『A組B組総員、プロヒーローイレイザーヘッドの名に於いて、戦闘を許可する!!』
マンダレイのテレパスが私にも聞こえた。おそらく、合宿に来た全員に一斉送信したのだろう。
「イレイザー!!ここは私らに任せて、生徒の保護を!!」
「マンダレイ!!洸汰くん無事です!!」
「ちょっと!?戻ってきちゃったの!?」
「ここは任せていいんですね!……先生!!まだ森に残っている生徒が多すぎます、私と先生で二手に分かれて探すべきです!!」
「……俺が左だ、お前は右の道から行け。無理はするな、そして必ず施設まで戻ってこい」
「はい!!」
「いつまで喋ってるのかしら!?行かせないわよ!!」
虎さんが相手をしていたヴィランが、私に向かってきた。しかし、飛んできたナイフに驚いてその足が止まる。
「手を出すなマグ姉!!」
「何するのよ!!」
よくわかんないけど助かった、今は急げ!!
私は再び薄暗い森の中へと駆け出した。
右の道……つまり肝試しコースの出口側から入ったから、1番目スタートの常闇くんと障子くん、2番目のかっちゃんと轟くんが近いはず。この二組からB組生徒の大まかな位置を聞いて、安否を確認しながら中間地点を目指し、施設に引き返す。
あの筋肉ヴィランが言っていた、『私を率先して殺す』……
この森の中だと、かっちゃんは満足に戦えない……急がないと!!
突然、木々の間から黒い影が伸びる。咄嗟に横へ飛び退いて躱し、起き上がった。
一体何が……一瞬しか見えなかったが、とても大きい影だった――
「緑谷、音を立てるな」
「っ!?」
後ろから口を塞がれ、驚いて振り返る。しかし、そこに人影はなく、長く伸びる腕とそこに生えた耳と口があった。
「悟られないように小声で話せ」
「……分かった」
足音を立てないように慎重に歩く。伸びてきた腕の先、木の陰に隠れている障子くんと合流した。
「障子くんが一人ってことは、さっきの影は……」
「ああ、常闇のダークシャドウだ。俺がヴィランの攻撃から常闇を庇って負傷し、それが奴を暴走させるきっかけになってしまった」
「負傷って、怪我は大丈夫……?」
「だいぶ痛むが問題はない」
「緑谷……お前が来たのは、この先にいる皆を救ける為なのだろう?ここを通りたいなら、奴をどうにかしなければならない。光があれば……」
「明かり……スマホのライトなら……!」
ポケットに手を突っ込むが、そこにスマホは無かった。
「あれ!?無い!落とした!?」
たしかに、ここに来るまで結構激しく動いたけど……!気付かないなんて!
「ウガァァァ!!!」
「緑谷!」
ワン・フォー・オール、瞬間40%!!
SMASH!!
私の声に反応して攻撃してきたダークシャドウに、拳を叩き込む。
――強い……!押し負ける……!!
「……俺から離れろ……死ぬぞ!!」
「常闇くん!」
「……俺のことはいい!!他に……向かえ!!」
常闇くんがなんとか抑えようとしてこの暴れ具合じゃ、私には対抗できない……!!
一旦退いて障子くんの元へと戻った。
「緑谷、お前が先へ行きたいのなら……俺が道を拓こう。奴を明かりの方へ、施設か火事のどちらかへ誘導する」
「施設も火事も距離がある……それに、私だけ先に行くつもりはない、何より私は全員を救ける為に来たから…!」
私は後ろから迫るダークシャドウの攻撃を捌きながら、二人で森の中を走っていた。
暴走していて単調なその攻撃は、範囲と威力こそ凄まじいが、避けることに集中していれば何とか対応できる。それに、時々障子くんも複製腕を伸ばしてサポートしてくれている……私が引きつけて、その間に障子くんが周りを探る。この形が一番効率が良いはず……
「いたぞ!氷が見える、交戦中だ!」
引きつけるのをやめて、一気に駆け出した。
「爆豪!轟!どちらか頼む、光を!」
「やばいやばい!助けてぇ!」
呆気に取られて立ち尽くす二人に呼びかける。
「早く光を、常闇が暴走した!!」
「うわああ!!!」
「分かった、今炎を……」
「待てアホ」
「何で待つの!?」
「……見てえ」
後ろを振り返ると……
さっきまで二人が戦っていたらしいヴィランが、ダークシャドウと対峙していた。完全に解放されたダークシャドウが、木々を薙ぎ倒しながらそのヴィランをぶっ飛ばす。
「強すぎでしょ……」
轟くんが、背負っていたB組の
「てめぇと俺の相性が残念だぜ」
「……?すまん、助かった」
「常闇、大丈夫か?」
「……障子……悪かった……緑谷も……俺の心が未熟だった……」
「平気だよ、そんなに自分を責めないで」
「いや、俺の責任だ……怒りに任せて″個性″を解き放ってしまった……本当にすまない……」
「そういうのは後だ、とお前なら言うだろうな。……緑谷、どうするつもりだ?」
「みんなに聞きたいことが……他のB組生徒がいた場所、大体でいいから覚えてる?中間地点より後の区域だけでいいから」
私が何をしようとしているのか察したのか、轟くんが口を開く。
「待て緑谷、中間地点付近はラグドールがいる……プロに任せて俺たちは避難するべきだ。それにこの先はガスが漂っていて進めねぇ……」
「ガスはもう消えてるみたいだよ?」
森の中へと続く道、その先にガスらしきものは見えない。
「なにしろ木ィばっかだ、正確な場所は覚えてねえが……どいつも道沿いにいた」
「そっか、ありがとかっちゃん」
「デコ、俺が案内してやる」
「っダメ!」
「……どういうつもりだテメェ」
「……森の中だとかっちゃんは大きい爆破ができない、身軽な私ひとりでいい。みんなはこのまま施設に向かって」
「一人で行くだと!?危険すぎる!緑谷、忘れたのか!?俺たちは資格すらない学生の身だぞ!」
轟くんが強い口調で言い放つ。……でも、それでも私は……
「……俺はその気になりゃ飛べる、木より高けりゃ燃え移ることもねえ……ついてくなら機動力のある俺だ、文句は言わせねえぞデコ」
「……分かった、二人で行こう」
「オイ待て!!お前ら――」
静止を振り切って、私たちは先へと進んだ。
「轟!待て!常闇の為にも、お前は我慢してくれ!」
「っ……!!クソッ!!」
「確かこの辺りだ、道の右から……逆からだから左側だな」
茂みをかき分けて、誰か倒れていないか探す……
高台から見下ろしたとき、ガスはかなり広がっていた……今は消えているが、この辺りにいた人は確実に吸ってしまっているだろう……
「一人いたぞ、こっちだ」
暗くて、誰なのかまではわからない……先に近づいたかっちゃんに問いかける。
「どう……?」
「特に怪我はしてねえ、呼吸もある」
髪を結んでる男子、ごめん名前知らないや……後でちゃんとB組全員覚えておこう。
「私が背負うよ」
「いや俺が背負う、テメェは周り見とけ」
「でも――」
――咄嗟に振り返って腕でガードする――
鋭い何かが左腕に突き刺さった。
「っ!?」
――間合いは2メートルぐらい、踏み込め!
放った蹴りは躱された……私の腕に刺さったものが抜けて、それに繋がった管が戻っていく。
「デコ!!」
「……少ない!上手くいかないことばかりです!」
「誰だ!」
……何のことだ……?少ないって……
いや、それよりも……あの身のこなし、捉え切れるだろうか?
「トガです、緑谷出子ちゃん!また今度会おうね!」
「……待て!」
「デコ!深追いすんな!」
「っ……でも……」
既にそのヴィランの姿は消えていた。
「逃がしたら、他を狙うかもしれない……!」
「……落ち着け、腕の傷は?」
「……大丈夫、動かせる」
「まだ進むか?それともコイツを連れて戻るか?」
「……まだまだ残ってるはず、行かなきゃ」
――ドサッ!
突然、人が……いや、かっちゃんが背負ってた男子が降ってきた!崩れ落ちながらも何とか受け止める……
「ちょっとかっちゃん!?どういうつもり!?ケガ人を放り投げるなんて――」
…………いない…………
「かっちゃん……?どうしたの……?」
そんな……さっきまで普通に話してたのに……
受け止めた男子を地面にゆっくりと横たえて、立ち上がる……
「――彼なら、俺のマジックで貰っちゃったよ」
――木の上、仮面の男が立っている――
「こいつぁヒーロー側にいるべき人材じゃあねえ、もっと――」
「返せ!!」
私は真っ直ぐ飛びかかった――
「蛙吹!麗日!」
「あ…相澤先生!」
距離があったため、捕縛布は避けられた……だが、二人から引き離すことはできた。
「……先生に怒られるのはイヤなので、バイバイ」
……見るからに未成年じゃねえか、どうなっている?
その女は俺を見るなり、森の中へと姿を消した。
「お前ら無事か?怪我はどうだ?」
「私は腕を、梅雨ちゃんは舌を切りつけられて……」
「ケロ……痛むけど大丈夫だわ」
「……このまま真っ直ぐ施設に向かえ、ヤツらに見つからないように……」
「先生は……」
「……先へ向かう、動けない生徒がいるかもしれん」
優先度……合理的に……動けるこの二人よりも保護すべき生徒がいるはずだ。
「充分に気を付けろ、急いで行け!」
「「はい!」」
再び道の先へと駆け出した。
「血が採れてません……ガスの届く端っこに行って、倒れてる人から貰いましょう!」