十日余りの訓練を終えて、仮免試験会場へとやってきたA組一同。他校の生徒も集まりつつある中、A組の円陣に勝手に加わる者がいた。
「大変失礼いたしましたぁ!!」
彼は夜嵐イナサ、雄英と並び称される屈指ヒーロー校、士傑高校の生徒である。
「東の雄英、西の士傑……」
「へー、有名なんだ」
「テメェまさか知らねえのか?」
「雄英以外はあんま調べてなくて……」
「……眼中になかったってか、とんだ大物だなァ?」
「いや、そういうわけじゃ……」
「おっ!イレイザーじゃないか!!」
二人が話しているうちに、今度は別の学校の生徒たちが近づいてきた。イレイザーヘッドと知り合いであるMs.ジョークに引率され、雄英生へと挨拶を交わす。
「傑物学園高校2年2組!私の受け持ちだ、よろしくな!!」
「俺は真堂!今年の雄英はトラブル続きで大変だったね」
「不屈の心こそ、これからのヒーローが持つべき素養だと思う!!」
「中でも、神野事件を中心で経験したそちらの二人……君たちは特別に強い心を持っている」
「……どうも……」
「今日は君たちの胸を借りるつもりで頑張らせてもらうよ」
「フかしてんじゃねえ、セリフとツラが合ってねえんだよ」
「……お互い頑張りましょう」
握手を拒否した爆豪に続いて、出子も軽く頭を下げただけで握手には応じなかった。
「まずは、この場にいる受験者1540人一斉に、勝ち抜けの演習を行ってもらいます」
「現代はヒーロー飽和社会と言われ、事件発生から解決に至るまでの時間は今、迅速になっています。よって、求められるのはスピード!」
「条件達成者先着100名を通過とします」
体に取り付けたターゲット3つを狙ってボールを当てるのが試験内容となる。ボールはひとりに6個ずつ配られ、自分のターゲットに3つとも当てられたら脱落、最後の3つ目に当てた人が倒したことになり、二人倒した者から勝ち抜きとなる。
「かっちゃん、また後でね」
「……ああ」
「みんなも頑張ってね!!」
「緑谷くん!?」
戸惑うクラスメイトを置いて、彼女は行ってしまった。それに続くかのように、轟と爆豪がまた別の方向へ駆け出す。
「君たちまで!?……仕方がない、他の皆はこっちへ!」
試験会場には、山岳地帯、工業地帯、市街地など様々な地形を模したフィールドが用意されている。
そんな中……遮蔽物が一切ない、区域と区域の境界にあたる場所。出子はそこで開始の合図を静かに待っていた。
「雄英体育祭、準優勝の緑谷だな?何故一人なのかはどうでもいい……」
大勢に囲まれて
「身軽な動きに、近接の体術……そして何より、地面を深く抉るほどの超パワー」
「でもねぇ……スピードに関しちゃ、追えないほどの速さじゃない。これだけの数は相手にできないだろう?それに……」
「身体を壊さずに出せる威力は、それほど大きくはない!」
『スタート!!!』
「――フルカウル、30%!」
さらに彼女は、踏み込む一歩目を50%に上乗せし、攻撃の瞬間は腕だけを5%に落とす。そうして瞬く間に、次々に鳩尾へ拳を叩き込み、彼らをあっさりと返り討ちにしてしまった。
倒れた一人ひとりにボールを当てていく。
「他の子に獲られないように全員脱落してもらうけど、先に狙ってきたのはそっちだから恨まないでね?」
『早速一人目の通過者です!脱落者は……なんと10名!!……他はどこも膠着状態のようです』
『通過した方は控室へ移動して下さい』
控室に向かう途中、出子はふと振り返る。会場がわずかに揺れるのを感じて、しばらく立ち止まってまた歩き出した。
『さらに二人目の通過者!!一人で120人を脱落させたようです!!』
「120人はやり過ぎでしょ……」
「おおっ!?アンタは雄英の!さすがはトップ校、すげーっス!」
「はあ……どうも……」
控室にて、二人目の通過者である夜嵐に話しかけられ、出子は少し困った様子で返事をする。
「今回はアンタの勝ちだけど、次は負けねえっスよ!!」
「次っていっても、受験者同士で何回も競わせるとは限らないんじゃ……」
「それもそうだな!!」
「じゃあ、また今度よろしく!!……やあアンタ!俺は・・・」
次々に新しい通過者へ話しかけに行く彼を、出子は苦笑いで見送った。
そして通過者が定員の半分を超えたころ、轟が控室に現れた。
「あ、轟くん!」
「緑谷、まだお前だけか」
「そうなんだよね……思ったよりみんな遅くて……」
「…………」
会話が切れて夜嵐のことを見つめる轟に、出子が問いかける。
「……あの人がどうかしたの?」
「……アイツとは推薦入試で会ってるはずなんだが、思い出せねえ」
「うーん、そっか」
轟には話しかけに来ない夜嵐を不思議がる出子だったが、それ以上は何も言わなかった。
A組の中で次に控室にやって来たのは、八百万・耳郎・蛙吹・障子の4名。さらにその後、爆豪・切島・上鳴もやって来た。
「かっちゃん!やっと来た、遅かったね!」
「……糸目男とイカレ女がダル絡みしてきやがった。……それよりデコ、てめぇ本物か?」
「……どゆこと?」
「……なんでもねぇ」
「……?」
「みんな通過できて良かった!!」
通過枠残り20人の時点で雄英A組は11人も残っていたのだが、終盤で合流に成功し、なんとか全員通過を果たした。
『次の試験がラストです!通過した100名の皆さん、まずはこちらをご覧ください』
モニターに、先程のフィールドが映し出される。直後、凄まじい爆発が立て続けに起こり、一帯はガレキの山に変わってしまった。
「っ……!」
『皆さんにはこの被災現場で、救助演習を行ってもらいます』
映像を観ていた出子が、口元を抑えてうずくまる。
「……そんなんでヒーロー務まんのか?」
「……ごめん、大丈夫……大丈夫……」
「……しっかりしろよ、今は怪我してねぇだろ」
『ヴィランによるテロが発生!建物倒壊により傷病者多数!』
二次試験開始の合図で、100人の受験者たちはフィールドに散らばっていく。
そして爆豪ら3人は、山岳地帯にて要救助者を発見した。
「腕を怪我したの!」
「助けてくれ!」
「うるせえ!!自分で助かれや!!」
「はああ!?」
「自己流貫きすぎだろ!」
「すげえ大怪我してるかもしんねえだろ!」
「自力で歩けてるやつが大怪我なわけねェだろが!!ナメてンのか!?そんなに構いたきゃテメェらで勝手にやってろ!!!」
そう吐き捨てると、爆豪は真上に飛び上がる。
「爆豪!?どこ行くんだよ!?」
「避難先が安全とは限らねぇだろアホ」
「アホ言うなって!!オイ!?」
彼は周囲を見渡した後、そのまま飛び去ってしまった。
BOOOM!!
開始から少し経ったころ、突然大規模な爆発が起こった。立ち込める黒煙の中から姿を現したのは、ヒーロー番付10位の『ギャングオルカ』と、そのサイドキックたち。オルカの個性は『シャチ』で、その名の通りシャチの特徴を備えている。
「――ギャングオルカ!!」
「何ッ!?」
爆発で壁に空いた穴、そこから現れたヴィラン役の彼らの元には、早くも出子が到着していた。
会場へと散開するサイドキックたちをすり抜け、ギャングオルカへと向かっていく。
『ヴィランが姿を現し追撃を開始!現場のヒーロー候補者はヴィランを制圧しつつ、救助を続行してください!!』
「シャチョー!!」
部下が撃つセメントガンを軽々と避けて、彼らには目もくれずにさらに距離を詰めていく。
オルカの超音波攻撃を拳の風圧でタイミングよく相殺し、そのまま上段蹴りを放った。オルカはその場から動かずに腕でガードする。彼女が再び体勢を整えて、すさまじい気迫と共に拳を握りしめたそのとき……
「……合格だ」
「……うぇ!?」
「他の者の評価に差し支える、あとは救護に回ってくれ」
そう言うと、動きの止まった彼女を掴んで投げ飛ばした。
「うわぁぁぁ!?」
「是非とも続けたかったが……ハンデ込みではとても相手になれん」
「さて……」
ヴィランの元へ駆けつけたが、言い争いを始めてしまった轟と夜嵐。二人の連携が取れずに風に流された炎が、近くにいた真堂の方へ向かっていく。
「――何してんだテメェらァ!!」
ギリギリのところで、爆豪が彼を連れ去った。
真堂を片腕で抱えた爆豪は、もう片手の爆破で飛び続ける。そして、思うように身体を動かせないらしい彼を見てつぶやいた。
「えらく元気そうじゃねェかフサ髪よぉ」
「うるせえなぁ!!隙うかがってたってのによ、あの二人のせいで台無しだ!!」
「最初からその調子でこいっての」
二人が地面に降りると、真堂は向かってくる部下たちの方向へと個性を発動し、地面がひび割れる。
「足は止めたぞ、奴らを片付けろ!」
「指図してんじゃねえ!!」
言い返しながらも、爆豪はその言葉の通りに向かっていく。集まりつつある他の受験者も加わり、足並みが崩れたヴィランたちを打ち倒していく。
一方で轟と夜嵐は、二人とも超音波の攻撃を受けながらも土壇場で協力体制に入り、ギャングオルカを炎の渦に閉じ込めた。
しかしオルカは、悠々と衝撃波でそれをかき消し、轟と夜嵐に向き直る。
「で?次は?」
――BOOM!!
「次は俺が相手してやるよ、No.10!!」
「ほう……」
――ビビーーッ!!!
大音量でサイレンが鳴り響く。
『救助が完了しましたので、試験終了となります!!』
「はあァァ!?ざけんなクソ!!こっからだろオイ!?」
『集計後に合否を発表しますので、着替えてお待ちください』
不満げな爆豪をよそに、アナウンスは淡々と終了を告げた。