ま、まさか、公式から新たに圭梨の供給があるなんて……!
嬉しいよなぁ、これは!(ハイ・ビーム・ライフルばーん!)
圭一に色んな世界の事を話して聞かせる。いや、聞いてもらう。それをするだけでも心の中に抱えていたものがすーっと楽になっていくのを感じる。
何事も誰かに話せれば楽になるが、私のこれはその中でも特別だろう。普通なら決して話す事など出来ない。羽入が消えた今、自分一人の胸の中に収めておくしかない話だ。
なにせかつての別の世界で起きた話なのだから、普通なら話し相手などいない。圭一は例外なのだ。
圭一はかつての世界の記憶を部分的に思い出し、そういう事が起こっているという事は認識しているものの、まだ実感は乏しいようであったが、私がかつての世界の話をしている内に徐々に記憶が呼び覚まされているようであった。
「あー、俺が魅音に人形を渡さなかった世界か……。確かにそんな事もあった気がするぜ……」
痛恨の出来事を思い出すように圭一は頭を掻く。あの世界では圭一のデリカシーの無さが結果的に惨劇に繋がってしまった。
まぁ、あの世界で一番、悪いのは詩音であるのだが、圭一の行動がその凶行の引き金を引いてしまったのも事実だ。
「……でも、圭一はそこから学んだのです。記憶はなくても次に同じ機会があった際にはキチンと魅ぃにお人形さんを渡していました」
「そうか? それならいいんだが……やっぱり情けないな。俺の行動が梨花ちゃんに大いに迷惑をかけていたって事だろ?」
「それは気にしないでいいのです。レナや詩ぃも狂気にかられてしまったのは同じなのです。魅ぃが狂気に陥る事はなかったと思うのですが」
「話を聞く限り、魅音が狂ったって世界の話は出てこないな。なんでだ?」
おそらく魅音は園崎家の次期頭首という立場上、園崎の事も村の事も知り尽くしているからだろう。
圭一もレナも詩音も、雛見沢症候群を発症して狂ってしまうのは園崎家や村への疑念が発端にあったように思える。
詩音の場合は中途半端に園崎家に近く、その力の一部だけを知っているだけに逆に疑心暗鬼に拍車をかけてしまったという所だろうか。
だが、魅音にはそれがない。園崎家がそれほど大きな力を持っていないという事も、園崎流ブラフ戦術の事も知り尽くしている。村ぐるみの陰謀なんて有り得ないとも。
それ故に雛見沢症候群を発症する事がなかったのだろう。
勿論、魅音自身の人の好い性格もあるだろうが。
そんな話を圭一にする。
「なるほどなぁ。園崎家って言ってもあんまり大した事はないんだな」
「あくまでも周りが思っている程ではないというだけの話なのです。その影響力は村や興宮ではやっぱり大きいのですよ」
「だから、魅音の婆ちゃんに北条家を許してもらおうと頑張った訳だしな」
あくまでもダム工事を中止させるために大臣の孫を誘拐するなんて真似を行った山狗程の力はないというだけで園崎家の力は一般人の域を超える程度にはある。
特にこの雛見沢の中での影響力では同じ御三家と言われていても私の古手家や喜一郎の公由家など及ぶべくもないだろう。
興宮の中にはそこいらに園崎系列の店が連なっている訳でもあるし、地方のものでそこまで大きくはないとはいえ、ヤクザの力も傘下に収めている。
あの6月の戦いではその力も借りて戦った訳であるが。
「後はこう言うのも何なのですが、大石の責任も大きいのです」
「大石さんか……」
大石は根は正義感の強い警察官であるのだが、一年目の祟りで親友の現場監督が殺されてしまった事で園崎や村に対する疑心を抱き、現場監督が殺された裏には何かがあると思い込み、それを解決するために手段を選ばなかった事が結果的に圭一やレナの雛見沢症候群発症を助長してしまったのは事実だ。
圭一やレナを囮にする事で園崎家の暗部を引きずり出そうとした事も褒められる事ではないだろう。刑事が中学生を意図的にダシに使って捜査を行うなどと。
大石は雛見沢症候群を発症していた訳ではないが、現場監督の死を境に狂ってしまったとも言えるかもしれない。
その誤解さえ解く事が出来れば心強い味方になってくれるのはいくつかの世界やこの世界で証明してくれているのだが。おそらく誤解を解く前に私が全てを話して協力を仰いだ所で私の味方にはなってはくれないだろう。
一度か二度か、大石に全てを打ち明けてみるという方法を取った世界もあったが、その時は圭一やレナ同様、私を囮に使って真相を暴こうかと利用された挙句、ロクでもない結末を迎えてしまった。
かつての世界では富竹にも、入江にも全てを打ち明けてみた事があったのだが、その時は私も山狗を味方だと思っていたのと同じく、富竹や入江も山狗を敵だとは思っていなかったので、私を殺す張本人である鷹野や山狗に話が伝わってしまい、やはり状況を好転させる事はなく、ロクでもない結末を迎える事になった。
やはりこの世界で誰に助けを求めるかと悩んだ際、圭一を選んだのは間違いではなかった。
「圭一のおかげなのですよ。惨劇が起きるのを防ぎ、今、こうしてボクたちが平和な7月を迎える事が出来たのは」
「そうかな? みんなの力も大きいと思うけどな。少しでも俺も罪滅ぼしが出来ているのならいいんだが……」
圭一は自分を罪深い人間だと思っている。普段はそんな様子を見せはしないが、これまでの世界で惨劇を引き起こしてしまった事、雛見沢に来る前にモデルガンによる傷害事件を起こしてしまった事。それらを強く悔いている。
その罪の意識があったからこそ、あの6月の戦いで繰り返す惨劇から、絶望の牢獄から私を救い出す大きな力になってくれたのであるが、その罪を消せるのなら圭一は消したいのだろうか?
まずモデルガンによる傷害事件がそもそもなければ圭一は雛見沢にやって来る事はない。それは困る。惨劇を突破するための前提条件として前原圭一の存在が必要なのだ。この雛見沢には。
「圭一は自分の犯してしまった罪を消せるものなら消したいと思いますか?」
なので、気になって訊ねてみた。何も起こす事なく、雛見沢に来る事もなく、平和に都会で暮らしていたかったのだろうか、と。
「……梨花ちゃん。その質問はナンセンスだぜ」
自嘲気味に圭一はそう言って笑った。
「過去に犯してしまった罪を消す事なんて出来ないんだ。梨花ちゃんや羽入は不思議な力で過去に戻れたかもしれないけど、それでも罪を犯したという事実まで消えてなくなる訳じゃない。犯した罪は一生、背負って生きていかないといけないんだ。重い……十字架、ってヤツだな」
妙に悟ったような事を言う。そう思いつつも私は圭一に感心する思いを抱いていた。
過去に戻っても罪自体が消える訳ではない、か。確かにそうなのだろう。仮に羽入の力がなくて、タイムマシンなどで過去に戻って罪自体をなかった事にしたとしても罪を犯してしまったという事は消えない。
これまで歩んで来た人生の一部を都合よくなかった事にするなど決して出来ない事なのだ。ならば、その事について話すのも意味はない事、か。
「そうね……私もそう思うわ」
素の口調が出て、圭一に頷く。私も両親を見殺しにしたという罪を犯している。仕方がなかった。それは罪じゃない、と周りは言うかもしれないが、これは紛れもなく私が犯した罪だ。私が背負っていかなければいけない事なのだ。
「貴方はどこまでも眩しいわね、圭一」
「よせやい。俺はそんな立派なもんじゃない」
本人はこう否定するが、私にとっては圭一の存在はとても眩しく見える。
「ふふっ、これからも私を楽しませてね、圭一。貴方が雛見沢にやって来ない世界は全く楽しくない最悪の世界だったから」
「お、おう……俺に出来る事なら何でも」
何でもって言ったわね? 言質を取るわよ?
そんな事を思いながら、私は圭一に続けてこれまでの世界の事を話すのであった。