皆殺し編で圭一が起こした奇跡や活躍や、その勇姿を綺麗さっぱり忘れてしまったのは大きすぎましたね。
そのまま公式は梨花は赤坂とのカップリングを推奨していく訳ですが。
葛西は上手く手回ししてくれたようだ。魅音と詩音の母、園崎茜と話をする機会を早々にセッティングしてくれた。
私も一応は雛見沢御三家の頭首の一人として御三家会合に参加したり、何度もこの世界を繰り返した経験から、園崎家の内情に関しては人並み以上には詳しい。
茜は体面上は園崎家を勘当された身であり、名前も園崎家伝統の鬼の字を含む蒐から茜にその時、改名している。その理由が結婚相手として連れて来た相手がヤクザであったためであり、葛西ともその際に付き合いを持ち、結婚相手を含めて一言二言では語れない経緯があったらしいのだが、それについては流石に私は詳しく知らない。
今の葛西の茜に対する敬意の払い方を見るに色々あったのではとは思うが。
とはいえ、ヤクザの力を園崎が手に入れる事が出来たのは園崎家が雛見沢ならぬ興宮全域に力を及ばせる上で結果的に有益であり、茜も勘当された身でありながらも未だに園崎家頭首・お魎から頼りにされており、園崎の中でも大きな力を誇っている。
その茜を味方に付ける事が出来れば頼もしいだろう。
そこら辺の喫茶店で話でもするのかと思っていたのだが、指定された時刻は遅く、私たちが招待されたのはそれなりに高級そうな料亭であった。待ち受けているのも茜一人という事はなく、明らかにカタギの人間ではないそれっぽい人たちが数人。
これには流石の圭一もややひるんだ様子を見せた。魅音もこんな事態は想定していなかったのか明らかにビビっている。ある意味、圭一や詩音よりもよっぽど肝の据わっている所のあるレナは比較的、冷静であるようだ。
「さて、よく来てくれたね、圭一くんたち」
表面上は友好的に茜が私たちを迎える。魅音の名前でもなく、私の名前でもなく、圭一の名前を始めに出したのは自分に話があるのは圭一だと認識しているのだろう。
「……はい。こちらの都合で茜さんにこうして話を聞いてもらう機会を設けていただき感謝しています」
ここまで来ると覚悟を固めるしかないと思ったのか圭一も内心ではビビっているだろうにそれを飲み込んだ様子で応える。
「まぁ、私のとっては圭一くんは我が娘を振ったにっくき男なんだけどねぇ」
「お、お母さん!」
いきなり茜が先制パンチを繰り出し、圭一はビクリとし、魅音が声を荒げる。やっぱり園崎的にはそういう風に映ってしまうのだろうか。
「私と圭ちゃんは別にそんな仲じゃないってそもそも……」
「そうかい? 私としてはそういうつもりだったんだけどねぇ……」
「その誤解をさせてしまった事に関しては申し訳ありません。ですが、俺は魅音……さんが言う通り、そういう関係ではありません」
これ見よがしに落胆したような様子を見せる茜に圭一は動揺を飲み込んで毅然とした態度で応える。そんな圭一を見て茜は目を細める。
「まぁ、いいや。座っておくれ。とりあえず刺身でも食べながら話そうか」
気にしていないのか、気にしているのか。私の目でも茜の様子から推し測る事は出来ない。相手も流石、と言った所か。
「それで。圭一くんたちは私に何をして欲しいんだい?」
前置きはなしにいきなり切り込んで来る。豪華そうな食事が運ばれて来たが、それに手を付ける者は誰もいない。
「園崎家頭首・お魎さんを説得するのに力添えして欲しいんです」
「頭首を説得、ね。どんな事をしてもらいたいんだい?」
「……北条家を、許してもらいたいんです」
恐る恐る圭一は言う。それに対して、茜の反応は冷たかった。
「北条家は園崎の、いや、村の怨敵だよ。そんな事は私には出来ないね」
「それはもう終わった事でしょう?」
「終わっちゃいないね。何事も時間が解決してくれるとは限らないんだよ、坊や」
圭一の言葉に坊や、と強調して言う。これまでは態度だけは対等の話し相手と認めている様子だった茜だが、ここに来て初めて相手を下に見る言動を発した。
「魅音や梨花ちゃんも同じ考えかい?」
「……そうだよ、お母さん」
「……その通りなのです」
「はっ、ダメだね。仮にも御三家ともあろうものが、村の敵である北条家を許せと言うなんてさ。情けない」
やはり喜一郎や葛西のように一筋縄ではいかないか。そう思いつつも私は続けて言葉を発しようとし、先に圭一が口を開いた。
「……それは大人の都合でしょう。まだ子供の沙都子や悟史にまで変わらずそんな扱いを続けるのは筋違いです」
「違わないね」
「いえ、違います」
茜は美人だ。だが、その体から発するプレッシャーは尋常ならざるものがあり、私でもひるんでしまうものがあった。圭一も内心では逃げ出したい気分なのだろうが、それを堪えて、根気よく、茜の説得を続ける。
「過去の怨敵だから許せないと言うのですか?」
「過去のじゃないよ、梨花ちゃん。今も、だよ」
「それなら、どうしてダム工事の現場監督のお墓参りになど行ったのですか、茜?」
この私の言葉に茜は初めて動揺を示した。と言っても、眉を微かに寄せたくらいだが。
「その話をどこで?」
「詩ぃと葛西から聞きました」
「全く。葛西のヤツも口が軽いねぇ……」
過去の敵を許せないというのなら、ダム工事の現場監督の墓参りになど行かないはずだ。園崎とて、茜とて、本当は分かっているはずだ。
もうダム戦争は終わった事。いつまでも過去の因縁を引きずり続けるのは良くない事だと。
「……現場監督は死人だからね。私たちだって鬼じゃない。死人には流石にある程度の温情を示すよ」
「ダム戦争で園崎と表立って対立した沙都子の両親も既に死人なのですよ」
「その遺児は生き残っているじゃないか」
「だから、遺恨は終わっていないって言うんですか? 茜さん」
私と茜の話に圭一が入って来る。真っ直ぐに茜を見据えて、問い掛ける。
「終わっていないね。北条の名を持つ者が全員、消え失せたら、あるいは、と言った所だけど」
「そうさせないために俺たちはこうしているんです」
断固とした口調で圭一は言い放つ。
「このまま現状を放っておけば来年の綿流しで六年目の祟りが起きるかもしれない。それに沙都子や悟史が狙われるかもしれない。俺たちは仲間を守るためにそれだけは阻止しないといけない」
「沙都子ちゃんはともかく、悟史くんとあんたはロクに面識すらない身だろう?」
「それでも、仲間です」
「ロクに面識もない相手を守るために必死になる……何があんたをそうさせるんだい、圭一くん?」
今度は茜が問い掛けて来る。圭一は少し悩み、そして、答える。
「……俺はかつて罪を犯しました。仲間を傷付けました。いや、その手にかけました。その償いのために今を生きています」
私以外の人間には圭一の言う事は理解出来ないだろう。それはかつての世界の話。圭一が狂気に陥ってしまい、レナと魅音を殺してしまった事。
その事をこの世界の圭一は思い出している。無論、その後の世界で私がその事を許した事も覚えているのだが、自分で自分を許せてはいないのだろう。
この強い思いがあったからこそ、6月の戦いで惨劇を防ぐ大きな力となったのだ。
「何を言っているのか、まるで分からないね」
だが、それを茜が理解出来るはずはない。やはりダメなのか、と私は諦めそうになる。
「生意気を言いますが、雛見沢を変えたいんです。住んでいる人みんなが幸せで満ち足りた村にしたい。そのためにも悪しき習慣は断ち切るべきなんです」
「悪しき習慣とは言ってくれるね」
「子供は村の宝でしょう。沙都子と悟史を、どうか許してやるための手助けをしてください。お願いします」
そう言って圭一は頭を下げる。
「私からも頼むよ、お母さん」
「私もです」
魅音もレナも頭を下げる。無論、次は私の番だ。
「茜。もう終わりにしましょう。ダム戦争は、終わったんです。いつまでもその事を引きずっていては村が前に進めないのです」
私も頭を下げる。
そんな私たちに茜が視線を注いでいるのが分かる。
私たちの想いは果たして茜に届くのか……?