ひぐらしのなく頃に圭梨   作:山屋

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第26話:前原屋敷にお邪魔します

 圭一の家に遊びに行く事になった。

 切っ掛けは些細な事だ。先日、私と沙都子の家に圭一を招いた際、圭一が「俺ばっかり呼ばれて申し訳ないな」と漏らした。

 そこで私は「ならボクの方を圭一の家に招待して欲しいのです」と返したのだ。

 本気で言った訳ではない。雑談の一環だ。しかし、圭一はこれに対して乗り気で応えて、結局、今日、圭一の家を訪れる事になった。

 

「なんだか緊張するわね……」

 

 誰も聞いていないのを確認し、素の口調で私は呟く。圭一の家に行く事は初めてではない。いや、この世界では多分、初めてなのだが、繰り返す世界の中で圭一の家を訪れる事はあった。

 一番記憶に残っているのは圭一の両親が留守で圭一が一人留守番をする事になった際、沙都子と共に様子を見に行った時の事だ。その時、圭一は一人で夕飯を作ろうとしたのだが、それで危うく火事を起こしかけ、結局、沙都子と私が夕飯を作る事になったのだ。

 あの世界では圭一は沙都子と親しかった。それもそんな切っ掛けがあっての事であろう。それ故に北条鉄平が帰って来た後、圭一を凶行に走らせてしまったのであるが。

 が、今回はそれとは違う。自分一人で行くという事もあるが、それ以上に圭一の両親が在宅だと言うのだ。

 何度も世界を繰り返してきたが私が圭一の両親と接点を持つ機会は少なかった。一つ前の世界で圭一が沙都子を助けるために村人を説得する際、圭一の父親も顔を出して、圭一に対して「親の顔が見てみたい」と罵った村人に対して毅然として「こんな顔ですが」と言ってのけたのを覚えてはいる。

 その時は立派な父親だと思ったものだが、圭一の話を聞く限り、普段はそんなにでもないらしい。むしろ圭一以上の変態だという話だ。

 職業は画家だと言うが、息子の圭一もどういう絵を描いているのか把握していないらしい。いかがわしい絵を描いているなんて噂もあると圭一は言っていたっけ。

 母親の方は特に問題はなく、普通の主婦であるらしい。レナと親しくやり取りをしている事を聞いている。

 しかし、どんな両親であれ、私が顔を見せるというのは緊張する事だ。べ、別に深く考えている訳ではない。私は圭一の仲間の一人として圭一から両親に紹介してもらうだけだ。それ以上はない、はずだ。

 緊張しながらも村人から密かに前原屋敷と呼ばれているそれなりに高級な一軒家の玄関に立ち、チャイムを鳴らす。

 

「はい」

 

 インターホンから圭一の声が響く。

 

「圭一。ボクなのです」

「ああ、梨花ちゃんか。ちょっと待ってくれ」

 

 一分と経たずに圭一が玄関を開き、私を招き入れる。私は「お邪魔しますなのです」と言いながら、圭一の家の中に足を踏み入れる。

 すると一人の中年……というには少し若いか、といった年代の女性が顔を見せる。圭一の母親だろう。笑みを浮かべて私を迎えてくれる。

 

「あら、貴方が梨花ちゃんね。初めまして。圭一がいつもお世話になっております。圭一の母です」

「みー、初めましてなのです。ボクの方こそ圭一には沢山お世話になっているのです」

「そう言ってくれると嬉しいわ。圭一、あんた、こんな可愛い子に何かしたんじゃないでしょうね?」

「んな訳ないだろ、お袋。親父じゃあるまいし」

 

 ニヤニヤ笑いで肩で圭一を小突く母親に圭一はうんざりした様子で答える。こういうのが普通の子と母の関係なのだろうか。私は母とは不仲であったからよく分からない所だ。

 

「おお、圭一。その子が梨花ちゃんか」

 

 そう思っていると一人の見るからに芸術家といった感じの中年の男が顔を見せる。圭一の父親だろう。確かに画家という雰囲気だ。

 

「んー、噂通り可愛い子じゃないか。村では神様の生まれ変わりって言われているんだって?」

「神様じゃなくオヤシロ様な、親父。それくらい覚えろよ。雛見沢の住人なら」

「はっはっは、悪い悪い」

 

 良くも悪くも圭一の両親はこの雛見沢の風習などに関しては疎いという事はこれまでの世界でも分かっている。レナを除いてあまり近所付き合いもしていないのが村社会の事を知っている私としては少し心配な所なのだが。

 

「みー、ボクはオヤシロ様の生まれ変わりなんかじゃないのです。オヤシロ様は他にいるのです」

 

 そう断じて私はオヤシロ様の生まれ変わりなどではない。そのオヤシロ様当人である羽入もいなくなった今となっては不可思議な力を使う事も出来ないただの小娘だ。

 

「はっはっは、可愛らしいねぇ。私の絵のモデルにしたいくらいだよ」

「梨花ちゃんに何かしたら村中から袋叩きだぞ、親父」

「何もしないさ」

 

 どこまで信用出来るものか。圭一の顔にはそう書いてあった。ともあれ、とりあえず圭一の両親へのご挨拶は終わった。

 

「んじゃ、俺の部屋に来るか」

「みぃ」

 

 圭一の部屋か……。そこまで訪れる機会はこれまでなかったかな……。この世界でも、これまでの世界でも。やや緊張しつつ階段を昇る。圭一の部屋は二階にあるらしい。

 男子の部屋だから散らかっているものかと思ったが、そうでもなく、それなりに綺麗な部屋だった。本棚に参考書などの類が入っているのはかつての進学校通いだった時期の名残だろうか。

 

「あー、何もない部屋で悪いな。つまらなくて」

「そんな事はないのですよ。興味深いのです」

 

 圭一は少し申し訳なさそうにしていたが、私としては決してつまらないという事はなかった。

 

「エッチなワンワンの圭一が普段読んでいるエッチな雑誌はどこですか?」

「んな! そんなものはないって!」

 

 私が急に押入れを開いて中を物色し出したのを見た圭一が慌てる。これは本当なのかしら。それとも誤魔化すための嘘かしら。慌てふためく圭一から真実を見抜くのはなかなか難しい事だった。本当にいかがわしいものがあったとしてもなかったとしても私にこんな事を言われたら慌てるでしょうしね。

 

「やめてくれよ、梨花ちゃん!」

 

 そう言われつつも物色してみたが、残念ながら(?)その手の雑誌などは見つからなかった。うーむ、期待外れのような、そうでもないような。

 押入れを閉めて、部屋の中央に置かれていた小さなテーブルで圭一を向かい合うとタイミング良く、圭一の母親がお茶とお菓子を運んで来た。

 

「はい。つまらない物ですが」

「ありがとうございますなのです」

 

 冷たい緑茶にクッキーか。なかなかいい感じね。圭一の母親は圭一に意味ありげな視線を向けて出て行く。圭一は微妙な表情をした。

 

「悪い、梨花ちゃん。お袋の奴……親父もだけど……俺と梨花ちゃんの仲を誤解しているみたいで」

「みぃ、誤解は大歓迎なのです」

 

 むしろ既成事実を作ってくれた方が私としては都合がいいくらいだ。

 

「圭一は両親と仲がいいのですね。羨ましいのです」

「梨花ちゃんは……亡くなられた両親の事について訊かれるのは気分が悪いかもしれないけど……仲が良くなかったのか?」

「みぃ……そうですね」

 

 私と両親の仲は良好とはいえなかっただろう。特に母親とは仲が悪いと断言出来るし、父親も村中からオヤシロ様の生まれ変わりと言われて尊重されている私に引け目を感じて積極的に関わろうとはしなかった。

 そもそもの原因は私には羽入がいたから羽入が親代わりのようなものであった事だ。それ故に両親に普通の家の子供程、信頼を寄せる事もなく、羽入の教えに従って育った。

 まだ世界を繰り返す前、私の精神が本当に幼かった頃は私をオヤシロ様の生まれ変わりとして持て囃す村人たちの反応を子供心に心地良いものだと思って、それを阻止しようとする母親に反発する所があった。親としては我が子がそんな扱いを受ける所に思う所があっただろうし、真っ当な人間に育たないという危惧もあったのだろう。

 今ならそれが理解出来るが、当時の本当に子供だった私には無理な話だった。

 結局、そうしてこじれた仲は世界を繰り返す内に私の精神年齢が高くなるにつれ、ますますこじれていき、最終的には三年目の祟りで両親がいなくなる事も受け入れて、仲違いしたまま終わってしまった。

 ……今はそれを悔やむ気持ちもある。

 

「梨花ちゃん」

 

 気付くと圭一の指が私の頬をぬぐった。

 

「圭一? 何を……?」

「いや、こっちこそだよ。梨花ちゃんは何で泣いているんだ?」

 

 泣いている? 私が? まるで自覚はなかった。両親の事を思って私は泣いていたというのか。

 

「……圭一に聞いてもらいたい事があるのです」

 

 なんとなく圭一に両親と私の事を話してみよう。そう思い、私は口を開いた。

 

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