念のため
爆豪のヒーロー名についてアニメ派ネタバレ注意
個性は身体機能の一つであり、肉体の成長とともに個性も成長しうる。
しかし逆に、個性が衰えることがあるのもまた事実である。その原因として老いや怪我、病気、あるいは強いストレスなどが考えられる。
「サー、体調がすぐれないのでしたら、お休みになったほうが……」
「彼は最後まで戦い続けた。ならばこそ、私もこの程度で休むわけにはいかない」
テレビやネットニュースでは流れない、その瞬間を捉えた映像。平和の象徴が文字通りバラバラに
それを、自分だけが事前に見てしまっていたとしたら?
死にゆく彼を止めようとも、尚も歩みを止めないとしたら?
『これ以上ヒーロー活動を続けるなら、私はサポートしない。出来ない……したくない……!』
『見たのか……私の事は見なくてもいいって言ったはずだろナイトアイ……』
『このままじゃ予知通りになるんだよ!それは駄目なんだ!私はあなたの為になりたくて、ここにいるんだオールマイト!!』
『私は世の中の為に……ここにいるべきじゃないんだナイトアイ』
『このままいけばあなたはヴィランと対峙し、言い表せようもない程凄惨な死を迎える!!』
『…………』
一体誰がその絶望を理解できるだろうか。
『サー・ナイトアイ』の個性は″予知″。触れた人物の未来を見ることができる。
一日に一人、一時間のあいだ未来を自由に見ることができたのだが、それは以前の話、今の彼が個性を発動し続けられる時間は一日に十分程度である。
「サー、ホシに動きがありました!」
「現場に血痕を拭い取った形跡があり、建物の損壊も激しいことから、おそらく交渉は決裂したものかと……」
「…………」
「……かと思われまぁす!!」
ナイトアイの暗い表情を見て、バブルガールが取ってつけたかのように声を張る。
「内容は以上です!!」
「元気があってよろしい」
彼女が報告を終える頃、部屋をノックする音が響いた。
「おはようございます!!サー、インターンの希望生が来てますよ!!駅で会って一緒に来たんでね!!…さあ、入って入って!!」
「ミリオくん、その子って確か……」
「初めまして、雄英高校ヒーロー科1年A組、緑谷出子です」
「……バブル、ミリオ、二人は退室を」
「「……イエッサー!」」
「……いつか会うことになるだろうとは思っていた」
「心より敬愛するオールマイトだが、後継の件に関しては彼の唯一の誤りだ。その力にはもっと相応しい人物がいる」
「…それが通形先輩、ですか」
「貴様の体格では、いくら鍛えたところで完成には至らない。その歳では、ほとんど成長も止まっているのだろう?」
「よけーなお世話ですよ!!」
冗談めかして胸元を押さえる出子だが、ナイトアイは目を合わせたまま微動だにしない。
「……今はまだ、この力を手放すつもりはありません」
「駄々をこねる子供に付き合っている余裕はない。象徴亡き今、人々は微かな光ではなく眩い光を求めている」
「……現場で実感するがいい、誰がその力に相応しいのか」
「書類を」
「……は、はい、ええと……」
「返事は元気に、行動はテキパキと」
「っはい!お願いします!」
ナイトアイが渡された書類に目を通していると、思い出したかのように出子が口を開く。
「……そうだ、忘れるところでした。ナイトアイ、オールマイトからあなたへ、伝言を頼まれたんです」
「伝言だと?あの時の彼にそんな余裕は――」
「『直接会って謝りたかった。つらい思いをさせて、本当にすまない』……と」
「……そんな言葉が聞きたかったんじゃない、私はただ、あなたに……」
「……少し一人にしてくれ」
そして翌日……
「本日はパトロール兼監視……私とバブルガール、ミリオと緑谷の二手に分かれて行う。監視のターゲットは、指定敵団体の
『
ナイトアイが一枚の写真を取り出す。
「若頭の『治崎』という男が、妙な動きを見せ始めた」
「最近、あのヴィラン連合とも接触をはかったみたいなの」
「ヴィラン連合と……」
「ともかく、今回狙うのは犯罪行為の証拠……証拠がなければこちらは動けん。くれぐれも気取られぬように」
「そういやさ!お互いヒーロー名聞いてなかったよね!」
「『デコ』です!」
「目立ってるよね!!」
「俺は『ルミリオン』!」
「オシャレでカッコいい!」
こうしてパトロールをしていた二人であったが、途中ふと出子が横道の方を向く。
――小さな人影が飛び出してきた。
「――わっ!っと、大丈夫?」
「っ……!」
「急に飛び出したら危ないよ?でも怪我しなくて良かっ……」
抱き止めたその女の子を見て言葉を切る。
手足に巻かれた包帯、伸びっぱなしでボサボサの髪、何も履いていない裸足の少女。
「ダメじゃないかヒーローに迷惑かけちゃあ。帰るぞ、エリ」
暗い路地から声がした。
「うちの娘がすみませねヒーロー、遊び盛りでケガが多いんですよ。困ったものです」
「……それは大変ですね、私も小さい頃はよくケガをしたもので……」
出子はその男の方をチラリと見て、すぐに少女へと視線を戻す。
代わりにミリオが話を続ける。
「その素敵はマスクは八斎會の方ですね!ここらじゃ有名ですよね」
「マスクは気になさらず……汚れに敏感でして」
「どこの事務所所属なんです?」
「まだ学生ですよ、所属だなんておこがましいくらいで……」
「では我々、昼までにこの区画を回らないといかんので!行こうか!」
「……いかないで……」
出子の表情は陰になっていて見えない。
「あの……この子のことで、何かお困りなのでは?」
「……と、言いますと?」
「なんだかこの子が怖がってるみたいで……」
「……叱りつけた後なので」
「……子育ては大変ですよね!」
「……ごめんね……あとで必ず……迎えに行くから……」
「もしよろしければ、お近くのヒーローにご相談くださいね」
出子が顔を上げて、抱いていた少女を離す。
「……お気遣いどうも、さあ行くぞエリ」
「……俺たちも行こうか」
二日後……
「切島!爆豪!おまえら、ネットニュースにヒーロー名のってるぞ!」
新米サイドキック烈怒頼雄斗爆誕!
初日から市民を背負い単独敵退治!
空飛ぶベストジーニスト!!
新人サイドキックの名はダイナマイト!
「『大・爆・殺・神 ダイナマイト』だ!勝手に略しやがって!!」
「だせェ」
「記事書いた人に感謝だな!」
「あ゙あ゙!?」
睨み付ける爆豪をよそに、瀬呂と上鳴が続ける。
「大きく写ってる切島に比べて、爆豪はベストジーニストのオマケって感じだし……それにこの写真じゃ、ダイナマイトってよりかロケットエンジンだな」
「つまり噴射し終えたら用済み?」
「ブッ殺すぞ!!」
「…………」
同じくニュースになっていた蛙吹・麗日二人の話題も含めて盛り上がるクラスの中で、出子はひとり静かに自分のスマホをぼんやりと眺めていた。
数日後、サー・ナイトアイ事務所にて
「……それでは、情報の共有と共に協議を行わせて頂きます」
調査のきっかけとなった強盗団の事件、ヴィラン連合との接触を始めとする勢力拡大を狙う動き、そして協議の内容は核心に近づいていく。
八斎會と接点があると思われるグループを拘束した際のことである。個性を一時的に強化する違法薬物の他に、今回初めて確認された″個性を壊す弾丸″。
その中身には、人間の血や細胞が入っていたという。
「治崎の個性はオーバーホール、対象の分解と修復が可能です。そして治崎には娘がいる。この二人が遭遇した時には、手脚に夥しい量の包帯が巻かれていた」
「こいつらが子ども保護してりゃ一発解決だったんじゃねーの!?」
「……街中での突発的な戦闘は被害が大きくなる。それに相手は一人ではなく組織です。あの場で動くのはリスクが大き過ぎた」
「そりゃあ立派なご意見だ」
「全ては私の責任だ、二人を責めないで頂きたい」
「今度こそ必ず、エリちゃんを保護する!!」
「……それが私たちの目的になります」
少女の居場所を特定でき次第作戦決行、その為に再び調査を行うというナイトアイに対し、慎重すぎるのではないかという意見が挙がる。
「どういう性能かは存じませんが、未来を予知できるなら俺たちの行く末を見ればいいのでは?」
「……それは出来ない」
「……例えば、その人物に近い将来」
「死……ただ無慈悲な死が待っていたら、どうします」
サー・ナイトアイは、オールマイトの元サイドキックである。彼の発言と表情から、その場にいる者のほとんどが、「ナイトアイはオールマイトの死を事前に見てしまっていたのではないか?」という思考に行き着くのは自然な事だった。
「私の予知は、占いとは違う」
「ご協力よろしくお願いします」
会議後、雄英インターン生が集まる別室に相澤が訪れる。
「先生!」
「あ、学外ではイレイザーヘッドで通せ」
そして、相澤は自分の生徒へと、インターン中止を提言する予定だったと告げる。
「連合が関わってくるとなると話は変わってくる。特に緑谷、お前はな」
「…………」
相澤は、出子がグラントリノと塚内に、自身をヴィラン連合の捜査に加えるように頼んだことを知らない。
しかし、彼女が連合に執着していることは察しているようだ。
「今回はあくまで、エリちゃんという子の保護が目的、それ以上は踏み込まない」
「……はい」
「切島、麗日、蛙吹、お前たちもいいな?」
「「「はい!」」」
翌日、雄英の食堂にて
「……食うならさっさと食えや」
「……え?……あ、うん」
目の前の食事に手も付けず一人で座っていた出子は、隣の席にやって来た爆豪に向けて小声で話しかけた。
「……今日はジーニストさんのとこ行かなかったんだ」
「そう何日も行けるかよ、アイツの顔見るだけでイライラする」
「ええ……」
「インターン、テメェは結局ほとんど行ってねえらしいな?」
「……うん」
「どうせ何かやらかしたんだろ」
「……詳しいことはほら、守秘義務とかあるから……」
「あっそ」
「……そうだ、代わりにかっちゃんの話聞かせてよ」
「あ?……ああ……」
「俺のヒーロー名聞いてアイツ、『考え直さないか?』だとよ。ふざけやがって」
「私もそう思うよ」
「は?」
「現場に着いてすぐ、アイツが俺を
「勝負はほんの一瞬で、付け入る隙なんてなかった。ジーパン野郎はいけ好かねぇが、実力は圧倒的……アイツの間合いに入ったら、誰だろうと一瞬で
「ベタ褒めだね」
「……ちげぇわ客観的な評価だ」
「アイツ、事あるごとに俺をグルグル巻きにしやがんだよ、クソムカつく」
「光景が目に浮かぶね……ふふっ」
「笑い話じゃねぇンだが?」
「撮影!?ジーニストさんと一緒に!?」
「ああ」
「何て雑誌?」
「……覚えてねぇ」
「絶対ウソだ!かっちゃん、写り方とか意外と気にするタイプだし!」
「うぜえ」
「ねぇ教えてよー!」
「絶対ェ教えねー」
「――あれ!?もうこんな時間!?授業始まっちゃう!!」
「あとで私のことも話すからね!」
「別に聞きたかねーわ」
「まあまぁそう言わずに……そのときは、またかっちゃんのことも聞かせてね?」
「……ヒマだったらな」
そして、会議から二日後の深夜、インターン生含む会議出席者に連絡が入った。
決行は翌朝である。