デコのヒーローアカデミア   作:かにかまとかにたま

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No.30 ヒーローがマントを羽織るのは

 

「ヒーローがマントを羽織るのは!痛くて辛くて苦しんでる女の子を、包んであげる為だ!!」

 

「おまえは強いよ治崎!でもね!」

 

「俺の方が強い!!」

 

 

 

 

 

 

 

音本(ねもと)!!撃て!!」

 

 

 

 

 

 

 

「個性なんてものが備わってるから夢を見る。自分が何者かになれると……精神に疾患を抱えるんだ」

「笑えるな!救おうとしたその子の力で、おまえの培ってきた全てが今!無に帰した!!」

 

 

 

 

 

 

 

「――何も無駄にはなってない!!俺は依然、ルミリオンだ!!」

 

 

 

 

 

 

 

「――先輩!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

「――緑谷!!お前また――」

「――イレイザーヘッド!!」

 

「保護が最優先!!」

 

くぐり抜けた穴が閉じた直後、後ろから叫び声が聞こえてきた。私は一瞬、その場で立ち止まる。

……戻るわけにはいかない、彼らのことは彼ら自身に任せよう。

 

そう自分に言い聞かせて駆け出すと、不意に目の前に壁が現れた。

壁を蹴り壊すと、次は通路全体がねじ曲げられる。

 

 

 

――これではもはや、前後も左右も分からない。

地面を転がり、壁面を転がり、迫る壁を砕きながら抜け道を探す。

ワンフォーオールのパワーなら、潰される心配はない。強引に抜け穴を作ることもできる。

しかし、通路を力任せに壊すと、周囲の地下を巻き込んで崩落するかもしれない……

うかつには手を出せず、後手に回らざるを得なかった。

 

 

 

この厄介な個性の持ち主を私一人で引きつけているのは、それほど悪い状況ではないのかもしれない。

そう思い始めたころ、それまで絶えず押し寄せていた壁が止まって動かなくなった。

 

お互い時間との戦いだ、私の相手を続けるのは不毛と判断して後続の妨害に移ったらしい。

 

今は早く、ルミリオンに追いつかなければ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

倒れている男が一人、通路を塞ぐ壁と、その壁の隙間に一人倒れている。

壁を破って、中へと突入した。

 

「先輩!!」

 

 

 

――通形先輩と治崎が戦っている。

治崎のそばに、倒れている部下が一人。先輩の後ろの少し離れたところに、真っ赤なマントに包まれたエリちゃんがいた。

 

治崎が左手で触れようとすると、先輩は大きく身を躱す。

私は二人の間に割って入って、治崎を蹴り飛ばした。ガードした治崎の腕が赤く腫れ上がる。

 

 

 

 

 

「次から次へと……病人どもめ……!」

 

治崎は自身の片腕に触れると、バラバラに分解して、瞬時に元通りに治してみせた。

 

まずは後ろのエリちゃんの状態を、次に先輩を目視で確認する。二人とも目立った外傷は無い。

 

 

 

「無事で良かった……」

「無事?無事だと……?ソイツが……ルミリオンが無事だと、そう思うんだなお前は?」

 

 

 

どういう意味だ……?先輩に何が――

 

 

 

「悲しい人生だったな、ルミリオン。壊理に……俺に関わらなければ、″個性″を永遠に失うこともなかった。(ゆめ)(かか)ったままでいられた」

 

 

 

周りに目を向けると、入り口で意識を失っている男の手には拳銃が握られていて、すぐ近くに謎の小箱が落ちている。

 

思い返せば、さきほどの治崎の攻撃を、先輩は自分の個性を使わずに避けていた。

 

 

 

 

 

「英雄症候群に罹った病人どもを……お前らのような連中を治してやるのさ、壊理のチカラで」

「……いつもそうだ、結局私は、肝心なときに役に立たない……」

 

 

 

 

 

「さあ壊理!!おとなしく戻ってこい!!お前のせいでまた周りの人間が傷付いていくぞ!!それでもいいのか!?」

 

――感傷にふけっている場合ではない。今、私がやるべきことは……

 

 

 

 

 

「治崎は私が引き受けます。先輩はエリちゃんを安全な場所へ」

「……しかし――」

「――この広さなら、思う存分戦えます」

 

 

 

 

 

「エリちゃんをお願いします、ルミリオン」

「……ああ!!また後で、デコちゃん!」

 

先輩がエリちゃんを抱き上げると同時に、白い煙が辺りに漂い始める。

 

「――逃がすかァ!!」

 

さっき私が空けた穴を塞ごうとするトゲの波を、風圧で横から粉々に砕く。

煙が晴れた時、そこにはもう先輩とエリちゃんの姿は無かった。

 

 

 

 

 

「壊理を返せ!!!」

 

私に向かって迫るトゲを、回り込んで避ける。

 

「返せ?変な話ですね。あの子はあなたの所有物じゃない」

「――価値も分からんガキどもが、俺の邪魔をするなァ!!」

 

今度は私の立っている地面ごと分解されてしまった。トゲが成形される前に、空中を蹴って上へ脱出する。

さらに天井を蹴って、治崎へと踵落としを狙う。しかし、直前でギリギリ当たらないと判断して、タイミングをずらして治崎ではなく床を狙って振り下ろした。

地面を分解しようとしていた治崎が、衝撃で吹き飛ばされる。

すぐに飛び出して追撃を仕掛ける。反応して伸びてくる左腕を見切って、横から蹴りつけた。厚いブーツ越しに骨を砕いた感触が伝わってくる。

治崎は右手で地面に触れる。私はその場から飛び退いて、再び距離を取った。無数のトゲが地面を覆い尽くす。

 

 

 

治崎の攻撃は、地面を分解してトゲに変えるか、直接触れにくるかの二通り。

トゲの広範囲攻撃は凄まじいが、床の分解でワンテンポ遅れるぶん、轟くんの氷結攻撃に比べれば対処しやすい。

両の手のひらを軸にした近接戦闘への対処は、かっちゃんのおかげで慣れっこだ。

 

しかし、やはり厄介なのは、怪我を治されてしまうこと。

さっき蹴り折った左腕が、距離を取った隙に回復している。それに……治せるのは治崎自身の身体だけではない。

 

仕切り直して構えたところで、背後から危険を感じた。

 

 

 

 

 

死角からの攻撃を軽々と避けて、フード男のアゴを打ち抜く。

念のためマスクを剥ぎ取って、完全に意識を失っているのを確認した。矢印のような頭髪、警察の資料に載っていた若頭補佐の玄野だ。

 

 

 

「何故今のが避けられる……!?」

「…………」

 

悪趣味なペストマスクを投げ捨てて、治崎に向き直る。

ダメージの蓄積が望めないなら、近接戦で圧倒すればいい。

それには、30%では決め手に欠ける。長くはもたないが、十分だろう。

 

 

 

 

 

「フルカウル、50%……!」

「――ッ!?」

 

真正面から距離を詰めて、拳を振り抜く。治崎も反応してきたが、私の方が一瞬早く届いた。鳩尾に拳が突き刺さり、治崎を吹き飛ばす。

 

急所を狙うときは、瞬間的に出力を落として手加減するように心がけている。それでも普通なら十分すぎる威力のはずだ。

しかし、治崎は起き上がり、自身の胴体に手をかざす。

 

悠長に回復なんてさせない、間髪入れずに再び詰め寄る。

 

血煙に包まれて人間がバラバラになるという、グロテスクな光景の直後に、何事もなかったかのように五体満足で現れる治崎。でも、いくら傷を治しても、反応速度が早くなるわけじゃない。

 

正面から治崎の両腕を掴んで、力を込める。治崎は手首を動かすが、触れることはできない。そのまま握りしめて両腕ともへし折った。

 

コイツは腕を折られても止まらない、簡単に失神してもくれない。

両腕を使えなくした上で、確実に意識を奪わなければならない。

 

 

 

フルカウルの出力を落として、回り込んで後ろから飛びかかり、首を締め上げる。

 

「……ッ!」

「――大人しくしろ!!」

 

治崎が暴れて、折れた両腕がぶらぶらと大きく揺れた。

私はとっさに自分の腕を解いて離れる。右腕に着けていたプロテクターが分解されて、バラバラと地面に落ちる。

 

 

 

 

 

「……ハァ……ハァ……」

「……投降しろ治崎。次にその怪我を治そうとしたら――」

 

 

 

「――さぞいい気分だろうなァ!?ちっぽけな正義感で、個性を振りかざす……お前のような病人どもが、オヤジを日陰へと追いやった……!!」

 

「″個性″で成り立つヒーロー社会を、その(ことわり)を俺が壊してやる!!だからいい加減もう……!俺の……!」

 

 

 

 

 

 

 

どうして、こうも違ってしまうのだろう。どうして分かり合えないのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

「……個性があるからヒーローになりたいわけじゃないよ。私はただ……」

「――俺の邪魔をするなァァァ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

地面に引き倒して、両肘、両手首を順番に踏み砕いた。

治崎は歯を食いしばって絶叫を押し殺す。

 

次は肩に足をのせて、軽く踏んで狙いを定める。関節の位置をしっかりと確認して、足を大きく振り上げた。

 

 

 

振り下ろす前に、治崎は意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最低の気分だった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

「緑谷!!」

「デコ!!」

 

空けられていた穴から、サー・ナイトアイとイレイザーヘッドが中へと突入する。二人の呼びかけに反応して、出子が振り向いた。

 

 

 

「……ナイトアイ、イレイザーヘッド、二人ともご無事で何よりです。先輩とエリちゃんは?」

「……ここに来る途中で保護した。……それよりも……これは……」

 

 

 

壁に囲まれた空間で、出子が佇んでいる。その足元には、深緑色のマントで手荒に縛り上げられた治崎の姿があった。

 

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