「はあああッ!!!」
脳無と呼ばれていたこのヴィラン……私よりもはるかに速いが、そのぶん単調な動きだ。何度もは絶対無理だが、初撃なら躱せる……。先程と同じモーションで伸びてくる腕を見切り、拳を叩き込む……!
SMAAASH!!!
巨体が吹き飛び、辺りに土煙が舞う。
……痛い!!……やらかした、完璧折れてる。さっきは上手く調整できたのに……!
「……イレイザーヘッド……なんでその負傷で動ける……せっかくの『ショック吸収』が台無しだ……」
ショック吸収……最初の攻撃が効かなかったのは、やはり脳無とやらの″個性″か……
「ほんとカッコいいぜ……生徒のためってヤツか……?」
「っ先生!逃げましょう!」
相澤先生はフラフラで今にも倒れそうだ。私が背負っていくしかない!
「ちょっと我慢してください!」
私も右腕が折れてる、なんとか左手だけで乱暴に先生を抱えて背負う。……痛い、左の中指も折れてるんだった……
手のヴィラン一人なら逃げ切れる、ワン・フォー・オール10%!!
「――死柄木 弔、ご報告が……」
「……黒霧、アイツらを囲め」
「なっ……!?」
跳んだ先に黒いモヤモヤがあちこちに出現したと思ったら、一瞬で大勢に囲まれた……!
「先生、あのモヤ消せますか!?」
「…………」
返事がない、きっともう意識が……背負ったまま10%の跳躍じゃ抜け出せない、一か八か――
バタン!!
施設の出入口の扉が勢いよく開く。
「もう大丈夫 私が来た」
オールマイト!!助かった……!
まわりを囲むヴィランが次々に倒れていく。速すぎて見えない……
――気がつくと、オールマイトに抱えられていた。
「緑谷少女、相澤くんを連れて入口へ……」
「オールマイト……」
笑っていない……その表情から、激しい怒りが伝わってくる。
「脳無!!来い!!」
脳無を呼んだ!?ぶっ飛ばしたのに、まだ動けるのかアイツ……!だとするとまずい……
「オールマイト!脳無とかいうヤツ、衝撃を吸収する″個性″です!黒い巨体で素早くて力も強い、きっとオールマイト対策で……まともに戦ったら――」
「緑谷少女……」
オールマイトは私に向かって、ニッコリと笑う。
「教えてくれてありがとう…だが大丈夫だ!!」
「…………」
「……君も重傷だ……私に任せて、見ていてくれ」
「……はい」
ズキズキとした痛みとともに、私は遠くから見ていることしかできなかった。
「ダメだ三人とも、下がっていなさい!」
「……さっきのは俺がサポート入らなきゃやばかったでしょう」
「それはそれだ轟少年!!ありがとな!!」
轟少年、爆豪少年、切島少年……もちろん彼らだけではない、皆優秀なヒーローの卵たちだ。しかし……
「しかし大丈夫!!プロの本気を見ていなさい!!」
だからこそ!!私がやらねばならんのだ!!何故なら私は――
――平和の象徴なのだから!!
矢継ぎ早に拳を撃ち込む。
「″無効″ではなく″吸収″ならば、限度があるんじゃないか!?私の100%を耐えるなら!!さらに上からねじふせよう!!」
活動限界ギリギリで、これだけ無茶するのは初めてだな……
『私、あなたに憧れて、ヒーローを目指してて……』
「ヒーローとは!常にピンチをぶち壊していくもの!!」
「ヴィランよ、こんな言葉を知ってるか!?」
Plus Ultra!!!
天井を突き破り、ヴィランが彼方へ飛んでいく。
「やはり衰えた、全盛期なら5発も撃てば充分だったろうに……300発以上も撃ってしまった」
「……衰えた?どこがだよ、クソチートがぁ……!
「どうした?来ないなら、こちらから行くぞ!!」
残りは二人、なんとかして体を動かせ……!
…ゆっくりと歩き出す。
「……来るぞ……!クソ、脳無さえいれば……!」
「死柄木、落ち着いて下さい……よく見ればダメージは確実に表れている。歩き方も不自然だ、二人で連携すればまだチャンスが……」
「……うん……そうだ……そうだな……やるか……」
「幸い、子どもたちは動けない様子――」
「――誰が動けねえだって?」
ピン!
BOOOOM!!!
「脳みそヤローさえいなけりゃ、テメェらクソザコに負けるかよ!!!」
爆豪少年……!
とてつもない規模の爆発が、ヴィラン二人を吹き飛ばす。
「……なんてガキだ……!」
「死柄木……残念ですが、時間が……」
「……ああ、今回はゲームオーバーだ……」
「今度は殺すぞ……平和の象徴、オールマイト……!」
「全く、師弟そろって無茶をするねえ……」
「私の活動時間、どのくらい残っているかな……一時間くらいはまだ欲しいが……」
「オールマイト……」
「仕方ないさ!こういうこともある!」
「……カッコよかったですよ」
「失礼します……オールマイト、久しぶり!」
「塚内くん!」
……どちら様?
「彼は最も仲良しの警察、塚内直正くんさ!」
「警察の方ですか、なるほど」
この姿のオールマイトを知っているらしい。
「早速で悪いがオールマイト、ヴィランについて詳しく……」
「待ってくれ、生徒は無事か?イレイザーヘッドと13号は?」
「……生徒はそこの彼女をのぞいて数名が軽症、教師二人はとりあえず命に別状はない」
相澤先生……
「犠牲が出なかったのは、三人のヒーローが身を挺してくれたおかげさ」
「……ひとつ違うぜ塚内くん」
「生徒らもまた戦い、身を挺した!!実戦を経験したこのクラスは、きっと強いヒーローになるぞ!!」
「その、脳無ってヤツ……やたら頑丈で……それに、感情が読めないっていうか……ぶん殴ったのにこっちを見なかったんです。めちゃくちゃ動きが速いのに、真っ直ぐ単調な攻撃で……主犯のシガラキ?の命令に従ってる感じでした」
その場で塚内さんに事情聴取を受けた。一人で飛び出したところと腕を折ったところを話すと、リカバリーガールに小言を言われたけど……
翌日は臨時休校、さらに翌日……
「お早う」
「相澤先生!!」
「復帰早ええ!!プロすぎる!!」
「俺の安否はともかく、話さなきゃいけないことがある」
「……雄英体育祭が迫ってる!!」
「クソ学校っぽいの来たぁぁ!!」
「ヴィランに侵入されたばっかなのに大丈夫なんですか!?」
「警備は例年の五倍に強化するらしいから安心しろ……何より雄英の体育祭は……最大のチャンスだ、中止ってワケにもいかない」
「全国のヒーローが注目するビッグイベント!プロに見込まれればその場で将来が
「時間は有限、プロからのスカウトを懸けた……年一回のチャンスだ!」
「
「……え!?」
廊下に行くと、捕縛布で縛り上げられる。
「なんで私だけ……」
「……お前があのとき飛び出したからだ」
「でも他にも……かっちゃんと……轟くん、切島くんも後から来てましたよ!」
「単身で飛び出したのはお前だけ……加えて、生徒で重傷もお前だけだ。しかもヴィランの攻撃ではなく自分自身の″個性″で負傷している」
「うっ……」
「敵の力量を見誤った、お前が死んでいないのは運が良かっただけだ」
「……はい」
「緑谷、次に勝手な行動したら罰則だ……いいな?」
「はい」
「……先生」
「……どうした」
「……無事でよかったです」
「……授業始まるぞ」
昼休み
「やっぱテンション上がるなあ!!」
「プロへの近道だ、ワクワクするぜ!」
「みんなノリノリだね……」
「緑谷くん、君は違うのかい?ヒーローになる為在籍しているのだから、燃えるのは当然だろう!?」
「そりゃあそうだけど……」
体育祭は当然見たことある、でもあれは……
「デコちゃん、飯田くん……頑張ろうね体育祭……!!」
「お茶子ちゃん、顔がやばいよ」
そういえば、お茶子ちゃんはどうしてヒーローを……?
「究極的に言えば、お金」
「なんか意外だね」
「恥ずかしい……飯田くんとか、家業を継ぐっていう立派な動機なのに……」
「生活の為の目標、立派じゃないか!」
「とにかく、私はヒーローになってお金稼いで、父ちゃん母ちゃんに楽させたげるんだ」
ヒーローを目指す理由、か……
「――緑谷少女がいた!!……ごはん、一緒しないかい?」
「……?はい」
「デコちゃん、相澤先生に続いてオールマイトまで……モテモテ?」
「麗日くん、それは流石に違うだろう……。彼女の個性はオールマイトに似ているし、気に入られているのかもな」
「…………」
「活動限界が一時間前後!?」
「ああ、無茶しすぎたよ……まあいいんだ、それより体育祭だ」
「あと二週間、それだけあればかなり仕上がりそうです。全身常時発動と出力の調整、どっちを優先するべきですかね?」
「10%でも全身で使いこなせば見違える動きができる、オススメは前者だ。それに調整ができたと思っても、動きながらだと上手くいかない可能性もある。というか君、腕折ったばっかりだろ」
「ともかく練習方針より、話したいことがあって呼んだんだ」
「……なんでしょう?」
「活動時間のこともあって、私が平和の象徴として立っていられる時間は……実はそんなに長くない」
「……はい……」
「ヴィランの中に、それに気付き始めている者がいる」
「君に″力″を授けたのは、″私″を継いで欲しいからだ!」
「全国の注目を集める体育祭!その舞台で」
「君が来た!ってことを、世の中に知らしめて欲しい!」
「ええと、その……継いで欲しいという言葉、すごく嬉しいです……でもなんていうか……」
「みんなそれぞれ本気でヒーローを目指してる……体育祭で成功を収めるのは、ごく一部の人だけで……」
「緑谷少女……みんな本気だから、さ」
「みんな本気だから、本気で競い合う。常にトップを狙う者と、そうでない者……そのわずかな気持ちの差は、社会に出てから大きく響くぞ」
二週間はあっという間に過ぎ、体育祭当日。A組控室で待っていると……
「……轟くん?どうしたの?」
「緑谷、お前オールマイトに目ぇかけられてるよな……そこ詮索するつもりはねえが……お前には勝つぞ」
「私!?えーと、うん。わかった」
「緑谷、なんだよその返事!」
「轟くん、直球だねえ!」
「…………」
「でも私だって、負ける気はないから」
体育祭前日 夕方
『何だデコ』
『いい機会だと思ったから……かっちゃん、ちょっと見てて!』
ワン・フォー・オール、10%!全身に意識を行き渡らせる。
『ほっ!』
『はあっ!』
軽く飛んだり跳ねたり、素振りしたり……
『どうかな?』
『マシにはなったな』
『体育祭、ガチで殺るぞ』
『それはダメだよ……』
『俺が勝ったら、てめぇの″個性″について教えろ』
『なっ……!?』
『″個性″について……知らない、分からないじゃなくて
『…………じゃあ私が勝ったら?』
『二度と聞かねえ』
『……わかった、約束する』