「それじゃあ掃除機かけるね~」
レナがそう言って、ウチの掃除機を持ち出すと掃除を開始する。何故、しまっている場所とか知っているんだ。お袋とレナは仲がいいみたいだから知っていてもおかしくはないか。
「ボクは拭き掃除をするのです」
梨花ちゃんはそう言って、窓やテーブルを拭く作業を開始しようとする。残され、所在無くなった俺は俺も何かしないといけないと思って口を開く。
「えーっと、俺は……」
「圭一くんは何もしなくていいよ」
「むしろ、何かされると邪魔なのです」
「…………」
確かに今、レナや梨花ちゃんが俺のために色々やってくれているのは部活の罰ゲームで俺のメイドのように仕えるという事で、俺が動く必要がないというのは分かるのだが、邪魔と言われるのは心外な。俺だって多少は家事が出来……ないけれど。
「そ、それだとなんか二人に悪いな……」
申し訳程度にそう言っておく。レナも梨花ちゃんもそんな俺に笑みを向ける。
「圭一くんは気にしないでいいよ。お掃除は家でもやってる事だしね」
「大人しくボクたちに尽くされていろなのですよ、圭一」
「あ、ああ……」
なんだか女性陣のパワーに置いてけぼりを喰らっている気分だ。その後もちゃっちゃとレナと梨花ちゃんは手際よく掃除をしていく。こういう時、自分の家事の出来なさを痛感するな。将来のためにも直しておくべき所かもしれない。
「凄いな。あっという間に綺麗になっちまった」
「みぃ。圭一のためなら当然なのです」
「お、おう……」
梨花ちゃんに上目遣いで見られて思わずドキッとする。あざとい、と思わないでもないが、それ以上に可愛いんだから仕方がないだろう。
「お昼ご飯はどうしようか?」
「カップ麺でもいいぜ。親父とお袋が金をある程度は置いて行ってくれたからなんなら興宮まで出て外食でも」
「どちらも栄養が偏るのです。ボクとレナが作るので圭一は大人しく待っているといいのですよ」
出る幕がない。レナと梨花ちゃんはそうしてぱっぱと料理を始める……かと思いきや。
「みぃ。食材がないのです」
「これは買い物に行かないとダメだね~」
どうやらお袋は留守にする前にたっぷり食材を買って置くという事を忘れて行ってしまったようだ。
「それじゃあ、興宮のスーパーまで行くか。俺も行くよ」
「圭一はここで待っていてくれてもいいのですよ?」
「いや、それじゃあ申し訳ない。買い物の仕方ってヤツも学びたいしな」
正直、俺がついて行く方が邪魔なのではないかとは思ったが、せっかくなので一緒に行かせてもらう事にする。レナも梨花ちゃんも頑なに拒むという事はしなかった。
先に帰ってしまっている魅音や沙都子も、レナや梨花ちゃんも自転車で俺の家まで来ていたようなので三人で自転車で興宮まで繰り出す。
「場当たり的にスーパーに行くのはあまりよろしくないのです」
「そうなのか、梨花ちゃん? スーパーなんていつでもいけるのがウリだろう?」
「ダメだよ圭一くん。ちゃんとセールの日を狙って行かないと」
何故か二人にダメ出しされてしまうが、今は食材がないので行くしかない。砂利道が舗装された道に変わり、興宮のスーパーまで辿り着く。三人で中に入る所で今、雛見沢で流れているという噂を思い出した。
俺と梨花ちゃんの仲についてだ。それを思えば梨花ちゃんを含めて買い物に行くというのはマズいのではとも思ったが、レナもいるし、ここは雛見沢からは少し離れた興宮。問題ないだろうと思いつつ、スーパーの中に入る。
「さて、何を買うかだが……」
「どうせ圭一の事だからレトルトカレーで済まそうとか思っているのです」
「うぐっ」
図星を刺され俺は押し黙る。楽でいいじゃん。レトルト。
「梨花ちゃん。今日は豚肉が安いみたいだよ!」
「それなら豚肉の生姜焼きなのです」
俺を置いてけぼりで女子二人が献立を決定してしまったようだ。挟む口がない。
「圭一、荷物持ち、よろしくなのです」
「わ、分かった……」
正直、買い物となると俺に出来る事は買い物かごを持つくらいしかないので異論は言わず言われた事に従う。レナと梨花ちゃんはぱっぱと必要な食材を見つけてかごの中に入れていく。慣れているんだなぁ。レナも梨花ちゃんも。俺も見習わないといけないとつくづく思う。生活能力を少しでも付けないとな。
30分足らずで買い物を終えてしまい、レジに持っていく。流石に金はウチが出す。そして渡されたレジ袋を手に袋詰めコーナーに行くとここでもやはりレナと梨花ちゃんは手早く購入した食品を袋詰めしていく。あれも俺には真似出来ないな。
「いや、二人共、熟練の主婦みたいだな……今すぐ結婚出来るぜ」
思ったままの感想を述べると二人の体がカチンと固まった。
「圭一くん……」
「レナ。圭一のこういう言葉には他意はないのです。残念ながら」
「そうだよね、梨花ちゃん」
なんだか二人してこれ見よがしにため息を吐かれる。俺が何かやったか……?
「圭一も試しに袋詰めをやって見ますか?」
そして、梨花ちゃんに視線を向けられる。正直、自信はないが、練習はしていかないとな。
「おう。任せろ」
「無駄に自信満々なのです」
そして、俺は手早く食材をレジ袋に入れようとして……。
「圭一。卵は最後に上に入れようと置いておいたのです」
「そんな所に入れると潰れちゃうよ、圭一くん」
「お、おう……」
意外と難しい。普通に入れるだけでも手こずるのに順序も考えないといけないのか?
「く、これはなかなか……」
手こずりながら格闘していると、レナと梨花ちゃんからため息。
「後はレナたちがやるよ」
「圭一にはまだ早かったのです」
そして、俺の手から食材をひったくると二人で袋詰めを再開してしまった。うむむ……俺はまだまだか。
「全く、仕方がないわねぇ、圭一は。まぁ、そこが尽くし甲斐があるって事なんだけど」
「ん? 何か言ったか、梨花ちゃん?」
「別になんでもないのですよ、にぱー。ボクは尽くす女なのです」
そんなやり取りも経てスーパーを出て俺の家まで戻る。自転車をこいでしばらく。舗装された道から砂利道に移り、さらに進むと、村の人には前原屋敷とか言われている我が家が見えて来る。前から思っていたけど、前原屋敷って、なんだ。確かに俺の家は雛見沢の家の中じゃ豪華な方かもしれないし、あまり金に困った生活は送っていないが、そこまでの金持ちって訳でもないんだがなぁ。
「ただいま~」
「ただいまなのです」
「なんで二人がただいまって言うんだ。まぁ、いいんだけど」
勝手知ったる他人の家と言った感じで俺の家に戻り、そのまま冷蔵庫に買って来た食品を仕舞って行く二人。レナはともかく梨花ちゃんはあまり俺の家に来た事はないと思うんだが、これまで世界を繰り返した中である程度、家の事を知る程度には訪れた事があるのだろうか。流石にそんな所まで突っ込んで訊いた事はないので真相は謎だ。
「丁度いい時間だね。それじゃあ、梨花ちゃん。お昼ご飯、作っちゃおうか」
「お任せあれなのです」
二人はそのまま昼飯の準備に入るようだ。またしても所在ない俺。
「えーっと、俺は……」
「圭一はテレビでも見て待っていればいいのです」
「…………」
なんだか妻に家の事を全て任せてゴロゴロしているだけのダメ亭主みたいな感じだなぁ。レナも梨花ちゃんも俺の妻って訳じゃないんだけど。
そうしてしばらく待った末に出て来た豚肉の生姜焼きは大層、美味しい代物だった。やっぱりレナも梨花ちゃんも今すぐ、嫁入り出来るな、これは。口には出さなかったが、そんな感想を抱く俺であった。