「轟!ごめん!!あんたが合格逃したのは俺のせいだ、俺の心の狭さのせいだ!!ごめん!!」
「元々俺がまいた種だし、よせよ。お前が直球でぶつけてきて気付けた事もあるから」
頭を下げる夜嵐に、轟が静かに応える。周りでそれを見ていたクラスメイトたちは、A組で唯一不合格となってしまった轟に対して、どう声を掛けるか悩んでいるようだった。
「轟くん、えーと………かっちゃんも合格ギリギリだし、あんまり落ち込まないで」
「何見てんだテメェ」
「お前ら二人には置いてかれてばっかりだな……体育祭でも、合宿でも……」
「「…………」」
『さて……合格した皆さんは、緊急時に限り自身の判断でヒーローとしての権限を行使できる立場となります』
『しかしそれは、君たちの行動一つ一つに、より大きな社会的責任が生じるということでもあります』
『平和の象徴亡き今……混乱へと向かっていくであろう世の中を、未来を、君たち一人一人の手で明るく照らしてほしい。次の世代のヒーローたる諸君に……』
『残念ながら二次試験にて不合格となった皆さんにも、まだチャンスは残っています。三ヶ月の特別講習の後、個別テストで結果を出せば、君たちにも仮免許を発行するつもりです』
「……すぐ追いつく」
轟はクラスメイトに向かって、以前の彼とは違う柔らかい笑顔を浮かべた。
その日の夜……
「……グラントリノ、仮免取りましたよ。私も捜査に――」
「早まるな、どのみち捜査に関わらせるつもりはねェ。進捗をおまえさんにも報告するってだけだ」
「……そうですか」
「では、サー・ナイトアイの件は……」
「……会えるように俺から話を通しておく。それよりも明日から学校始まるだろ、さっさと寝んかい」
「……はい、夜遅くに失礼しました」
翌日、全校生徒が集まる始業式にて、オールマイトへと黙祷が捧げられた。
続けて壇上に上がった校長が、生徒たちへとメッセージを送る。
「ヒーロー科だけでなく、経営科も普通科も、サポート科も、皆社会の後継者であることを忘れないでほしいのさ」
そして始業式を終えて教室へと戻る生徒たちが、目を向けるクラスがあった。
事件の発端となった一年A組B組、ヒーロー科の生徒たちへと……誘拐された2名には特に、多くの視線が向いた。そんな彼らを睨み返す爆豪の後ろで、
三日後、担任の相澤がA組にインターンの説明をするにあたって連れてきたのは、雄英ビッグ3と呼ばれている3年生3人である。
「君たちまとめて俺と戦ってみようよ!」
通形ミリオの提案を受けて、一同は体育館へとやってきた。口頭で説明するだけのはずだったのだが、インターンが有意義であることを身をもって体験してもらおうというわけらしい。
「待って下さい、我々はハンデありとはいえプロとも戦っている」
「そしてヴィランとの戦いも経験しています!そんな心配される程、俺らザコに見えますか……?」
常闇と切島が不満げな言葉を口にするが、ミリオは飄々と答える。
「うん、いつどっから来てもいいよね。一番手は誰だ!?」
「気に入らねえなぁギャグ顔がよォ!?」
先輩への言葉とは思えない罵倒と共に、爆豪が名乗りを上げた。
「ブッ殺す!!」
爆豪が威勢よく飛び出すと同時に、待ち構えるミリオに異変が起こる。
「ああーーー!!」「ええっ!?」
「今、服が落ちたぞ!?」
「失礼、調整が難しくてね!」
「ナメやがって……
爆豪の放った攻撃は、ミリオの頭部を″すり抜けて″いった。続けてレーザーやテープなどの他の遠距離攻撃が飛んでくるも、すでにミリオの姿は無い。
さらに直後、彼は集団の背後に現れると、遠距離組を次々に一撃で沈めていった。
「お前ら、いい機会だしっかりもんでもらえ。その人……通形ミリオは俺の知る限り、最もNo.1に近い男だぞ。プロも含めてな」
「……プロも含めて……」
「ますます気に入らねェ……!」
「何したのかさっぱりわかんねえ!すり抜ける上にワープなんて、無敵じゃないすか!!」
「無敵なわけあるかアホ、ちったぁ頭使え」
「爆豪、どういうことか教えてくれ!」
暴言にも動じず訊ねてくる切島に対して、爆豪は一呼吸置いて話し始める。
「……アイツの攻撃は直接的な打撃、つまり″すり抜け″は自動じゃなくて任意だ。向こうの攻撃の瞬間なら、こっちにも攻撃をブチ込むチャンスがある」
「なるほど!カウンター狙いか!でもワープはどうすんだ?」
「知るか!」
「そこ大事なとこだろ!」
代わりに出子が言葉を続ける。
「ワープなら、姿が消える瞬間があるはず……さっきはみんなの攻撃に紛れてよく見えなかったけど、次は……」
「――沈んだ!?」
ミリオが地面へと沈んで見えなくなると、皆がその場で迎え撃つ姿勢をとる。そして……
――BOM!
「ッ……!!」
二人はほぼ同時に攻撃したが、爆破はミリオの身体をすり抜け、拳が爆豪の鳩尾に打ち込まれた。爆破の音で残りの者が振り返る。
再び姿を消したミリオが、今度は出子の背後に現れる。彼女は振り向きざまに蹴りを放ったが、これも通り抜けてしまう。振り向き終わって姿勢を整える一瞬、二人の目が合う。
「ちょっ!?」
「失礼!」
素っ裸の彼に驚いて思わず目を閉じた出子は、とっさに鳩尾をガードする。しかし……
「――っ!?」
両腕のガードをすり抜けて、拳が鳩尾に直接叩き込まれた。現れては消えて、彼は残りの者も次々に打ち倒していく。
「POWER!!!!」
落ちているズボンを穿き直すと、ポーズとともに声高く叫んだ。
「まだ終わってねえよ、カッコつけてんじゃねえ!!!」
ミリオが声の方を向くと、フラフラと立ち上がった爆豪が手を構える。
BOM!!
…当然、放った攻撃はすり抜けていった。
「クソが!!」
「かっちゃん落ち着いて」
続けて立ち上がった出子が爆豪を諌める。
「うんうん、なかなかにタフだね。さすがは1年のツートップだ。狙われた理由がよくわかる」
「「…………」」
「……フルカウル、30%!」
「(ギアが上がった――)おっと!?」
一瞬で距離を詰めて背後に回り込む。
……振り抜いた拳は再びすり抜けて、風圧でズボンだけが吹き飛んでいった。
「……もう!!」
再び目を閉じた出子の前で、ミリオは内股気味の滑稽なポーズのまま地面に沈んでいく。恐る恐る目を開けた出子が、彼が消えたことに気づいて後ろへ飛び退くと、直後に彼は、そのさらに後ろの地面から音もなく現れた。
死角からのミリオのパンチを、ガードせずに身を捻ってギリギリで躱すと、同時に彼めがけて蹴りを放つ。足は身体をすり抜けて空を切り、彼女は風圧の反動で移動して再び大きく距離が空いた。
(反応じゃない、予測かな?さっきの鳩尾のガードも、ガードできないと分かった後の対処も中々に――)
――BOM!!
距離が空いた瞬間を見計らって上から爆撃を仕掛ける爆豪だったが、地面を少し抉っただけでミリオの姿は無い。
「出てこいやァ!!」
凹んだ地面とその周りに向けて撃ち下ろして、その反動で飛び続けている。
「俺は飛べないからね、作戦としては悪くないと思うよ!!」
「うるせえ!!」
現れては消えるミリオに向けて、空中から撃ち続ける。一方の出子は諦めてしまったようで、見学中の相澤と轟の元へ向かって、とぼとぼと歩いてきてつぶやいた。
「……もういいです私……」
「緑谷、お前はヴィランが露出狂だったら見逃すのか?」
「そんなぁ……あんなに強い不審者いたら困ります……」
「……まあいい、そろそろ時間も押してきてる」
BOM!
斜めに撃ち下ろした反動で、爆豪が少し壁面に近づいた時だった。再び地面へと消えたミリオを探しながら、姿勢を整えようと壁側へ片手を向けたその瞬間……
壁からミリオが現れ、勢いよく飛び出した。下を向いている爆豪は気付いていない。
BOM!
爆風の中を突っ切って、ミリオが勢いそのままに迫る。
「――かっちゃん!!」
「――ッ!?」
咄嗟に振り返ってもう片方の手で爆破するが、これもすり抜けてミリオは拳を打ち込んだ。爆豪は大きく姿勢を崩して地面へと落ちていく。
(いい反応だ、加速されたせいで思ったより浅い……)
地面ギリギリで爆破し受け身をとると、すぐさま迎撃の態勢を整える。しかしそこで相澤の制止が入った。
「爆豪、お前もそのへんにしとけ」
「はぁ!?まだ負けてねえよ!!」
「どう見ても判定負けだ」
「んだとコラ!!」
「本題を忘れんな、何の為に先輩方を呼んだと思ってる」
「すみませんイレイザーヘッド、俺もつい熱くなっちゃって……」
落ち着いたところで、ミリオはA組へと、身振り手振りを交えて熱く語り始める。″透過″の個性は攻撃を避けるだけでなく、地面に潜って弾き出されることでワープも可能である。
しかし発動中の肉体はあらゆる物を透過し、音や光を含む一切の感覚を失ってしまう。
「俺の個性で上に行くには、何より予測が必要だった!そしてその予測を可能にするのは経験!」
「俺はインターンで得た経験を力に変えてトップを掴んだ!」
「…ので!恐くてもやるべきだと思うよ1年生!」
彼は拳を握り、力強く締めくくった。
その日の放課後……
「インターンだァ?」
「ええ、というわけで私を捜査に――」
「ダメだっつったろ、しつこいなおまえさんも」
「それはそうと……サー・ナイトアイについてだがな、連絡が取れたぞ。今週の土曜日、事務所に行くといい」
「……ありがとうございます」
「……ちょうどいい、インターンのこともナイトアイの世話になったらどうだ?」
「……え?」
「あれだけのコトが起こって、その上でおまえさんを受け入れる余裕と度胸のある事務所はそう多くはない。今から探すのは苦労するぞ?」
「……わかりました、お願いしてみます」
「でも、その前に……」
「オールマイトとナイトアイ、二人の間に何があったのかを、私に教えていただけますか?」
「…………」
グラントリノは出子へと、彼の知る限りを静かに語り始めた。