「そういえばかっちゃん、オールマイトからのノートって何書いてたの?」
「教えねー、気になるなら渡す前に覗けよ」
「いやあ、なんだか悪いかなって」
6月、砂浜にはたまにかっちゃんが来るようになった。
「ねえ、休憩中だし……組手でもしない?」
「頭イカレたか?言ってることメチャクチャだぞ」
「……?下は砂だから怪我しにくいよ?」
「そこじゃねぇ」
なんだかんだ言いながら、2人とも立ち上がる。
「″個性″は?」
「うーん、かっちゃんのためにもなるように、″アリ″で」
「……ああ」
「…私からいくよ!」
開始の間合いは約2メートル、まずは詰める!かっちゃんが右手を振りかぶる、しっかり見て……来る!
牽制の爆破を低姿勢で躱し、そのまま足払い!軽く跳ねて避けられた。次の爆破が来る、避けるには……上体はまた低く、腰の捻りを活かしてハイキック!これは腕でガードされた。あっ……
足を掴まれた。
「終いだな」
「おおっ!」
急に手を離されて、バランスを崩す。
″個性あり″のときは、かっちゃんに掴まれたらそこで終了。実戦になったらどのぐらいの火力で爆破するのかな……?
「避けると思って蹴ったのに……」
「ああ、痛え」
かっちゃんは、ガードに使った左腕をさする。
「次、″個性なし″だ」
「…そりゃどうも」
わざわざ個性なしを提案してくるのは、完璧主義が過ぎる。
まずはもう一度、挨拶がわりのハイキック!身を引いて躱される。
「ワンパターンだな」
「はあっ!」
そのまま距離を詰めて、左ストレート!軽く避けられて、右の拳が飛んでくる。ギリギリで倒れ込むように躱して、地面に手を付き左の蹴り!これも避けられて再び距離が空く。
「かっちゃんも右ばっか、人のこと言えないよ。今の左のキックはどう?」
「右に比べてキレが足りてねえ、見てから避けれる」
今度はあちらから仕掛けてくる。かっちゃんは″個性″の癖なのか、上半身に意識を割きがちだ。そこを突ければ!そう考えていたのに……
かっちゃんは強い踏み込みから、飛び蹴りを放ってくる。冗談じゃない!女の子相手に打っていいものじゃないでしょ!?
ど真ん中、両腕でガードするが、弾き飛ばされる。
「いったぁ……加減してよぉ……」
「加減したぞ、折れてねえだろ」
砂だらけでかっちゃんに引き起こされる。
「ヴィランにも手加減してもらうか?」
「むう……」
「今日はもう帰るぞ」
「また今度相手してね?」
「……気が変わるまで叩きのめしてやるよ」
9月
「八木さん、ちゃんと鍛えてます?最初会った時からあんまり変わってませんよ?」
痩せたその男性は何度も訪れるので、すっかり仲良くなってしまった。名前は八木、普段は事務仕事をしているらしい。
「いやあ、育ち盛りの少年少女を基準に考えちゃダメさ」
「それにしてもですねぇ……見てくださいよこの筋肉!もう恥ずかしくてミニスカ履けませんよ!」
「ははは……ほらほら、作業が止まってるよ?」
「いやあ……」
1月下旬
砂浜のゴミはほぼ全て片付いていた。結局オールマイトは一度も現れなかった。それでも会いたくて、砂浜でトレーニングを続ける。
そしてさらに数日後……
「やあ、すっかりキレイになったね」
「八木さん、お久しぶりです!」
その日、砂浜には滑らかな水平線が広がっていた。
「待ってましたよ、見に来てくれて嬉しいです」
「私を待ってたのかい?」
「ええ、あんなに何回も来たのは八木さんだけですよ」
「そうかそうか」
「まあでも本当は、他にも見てほしい人がいたんですけど……」
「……そういえば、修行のためだったね。その人のことかい?」
「そうなんですけど……もういいんです。あとは私次第、やれるだけやってみます」
「そんな君にサプライズ!!」
「え?どうしたんですか急に」
八木さんは、辺りをキョロキョロと見回す。
「誰もいませんよ?」
「…私が来ていた!!マッスルフォーム!!!」
突然その身体が倍以上に膨れる。
「ええっ!?オ、オ……ええっ!?」
「説明しよう!!」
「ええと、整理すると」
「痩せてるのが本来の姿で、力んでるときがみんなの知ってるオールマイト」
「この事実を知っているのはごく一部の関係者だけ、平和の象徴であり続けるためにも他言は無用」
「5年前の戦いで重症を負って弱ってしまい、ヒーローとして活動できる時間がかなり減ってしまった」
「……ってことですか?」
「ああ!」
「……ヒマだから定期的に見に来てたんですね」
「1日3時間しかヒーロー活動できないからね!ヒマさ!」
痩せたオールマイトが、自嘲気味に笑う。
「どうしてそんな秘密を、私に?」
当然の疑問だ。どうして今、それを私に……
「……ここからが本題だ。私のこのチカラを、君が受け継いでほしい」
「……受け継ぐ??」
「私の″個性″は、聖火のように代々受け継がれてきたものなんだ」
「受け継がれる″個性″……?そんなものが……?」
冗談を言っているようには見えない。でも、それが事実だとして……
「どうしてそんなに大事なものを、私に?」
「元々後継を探していたんだ。それであの日、君と初めて会った日に、君の決意を聞いてビビッときたのさ!この子ならもしかすると、ってね。そして、さらなるトレーニングと課題で、ヒーローとしての心構えを確かめさせてもらった」
まさか、オールマイトから直々に試されていたとは……
「見てほしい人、ね……可愛らしいとこあるじゃないか」
「お恥ずかしいです……」
「君の決意、言葉だけでなく行動で示してもらった。″無個性″でヒーローを志し、ヴィランにも立ち向かった君にこそ!受け取ってほしい!」
「…………はい!ありがとうございます!!」
「この″個性″の名は、『ワン・フォー・オール』」
「ワンフォーオール……」
みんなのために……
「この″個性″を貧弱な身体で受け取ろうとすると、負荷に耐えられずに全身が爆散してしまうんだ!HAHAHAHA!!」
「ええっ!?」
「実例は無いから安心したまえ、それに君の肉体は十分に仕上がっている……いや十分は言い過ぎだな、五分くらい?」
「じゃあ半身吹き飛ぶんですか……」
「さて……冗談はこれくらいにして、さっそく授与式だ!!緑谷出子!前へ!」
ホントに冗談なんですよね……?
「これは受け売りだが……」
「え……?」
「最初から持っているのと、認められ譲渡されたのとでは本質が違う!」
「…………」
「誇っていい、緑谷少女!これは君自身が勝ち取ったチカラだ!」
「…………はい」
オールマイトが、自分の髪の毛を一本プチっと引き抜く。
「さあ!これを食え!」
「ええ……いきなりセクハラですか、師匠……」
「DNAを体内に取り込めれば何でもいいのさ」
「はあ……」
「今日はもう遅い、″個性″については明日詳しく指導しよう!」
「学校休みだしちょうどいいですね」
「受験まで残り1ヶ月、それまでに力をコントロールせねばな!……今日、家のモノ壊すなよ?」
「え、待って不安です……大丈夫ですよね!?」
「……先に軽く説明しておくと、その″個性″を使うときは、ケツの穴をグッと引き締めて心の中でSMASH!と叫ぶんだ」
「セクハラやめてくださいって」
「まあだから、心を穏やかに過ごせば暴発はしないってことさ。じゃあ明日の朝6時、再びここで会おう!」
1ヶ月後 2月26日 実技試験当日
「建物でっか〜!見てかっちゃん!」
「はしゃぐなアホ」
なんかハイテクっぽい門の先に、そびえ立つ雄英校舎が見える。
軽やかな足取りで、会場へと向かった。
「受験生のリスナー諸君、俺のライヴにようこそ!さっそくだが、実技試験の概要をサクッとプレゼン!アユレディ!?
YEAHHHH!!」
「いえー!……あれ?」
誰一人レスポンスせず、私だけ浮いてしまった。
「うるせえ」
「かっちゃん、本物の『プレゼント・マイク』だよ?」
「知るかよ、黙って聞いてろ」
「試験は、10分間の『模擬市街地演習』!!持ち込みは自由だ!」
「会場は各自指定の場所へ向かってくれ!!」
「あれ、会場別だね」
「ったりめえだろ」
「演習会場には、それぞれ1〜3ポイントの3種類の仮装
「もちろん、他人への攻撃や過度な妨害はご法度だ!ヒーローとしてな!!」
「だってよかっちゃん」
「…………」
「……質問よろしいでしょうか!!」
メガネの男の子が手を挙げる。
「プリントには、3種ではなく4種のヴィランが記載されています!これは資料に不備があるということでしょうか!?それと……」
「ついでにそこの君!」
「うぇ!?」
「先程からボソボソと…気が散る!!軽い気持ちで来たのなら、即刻帰りたまえ!!」
「…はーい、気をつけまーす」
「怒られちった」
「それをやめろっつの」
「オーケーオーケー!ナイスなリスナーのナイスなお便り、お答えしよう!!4種目のソイツは0ポイント!言わばお邪魔虫さ!各会場に1体、大暴れのステージギミックってわけよ!逃げた方が身のためだぜ!?」
「ご返答有難う御座います!」
「概要は以上、最後にリスナー諸君へ我が校の『校訓』をプレゼントしよう!」
「かの英雄ナポレオンは言った、『真の英雄とは、人生の不幸を乗り越えていく者』と!!」
「″Plus Ultra″!!更に向こうへ!!健闘を祈る!」
「ここが個別の会場!?広ーい!!」
敷地内に街があるなんて!しかも他にもあるんでしょ!?
とりあえず軽くストレッチをして備える。他の受験生たちを観察していると、先程のメガネの男子を見つけたので、話しかけてみた。
「あ、あの!ええと……さっきはごめんね、お互い頑張ろう!」
「何なんだ急に君は、何か企んでいるのか?」
「いやいや違いますよ、そんなに警戒しなくても……」
「お互い頑張ろう、だって?これは試験だぞ?そんなことを言う奴は怪しむに決まって――」
「ハイスタート!!」
突然、声が響き渡った。一拍遅れて、皆一斉に走り出す。
完全に油断していた。
スタート位置よりだいぶ後ろで待っていたため、集団より遅れている。大丈夫だ、焦らなくていい。よし、まずはみんなが道路に分かれるタイミングで仕掛ける!
私は自然と、この1ヶ月の特訓を思い出していた。
『まず最初は思いっきりだ!!君はまだ、″個性″の使い方を知らない!目覚めさせ、体感するんだ!さあ!この壁に向かって、拳を振り抜き!!叫べ!!』
『はああああああっ!!』
SMAAAASH!!!
『……いああああっ!!ったいたい痛い痛い痛い!!腕がああぁ!!』
『うーん困ったな!!特別に治癒してくれるのは今日だけ。なんとか一度だけでも、100%ではない抑えたチカラを体感して欲しいのだが……何度も治し過ぎると緑谷少女が死んでしまう!!』
『デコピンなら1回で8本分の練習ができます、やりましょう!』
『もう治して貰えないからな、慎重に……!君自身でイメージするんだ……!』
『ふつふつと沸き上がるイメージで、溢れないように少しずつ……』
ボスッ!
『……これ発動してます?』
『……してないね』
『結構コツ掴んできましたよ!でも、この出力のままで良いんですか?』
『ああ、身体が壊れないように余裕を持たせて、まずは″個性″を使うことに慣れるんだ』
『ちなみにこれ何%ぐらいですか?』
『10%ってところだね』
先頭集団が交差点に差し掛かる。深く息を整え、下半身に意識を集中させる。力が湧き上がってくるのを感じて、跳んだ!
彼らの頭上を飛び越え、着地して走り出す。そして、仮想ヴィランが現れた。
「まずは1ポイント!デトロイトォ!」
SMASH!!
真正面から拳を叩き込み、打ち倒す。
大丈夫だ、ワンフォーオールの調整はできている。それに、1Pヴィランは動きが直線的で狙いやすい。
次に現れた2Pヴィランは、4足の胴体に長い頭と尻尾でリーチはそこそこだが、ガシャンガシャンと移動が遅く隙だらけ。尻尾の動きを見切って撃破した。
そして3Pヴィラン、重量級で見るからに硬く、ミサイルらしきものを背負っている。もしかしてあれ、ヒトに向けて撃ってくるの……?
撃ってきた!!
遠くからの発射だったため、難なく躱す。追尾も無く、目で追える速さで少し安心した。2発、3発と躱してそのまま駆け寄り、タイミングを見極めて飛びかかる。この高さなら、すぐには射角が取れないはずだ。縦に1回転してかかと落としを食らわせた。
倒せたが、空中での姿勢制御がまだ甘い……蹴りに使う足に″個性″を使うという意識で精一杯だった。
それから先は合計ポイントを数える余裕がなく、身体の使い方とワンフォーオールの調整に集中する。あらかた倒してから周りを見る余裕が生まれた。
あのメガネの人が、とんでもない速さで移動していた。そのスピードをのせて放つ蹴りで、ロボットを粉砕する。
ひとりの少女の周りに、いくつも仮想ヴィランが浮いていた。少し疲れた様子の彼女が手を合わせると、落下してバラバラになる。
ここらにはもう標的がいない、移動しよう……そう思った時だった。
ガラガラガラ!!!ゴゴゴゴ!!
とてつもない轟音が響く。立ち上がったその巨体は、周りのビルよりもさらに高い。
あれが0ポイントヴィラン!?いくらなんでもデカすぎでしょ!?
蜘蛛の子を散らすように、受験生たちが我先にと逃げていく。
私も行かなきゃ、逃げつつ他の敵を探さないと!合格ラインは見当もつかないし、そもそも今自分が何ポイントか分からん!
――走り出そうとしたその時、後ろから声が聞こえた。
「いったぁ……」
さっきちょっとフラついてた女の子だ。ガレキに足を取られている。
運んで逃げて、間に合うか……!?いや違う!確実なのは……!
両足に力がみなぎるのを感じて、跳んだ――
「はああああああ!!!」
オールマイト!!″ワン・フォー・オール″!!私にチカラを!!
「デトロイトォォオオオ!!」
SMAAAASH!!!