ひぐらしのなく頃に圭梨   作:山屋

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第41話:女の子の気持ち

 目覚めた時には既に日が高い所まで昇っていた。私とした事が。いくら夏休みだからと言ってこんな時間まで惰眠を貪るなんてなっていない。

 沙都子は既に悟史のお見舞いに出掛けたようだ。寝ている私を起こすのは悪いと思ったのだろう。メモと作り置きの料理が残されていた。寝すぎですわよ、梨花、と私を叱る文章も含めて。

 自分でも今日は寝すぎだと自覚しているのでそれは深く受け入れる。疲れが溜まっている、訳でもないだろうにこんな時間まで寝てしまうなんて。圭一じゃあるまいし。

 とりあえず作り置きの料理があるのは助かる。布団を片付けて、それを食べて、さて、本日はどうしようかと考える。

 今日は部活がある訳でもない。昨日までの一週間。私たちは罰ゲームで圭一にメイドのように仕えるとの事で両親がその間、留守にするという圭一の家に行き、色々と世話を焼いてやったのだが、それも終わった。別に今は圭一に尽くす義務はない。まぁ、義務があるからといって圭一のために色々してやった訳ではないのだけれども。

 

「圭一の家に行こうかしら……」

 

 ふと呟く。村の中で私と圭一の事が噂になっているというのは沙都子やレナ、魅音たちから聞くまでもなく知っている事だ。

 この雛見沢村で面白そうな噂があれば一晩あれば村中に広がる。御三家の古手家の人間でオヤシロ様の巫女で生まれ変わりと言われる私が、引っ越して来てから何かと話題を集める前原屋敷の坊主と仲が良いとあれば村の大人たちにとって話題にするには充分であろう。

 

「そんなんじゃないのよね……今の所は」

 

 残念な事に。

 私の方はともかく、圭一の方が私の事をそういう目で見てくれていないのは分かっている。

 女心にとことん鈍感な、と言いたくなるが、今の私は小学五年生。そういう目で見ないのも当然だろう。圭一の方も中学二年生であり、恋愛沙汰をやるにはまだ少し早い年齢だ。

 それでも私の体は小学五年生でも心の方は違う。百年の時を生きた人間だ。人並み以上には大人びているし、子供と見られる事への抵抗感もある。その抵抗感自体が私がまだ子供である証なのかもしれないと最近、気付いたのだが。

 

「中学生が付き合ったり、彼氏とか彼女とか……少女漫画じゃないんだし……」

 

 本棚の方を見る。一応、女の子の二人暮らしという事で人並み程度には少女漫画の類も買って来て家に置かれてはいる。そこに描かれているメルヘンチックな恋愛に傾倒する程、頭の中はお子様ではないが、全く楽しめないという訳ではない。

 

「まぁ、外に出ようかしら……」

 

 圭一の家に行くと決めた訳ではないが、家の中でダラダラ過ごしているのもどうかと思う。いくら夏休みだからって。ただでさえ、こんな時間まで寝ていてしまったのだ。

 外に出ると特に行先も決めずに村の中をぶらぶら歩く。歩きに歩き慣れた田んぼ道。百年もこの村で過ごしているのだから、嫌になる程、歩き慣れている。そんな中。

 

「あれ、梨花ちゃん?」

 

 声。レナだとすぐに気付き、振り返る。

 

「レナ。おはようございますなのです。にぱー」

「あはは。もうこんにちは、かな、かな。梨花ちゃん」

 

 むぅ、もうそんな時間か。私はとことんだらしない寝起きをしてしまったようだ。

 

「どうしたのですか、こんな所で」

 

 別に雛見沢の中なのだから、レナがここにいても特に変な事はないのだが、ここら辺はレナの家の周辺ではない。何か目的がなければこないような気がするのだが。なんて、目的もなくブラブラしようと思っている私が言えた話ではないか。

 

「ちょっと気分転換にね。お散歩」

「お散歩なのですか。ボクもなのです」

「そっか。梨花ちゃんも」

 

 二人して微笑み合う。狂気に落ちてしまえば、そこいらのヤクザなどより恐いレナであるが、普段は優しくて表情豊かな気の良い女の子である事も私は知っている。その笑みに二心はないと確信する。

 

「あのね、梨花ちゃん」

「何ですか?」

「梨花ちゃん、って圭一くんの事が……その、好きなのかな?」

 

 不意にレナがいきなり切り込んで来た。予想もしていなかった攻撃に私の体は硬直してしまう。

 

「あ、ごめんね。いきなりこんな事、訊いて」

 

 その通りだ。いきなりすぎる。私が圭一の事……。

 

「……分からないのです」

 

 少し悩んだ末に私はそう答えた。別にレナに本音を言うのを躊躇ったとかではない。私自身、分からない所があるのだ。

 私は圭一を意識している。特別視している。それは間違いない。……ただそれが所謂、世間一般で言う恋という感情なのかどうかは判断しかねている。

 下手に長い年月を生きて来た弊害だろう。普通の感情というものがどういうものか逆に捉えられなくなっているのだ。

 

「分からない、か。そっか、そうだよね」

 

 しかし、レナは笑う事も怪訝に思う事もなく、私の答えを受け入れてくれた。

 

「レナもね。圭一くんの事、どう思っているか、分からないんだ」

「レナも……なのですか?」

「うん」

 

 意外だ。レナは魅音同様、ハッキリと圭一への好意を持っていると思っていた。そのレナも、分からないのか。

 

「圭一くんと会ってからまだ二か月弱しか経ってないっていうのに変だよね。レナの中ではもっと長く圭一くんと一緒にいた気がするんだ」

「レナ……」

 

 それは事実だ。覚えていないだけで、レナもまた二か月なんてレベルではない長い月日を圭一と共に過ごしている。ハッキリと思い出す事は出来ていなくても、記憶のどこかに残っているものなのだろうか。圭一が言ったように。

 

「だから、圭一くんはレナにとっては特別な存在。でも、それが恋かどうかはまだ分からない。レナでもそうなんだから、梨花ちゃんもそうであって当然だよね」

「圭一はみんなにとって特別な存在なのです。この雛見沢にとっても……」

「そうだね。圭一くんがやって来てから色々と変わったと思う。きっと圭一くんがいなければあの6月の戦いで鷹野さんたちの野望を食い止める事も出来なかったと思う」

 

 レナは私や圭一程、あの戦いの詳細を知っている訳ではない。かつての記憶がある訳でもない。それでも仲間としてあの6月の戦いを戦い抜いた事はしっかりと記憶に刻まれている。

 そして、レナの言う通りだろう。圭一がいなければ昭和58年の6月の牢獄を突破する事なんてとても出来なかった。前原圭一という存在は魅音と私がかつて語ったように村に改革をもたらす新しい風なのだ。新風の導きなくして、この村は困難を乗り越える事は出来なかった。

 

「……だから、私たちにはまだ時間があるんだよ、梨花ちゃん」

「みぃ。時間、なのですか?」

「そう」

 

 笑みを浮かべてレナは言う。

 

「私たちのこの気持ちが恋かどうかはじっくり時間をかけて確かめていけばいいんじゃないかな」

「ボクもレナも圭一の事が好きだとライバルになってしまいますよ?」

「その時は、その時だよ。部活メンバーらしく、真っ向勝負! そうしよう」

「面白いのです」

 

 レナの言葉に私も笑みを浮かべて頷く。ライバルになるのならそれはそれでいい。レナの言う通り、部活メンバーらしく真っ向勝負だ。その際には必ず勝利を勝ち取ってみせる。

 

「今日はレナの家に遊びに行ってもいいですか?」

「うん! 大丈夫だよ。女の子同士、お話しようか」

「みぃ、楽しみなのです」

 

 圭一には悪いが女同士でしか出来ない話というものもある。今日は腹を据えてレナとじっくりと話す事にしよう。未来の事を、これからの事を。

 それも昭和58年の6月を突破した私たちに与えられた権利なのだから。

 

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