちを止めたいなら、操作する本人を狙えばいい!
「この高さをひとっ飛び、やるねえ!」
ピクシーボブが地面に手を伸ばす。
さっきは一緒に流されたみんなを巻き込んじゃうからできなかったけど、今回は……!風圧で土を吹き飛ばす!
右足に意識を集中、瞬間40%……!!
スカッ……
「遠隔タイプには護衛が付き物だ。緑谷、出直してこい」
「うわああ〜!!」
再び押し流されて落ちていく。崖下で起き上がろうとしたところで、頭の中に声が響いた。
『次はちゃんと施設に向かってね、私たちも準備とかあるから』
「……はーい……」
私は大人しく、みんなと合流することにした。
「やーーっと来たにゃん」
着いた頃には夕方、みんなフラフラだった。
私はというと、力をセーブする練習も兼ねて全身5%を試してみていた。動きやすくて、体力の消耗も少ないため好感触だった。それでも、空腹はどうしようもないけれど……
「お腹すいた……先生……」
「部屋に荷物を運んだら、食堂にて夕食。その後、入浴して就寝だ。明日に備えろ」
そのとき、ふと目に入ったのは一人の子どもの姿。
「すみません、そちらのお子さんは……?」
「ああ、紹介してなかったね。私のいとこの息子……洸汰!ほら挨拶しな、一週間一瞬に過ごすんだから」
マンダレイに呼ばれた洸汰くんは、こちらをじっと見るだけで近づいてこない。
「私は緑谷出子、よろしくね洸汰くん!」
「…………」
あれ、無視されてる……?
「ええと……今何歳なのかな?」
「…………」
振り向いて離れていってしまった。
「あっ、ちょっと……」
「ヒーローになりたいなんて連中とつるむ気はねえよ」
「うえ!?ちょっと待ってよ!……行っちゃった」
「はっ、マセガキ」
「おまえに似てねえか?」
「似てねえよ!話しかけんな半分野郎!」
「かっちゃんはもっと騒がしいよ」
「それもそうだな」
「んだとコラ!!」
「ひゃあ!?」
「爆豪、そんなに引っ張ると服が破けちまう」
「さっさと荷物取ってこい、メシ抜きにするぞお前ら」
「ごちそうさまでした!!」
食事を終えて、大浴場へ向かう。そういえば私、女の子の友達あんまりいなかったから、こういうの初めてだ。修学旅行のときとか、個室のシャワー使ってたし……
「デコちゃんやっぱり筋肉すごい!」
「鍛練の賜物ですわね、私たちも見倣いませんと」
……授業の着替えとかで分かってはいたけど、全部脱ぐとやっぱり……
「……肩身が狭い」
「緑谷さん、どうかしましたか?」
「行くぞ緑谷、逃げよう」
「耳郎さんまで……?」
とりあえずシャワーで髪を洗う。私の髪の毛、キレイに整えてもすぐボサボサになっちゃうんだよね……
みんなより一足先に身体を洗い終わり、肩まで深くお湯に浸かった。
「どんだけ見られたくないんだよ……」
「いや、別にそういうわけじゃないよ」
「熱くないの?」
「うん、平気」
「ちゃっかり頭にタオル乗せて……形から入るタイプなんだ」
「えへへ……それより、響香ちゃんなんかソワソワしてない?」
「……聞こえててさ、気になるんだよね……」
「……?」
「二人とも早いねー!」
突然、お湯の中に不自然な窪みが……!!
「なんか不思議な光景だね……」
「私は見慣れてるけどね!」
「葉隠、そりゃそうでしょ」
「気持ちいいねえ」
「温泉あるなんてサイコーだわ」
みんなで浸かっても余裕があるぐらいに広い。私はずっと入ってたし、そろそろ上がろうかな。
「ん、なんか聞こえる」
「耳郎さん、どうかしましたか?」
あれ、なんか前にもこんなことがあったような……
「壁とは超える為にある!!″Plus Ultra″!!!」
「絶対アイツだ……!!みんな隠れて!」
「隠れるって、どこに!?」
そのとき、壁の上に一人の子どもが現れた。
「ヒーロー以前にヒトのあれこれから学び直せ」
「くそガキィィィ!!!」
「やっぱり峰田ちゃんサイテーね」
「ありがと洸汰くーん!」
壁の上、その隙間で、名前を呼ばれた洸汰くんがこちらを振り返る。彼は驚いたようにのけぞり、壁の向こう側へと落ちていく……
「――危ない!!」
咄嗟に壁上へ飛びついたが、間に合わない……!!
「洸太くん!!」
BOOM!!
……煙でよく見えない……
「……ガキは無事だ、降りろアホ」
「――っ!?う、うん!!」
「洸汰くんは?」
「……無事だって」
「良かった〜!」
「でも、一応確認してくるね」
手早く着替えて脱衣所を出る。どこに運ばれたんだろう……?施設内をさまよっていると、ピクシーボブに会った。
「すみません、洸汰くんは……」
「ああ、こっちだよ」
ピクシーボブの案内で事務室へと向かった。
部屋の中には、ソファに寝かされている洸汰くん、マンダレイ、そしてかっちゃん……
「ちょっ何その格好!?」
「のんびり着替えてから運べってか?」
「それはそうだけど……」
「洸汰くんの具合は……?」
「気を失っているけど、どこも怪我はしてないよ」
「良かった……」
その穏やかな表情……夕食前のあのときとは全く違う表情を見て、思わず口を開く。
「……洸汰くん、ヒーローが嫌いなんでしょうか?……もちろん、ヒーローに否定的な人が沢山いるのは知っています。でも、こんなに小さい頃から、あんなに拒絶するなんて……」
「マンダレイのいとこ……洸汰の両親はヒーローだったんだけど、二人とも殉職しちゃったんだよ」
「……そうだったんですか……」
「…………」
「二年前にヴィランから市民を守ってね……ヒーローとしてはこれ以上ない程に立派な最期だけれど、物心ついたばかりの子どもにはそんなことわからない。『自分を置いて行ってしまった』のに、世間はそれを褒め称える……洸汰にとってヒーローは、理解できない気持ち悪い存在なんだよ」
「そんな……」
「…………」
「湿った話聞かせやがって……クソ
かっちゃんは、ぶっきらぼうな口調とは裏腹に考え込むような表情で去っていった。
「お早う諸君」
合宿二日目の朝、時刻は5:30。
「先生、おはようございます!」
「元気だねデコちゃん……」
「本日から本格的に強化合宿を始める。今合宿の目的は、全員の強化及びそれによる『仮免』の取得だ。その為に、君たちの″個性″を伸ばす」
「″個性″を伸ばす、というと?」
「″個性″は身体能力の一つだ。トレーニングで身体を鍛えるのと同じように、″個性″そのものを鍛えてもらう。ひたすら使って使い続ける……死ぬ程キツイが、くれぐれも死なないように……!」