「逃がすかよ、俺と遊ぼうぜ緑谷!」
高台から飛び降りながら、一瞬後ろを振り返る。
男の身体が不自然に膨らんでいく……
私が着地すると同時に、その男も飛び降りた。
「生きがいいね、楽しみだ!お前は率先して殺しとけって言われててなァ!!」
――私を率先して?つまり、他の生徒もターゲットになっている……?そしてあの男の″個性″……赤い筋のようなものを身に纏っている――
すぐに前を向き、地面を蹴って森の中へと駆け出した。
「アイツは……アイツは……!!」
「洸汰くん!?後ろ見てたら危ない、ちゃんと掴まってて!」
「……アイツが、パパとママを……!」
「っ!?そんな……!」
バキバキィ!!
木々が薙ぎ倒される音が後ろから聞こえてくる。
「オイオイ!そんな速さじゃ追いついちまうぞ!?」
走りながら思考を巡らせる……
逃げ切れなくていい、アイツを他の場所に向かわせるにはいかない……私を狙っているなら好都合、このまま施設に行けば洸汰くんの保護をしつつ加勢を望める。
あの男の″個性″、身に纏っていたものは何だろう?パワーとスピードを兼ね備えている。纏うだけで強くなる?しっくりこない……赤い筋……筋……筋肉?
大量の筋肉を纏って、自分を補強する″個性″!!
「血ィ見せろや!!」
振り返って拳で地面を叩き、牽制する。
ワン・フォー・オール、瞬間40%!!
SMASH!!
「うわあ!!」
「ごめん洸汰くん、もう少しだから!」
「いいパワーだ!お前となら絶対、楽しく
再度駆け出す、そろそろだ!!
木々の隙間から、施設の明かりが見えた。
「生徒が大事か?守りきれるといいな……また会おうぜ」
「先生今のは……!」
「……中入っとけ、すぐ戻――」
「先生ぇ!!!」
「緑谷!お前……」「緑谷くん!?」
「「緑谷!!」「……!!」
相澤先生と、さっき広場で別れた4人……タイミングが被った……!
「広いとこだなァ……わざわざ案内してくれたのか?戦いやすい場所に……いいヤツじゃねえか緑谷!嬉しいぜ!!本気でやっていいんだよな!?」
「お前ら中入っとけ!!緑谷お前もだ!」
「プロヒーロー『イレイザーヘッド』!お前にだけは注意しろってアイツ言ってたなァ……″個性″を消せるって?んじゃこれならどうだ……?」
その男は一旦森の中に姿を隠す。……やばい、絶対にやばい……!!
「飯田くん!洸汰くんをお願い!!」
「お願いだって!?待て、君は……」
「お願い!!」
「ボサっとするな!!!逃げろ!!!」
みんなが施設の入口へ走りだす。
ワン・フォー・オール、全身20%!!
「ふざけるなよ緑谷……!!お前はいつもいつも――」
バキバキィ!
木が倒れる音とともに、男が異様な風貌で現れた。
厚い筋肉で覆われ、元の身体の二倍以上にも膨らんでいる。
「……消えない、なんだアイツは?」
……すでに纏った筋肉は、イレイザーヘッドの″抹消″でも消えないのか……!!
「本筋は他に任せていいよなァ!?こっち
「先生下がって!!」
瞬間40%、デトロイト……SMASH!!
ドガァァン!!
私は弾き飛ばされて、地面を転がった。
「ははっ!!俺の方が強え!!いい気分だ!!」
「緑谷!!」
「貼り直せないと面倒だからな、先にお前から殺してやるよ!!俺は緑谷とタイマンがしてえんだ!!」
相澤先生は、ヤツに向かって捕縛布を伸ばす。
……同時に私に向かって、もう片方の端を低く飛ばす。
「そんな非力な腕で何ができる!?こっちに来いよ!!」
「ほざいてろ」
ヤツがそれを掴んで引き寄せるが、相澤先生は直前で切り離す。後ろに下がった先生を見て相手はすぐに跳躍し、膨れ上がった腕を叩きつけた。
私は伸びてきた捕縛布を引っ張る。
「ひゅ〜、色々考えてんのな」
「先生!!」
「緑谷、これ使え」
しなやかに着地した相澤先生から、布を切り離すのに使っていたナイフを渡される。
「っ!?」
「あの分厚さじゃ打撃は効かん、躊躇うな……だが殺すなよ」
「……はい」
「
「小細工はやめて、もっとぶつかり合おうぜ!!」
「……お前は黙っていろ!!!」
相澤先生が、突然大声を出す。
……瞬間40%でも押し負けた、20%じゃ速さも負けてる……なら、全身40%!
「黙って静かにしていろ!!!俺がいいと言うまでだ!!!」
「オイオイ、キレんなって……俺は楽しみたいだけだ」
「静かにしていろと言ったんだ!!動くな!!!」
「誰が聞くかよ!バカなのかぁ!?」
身体が
――それでダメなら、100%を撃つ――
「はああっ!!」
飛びかかって右の蹴り、腕でガードされた。すかさずナイフを振り下ろす……しかし、反対の腕で突き飛ばされた。
「浅いな、逸らしたか……ボキボキに折るつもりで振ったんだが……」
「っ……!」
「さっきより速いが、ぎこちない動きだなァ?それにお前、
さっきより弱い……消耗し始めてる……!!このまま続ければ……!!
「その為にも、まずこっちを殺さねえとなあ!!」
「っ!!」
私とアイツの、動き出しの速さはほぼ互角……間に合わない……!!
施設入口の柱のそばに移動していた相澤先生に向かって、私とヴィランが飛び出した。
「先生!!」
「血祭りだ!!」
「そうだな、血祭りだ……もういいぞブラド!!」
柱の陰から、大量の血が噴き出す。
その血が固まって無数のトゲがついた壁に変わり、勢いよく迫るヴィランに突き刺さった。
「……それがどうした!?身体まで届いてないぜ!?」
「……プロを舐めるな!血剣!!」
――刺さった血のトゲが刃に変わり、筋肉の層を切り裂いた。再び形を変えて相手を覆い、その身体を地面に固定する。
――瞬間40%!!
「デトロイト……!!」
SMAASH!!
「イレイザー、隠れる必要あったのか?」
「わざわざ姿を晒す理由がない……確実に、合理的にだ。お前が冷静で助かった」
B組の担任、『ブラドキング』先生の″個性″は″操血″。自分の血を自在に操ることができる。
「……捕縛布の長さを残しておきたい、いいか?」
「ああ」
固まっていた血が、管を通って体に戻っていく。手足の拘束だけを残した状態で、ブラド先生がその男を担ぎ上げる。
「ブラド、引き続き中にいる生徒を頼む。緑谷、お前も……」
私はすでに、個性なしで捕縛布を躱せる間合いまで離れていた。
「私も行きます」
「ダメだ、戻れ」
「ナイフ返します、こっちに来てください」
「戻れ!!」
「私が先生を抱えて行きます、そのほうが速い」
「イレイザー、アイツ一人で行きかねないぞ」
「……ッ……後で処分覚悟しとけよ」
「ブラド先生!!みんなをよろしくお願いします!!」
ワン・フォー・オール、全身20%!
相澤先生を前に抱えて走り出した。
「お前マジでふざけるなよ……」
「今さら照れないでくださいよ」
「……広場でいいですか?」
「ああ……マンダレイのテレパスで、生徒に戦闘許可を出す」
「……あ……」
そういえば許可もらってない。
「でも結局、ヒーロー免許ないとダメなものはダメなんですよね?」
「責任は全部俺が持つ……だがお前は別だ、覚悟しとけよ……!」
「動かないでください、落としちゃいます!」
「見えてきました!……あれはマンダレイ!」
「緑谷、俺を投げろ!」
力任せに、相澤先生を放り投げた。
先生が捕縛布を伸ばし、ヴィランがマンダレイに向かって振り下ろした武器を絡め取る。
「マンダレイ、テレパスを頼む!」
「イレイザー!?」
『A組B組総員、プロヒーローイレイザーヘッドの名に
ドガァァン!!
「先生!!今のは!?」
この音は施設のすぐ外だ……イレイザーなのか?何をしている?
「……みんなこっちだ!この部屋に!」
廊下を走る足音が複数、避難に来た生徒だろう……ドアを開けて姿を確認した。生徒4名と子供がひとり、5名が向かってくる。
「A組委員長だな、よく無事だった。みな中へ入れ」
「ブラドキング先生!すぐ外でヴィランと交戦中です!相澤先生と、生徒が一人!緑谷くんが一緒に……!」
緑谷、イレイザーが言っていた問題児か……
「俺も加勢に行こう、外のヴィランを片付けたらすぐ戻る」
「先生!俺も行きます!」
「ダメだ」
「全員この部屋から出るな!絶対にだ!」
「先生、お願いします!俺も――」
「ダメだ!」
「切島、もしヴィランが部屋に入ってきたら、″硬化″のお前が皆を守れ。物間、A組の個性も覚えてるな?」
「……オッス!!」「…当然です」
ドアを閉めて、玄関へ向かった。
「やっぱイカれてるよ……ヒーローなんて……」
玄関の先、施設の外にヴィランの姿を見つけた。
身体が何かに覆われている、あれが個性か?イレイザーがいるのに消えていない……
建物から出て声を掛けようとした時、大声が聞こえた。咄嗟に柱の陰に隠れる。
「イレ……」
「お前は黙っていろ!!」
「黙って静かにしていろ!!!俺がいいと言うまでだ!!!」
イレイザー……?様子がおかしい……ヴィランに向かって怒鳴っている……いや、アイツがそんな無意味なことをするか?合理的が口癖の男だぞ?
「静かにしていろと言ったんだ!!動くな!!!」
……了解だイレイザー、お前を信じよう……
「もういいぞブラド!!」
わざわざ呼ばなくても、ここしかないだろう!!
自分の血液が、管を通って噴き出す……
まずは貫く!
そして……切る……!!
「プロを舐めるな!…血剣!!」
すぐに血を操り、逃げられないように縛り付ける。
「デトロイト……スマッシュ!!」