各自コスチュームを受け取り、更衣室へ向かう。
さすがは雄英の外注企業、届いたジャージは着心地バツグンで、手触りで分かる繊維の丈夫さ。ちなみに色は緑、下が暗めで上が明るめ。すね当てを兼ねた高めブーツは、驚くほど軽い。なるべく薄めで頼んだグローブも、しっかりフィットして指の動きを邪魔しない。
「出子ちゃん、ジャージなんだね」
「まあね。お茶子ちゃんは……」
「要望ちゃんと書けばよかったよ、パツパツスーツんなっちゃった……恥ずかしい……」
ボディラインがくっきりと……いや、この大きさが平均値なの……?
他の女子も見てみる。
「……?出子ちゃん?」
「……1人を除いて、レベルが高すぎる……!」
(聞こえてるし……失礼だなアイツ)
「今から君達には、ヴィラン組とヒーロー組に分かれて、2対2の屋内戦闘訓練を行ってもらう!!」
「状況設定はこう!ヴィランがアジトに核兵器を隠していて、ヒーローがそれを処理しようとしている!」
「ヒーロー側は15分以内にヴィランを2人とも捕まえる、または核を回収する!ヴィラン側はヒーロー2人を捕まえるか、時間切れまで核を守る!」
「ヒーローが核に触れた時点で回収成功、今から配るこの確保テープを相手に巻き付けた時点で確保成功となる!!」
「コンビと対戦相手は、それぞれクジ引きで!!」
オールマイトが持つ箱から、みんな順番に引いていく。私とペアを組むのは……
「お茶子ちゃん、ヨロシク!」
「うん、頑張ろうね!」
さて、問題は対戦相手。室内での戦闘は逃げ場が少ないため、個性によっては完封されかねない。
オールマイトが別の箱を2つ持ってくる。
「さあ、最初の対戦相手はこの2組!!」
「Aコンビがヒーロー、Dコンビがヴィランだ!!」
Aコンビは私達、Dコンビは……
「かっちゃんと、飯田くん……!」
「手ごわいね……」
「ヴィランチームは先にビルへ入ってセッティング、それから5分後にヒーローチームが突入開始!!他の生徒は、私と共に地下のモニター室へ!!」
かっちゃんが私達に近づいてくる。目がギラついてて、ちょっと怖い。
「あー、かっちゃん……ええと、授業だしほどほどにね……?」
「……デコ、テメェに″個性″があろうがなかろうが関係ねえ、ブッ潰す……!」
「聞いちゃいないや」
かっちゃんが立ち去って、お茶子ちゃんがこっちを向く。
「出子ちゃん、爆豪くんと知り合い?」
「あー、うん、幼馴染。幼稚園からの」
「『デコ』って呼ばれてたね」
「出子をそのまま読んでデコ、単純だよね」
「……そのあだ名、おでこのソレと関係ある……?あ、訊かれたくなかったらごめん……」
「ううん、全然。この火傷はちっちゃい時にストーブに触れちゃって……前髪寄せてるのは私の好み。チャームポイント的な?」
「……じ、じゃあ私も……『デコちゃん』て呼んでいい?」
「もちろん良いよ!……それなら私は……そうだな……チャコちゃん?」
「うーん……?」
「冗談」
「かっちゃんの″個性″は″爆破″。手のひらから爆破ができて、移動にも攻撃にも使える。飯田くんは足がめちゃくちゃ速い。つまり2人とも、機動力があって正面からの戦闘は文句なしに強い。だからなんとかして2対1の状況を作りたい」
ここで考えるのは相手の出方……かっちゃんはああ見えて冷静だから、自分より速い飯田くんを偵察に出す可能性が高い。触られたら即負けの核をフリーにしないだろうし、かといって開始からずっと2人で待ち続けるのは、精神的にも後手に回るから嫌うはず。お互い無線で連絡が取れるし、機動力ですぐに合流できてリスクも低い。
偵察に来た方と2対1をしようとしても、ヒットアンドアウェイで時間を稼がれるか、撤退される。時間が減れば、あとは待つだけ。実際そうなったら勝ち目は薄い……。
つまり、私達が取るべき作戦は、『奇襲』!!一気に懐へ潜り込む!そのための侵入ルートは……
見取り図にある大きな部屋……窓の多いこの部屋が、おそらく核の置き場所。ヴィランチームはセッティングの時間内なら、好きな場所に核を移動できる。狭い部屋や通路に隠すよりも、視認しやすくて機動力を活かせる大部屋で間違いないだろう。私達が部屋に入ろうとすればすぐに気付けるし、偵察と合わせて対応力はバッチリと思うはずだ。
しかし逆に言えば、核を探す手間はほとんどかからない。階層を特定するだけだ。
開始直後、ビルには入らずに北側へ回る。
「デコちゃん、はいタッチ」
「はいタッチ」
身体がフワフワと浮き上がる。外壁の出っ張りや排水管を掴みながら、ゆっくり静かに登っていく。お茶子ちゃんの個性のおかげで、僅かな力でスイスイ動ける。上へ進みながら、間取りの1番大きい部屋を窓から覗く。
2階、3階、4階……ターゲットは見当たらない。そして5階、中から見つからないように慎重に覗く……あった!!
核兵器を模したそこそこデカイ物体と、すぐ近くにかっちゃん……飯田くんはいない、予想通りだ。
下で待つお茶子ちゃんに、手を振って合図する。お茶子ちゃんは、自分自身を浮かすのは苦手ですぐに酔ってしまうらしいが、少しならなんとか耐えられると言っていた。
軽く助走をつけたお茶子ちゃんが、重力を無視して真っ直ぐ跳んでくる。私は窓枠の上辺を両手で掴み、浮いたまま待機。数秒後、手を伸ばすお茶子ちゃんが私を掴み、さらに近づき手を回して私に抱きつく。
「解除……!」
2人分の体重が戻り、振り子の要領で窓を蹴り破る。
ガシャーン!!
かっちゃんがこちらに振り向くのが見えた。
「――ッソメガネ!!!戻って来い!!!」
短期決戦、合流される前に決める!!
手はず通りに私は左、お茶子ちゃんは右に展開する。さあ、どう出てくるか……
BOM!
突然かっちゃんが、お茶子ちゃんの方へ飛びかかる。
「なっ……!!」
「ひぃっ!!」
核の近くで迎撃、が安定だと油断していた。しかもそっちを狙うとは……!!
″ワン・フォー・オール″、10%……!!向きを変えて駆け出す――
BOM!
「きゃあっ!!」
追い付いた……!!
「お茶子ちゃんに何すんだバカぁ!!」
「バカはテメェだ!!」
BOOM!!!
間合いの少し外、大きな爆風で吹き飛ばされる。完全に待たれていた。
「ちょちょちょ!?」
「オラァ!!」
倒れていたお茶子ちゃんがこっちに投げ飛ばされる。個性で受け身を取ったらしく、すぐに起き上がった。
「いたた……」
また距離が空いた……次はどうする……?
ガタン!!
そのとき、入り口のドアが勢いよく開く。来るの早すぎでしょ飯田くん……
「奇襲とはやってくれたな!!だが、核は渡さんぞヒーロー共!!」
「遅えぞクソメガネ!!」
「……私はかっちゃんを相手する」
「……わかった!」
再び左右に分かれて、1対1になるように誘導する。
「存分に痛めつけてやるよデコォ!!」
かっちゃんが真っ直ぐ飛びかかってくる。私は右手に意識を込める、
しかし、目の前で爆破されタイミングをずらされる。何も見えない――上――後ろ!!
ギリギリで伏せてなんとか避けるが、追撃で蹴り飛ばされる。
「その程度かぁ!?テメェの″個性″はよォ!!」
また来る!受け身を取って今度は足に集中、こっちも飛び出す!
踏み込む瞬間、かっちゃんが少し驚いたように見えた。このパワーならガードしきれないはず!!右足を振り抜く――
BOM!!
「ッッああっ……!!」
痛い、痛い……!爆破で相殺された……!
ブーツはボロボロだが足はついてる、よかった……。しかし、とてもじゃないが立ち上がれない。
かっちゃんが、潰れた左の籠手を外しながら私に近づく。
「てめぇのせいで壊れたじゃねえか」
「私の心配してよ……」
「どーせあのチビババアが治すだろ」
確保テープでぐるぐる巻きにされる。
「ムリやってこんなん!ちょちょ……うっぷ……」
吐き気に耐えて、飯田くん相手に善戦していたお茶子ちゃんだったが、2人がかりであっさり捕まった。
『ヴィランチーム、WIN!!』
私は担架に乗せられて、ロボットたちに保健室まで運ばれていった。
放課後、何人か教室に残り、訓練の話題で盛り上がった。
「緑谷、麗日!お前らよくやったよ!」
「相手が悪かったよな、爆豪が強え」
「女の子2人にも容赦ないもんねー!」
「かっちゃんは昔からあんな感じだよ」
「知り合いなのね」
「そういえばかっちゃんは……?」
「先に帰ってたよ」
「私を保健室送りにしておいて……」
スマホを開いてみる。
『話がある 玄関に来い』
「……話って?」
「……テメェの″個性″、実戦で使い慣れてねえだろ。力む部位で次の動きがバレバレだ。″個性″で少しパワーとスピードが上がってもあれじゃ意味ねえ」
「なんだ、アドバイスか」
「……まともに使えるようになってから再戦だ雑魚」
「……とりあえずかっちゃんの勝ちでいいじゃん」
「よくねえよ!」
「ひゃあ!?」
「意味ねぇんだよ!まともに扱えてねえヤツに勝っても!」
「わかったわかった……」
話があるというから、また私の個性について聞かれると思ったけど……少し違ったようだ。
次の日もいろいろあった。委員長を決めたり、雄英に侵入者騒動があったり、飯田くんが非常口になったり、飯田くんが委員長になったり。
侵入者に関しては、犯人は分からなかったらしい。私は現場を見てないからよくわからないけど……そんなに気にしなくても大丈夫じゃないかな……。
さらに次の日……
「今日のヒーロー基礎学は、俺とオールマイト、そしてもう一人の3人体制でみることになった」
「今回は、
相澤先生に連れられて、バスに乗り込む。道中、みんなの″個性″の話になった。
「プロとして人気を得るには、やっぱ″個性″の見栄えは大事だよなー。派手で強い轟や爆豪とかさ」
「爆豪ちゃんは感じ悪いし人気でなさそ」
「んだとコラ!出すわ!!」
「女だろうと構わず爆破、クソ鬼畜系ヒーロー爆豪!!」
「殺すぞ……!!」
「かっちゃんがイジられてるの、なんか新鮮で面白いね」
「馬鹿にしてんのかデコ!!」
「ひゃあ!?」
「車内で立ち上がるな爆豪くん!!離したまえ!!」
「もう着くぞ、いい加減にしとけよ……」
待っていたのは、スペースヒーロー『13号』。オールマイトは遅れて来るらしい。
「授業を始める前に、僕からいくつか……」
「僕の″個性″は、″ブラックホール″。どんなものでも吸い込んでチリにしてしまいます」
「これは、簡単に人を殺せる力です。皆さんの中にも、そういう″個性″がいるでしょう」
「…………」
「…………」
「超人社会は、″個性″の使用を厳しく制限することで、一見成り立っているようには見えます。しかし、一歩間違えれば容易に人を殺せる″個性″を、個々が持っていることを忘れないで下さい」
「この授業では、人命救助の為にどうやって″個性″を活用するか学びます。君たちの力は、人を傷つける為にあるのではない、救けるためにあるのだと心得て帰って下さいな」
救けるために……このチカラで……
身が引き締まる思いで、私は拳を握った。
「――っ
突然、広場に黒い霧が広がり、中から続々と人が現れる。
「相澤先生、何がなんだか……」
「動くな!!あれは
「なんだよ……オールマイトいないのかよ……」
「子どもを殺せば来るのかな……?」