ひぐらしのなく頃に圭梨   作:山屋

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第31話:前原家の食卓

 7月も後半に差し掛かるといよいよ暑さが本格的に猛威を振るい出した。

 俺、前原圭一は暑さのせいか寝苦しい一晩を過ごし、自室のベッドで目を覚ました。

 俺の家はなんかこの村の人たちには前原屋敷とか呼ばれているらしいが、俺の部屋に冷房はない(居間にはあるが)。扇風機に頑張ってもらうしかないのだが、この猛暑の中ではなかなか手厳しい戦いになる。

 そういえば地球温暖化とか言う話を聞いた事がある。地球が熱くなって色々と自然が侵されていくという話だったが、今の所、極端に夏が暑くなったとは感じない。

 10年先、20年先になれば違うのかもしれないが、今はまだ実感出来ないレベルの話であった。

 

「さて……」

 

 自分の事をずぼらな性格だと自覚している俺だが、休みの日に正午近くまで惰眠を貪るというのも性には合わない。かといって時計を見ると7時前。学校がある時と同じくらいに起きてしまった。そこまで健康的だとも思ってはいないのだが。

 一階に降りるとお袋は起きていて、朝食の支度をしてくれた。

 

「圭一。私とお父さん。また東京の方に出掛けないといけないの」

「ん、そうなのか。分かった。親父の仕事じゃ仕方がないな」

「ごめんなさいね。食事とか大丈夫?」

「インスタント麺で過ごすよ」

 

 親父とお袋が家を留守にするのは珍しい事ではない。未だよく世界の事など分からず、これまでの世界の事も完全に思い出した訳ではないが、以前の世界でもあった事のような気がする。

 

「母親としてそれは貴方の健康に心配なんだけどね……」

 

 そういうお袋の言葉を聞きながら朝食を食べ終わり、自室に戻る。

 そう言われても梨花ちゃんから聞いた話だと俺は自分で料理をしようとして危うく火事を起こしかけた事もあるらしいのだ。下手な事に手を出さない方がいいだろう。美味いしな、カップラーメン。

 

「勉強でもするか……」

 

 雛見沢に来てからはわりとアウトドア派の印象を持たれるように振る舞っている俺であるが、がり勉少年であった頃の名残は完全には消えない。進学校で受験を目指していた時期程の成績には至らずとも必要な程度には勉強しておく必要があるだろう。

 そう思い、少し机に向って鉛筆でノートに方程式を書いて勉強し、英語の方も触る程度には学んでおく。

 その後は家に来客があった。レナかな、と思っていると。

 

「勉強だなんて感心なのです。圭一」

 

 それは梨花ちゃんであった。お袋は梨花ちゃんを俺の部屋まで通したらしく、いつの間にか上がって来ていて、俺の部屋に入って来る。

 

「伊達に進学校に行っていた訳じゃないさ。おはよう、梨花ちゃん」

「みぃ、おはようございますなのです。にぱー」

 

 この梨花ちゃんは幼く見えるが、本人が言うには百年の年月をこの雛見沢で過ごしたらしい。何度も世界を繰り返しているという彼女の話は俺には未だよく理解出来ていないのだが、なるべく理解するように努力しようとはしている。

 

「まだお昼にもなっていないのにどうしたんだ?」

「圭一にお昼ご飯を作ってあげようと思うのです」

「へぇ、そりゃ嬉しいな」

 

 梨花ちゃんの料理の腕前は一流だ。本人曰く繰り返す世界の中で何度もやっていたから部活メンバーの中でもトップの自覚があるらしい。思えばレナも料理上手だし、魅音も料理は出来る。沙都子も梨花ちゃんと一緒に暮らしている中で当番制で料理をやっているから普通に出来るし、部活メンバーの中で料理が出来ないのは俺一人なのだろうか。

 悟史はどうなんだろう。分からないな。

 なんて部活メンバーとか纏めて言うのも、雛見沢分校の生徒たちが全員部活入りしている今では古い分類かも知れないが。

 

「そういえば圭一。圭一のお母さんから聞いたのですが、ご両親がしばらく留守にするのですね」

「ああ。って言うか、お袋は何でも気安く話すな……。その通りだよ。食事をどうしようか考えていた」

 

 そう言うと梨花ちゃんは押し黙った。言おうか言うまいか考えている。そんな様子であり、俺は思わず「梨花ちゃん……?」と声をかける。

 

「あ、あの、圭一さえ良ければ……」

「良ければ?」

「ボクがその間、料理を作ってあげてもいいのです」

 

 お、これは望外の幸運。インスタントで過ごそうと思っていたが、料理上手の梨花ちゃんが料理を作ってくれるとあればそれに乗らない手はない。俺は即答で頷いた。

 

「お、マジか。それは嬉しいな。是非ともお願いしたい」

「みぃ、ボクも嬉しいのです。圭一のために腕を振るうのですよ」

「楽しみにしているぜ」

 

 俺が笑いかけると梨花ちゃんも笑みを浮かべる。普段からにぱにぱ笑っている梨花ちゃんだが、この笑みは本心からの笑みのような気がした。なんとなくだけど。

 その後、宣言通り、今日の昼ご飯は梨花ちゃんが作ってくれて、お袋と遅くに起きて来た親父と一緒に食べた。

 

「うーん、梨花ちゃんの料理は美味しいわねぇ」

「はっはっは、圭一。お前もいい嫁さんを捕まえたな!」

「親父……だからそういうのじゃないって」

「みぃ」

 

 相変わらず両親には俺と梨花ちゃんの関係を勘違いされているようであったが、料理が美味い事に異論はない。とはいえ、梨花ちゃんも照れ臭そうにしているな。

 

「俺と梨花ちゃんはそういう関係じゃないって言っているだろ。二人共。梨花ちゃんも俺なんかとは嫌だろうし」

「み? ボ、ボクは別に、嫌という事はないのですが……」

「え、そうなの?」

 

 意外な答えだ。いや、意外でもない、か? この世界ではあの6月の戦いを共に戦い抜くに当たってこれまでの世界より梨花ちゃんより親しくなっているという感覚はなんとなく抱いていたが……。

 

「はっはっは、圭一。梨花ちゃんもこう言っているじゃないか」

「こんないい娘。早く捕まえておかないと別の男にかっさらわれるわよ」

 

 両親二人はそんな風に囃し立てて来る。こうなると俺まで照れ臭くなってくる。

 

「梨花ちゃんはオヤシロ様の生まれ変わりって言われているんだ。俺なんかが手を出したらそれこそ祟られちまうよ」

「オヤシロ様はむしろ喜んでくれると思うのですよ、圭一」

「そ、そうかぁ?」

 

 梨花ちゃんから話を聞くにあの羽入って娘がオヤシロ様のようなのだが、彼女は俺と梨花ちゃんがそういう仲になっても祝福してくれるのだろうか。話を聞く限り、梨花ちゃんと共に長い年月を過ごしたパートナーであり、親代わりでもあったというんだろう。

 

「いずれにしても俺も梨花ちゃんもまだ子供だし、こういう話は早いって」

「先物買いをしておかないと後悔するのですよ。自分で言うのも何ですが、ボクは将来有望だと思うのです」

「……そりゃ、梨花ちゃんは美人になるだろうとは思うけど」

 

 何気なく俺は言ったが、その言葉で梨花ちゃんは固まってしまった。何か、マズい事を言ったか、俺は。

 

「圭一、なかなかの口説き文句だ」

 

 親父がよく分からない誉め言葉を俺にかけてくれる。お袋は笑いを堪えている。

 

「……でも沙都子もレナも魅ぃも。将来は美人さんだと思うのです」

「そ、それもそうだろうけど……なんでそういう話に繋がるんだ?」

 

 ようやく動き出した梨花ちゃんの言葉に問い掛けると梨花ちゃんから落胆したような目で見られた。何か、マズい事をしたか、俺は。

 

「圭一、今のはダメだな」

「全く。女心が分かってないわねぇ」

 

 両親二人にもダメ出しされる。女心が分からない自覚はあるが、ほっとけ。

 それから電話があって、今日は学校に元祖・部活メンバーで集まって部活をする事になった。夏休み中なのに学校に行くなんてなんだか変な気分だが、部活とあれば燃えるというものだ。

 

「私たちの仲をどう見られるかしらね」

 

 梨花ちゃんはたまに見せる大人びた態度でそんな事を言ってどこか楽しそうに笑っていたが。

 

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