ひぐらしのなく頃に圭梨   作:山屋

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第18話:雛見沢御三家会議

 

 雛見沢御三家会議。その名の通り、雛見沢において御三家とされる園崎家・公由家・古手家のそれぞれの頭首が集って、今後の雛見沢の事を話し合う会議だ。

 御三家と言われつつもこの昭和58年の時代に公式に影響力を持っている訳ではないのだが、園崎家が雛見沢や興宮界隈で力を持っている事は周知の通りだし、この会議において決定した事も村の中で(特に老人には)重視される事であった。

 私はこの会議があまり好きではない。私の両親が亡くなった事で小学生にして古出家頭首となっている私は何度も出席しているが、頭首とはいえ、子供の私にあまり発言権も発言力もなく、お魎や喜一郎が議題を進めるのをほとんど黙って聞いているしかなかった。

 繰り返す昭和58年の6月ではその内容もどの世界でも似たようなもので退屈な時間だと認識していた。

 しかし、今回は違う。雛見沢内での北条家の扱いを懸けた議会になるのだ。適当に聞き流してしまえばいいなどといういつもの姿勢で挑む訳にはいかない。

 御三家会議の場にお魎に魅音、そして、喜一郎がいるのは当然として、イレギュラーとして普段はいない圭一とレナ、そして、茜の姿もあった。喜一郎と茜は約束通り、私たちに味方してくれるはずだ。後はお魎から北条家を許すという言葉を引き出すのみ。

 

「それじゃあ、会議を始めようか」

 

 いつも進行役を務めている喜一郎が声を出し、御三家会議は始まった。早速、議題に移る。

 

「それじゃあ、今日の会議だけど、北条家の扱いについて話し合いたいと思うんだ、お魎さん」

 

 北条家。その名が出た瞬間、場の雰囲気がピシリ、と引き締まる。喜一郎に話を振られたお魎は不機嫌そうに吐き捨てた。

 

「北条家? あんな村の敵に対して今更話す事なんかありゃせんよ」

 

 やはりお魎からの言葉は手厳しい。しかし、それをなんとか覆さねばならんのだ。

 

「まぁまぁ、お魎さん。私らとしてはいい加減、北条家を許してやってもいいんじゃないかと思うんだ」

「何を言うとんのかね。北条家は村を売ろうとした大罪人。許すなんて論外じゃけえ」

「それは過去の事でしょう?」

 

 ここで圭一が口を開く。お魎は圭一の方を向くと年老いていながらも鋭い視線を投げかけて来る。

 

「部外者が口出しするんじゃないよ」

「いえ、当事者です。北条家の沙都子と悟史は俺たちの仲間ですから」

 

 それにひるまず圭一も言い返す。この御三家会議、早速、荒れそうな模様だ。

 

「園崎と、村と敵対したのは沙都子と悟史の両親でしょう? その二人も今は亡くなられています。沙都子と悟史は村の一員として村に敵対する意思なんてない。それをいつまでも敵視し続けるのはやめにしませんか?」

「あんな奴ら村の一員じゃないよ。怨敵の一族や」

「頭首。ここは圭一くんの言う事も一理あるかと」

 

 圭一の言葉を切り捨てるお魎であるが、そこに茜がフォローに入る。お魎はさらに不機嫌そうにした。

 

「茜。お前も北条家を庇うんか」

「もう村の敵はいないという圭一くんの言葉に同意しただけです。北条家は確かに村と敵対しました。しかし、その当人たちも今は亡く、それをいつまでも敵視し続ける理由もないでしょう」

「奴らを許す気はないよ」

 

 茜の言葉にも耳を貸さず、お魎は断固として持論を曲げない。ここは私の出番か。私は口を開いた。

 

「お魎。お願いなのです。沙都子と悟史が大手を振ってこの村で生きていけるようにして欲しいのです。もうダム戦争は終わったのですよ」

「梨花ちゃん。そうは言うけんね。あの戦争を風化させるのは……」

 

 流石のお魎も幼い私には少しは甘い。そう言いかけた所に圭一が畳みかける。

 

「風化なんてしません。ダム戦争で皆さんが村を守るために戦った事は確かな雛見沢の結束として記憶に残り続けています」

「越して来たばかりの余所者が偉そうな口を聞くね」

「もう余所者のつもりはありませんよ。俺も雛見沢の一員です」

 

 お魎に睨まれるも圭一も堂々と言い返す。ふん、とお魎は鼻を鳴らす。

 

「もし北条家を許すつもりなんてない、って言うたらどうする気や?」

「そうですね……その時は……」

 

 圭一は一拍置き、そして、立ち上がった。

 

「ここで貴方に死んでもらいますかね! それで今日から魅音が園崎家頭首だ! それで万事解決!」

 

 過激な発言を放ち、場が流石に動揺する。指名された魅音も驚いた顔になっている。が、お魎は楽し気に笑った。

 

「かっはっはっは! 面白い事を言うけんね。そないな事したらお前さんはウチの若いのに八つ裂きにされてしまいよ」

「仲間を救うためならそれくらいの事はします」

「ふん。口だけは達者じゃ」

「口だけじゃありませんよ」

 

 圭一は静かに座り直すと続けて言葉を発する。

 

「俺は沙都子と悟史。仲間のためなら命を懸けるつもりです」

「言いおるね……」

「お魎さん、どうだろう? 北条家が敵だった時期も、もう終わっている。ここは温情を見せてもいいんじゃないかい?」

 

 圭一とお魎の言い合いを諫めるように喜一郎が口を挟む。お魎はやはり不機嫌そうであった。

 

「そうやね。前原の家の若いの。お前がウチの魅音と婚約でもしてくれるなら考えてもいいかもね」

「ええっ!?」

 

 お魎の言葉に素っ頓狂な声を上げたのは魅音だ。私としても驚いた。ちょっと、なんでそういう話になるのよ。圭一も驚いた顔をしていたが、冷静になると返事をする。

 

「それは……出来ません。いくら自分の言い分を通すためとはいえ、そんな風にして取り入るというのは俺には出来ません」

「偉そうに言いおるわ」

 

 こうして話を聞いていると説得の余地なしと思ってしまうかもしれないが、お魎にとっても北条家に関する問題はもう解決しておくべきだと思っている話のはずだ。

 ただ、老人の意地でそれを認められないだけで。ならばその背中を後押ししてやればいい。意地を誇りと傷つけないようにしつつ、解決に導いてやれば。

 

「お魎、村を新たしい形にするためにもいつまでもダム戦争の負の遺産を引き摺っていても仕方がないのです。さっきも言いましたが、もう沙都子の両親は死んでいるのです」

「死んだら全てが許される訳じゃないよ」

 

 私の言葉にも相変わらず頑固にお魎は返す。圭一は言った。

 

「ですが、死んでしまった両親が持っていた罪をその子供たちまで引き継がせる事もないでしょう? 沙都子や悟史に何の罪もありません。それをいつまでも敵視し続ける事もないでしょう?」

 

 真っ直ぐにお魎を見据えて圭一は言い放つ。お魎はその視線を受け止めて、次いで、魅音を見た。

 

「魅音。お前も同じ気持ちか?」

「はい。ばっちゃ……いえ、頭首。園崎家次期頭首として北条家を許してあげるべきかと愚考いたします」

「……ふん」

 

 それから圭一と魅音だけではない。私もレナも喜一郎も茜もお魎に視線を注ぐ。これを受けて流石のお魎も態度を変えた。

 

「……元々、この問題は後には遺してはいけんとは思っておったんよ」

「頭首! それなら……」

 

 お魎の言葉に魅音が声を上げる。お魎は深く息を吐くと言った。

 

「北条を敵視し続けるのもこの年寄りにはもう疲れた。確かにいい加減、温情を示してやってもいいかもしれんね」

 

 そう言ってお魎は中空を見上げる。年寄りの意地を、やめてくれようとしている。それを私は感じ取っていた。

 

「ええよ、北条家を許す。北条家自体を許す気はないけんど、その息子と娘のためや。子は村の宝じゃ。その子らが普通に生きていけるようにするために北条家を許してあげん事もない」

 

 その言葉が聞きたかった。お魎の口から発せられた北条家を許すという言葉。それは村中に伝播していき、沙都子と悟史の扱いも変わる事だろう。

 私はこの御三家会議が村を変える大きなターニングポイントになった事を実感していた。

 

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