No.25 新たに始まる日々
「
神野事件から一週間以上が経っても、テレビでは連日、事件やオールマイトの特集が組まれている。
ヴィラン連行が雄英1年ヒーロー科の合宿を襲撃し、ワープの個性で生徒2名を誘拐。2名は救出されたが、その際に起きた戦闘で、オールマイトをはじめとして多くの犠牲が出てしまった。
直後の報道では実名が伏せられていたが、現場の目撃者も多かったため、ネット上ではすぐにその2名が、雄英体育祭1年部優勝・準優勝の爆豪と緑谷であると特定されていた。
これを受けて雄英は、隠すのではなく記者会見にてこの事実を明言し、今後の対応を表明した。
家庭訪問に訪れた相澤がインターホンを鳴らすと、すぐに応える声がした。
「はーい、ようこそ先生!さあさあこちらへ!」
妙に明るい
「……事前にお伝えした通り、全寮制についての説明に伺いました」
相澤は、緑谷の家庭訪問が一番苦労すると考えており、覚悟していた。しかし……
「出子をよろしくお願いします」
あっさりと頭を下げる母親に、彼は驚きの表情を隠せなかった。
「事前に二人で話し合いました。私は、この子に幸せになってほしい……」
「これからもきっと、先生方に迷惑をかけると思います……それでも、この子を見てくださるのなら……どうか……」
雄英敷地内、学生寮は1クラスに丸々一つの建物が割り当てられていた。
A組担任の相澤が、自分の生徒たちに向き直る。
「1年A組全員、無事に集まれて何よりだ。そして……」
「オールマイトの後任の教師はまだ決まっていない。もっとも、あの人の代わりなんて誰にも務まらんが……」
相澤がオールマイトの名を口にすると、その場は重苦しい空気に包まれた。しばらく静寂が続く。
「……しかし、いつまでも落ち込んではいられない。お前らには、これからの未来を担うヒーローになってもらわなけりゃならん。彼への感謝と敬意を込めて、訓練に励んでくれ」
話を終えて、寮についての説明が始まる。一階の共同スペースに個室の様子、そして部屋割りを伝えると、各自の部屋を作るために解散となった。
「緑谷、ちょっと来い」
皆が自分の部屋に向かう中、相澤に呼ばれた出子は、ひとり一階に残る。
「保留になっていた処分の件だ」
「本来、俺はお前を除籍処分にするところなんだが……元雄英生の無免ヒーローなんてニュースを見せられた日には、たまったもんじゃない……追い出すわけにはいかん、処分はなしだ。ただし、次は本当にないと思え」
「かつては違法だったヒーローという存在が、市民の支持を受けて職業と成った。しかし、支持だけを頼りにその活動を許可すれば、混乱は避けられん。今の社会は、ルールを決めた者と、それを守った者によって形成されたことを忘れるな」
「……はい」
相澤の言葉に、彼女は静かに頷いた。
「相澤先生……ひとつだけ、私の話を聞いてもらえますか?」
「……どうした?」
「私とかっちゃんで、ひとりの生徒を救助しようとした時にヴィランに襲われて、かっちゃんだけが捕まって……私はその後を追いました。警察にも話したとおりです」
「でも、警察の人は指摘しませんでした」
「私は意識のない彼をその場に置き去りにしたままで、戻ろうともしませんでした。居場所を知っているのは私だけだったのに……」
「意識はないものの命に別条はなく、誘拐された生徒の方を優先すべき。見た様子ではヴィランは撤退するところで、その場に置いていっても襲われることはないはず。……後付けの理由なら簡単に思いつきます。でも、それでも……」
「私は迷いすらしなかった、考えすらしなかった。考えるより先に動いていた。私情で救ける相手を選んだ……あのとき私は、ヒーローでもなんでもなかった。それだけは、本当に後悔しています」
「デコちゃん、今ね、みんなのお部屋を見て回ってるんだけど」
「!?」
「ダメ!無理!」
「……デコちゃん?」
「……あー、いや、見ても特に面白いものとかないし、ね?ごめんもう眠いから寝る!おやすみ!!」
「……?」
翌日体育館にて、仮免試験に向けての強化訓練が始まった。訓練内容は″個性″伸ばしと、必殺技の開発。
『セメントス』が地形を変え、『エクトプラズム』が自身の分身によって、生徒一人一人につきっきりでアドバイスをしている。
「全身常時発動、名付けて……フルカウル!」
出子は高く跳び上がり、一回転して片足を勢いよく振り下ろす。
「ルナアーク!」
強烈な踵落としによって、地面は割れて凹んでいた。
「ソレハ『ミルコ』ノ技ダナ」
「ええ、実は大ファンなんです!」
「女性ヒーローで武闘派は珍しいですからね!ランキングでは現在7位、私の憧れの一人です!それこそオールマイトの……」
「……オールマイトの次に好きなヒーローです……」
「……ソウカ……」
『コスチューム改良については、校舎一階にある開発工房で専門の方に聞くように』
放課後、出子は麗日・飯田と共に工房へと向かった。
「デコちゃんは何を変えるの?」
「ブーツを改良してもらおうと思ってね。ナイフが刺さったの思い出して」
「ナイフ!?」
「……職場体験の時か……」
「……うん」
「あの扉かな?」
BOM!
扉を開けた瞬間、謎の爆発に三人は巻き込まれた。
身構えていてなんとか踏みとどまった出子は、飛ばされてきた人物を受け止める。
「おっと、あなたはいつぞやの!」
「…………発目さん、どうも」
「このブーツを、もっと頑丈にしてほしくて……多少重くてもいいので、刃物が通らないぐらいのを」
「頑丈にですか!?それならですね――」
「あと、前腕部で刃物受けれるプロテクターがあったらいいかなって」
「さっきから想定が物騒ですねえ!?いいでしょう!さて、どんな機能を付けま――」
「シンプルにお願いします」
「……まあまあ、試してみましょうよ?きっとアナタのお役に立ちます!!」
「……私は大丈夫、あっちの二人の相談を聞いてあげて?」
「フフフ…仕方ありませんね!!」
「緑谷くん!?」「デコちゃん!?」
試験まであと数日となったある日の夜、一階の広間に女子一同が集まっていた。飲み物を片手にくつろぐ者もいる中、出子はダンベルを持ったままソファに腰掛ける。
話題は訓練についてで、それぞれの進捗を語っていた。
「・・・お茶子ちゃんはどう?」
「自分を浮かすのけっこう慣れてきたし、いい感じ」
「ねえねえ」
皆ひととおり言い終えたころ、芦戸が出子に尋ねた。
「緑谷ってさ、爆豪と付き合ってるの?」
「ぅえ!?ち、違うよ!?」
「でも好きなんでしょ?」
「…………うん」
「キャー!やっぱり!!」
「告白とかしないの?」
「……私は別に今のままで……それに、関係が変わるのが怖い……ちっちゃい頃から一緒だったから……」
「でも誰かにとられちゃうかも――」
「それはない。かっちゃんモテないし」
「……アレじゃあね」「近づきたくない」
「爆豪だけはないわ」「そうね」
「言い出したの私だけどさあ!?みんなヒドくない!?」
「んじゃあさ、どんなとこが好きなの?具体的に!」
「……急に訊かれても……」
「芦戸さん、明日も早いですしその辺に」
「えー!?もっと色々聞きたーい!」
「また今度聞けるっしょ」
「……じゃあね」
彼女たちは、それぞれの部屋へと戻っていった。