ひぐらしのなく頃に圭梨   作:山屋

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第14話:雛見沢村長・公由喜一郎

 

 まずは味方に付けやすそうな方から当たろうという事で喜一郎に話を持ち掛ける事にした。

 私が話があると言うと喜一郎はすぐに時間を作ってくれた。

 雛見沢村の村長を務める公由喜一郎は両親のいない私の身元を預かっている事になっている立場の身である。本来なら私は喜一郎の家に住むのが妥当な所なのだろうが、彼の沙都子に対する複雑な感情もあり、沙都子を守るためにも私と沙都子はボロ小屋で二人暮らしをしている。

 この辺りの関係もダム戦争が切っ掛けで複雑に入り組んでしまった所だ。加えて喜一郎は沙都子が入江の研究の被検体になる事で少なくないお金を私と沙都子が貰っている事すらも知らない。

 鷹野や山狗たちは雛見沢から去ったが、入江の研究が終わった訳ではない。雛見沢症候群の特効薬が作れるまで彼の研究は続くだろう。

 

「村長さんとあまり面と向かって話した事ないんだよな。緊張するな」

 

 圭一がそんな事を漏らす。確かに。これまで繰り返して来た世界の中で圭一は喜一郎とはあまり縁を持った事はなかった。

 

「公由のお爺ちゃんは優しいから大丈夫だよ、圭ちゃん」

「そうだね。レナもあんまりお話した事はないけれど、大丈夫だと思うよ」

 

 そんな圭一を魅音とレナが後押しする。あ、出遅れたかも。ともあれ、喜一郎と会って話をするのは私と圭一、そして、レナと魅音だ。

 喜一郎の家を訪れて、居間に通され、お茶が出され待っていると喜一郎が姿を見せた。

 

「やあ、梨花ちゃん。魅音ちゃん。それにレナちゃんと圭一くん。私に用とは何かね?」

 

 好々爺らしい人のよい笑みを浮かべて喜一郎があぐらをかく。こちらは頼み込む立場なので全員正座だ。

 

「喜一郎。相談があるのです」

 

 まずは喜一郎が一番、心を許しているであろう私から切り出す。

 

「何だい? 魅音ちゃんと圭一くんの式の日程かな?」

 

 冗談めかしてそう言い、喜一郎は笑う。……そういえば、圭一と魅音の二人の仲を祝う宴会に喜一郎も参加していたわね……。その誤解から解かないといけないのか。

 

「もう。公由のお爺ちゃん。私と圭ちゃんはそういう仲じゃないって」

「おや、そうなのかい」

 

 喜一郎がどこまで本気で言っているのか判断に困るが、とりあえず本題を切り出さなければならない。私が言おうかと思ったのだが、圭一に目で制されてしまった。俺が話す、と圭一の目が語っていた。

 

「村長さん。これまでちゃんとした挨拶の機会がありませんでしたが、前原圭一です」

「ああ。そうだね。村長の公由喜一郎だ」

 

 圭一の挨拶に喜一郎は鷹揚に笑って返す。あまり真剣な話をしに来たとは思っていないのだろう。そこに釘を刺すように圭一は次の句を紡ぐ。

 

「今日は少し真面目な話があって来ました」

「ほう……真面目な話とは……」

 

 茶化していい場面ではないと圭一の様子から察したのだろう。喜一郎も少し表情を引き締める。

 

「はい。端的に言います。魅音のお婆さん……お魎さんを説得するのに協力して欲しいんです」

「お魎さんを? それに説得とは……穏やかじゃないね」

「はい。俺たちはこの村の中での北条家の立場を何とか変えたいと思っているんです」

 

 北条家。そのキーワードに喜一郎がピクリ、と表情筋を動かして反応する。表立って北条家を、沙都子を敵視する事はない喜一郎であるが、やはりダム戦争時のしこりは残っている。歳を重ねた者ならなおさらだ。

 

「北条家の立場を変える……とは」

「言葉通りの意味です。ダム戦争で北条家は確かにダム誘致推進派の立場に付き、村長さんたちと……言葉は悪いですが、敵対する立場にありました。ですが、それも、もう過去の事です。もう村としても北条家を許してくれてもいいんじゃないでしょうか?」

「うーむ……」

 

 眉根を寄せて喜一郎は考え込む。すぐに二つ返事で頷く訳にはいかない申し出であろう。それを察して私も圭一の援護をする事にする。

 

「喜一郎。ボクからもお願いするのです。北条家を、沙都子と悟史を村の当たり前の住人として認めて欲しいのです」

「私からもお願いするよお爺ちゃん。もういい加減、いいんじゃないかな。それをばっちゃにも進言して欲しいんだ」

 

 私だけでなく魅音も圭一の援護をし、言葉を発する。これを聞いた喜一郎は黙して考え込む。その末に、

 

「……確かに私も、もう北条家は許してしまってもいいのではとは思っている」

 

 その言葉を発した。

 

「本当ですか!」

 

 圭一が思わず立ち上がりかねない勢いで喜びを露わにする。それを制するように喜一郎は落ち着いた声をかける。

 

「だが、私にも立場というものがあってね。村の老人たちは北条家を未だに敵視している者が多いのも……君たちもそれは理解しているだろうが、事実だ。表立って北条家を許そうなどとは言えないでいたのだよ」

「過去形、という事は、今は言ってくれるのですか……?」

 

 私の言葉に喜一郎は頷いた。

 

「ああ。私も何か切っ掛けが欲しかったんだ。この老い先短い身、村の全ての子供たちが笑って過ごせるようにするのも村長の義務だろう。そのために北条家を、沙都子ちゃんを許してあげようと呼びかけるのもやぶさかではない」

「お爺ちゃん……それはばっちゃにも言ってくれるって事だよね?」

「勿論だ。……だが、難しい事だと思うよ、お魎さんにも北条家を許させるというのは。私が進言した所でどれほど効果があるものか……正直疑わしい」

「相当、頑固な人なんですね。お魎さんは」

 

 喜一郎の苦渋に満ちた顔に圭一が思わず漏らす。立場に捕らえられているのは喜一郎以上にお魎の方が上だろう。加えて村への郷土愛やオヤシロ様の信仰も喜一郎以上の所がある。やはり説得するのは難しい事だと言えた。

 しかし、喜一郎の協力は取り付けた。その時が来れば自分もお魎に北条家を許すように進言すると約束し、喜一郎の家から帰る。

 次は茜……魅音と詩音の母親か。こちらは喜一郎程、気安く会える相手ではない。とりあえず魅音に相談を持ち掛けてみる。

 

「お母さんなら時間を作ってくれると思うよ。でも、お母さんも甘い相手じゃないよ。ばっちゃ程じゃないけれどね。圭ちゃん、それは肝に刻んでおいてね」

「あ、ああ……前、会った時は良い人そうだったんだけどな」

 

 以前の宴会の時の事を話しているのだろう。だが、魅音の言う通り、茜も一筋縄ではいかない極道の女だ。

 簡単には味方になってくれないだろうが、今は面目上、園崎家を追放されている身とはいえ、園崎家内に対する影響力は確かなものがある。それを味方につける事が出来れば充分頼もしい事だった。

 

「とりあえず詩音に話を持ち掛けて、葛西からお母さんに連絡を取ってもらうように頼むよ。詩音も沙都子のためだし、協力を惜しまないと思うよ」

「頼むぜ、魅音」

「お願いするのです、魅ぃ」

 

 詩音が沙都子や悟史のために協力を惜しまないのは間違いないだろう。そして、詩音がこちら側に付けば葛西もこちら側に付け易くなる。

 詩音がいつもボディーガードや運転手代わりにこき使っているから実感は湧きにくいが葛西も園崎の中ではかなりの立場にいる身だ。そこから茜へのホットラインも繋がっているだろう。

 

「詩ぃならば沙都子と悟史のために、きっと協力してくれると思うのです」

「うん、きっとそうだね」

 

 私の言葉にレナが同意を示す。時にはその想いが暴走して惨劇を招く事もあった詩音であるが北条兄妹に対する想いはそれだけ本物だと言う事だ。

 敵に回すと恐ろしいが味方にすればこれほど頼もしい者もいない。将を射んとする者はまず馬を射よ。茜に協力をもちかける前に、まずは詩音、そして葛西に協力をもちかけるのは順序としては間違ってはいないだろう。

 

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