ひぐらしのなく頃に圭梨   作:山屋

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第36話:幸せな朝

 自分で言うのもなんだが、俺は眠りの悩みとは無縁だ。特にこの雛見沢に来てからというものの日中、しっかり遊び倒す日々を送っているので夕飯を食べて、風呂に入ってさっぱりして布団に入ればそのまま熟睡。朝までしっかり眠る事が出来る。

 寝起きもそこまで悪くはないのだが、人並みには眠りの世界にしがみつこうとはする。

 そうしてなかなか起きない俺に甘ったるい声がかけられる。

 

「圭一。起きて下さいなのです」

 

 エンジェルモートのデラックスボンバーパフェのような甘く、甘い声だ。そんなものが寝覚めの半覚醒の意識に降り注ぐようにかけられる。これはこれで至福の時間……そう思ってますますすぐに起きる事を放棄してしまう。

 

「もう。困ったものなのです。圭一」

 

 甘い声はさらに振りかかる。少し困ったように声が途切れたが再び「圭一」と俺の名を呼ぶ。そこで俺はようやく目を開けた。

 梨花ちゃんの顔があった。

 ドアップで。

 どうやら俺の顔を覗き込んでいるようだと気付くのに数秒。

 お互いに至近距離で目が合ったまま固まってしまう。

 

「り、梨花、ちゃん……?」

 

 困惑する。え、なんで、梨花ちゃんが……? 俺が不思議に思っていると梨花ちゃんは顔を俺から離し、布団の横に立つ。俺はなんとか上半身を起こす。

 

「梨花ちゃん? どうして、ここに?」

「何を寝ぼけているのですか、圭一。圭一が言ったのですよ? 罰ゲームでボクたちは全員、一週間、圭一にメイドさんとして仕えているのです。メイドはご主人様を起こすのは当然なのです」

「あ、ああ……」

 

 何故か憤慨した様子で言う梨花ちゃんを見ていると記憶が蘇って来た。そうだ。部活の熱い勝負の末に優勝した俺は他の部活メンバー全員を一週間メイド扱いにするという特大級の特典を手にしているのだった。両親がしばらく留守にするこの時期にあれば家事能力には皆、定評がある部活メンバーたちが何かとやってくれるのはありがたい事だ。

 

「……で、なんで梨花ちゃんが俺を起こしに?」

 

 メイド服こそ着ていないものの、メイドそのものの立ち振る舞いであるのだが、他の三人でも良かったはずだ。この役目は。

 そう言うと梨花ちゃんは怒ったように言った。

 

「何なのですか。圭一はボクに起こされるのが嫌だったのですか?」

「い、いや! そんな事はないぞ! 至福の目覚めだったぜ!」

「それならよかったのです。下で沙都子たちが朝ごはんの用意をしているので早く降りて来ると良いのですよ」

 

 俺の答えに梨花ちゃんは満足したようににぱーと微笑むと先に部屋を出て階段を降りる。俺も慌てて追いかけようとして寝る時のシャツ姿のままな事に気付き、着替える事にする。

 

「着替えも手伝って欲しかった……なんて事は流石に言えないよな」

 

 流石にそこまでしてもらうのはこっちとしても恥ずかしい。俺はちゃっちゃと着慣れた私服に着替えると一階の台所まで降りる事にする。

 

「あら、圭一さん。やっと起きて来ましたわね」

「圭一くん、おはよう」

「遅いよ、圭ちゃん」

 

 台所には梨花ちゃんだけではなく、沙都子にレナ、魅音が勢ぞろいしていた。誰が作ったのか、あるいはみんなで作ったのか朝から美味しそうな食事がテーブルに並んでいる。白米に味噌汁、焼き鯖にキャベツの千切り、酢の物まである。文句のない朝食だ。

 

「うん。誰が作ったのかは知らないけど、この朝飯が作れるならいつでもお嫁にいけるな」

 

 俺がそう言うとみんなして固まる。

 

「? どうした?」

「圭一はデリカシーがないのです……」

「まぁ、嬉しいけどね、あはは」

 

 俺の言葉に梨花ちゃんは顔を赤くして言い、魅音が誤魔化すように笑う。

 

「……って言うか、俺が罰ゲームを言っておいてなんだが、魅音。受験勉強はいいのか?」

「そっちは大丈夫だよ。圭ちゃんが心配する必要なし!」

「そ、そうか……? それならいいんだが」

 

 園崎が魅音に付けてくれた家庭教師は余程優秀なのだろうか。俺が見ていた時は魅音の学業の成績はお世辞にも先行き明るいとは言えないものであったのだが。

 

「……全く。本来なら圭一の両親が留守の間は私一人で圭一の世話をする予定だったのに。こんな事に。圭一ってホントに女心が分からないわね」

「何か言ったか? 梨花ちゃん?」

「みぃ、なんでもないのですよ、にぱー」

 

 なんだか普段と口調の違う梨花ちゃんの声が聞こえた気がするのだが、気のせいだったか。それならいいのだが。

 

「まぁ、とりあえず食べようよ。みんなで朝ごはんってのも賑やかでいいね」

 

 そこで場をなごませるレナの一言。確かに。メイド云々は置いておいてみんなで食べる食事というのは楽しい時間だ。

 

「それじゃあ、食うか。いっただきまーす!」

 

 台所に全員分のいただきます、が響き、早速、俺は味噌汁に手を付ける。

 

「おお、美味いな」

「それはレナが作ったんだよ」

「そうかー、いや~、流石はレナだ!」

「圭一さんは何食べても美味いって言う馬鹿舌でございますでしょう?」

 

 レナを褒めていると沙都子に突っ込まれる。う、うぐ、その自覚はない事はないが、馬鹿舌でも不味い物を食べると流石に不味いと分かるぞ。不味いと思わないんだから、これは普通に上手い味噌汁なんだ。

 

「キャベツも綺麗に千切り出来ているなぁ、誰が切ったんだ?」

「それはわたくしでございますわ」

「へぇ、上手いもんだな」

 

 まだ小学生だというのに均一に綺麗に千切りが出来ている。これは褒めざるを得ない。

 

「ですが、沙都子はまだまだボクには及びませんのです」

「むー、いつか梨花の腕前を追い越してみせますわ!」

 

 そんな事を思っていると梨花ちゃんと沙都子が視線をぶつけ合い火花が飛ぶ。梨花ちゃんは数えきれないくらいこの世界を繰り返して料理もそれだけやっているからそれを追い越すのは容易な事じゃないだろうな、と思う。

 

「焼き魚も美味いな」

「あはは、鯖なんて誰が焼いても同じ味だけどね。おじさんも頑張ったんだよ」

「みぃ、それは違うのです。圭一が鯖を焼こうとしたら炭にしてしまうのです」

 

 どうやら魚を焼いたのは魅音か。梨花ちゃんの突っ込みに反論したくなるが、出来ない。俺には魚一匹焼けないという自信があったからだ。いや、自信という言葉の使いどころがおかしいか、これは。

 

「梨花ちゃんは何も作らなかったのか?」

 

 ふと疑問に思って訊ねる。梨花ちゃんはしゅんとした顔になった。

 

「圭一を起こす役を勝ち取った代償なのです」

「そうなのか。災難だな。俺を起こすなんてやりたくないだろうに」

「みぃ、そんな事もないのですよ?」

 

 不敵に梨花ちゃんは笑って見せる。にぱー、といういつもの笑みとは違う。たまに見せる態度の違う梨花ちゃんが見せるような笑みだ。

 

「梨花ちゃん、積極的だね」

 

 レナが苦笑している。何が積極的だと言うのだろう?

 

「ボクはこの夏休み中に圭一をオトすのです」

「あはは、梨花ちゃん。冗談でも女の子がそんな事言うもんじゃないぞ」

「みぃ……」

 

 梨花ちゃんの言葉に俺が笑うとジロリと睨まれる。

 

「圭一さんはこれですから……」

「全くデリカシーが足りないねぇ……」

 

 沙都子と魅音にも呆れた目で見られる。俺が何かしたか……?

 とりあえず朝食を食べ終わり、沙都子は詩音と合流して悟史の見舞いに、魅音は一旦、家に帰り、勉強をするというので俺の家にはレナと梨花ちゃんだけが残った。

 

「ここがチャンスなのです」

 

 梨花ちゃんはなんだか意気込んでいたか何故かは分からない。俺のそんな態度を見てついに梨花ちゃんは、

 

「圭一、貴方のその鈍感さとデリカシーの無さも惨劇の引き金になった事があるのを自覚しておきなさい」

 

 いつもと違う口調でそんな事を言って来る始末であった。

 た、確かに梨花ちゃんから聞いた限り、俺の無神経さが惨劇を引き起こしてしまった事もあるらしいのだが……俺ももう少し他人の心を理解出来るように頑張るか。

 

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