デコのヒーローアカデミア   作:かにかまとかにたま

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No.2 努力と情熱

 

オールマイトの拳によって引き起こされた風圧が、ヘドロのヴィランをバラバラに吹き飛ばす。飛び散ったベトベトは、そのまま動かなくなった。

 

「君達、怪我は無いかい?」

 

オールマイト……本物のオールマイトだ!!

 

「そちらの方は、どれどれ……うんうん、気を失っているだけだ、心配ない」

「少年少女、怪我は無いかい?」

 

オールマイトはしゃがんで目線を合わせ、こちらに笑いかける。

2人とも静かに頷いた。

 

「そちらの少女、そのおでこの怪我は……」

「あ……ええと……これは昔のやつで……」

「そうかそうか、余計なお節介だったかな、すまない」

 

無事を確認し、彼が立ち上がる。

 

「いやあ、悪かった!ヴィラン退治に巻き込んでしまった!オフの日、慣れない土地で少しウカれちゃったかな!?」

「あ、あの……サ、サイン下さい!!」

「モチロン!!と言いたいところだが、まずはコイツを片付けないとな!」

 

オールマイトは、辺りに散らばるベトベトの方を向いた。

 

 

 

 

 

「ありがとう君達、おかげで手早く詰められた!」

 

オールマイトの持っていた2本のペットボトルに、あのヴィランが収まっていた。

本体?にあたるであろう目のまわりの部分を回収できれば、残りはただの物体になるみたいだ。

 

「よし、それじゃあ、そのノートでいいのかい?」

「はい!お願いします!!」

 

オールマイトの直筆サイン……!嬉しすぎる!!

 

「あれ、かっちゃんはサインいらないの?」

「いらねぇ」

「もったいないなあ、せっかく本物のオールマイトに会えたのに……」

 

そうだ!こんなチャンス二度と無い、聞きたいことが……

 

「あ…あの、サイン、ありがとうございます!それで、その…ノートなんですが……」

 

サインを書き終えて、ノートを返そうとしたオールマイトの手が止まる。

 

「どうかしたのかい?」

「そ…そのノート、私が今やってるトレーニングメニューなんです。私、あなたに憧れて、ヒーローを目指してて……今年雄英を受けようと思っているんです!それで、何かアドバイスをお願いします!」

「……すまないね、具体的なことは……何せ、ヒーローは常に時間とも戦っている。私もそろそろ行かなくては。だが、君の目指す夢を、全力で応援しよう!!Never give up!!」

「……コイツが″無個性″でも、か?オールマイト」

 

その一言で、場の空気が変わった。

 

「……″無個性″……!!そうか……」

「かっちゃん!?ちょっとぉ!今言わなくても……」

「デコ!テメェさっき、なんで飛び出した!!」

「ひゃあ!?」

 

急に胸ぐらを掴まれる。

 

「な、なんでって……呼吸できなくて苦しそうだったし、急がないとって」

「テメェ1人でどうにかできたのか!?この先もずっとそうやって、助ける為に助けられるつもりか!?」

「なんだ、心配してくれたんだ。素直じゃないなあ」

「ああ!?ムカつくんだよ!!そうやってヘラヘラして、いつまでも夢見心地のガキは――」

「少年、そこまでだ。落ち着きなさい」

 

オールマイトが仲裁に入る。

 

「ヘラヘラじゃなくてニコニコだよ?失礼だなぁ。笑顔は大事!」

「知るかよ」

 

渾身のスマイルをかっちゃんに受け流された私は、オールマイトの方を向く。

 

「……オールマイト、私は確かに″無個性″です。プロの現場に立ち会って、その厳しさを改めて実感しました。でも私は諦めません。今日はありがとうございました」

 

オールマイトは静かに、何かを考え込んでいる。そしてゆっくりと口を開いた。

 

「″無個性″でヒーローは現実的ではない。私としても、無責任な応援はできない。人を助ける事に憧れるなら、他の道もあるだろう」

 

予想通りの返事だったけれど、No.1ヒーローに直接言われるとなかなか……

 

「だが、君が……」

「……?」

 

「それでも君が、本気でヒーローを夢見るなら、少しばかりの手助けをしよう」

「ええっ!?」

「私考案の特別トレーニングメニューだ!このノート、少し借りるよ?また後で、そろそろホントに行かなくては、マジに時間が」

「ありがとうございます!!私――」

 

オールマイトが手で制したので、口を閉じた。

 

「2日後!朝6時!近所の海浜公園にて待っている!」

「そして少年」

 

オールマイトは、かっちゃんの方を見る。

 

「プロはいつだって命懸けだ、君の言ったことは正しい。半端な覚悟で、命を軽んじてはいけない……いいね?」

 

後半は私を見て言ったため、静かに頷いた。

 

「しかし一方で、その行いによって助かった人もいる。それを忘れないでほしい。ヒーローが、何のために戦うのかを」

 

最後に、助けた男性を見る。ちょうど意識を取り戻したらしく、ゆっくりと起き上がるところだった。

 

「無事で何より、それでは!さらばだ!!」

 

オールマイトが深くしゃがむと、次の瞬間には空を飛んでいた。

 

「オールマイト!?オールマイト!!ありがとーーう!!あ、でも待って!サイン下さーーい!待ってぇーー!!」

「これいります?私2つ貰ったので」

「ええっ!?本当かい?ありがとう!!」

「いえいえ、それより怪我が無くてよかったです」

「君達のおかげだろう?おぼろげに覚えているよ、ありがとう」

 

 

 

 

 

「さようなら〜!ほら、かっちゃんも」

「うぜえ」

 

大きく手を振って、その男性を見送った。

 

「あの色紙のサイン、素直じゃないかっちゃん用だったんだけど、あの人あげちゃった」

「いらねえっつったろ、つーかいつの間にもらったんだ」

「かっちゃんが自分のカバン拾いに行ってたとき。そういえば、空き缶ちゃんとゴミ箱に捨てた?」

「……チッ!咄嗟にブン投げて忘れてただけだ」

 

自販機の近くに着くと、放り出された空き缶が転がっていた。かっちゃんがそれを、横のゴミ箱に投げ入れる。

さて、帰ってシャワー浴びよう。でもとりあえず……

 

「何飲もっかなあ〜」

「ふざけんなクソ、早く行くぞ」

 

 

 

 

 

2日後の朝、時刻は5時50分、私は砂浜で海を眺めていた。

誰も寄り付かないこの海岸は、流れ着く漂着物と不法投棄の山で覆われていて、なんとも複雑な気持ちになる。

オールマイトの姿は見当たらない。本当に会えるのかな?少し不安に……

 

「わーたーしーがーーー!!来た!!」

「オールマイト!!」

 

どこからともなく、オールマイトが降ってきた。

 

「おはよう!久しぶりだね!ええと……。名前を教えてくれるかい?」

「はい!緑谷出子です!」

「ありがとう。さて、緑谷少女、これを受け取ってくれ」

 

オールマイトは、持っていた3冊のノートのうち、2冊を差し出す。ひとつは預けていた私のノート、もうひとつは……

 

「アメリカンドリームプラン……?」

「そう!!」

 

オールマイトは、ビシッとポーズを決める。

 

「君の普段のメニューを参照しつつ、トレーニングの具体的な内容はもちろん、食事や睡眠時間までキッチリ練り上げた!!」

「おお〜っ!!」

「ぶっちゃけ超ハード、やるかい?」

「やります!」

「これは合格を保証するものでもないし、″無個性″のヒーローは、やはり現実的じゃない。……それでもやるかい?」

「やります!!」

 

「緑谷少女、メニューの他に、目に見える形としての課題を出そうと思う」

「課題……ですか?」

「この浜辺のゴミを、毎日少しずつでもいい、片付けて欲しい。ヒーローの根底は奉仕活動!君の本気を、試させてもらおう!!」

 

このゴミの山を、私が!?

 

「……わかりました、頑張ります!!」

「応援しているよ、あとは君次第だ」

「……オールマイト、でもどうして…ここまで親身になって……」

 

思わず口に出してしまった、もともと自分で頼んだくせに……

しかしオールマイトは、笑顔で答える。

 

「お節介はヒーローの(さが)、いいのさ!!」

 

そしてオールマイトは、残り1冊のノートを差し出す。

 

「これをあの少年に。彼も雄英志望なんだろ?」

「あれ?言いましたっけ?」

「なんとなくわかるさ!」

 

「私の手助けはここまでだ!それではサラバだ、緑谷少女!!」

 

「繰り返すようだが、あとは君次第だ」

「……はい!!」

 

オールマイトは、再び空を飛んで消えていった。

こうして、いつもと違う私の日常が始まった。

 

 

 

 

 

朝4時に起床、ストレッチをしてから有酸素運動、筋トレ、朝食を摂って学校へ。休み時間も隙あらば筋トレ、帰りは海岸に寄ってゴミの回収作業。家まで走り、本番のトレーニング開始。休憩中は勉強をして、再び筋トレ。

筋肉の超回復にかかる時間を考慮して、その日ごとに違う部位を鍛えていく。お母さんに相談して、食事のバランスも徹底した。

1ヶ月経つと、少し掃除の進んだ砂浜に、ちょっとしたスペースが出来上がったため、気分転換にその場でトレーニングをしたりもした。

少し体調が悪い日は、有酸素運動を減らし、筋トレの中でも動きの小さいものをメインにする。倒れちゃったらトレーニングできなくなっちゃうし、ね?

 

 

 

 

 

海岸では、稀に誰かが訪れることもある。大抵はゴミを運ぶ私を不思議そうに見て、すぐ去っていくだけ。でも今日訪れたその人は、しばらく眺めてからこちらに近づいて来た。

 

「お嬢さん、物好きだねえ。誰かに頼まれたりしたのかい?」

 

酷く痩せたその男性が、優しく笑いかける。

 

「ええと、頼まれたというか……とある人からの、修行の一環、みたいな?」

「そうかそうか、修行か。その人、少しイジワルだねえ」

「意地悪だなんてそんなこと……あるかも?……なんて、冗談ですよ!」

「ははは、楽しそうだね。辛くないのかい?」

「辛いけど、楽しいです。それに、浜辺が綺麗になって嫌がる人はいないでしょうし」

 

「そうだ、あなたも一緒にどうです?その細さ、もう少し鍛えたほうが……」

「遠慮しておくよ、修行なんだろう?」

「えへへ……」

「まあでも確かに、私も鍛えたほうがいいかもね」

 

握り拳を開いて閉じて、その人はつぶやいた。

 

 

 

「もっとキレイにするから、また寄ってくださいね〜!」

「…楽しみにしているよ」

 

その人は、静かな足取りで去っていく。細く頼りない体ではあるが、どこか安心感のある優しい笑顔だった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「もしもし……やあ、ナイトアイ……久々の連絡なのに不躾ですまないが、話したいことがあるんだ」

 

 

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