ひぐらしのなく頃に圭梨   作:山屋

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第42話:フラグ

「圭一、こんな時間まで寝ているなんて。いくら夏休みだからってだらしないわよ」

「うっせえなぁ。起こしてくれなかったお袋が悪いんだろ」

 

 俺が目を覚ましてリビングに顔を出した時には既に時刻は正午を回っていた。確かにだらしない事だと思うが、学校に行かなくてもいい夏休みなのだからこれくらいは惰眠を貪っても許されるのではなかろうか。

 こんな事、雛見沢に来る前、進学校に通って受験戦争に身を置いていた時期には有り得なかった事だろうな。レナや魅音、梨花ちゃんたちに言っても到底信じてくれなさそうだけど、雛見沢に来る前の俺はかなりのがり勉で真面目君だったんだぜ?

 俺があの……モデルガンでの傷害事件を起こしてしまった時には真面目過ぎる故に考えすぎて暴走してしまったのか、なんて両親には言われたっけ。あの事件の事はなかった事にしていい訳では決してなく戒めとして俺の中に刻まれている事であるが、その話題を親父やお袋の前でするのは流石に躊躇われる。

 俺も辛かったし、被害者の人たちも辛かったが親父やお袋もあの時は自分たちに何か足りない所があったのではないかと苦しんだだろうしな。

 それを思えば家族が崩壊してもおかしくなかった瀬戸際から今の普通の家族にまでなんとか立て直す事が出来たのも奇跡的に思えて来る。全ての転機は雛見沢に引っ越す事を決めた時、か。この雛見沢は俺だけではなく、親父とお袋、俺たち家族をも救ったのだ。

 だから、そんな雛見沢を守り、より良い村にしていく事はある意味、梨花ちゃん個人への恩返しだけではなく、雛見沢全体への恩返しだと思っている。この村はオヤシロ様の祟りだとか噂されるような血生臭い、怪しい村ではない。もっと素晴らしい村だ。

 かつての惨劇を引き起こしてしまったらしい俺ならともかく、今の俺はそう確信している。

 

「はっはっはっ、いいじゃないか、母さん。夏休みなんだし」

「そうやって甘やかすと圭一のためにならないわよ、お父さん」

 

 リビングのソファに寝転がってテレビを見ていたらしい親父が口を挟んでくれる。俺を擁護してくれるのは嬉しいが、確かに俺のためにはならないような事を言っている気もする。

 

「せっかく作った朝ごはんも冷めちゃったじゃない」

「電子レンジであっためればいいだろう? 戦前じゃあるまいし。それにせっかくだから昼飯と一緒に食うよ」

「そんな食べ方していると太るわよ?」

「いいんだよ。俺は少しくらい肉を付けた方が」

 

 雛見沢に来て外で遊ぶ事が多くなってから少しは体は鍛えられていると思うものの、元のがり勉少年であった頃の名残は完全には抜けない。筋肉を付けるにしてもまずは肉を付ける事が必要だ。梨花ちゃんにも言われたしな。今のままじゃ冬の雛見沢は乗り切れないって。

 

「それより圭一」

「なんだ、親父」

「どの娘が本命なんだ?」

 

 いきなり言われて、飲んでいた麦茶を噴き出しそうになった。ほ、本命? 何が、とまで訊く程は流石に鈍くはないが……。

 

「どの娘がって……レナたちの事を言っているんだろうけど、別にそんなんじゃねえよ」

「ほお。あれだけ美少女に囲まれておいて圭一には一切その気はないのか」

「そうだよ。あいつらは仲間。それ以上、意識した事はねえよ」

 

 そんな邪推をされても困るというものだ。大体、そういう事、訊くのは普通女親じゃないのか。親父がなんで気にするんだよ。

 

「うーん。それは残念だなぁ。圭一が彼女らの誰かとくっついてくれれば遠慮なくモデルを頼めるのに」

「仮に俺がレナたちの誰かとくっついたとしても親父の絵のモデルにはさせねえよ」

 

 裸婦を描かせてくれ、とか平然と言ってきそうだからな、この親父。その魔の手からレナたちを守らなければ。

 

「お母さんとしてはレナちゃんと圭一がくっついてくれれば安心だけどねぇ」

 

 そんな話に入り込んで来るお袋。やっぱり恋バナというヤツは男より女の方が色んな意味で熱心だ。

 

「あの年であれだけしっかりした子なんてそうそういないわよ?」

「それはお袋がレナとしか接点がないからだろ。魅音も沙都子も梨花ちゃんもすげえしっかりしているよ。あの年齢の割には」

「あんたも同年代の癖に知ったような事を言うわねぇ……」

 

 同年代だからこそ分かるんだ。俺に比べればみんな何倍も何十倍も大人だ。俺なんかより辛い事も経験したりして、それでもそれを乗り越えて笑っていられる。それだけでみんな尊敬に値する。恥ずかしいからこんな事、口に出さないけど。

 その中でもやっぱり……梨花ちゃんは凄いと思う。

 梨花ちゃんが過ごして来たこの雛見沢での百年間の牢獄というものは俺なんかには想像もつかない戦いの日々であったであろう。その中で俺の暴走が梨花ちゃんを苦しめた事もあったと思うと心が痛むのであるが、その贖罪や梨花ちゃんへの恩返しのためにも俺はこの世界で梨花ちゃんを助けると決めたのだ。

 梨花ちゃんは立派だが、やはり外見相応の弱さも持っている子だと思う。特に俺はやはり詳しく知らないのだが、羽入という長き時を共に過ごして来た相棒を失った事は大きいだろう。

 俺が羽入の代わりになれる、なんて思い上がってはいないが、梨花ちゃんと同じく無数の世界があるという事を知っている者としてある程度は話を聞いてあげる事くらいは出来る。それくらいはしないと贖罪にも恩返しにもならないだろう。

 そんな事を思っていると、親父とお袋がニヤニヤした顔で俺を見ていた。

 

「なんだよ?」

「いや、圭一には本命が決まっているようだと思ってね。なぁ、母さん」

「ええ。そうみたいね」

「はぁ!?」

 

 本命? 梨花ちゃんが、か?

 そんな馬鹿な事を……。俺は梨花ちゃんの事を気にはかけているし、恩義も感じているし、その恩に報いたいとも思ってはいるが、それは本命とかそういうのとはまた別の話だろう。

 全くこの両親は。伊達に夫婦の仲になっている訳ではなく、変な所で抜群の意思疎通を見せるが、変に邪推し過ぎなのも同じだ。

 

「……で、誰が本命なんだ?」

「だから親父。そんなんじゃないっての」

 

 もう徹底的に無視する事にして、朝飯と昼飯を一緒に食べる事にする。梨花ちゃんはこんな寝坊なんてしたりしないんだろうな。しっかりしているからな。

 やはり部活メンバーの中で子供なのは俺だけなのかもしれない。それを思うと少しへこみ、自分の生活改善をしなければならないな、と思う。

 

「ふん。そんな態度だとエンジェルモートに連れて行ってやらないぞ」

「何!? それは困る!」

 

 親父の言葉に俺は素早く反応する。エンジェルモートは我が心のオアシスであるが、普通の喫茶店と比べていささか値段が高い。中学生のお小遣いではそう何度も何度も訪れる事は出来ない場所なのだ。

 その点、親父に連れて行ってもらえばこちらの出費は0だ。この親父でも息子を外食に連れ出しておいて、息子の分の代金を支払うくらいの甲斐性はある。

 

「それじゃあ、親父。昼からエンジェルモートに連れて行ってくれよ」

「本命の娘を聞き出すのが条件と言いたいが、私としてもあそこに行くのはやぶさかではないからな。いいだろう。今日は男二人でパフェを堪能しようじゃないか」

 

 俺と親父は男同士、思いを通じ合わせ、ニヤリと笑みを浮かべる。変態とか言うな。男ならあの楽園には心惹かれてしまうものなのだ。

 

「どこに行ってもいいけど、あまり食べ過ぎてお夕飯を残したりしないでよね」

 

 そんな俺と親父にお袋が懸念を示す。エンジェルモートといってもそこまで馬鹿でかいパフェを食べる訳ではない。その心配は杞憂だろう。

 楽しみだな。まさかレナや梨花ちゃんがエンジェルモートに来ているなんて事はないだろうし、今日はパラダイスだぜ!

 

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