ひぐらしのなく頃に圭梨   作:山屋

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第11話:ほろ苦いデート

 

 圭一と魅音のデートの日だ。

 二人共、デートと公言している訳ではないが、年頃の男女が二人っきりで喫茶店に行くのだからこれはもうデートだろう。

 それを尾行する私と沙都子とレナはさながらお邪魔虫と言った所かもしれないが。

 圭一たちがどこに行くのか、とりあえずバレない様に追いかけてみる。興宮まで出るのは当然として、そこからどこに行くのか。

 そして、私は卒倒しそうになった。

 

「エンジェルモート……? デートで行くお店じゃないでしょう……」

 

 思わず素が出てしまった。エンジェルモートは詩音がバイトしている事もあり、普段から部活メンバーが利用する喫茶店であるが、この状況で行くお店なのだろうか。もっと、お洒落な喫茶店とか。こう言うとエンジェルモートがお洒落じゃないみたいね。

 ただ、圭一が打ってつけのお洒落な喫茶店などを知っているかと訊かれれば怪しい所であるのも確かだ。圭一なりに考えた無難な選択肢という事だろうか。

 中に入って行った圭一たちに続き私たちも中に入る。圭一たちの様子がうかがえつつ、少し離れた席に座り、いつもならパフェなりを頼む所だが、今回は監視が目的なのでオレンジジュースやアイスティーを頼む。コーヒーは苦くてまだ飲めない。カフェオレならなんとか……。

 

「あー、魅音」

 

 圭一は魅音と対面する位置に座っていたが、入店から会話がなく気まずい雰囲気が漂っていた所だった。そこで圭一が口を開く。

 

「動きましたわ」

 

 沙都子が言う。さて、圭一はどう会話を切り出すのか。

 

「高校受験の勉強の事なんだけどさ」

 

 そして、またズッコケそうになる。受験勉強の話? この状況で? そりゃあ、今の魅音の置かれた状況を思えば有り得ない事はないものの、二人っきりで喫茶店に来て話す話でもないだろうと思う。

 

「あ、うん。ごめんね、圭ちゃん。私、馬鹿で……」

「いや、魅音は馬鹿って事はないんだけど……これまで勉強をサボって来たツケが大分回ってきているとは思うんだ」

「そうだよね……」

 

 なんだか、デートのはずなのに別れ話を切り出しているカップルのような微妙な雰囲気である。魅音の受験勉強の進捗具合はそんなに深刻なのだろうか。

 

「俺も、多少勉強が出来るって言っても魅音と同じ中学生に過ぎない訳だしさ。魅音のためにもここは園崎の方で家庭教師なりを雇ってもらうのがいいんじゃないかって思うんだけど……」

 

 その言葉に魅音がビクリと体を震わせる。あー、圭一。その話はデートでする話ではない、とダメ出しする。

 

「女心が分かっていないね、圭一くん……」

 

 呆れたようにレナが言う。圭一に女心なんてものが分かるとは思ってもいなかったが、そこはあの昭和58年の6月を乗り越えた時のような洞察力の鋭さを見せて欲しかった場面だ。

 

「そ、そうだよね……このまま続けても圭ちゃんに迷惑をかけるだけだし……」

「いや、俺の方は迷惑なんて事はないんだけどな……。魅音のためを思えばこそ、本業の家庭教師さんに教えてもらった方がいいと思ってな……」

 

 微妙な雰囲気のまま会話が続く。圭一、これではレナがせっかく貴方と魅音のデートをセッティングした意味もない。

 のだが、圭一の言う事が全く理に適っていないという訳でもない。本気で高校受験への勉強を目指すのなら多少勉強が出来る程度の友達に勉強を見てもらうよりは専門家の家庭教師を雇った方が遥かにいいだろう。

 

「……圭ちゃん」

 

 そう思っていると意を決したように魅音が切り出す。場の雰囲気が張り詰めて来て、それを見張る私たちにも緊張が走る。

 

「私は圭ちゃんの事が好き」

 

 それは唐突な魅音の告白だった。え、と私は間抜けな顔をしてしまう。

 

「そ、そうなのか……」

 

 困惑しつつも圭一は驚いた表情だ。本当に女心に疎い奴だ。あの戦いで見せた鋭さはどこへ行ってしまったのか。

 

「圭ちゃんは私の事をどう思っているの?」

 

 魅音が訊ねる。大胆不敵、傲岸不遜、に見えて女の子らしい弱さを持っている魅音の事だ。この問い掛けも必死の思いで発したものだろう。圭一は悩んだ末に、

 

「ごめん。俺は魅音の事は友達としては好きだけど……恋愛感情を抱いているかと訊かれれば……」

 

 告白を拒否した。それに魅音は見るからに沈み込んだ様子を見せるが、それも一瞬、すぐに笑顔に戻る。

 

「そっか。あっはっは……おじさん、振られちゃったかぁ……」

「すまん。魅音。気持ちは本当にありがたいと思う。けど、俺はまだ……」

「いいよ、圭ちゃん。圭ちゃんにそういう気持ちがない事は薄々察せれていたから」

 

 申し訳なさそうに詫びる圭一に魅音は気にしないように笑う。かなり無理をしているだろうというのは見て取れた。圭一も流石にそれは感じ取れている様子であった。

 

「圭一さん、酷いですわね」

 

 呆れているようで憤慨しているようで沙都子がそう告げる。確かに酷い男なのだろう。魅音、渾身の告白は玉砕して終わってしまったという訳だ。

 

「圭ちゃんは……梨花ちゃんの事を見てあげるといいと思うよ」

 

 魅音が次に発した言葉に今度はこちらが声を失う番であった。え? 私? どうしてそこから私に話が飛ぶの?

 それは圭一も思ったようだ。

 

「どうして梨花ちゃんの名前が……?」

「あの鷹野さんたちとの戦いの時も圭ちゃんは梨花ちゃんの事を第一に考えて、見てあげていた。それくらいはおじさんでも分かるよ。その気持ちを大事にして欲しいな、って思って」

「魅音……」

 

 レナと沙都子の視線が私に向いているのを感じる。

 いずれはこういう瞬間が来る事をある程度は覚悟していた。圭一と魅音の仲を周りが盛り立てて、二人は付き合っているように村の中でも言われるくらいになっている中で、私が、私の望みを達成するためには言葉は悪いが略奪愛のような形になってしまうだろうという事は覚悟していた。

 レナだけではなく、魅音の洞察力にも恐れ入るという所だ。やはり彼女もガサツで男勝りに見えて、繊細な女の子なんだ。私はこの百年でそれを知っているはずではないか。

 

「帰ろうか。もう充分だよね」

 

 レナがそう言い、席を立つ。異論はなかった。この後、圭一と魅音がどういう話をしたのかは知らないが、決して楽しい時間ではなかっただろうと思う。でも、それは魅音にとっては吹っ切るために必要な事だったのかもしれない。

 後日、魅音の勉強は圭一ではなく、園崎が雇った家庭教師が見る事に決まったと報告があった。確かにそちらの方が合理的ではあるのだが。

 

「みぃ、魅ぃはそれでいいのですか?」

 

 学校で私は思わず魅音にそう訊ねてしまう。本当に圭一でなくていいのか。魅音からすれば本音は圭一に教えて貰いたい所だろう。もし、それで志望校に落ちたとしても魅音は圭一を恨む事などはしない。

 

「あっはっは、おじさんは馬鹿だからね。いつまでも圭ちゃんに迷惑はかけられないよ」

 

 気楽そうに魅音は笑うが、その内心で複雑な感情を抱いている事は分かっていた。

 

「魅ぃは……」

「梨花ちゃん」

 

 そんな私を諭すように魅音はやさしく微笑んだ。

 

「圭ちゃんには梨花ちゃんがお似合いだと思うんだ」

「み、みぃ!? いきなり何を言うのです!?」

「ごめんごめん。でも、なんとなく分かるんだ。梨花ちゃんの事を分かってあげられるのは圭ちゃんだけだって。なんとなくだけどね」

 

 魅音は私が百年の時を繰り返して来た事も、圭一がかつての世界の事を思い出している事も知らない。それでもそこまで察したというのか。レナに負けず劣らずの洞察力だ。

 

「まぁ、圭ちゃんはあの通り、唐変木だから梨花ちゃんの気持ちも伝わりにくいとは思うけど、頑張りなよ」

 

 私に笑みを見せて、魅音は去って行った。圭一を譲ってくれた、という事なのだろうか。

 ああ、もう私も恋愛沙汰については素人だ。繰り返す昭和58年の6月でそんなスキルが必要な場面などなかった。

 

「ボクは……」

 

 私は自分の気持ちについて悩むのであった。

 

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