緑谷
「うわぁ、でっかいヴィラン!!」
寄り道しても、学校には全然間に合うし……
人混みをかき分けて進む。
「誰が戦ってますか!?」
駅の屋根上に目を向けた。
「あれはシンリンカムイですね!最近話題の!」
「おっと嬢ちゃん、ヒーローオタクかい?」
「えへへ……」
シンリンカムイの腕がいくつも枝分かれして、膨らんでいく。
「来ますよ!シンリンカムイの必殺技!」
しかし、先に攻撃したのは、横から突然現れた、巨大なヒーローだった。
「キャニオンカノン!!」
ズドーーン!!
大きなヴィランよりさらに大きいそのヒーローが、強烈なキックをお見舞いする。
「本日デビュー、Mt.レディと申します!以後お見
「やっぱりセクシー路線は売れるのかな……いや、そうじゃなくて……突然現れたけど、飛び込みながら巨大化したのかな?でも基本は大きいまま戦うだろうし、そうなると街への被害が……」
「おいおいメモまで持ち出して、ヒーロー志望かい?応援するぜ!」
「っはい!ありがとうございます!」
陽気なおじさんに別れを告げて、学校へ向けて走り出した。
「おまえらも三年になったということで!本格的に将来を考える時期だ!今から進路希望のプリントを配るぞ!」
「……といっても、皆だいたいヒーロー科志望だよねぇ」
「「はーい!!」」
はーい。皆とはだいぶ事情が違うけど。
個性を見せびらかすクラスメイトの中で、肩身が狭い。
「うんうん、皆良い″個性″だ、でも校内で個性は原則禁止だぞ」
「『皆』って一緒くたにすんなよ、先生!」
ツンツンに髪が爆発してる男子が一人、声を上げる。
彼は爆豪勝己、私の幼馴染で、少し目立ちたがり屋。
「ああ、爆豪は確か、『雄英高』志望だったな」
「雄英!?マジかよ!」
「ヒーロー科のトップ校だぞ!?」
「カツキすげー!!」
「ははっ、騒いでろ!″没個性″のおまえらと違って、俺が目指すのはトップヒーロー!オールマイトをも超える真のNo.1だ!!」
「そういえば、緑谷も雄英志望だったな?」
え?ウソでしょ?このタイミングで私に振る?
「はああ!?緑谷!?」
「ムリムリ!お前″無個性″だろ!?」
「勉強出来るだけじゃヒーロー科は入れねえぞ!」
「失礼だなぁ、運動もできるよ」
「おいデコ!!」
「ひゃあ!?」
かっちゃんにいきなり胸ぐらを掴まれる。
「″無個性″で雄英だと!?ああ!?テメェまだそんなこと言ってやがるのか!!」
「かっちゃん、まあまあ落ち着いて……」
「うるせえ!!」
「またやってるよアイツら」
「仲良しかよ」
「爆豪、緑谷、その辺にして席に着け」
「チッ!」
「あはは……」
放課後、荷物をまとめて立ち上がる。
今日も帰ってトレーニングを……
「おいデコ、ツラ貸せ」
なにやら話があるらしい。
「うん、行こっか」
「あ?」
「帰りながらで良いでしょ、一緒帰ろ?」
「…………」
「かっちゃん最近、一緒にトレーニングしてくれないよね」
「テメェと違って忙しンだよ」
「一人じゃ組手が出来ないんだよ〜」
「…………」
「デコ、なんで雄英なんだ?」
「え?」
かっちゃんが立ち止まったので、私も振り返る。
「ヒーロー科なら他にいくらでもあンだろ、他行け」
「……ヒーロー科受けるのは否定しないんだ」
「…………」
再び歩き出したかっちゃんがすれ違うとき、一瞬目が合った。
いや、目というより、少し左上を……
「私の憧れはオールマイトだから、行くなら雄英!ここは譲れない!それに……」
「やってみないと、わからないでしょ?」
「無理だアホ」
「そんなぁ〜」
人通りが少ない道を歩く。喉が渇いたので、見つけた自販機に寄った。
「何にしよっかなー」
「遅え」
小サイズの缶サイダーを早くもほとんど飲み干したかっちゃんが、急かしてくる。
よーし、じゃあこれを――
「うわぁ!!た――」
突然聞こえてきた叫び声に、二人は振り返る。
そこには、謎のベトベトした物体に覆われた、男性の姿があった。
「
「ああ、見りゃわか――」
「行こう!!」
返事も待たずに、迷わず駆け出した。
「なっ……!?オイ!!」
「助けるのが、ヒーローだから!!」
かっちゃんならすぐに追いつく、それよりも考えるべきは……!
あの人は口元をベトベトで覆われている、急がなきゃ窒息してしまう!
ヴィランは異形型の個性、全身ベトベトで目と口以外は形が定まっていないらしい。捕まっている人の個性は考慮しなくてもいいだろう、振り解こうともがいているが、個性を使っている様子はない。
アイツがこちらに気づいた!まだ攻撃は届かない、大丈夫……
BOM!後ろで爆発音、来た!
「デコ!!お前は止まれ!!」
「かっちゃんが救助!タイミング合わせて!」
かっちゃんの爆破なら、ベトベトを吹き飛ばせる!あとは隙を作る、狙うなら……剥き出しの目!
「邪魔をするなあ!!!」
ドロドロの手が伸びてくる、これを躱すには……!
「せいっ!」
ほとんど肩から外しかけていたカバンを、ここぞとばかりに投げつける。ヴィランの腕にカバンがぶつかり、ドブのような臭いが広がった。
勢いそのままに、飛びかかる。
「はあっ!!」
「ぎゃああ!!」
振り抜いたパンチが、ヴィランの目を捉えた!
ヘドロの塊が少しのけぞり、覆われていた男性の体が少しだけ現れる。
「今だかっちゃん!!」
「死ねえ!!!」
BOOOM!!!
私達を巻き込まない為なのか、かっちゃんはほとんどヘドロに埋まりながら、割り込むように飛び込んで爆破した。
爆風の勢いで、3人とも倒れ込む。
「くっせえ!!」
「やっつけた!?」
爆破した高さのベトベトはあらかた吹き飛んだが、残りの上部と下部がまとまって、膨れ始める。
「うそぉ!?」
「…ッんのドブ野郎!!おいデコ!!そいつは!?」
「目立った怪我は無いけど、気を失ってる……!すいません、聞こえますか!?聞こえますか!!」
肩を叩いて呼びかけるが、返事は無い。
ダメだ、背負ってくしかない!幸いアイツの動きは遅いはず……
「かっちゃん、手伝って!!」
「――チッ!一人で運べ!」
「えっ!?」
BOM!
爆発が、細長く伸びたベトベトを撃ち落とす。
そんな……狙いを絞れば、あの速さで攻撃できるのか……!
「早くしろ!!」
「かっちゃん!!」
Bomb!Bomb!
「どうしたクソヘドロ!!かかって来いよ!!」
「ぬううう!!」
さすがに人1人背負うと、速くは走れない。
どうする……?任せていいのか……?かっちゃんは強いけど、弱点が無いわけじゃない……爆破は手のひらだけ、つまり全身をを同時に抑えられたら抜け出せない……そして、体が流動的なあのヴィランなら、それが出来る!
BOOOM!!
大きな爆発に振り返ると、かっちゃんが飛んでくる。
「かっちゃん!どうしたの!?」
「距離取っただけだ!走れ、来るぞ!!」
アイツが大きく膨らんだ、そのとき――
「――もう大丈夫だ、君達」
「私が来た!!!」
辺りに暴風が吹き荒れる。
「オ…」
「オ…」
「「オールマイト!!!」」
拳を握りしめ、堂々と立つその姿。
憧れのNo.1ヒーロー、オールマイトとの出会いだった。