エンジェルモートでパフェと会話を楽しみ、俺たちは帰路に着く事にした。親父には先に帰ってもらってせっかくなので俺はレナと梨花ちゃんと一緒に帰る事にする。
「圭一くんのお父さんにご馳走になっちゃったね」
「みぃ。申し訳ないのです」
「いいって、いいって。少しは金を出させとけばいいんだよ。社会人なんだから」
親父におごってもらって少し申し訳なさそうな顔をしている二人に俺は言ってやる。言った後でちゃんとした社会人なのか、という疑問も湧いて出たが。
親父の職業については息子でありながら俺もそこまで詳しくはない。画家と聞いているし、実際に絵は上手いのは知っている。一応、ちゃんと家計を支えて、息子を学校に通わせたり、急な引っ越しで新しい家と土地を雛見沢で買ったりする程度には稼ぎはあるようだから深く突っ込む事も俺はしていないのだが。
ただ先日のようにたまにお袋と一緒に出掛けて留守にする事はあるものの、基本、年がら年中、家にいるようなのであまり働いているという感じはしないんだよなぁ。
「圭一くんのお父さんって楽しい人だね」
「んー、まぁ、愉快な親父ではあるな」
「ボクたちの事、気に入ってくれているようなのです」
レナの言葉に一応、頷いてみると梨花ちゃんがそんな事を言う。
「いや、親父は変態だから。可愛い女の子ならみんな好きなだけだろう」
「まるで自分はそうではないと言っているようなのです。圭一」
俺の言葉に梨花ちゃんがニヤリと笑って突っ込みを入れて来る。い、いや、俺は違うぞ? 可愛い女の子ならみんな好きとか、そんな事は……。
「いやいやいや、俺は親父とは違うから。別に梨花ちゃんやレナが可愛いからって仲良くしている訳じゃない」
「可愛いかな、かな? 圭一くん」
「みぃ……」
いかん。藪蛇だ。不用意に可愛いとか言ってしまって二人が少し照れ臭そうにする。なんともこそばゆい雰囲気を打ち払うために俺は口を開く。
「みんなは仲間だからな。可愛いとか可愛くないとか関係ないよ」
自分ではいい事を言ったつもりだったのだが、これに二人は微妙な顔をした。
「そう言われるのも……」
「また複雑なのです……」
「ええー」
そうなのか? うーん。女の子って難しい。俺がデリカシーがないだけなのかもしれないが。
「とはいえ、圭一も変態さんだと思うのです。エッチなワンワンなのです」
「り、梨花ちゃん、道端で人をそういう風に言うのはやめてくれ……」
「では、違うのですか?」
悪戯っぽい目で梨花ちゃんに見上げられる。違う、と声を大にして言いたいのだが……。
「うーむ……」
「やっぱりエッチなワンワンさんなのです」
普段の部活とかで見せる変態的なノリ(自覚はしている)を考えると堂々と否定する事も出来ないんだよなぁ。部活メンバー一同も俺の事をそういうキャラだと理解した上で付き合ってくれているとは思うものの。
「今日は居ませんでしたけど詩ぃがエンジェルモートでバイトしていたらきっと見とれていたに決まっているのです」
「詩ぃちゃんがエンジェルモートの制服姿だとすっごく可愛いからねぇ~」
梨花ちゃんやレナになんだか好き勝手言われる。詩音のエンジェルモートの制服姿は確かによく似合うと思うし、その、胸も大きめで目を惹かれてしまうかもしれないが、目の前でそう言われるのには意義を唱えたい。
「いや……そんな事は……」
「圭一はボクやレナがエンジェルモートの制服を着ていてもきっとあまり反応はないのです」
「いや、そんな事はないって!」
シュンとした様子で言う梨花ちゃんに否定の言葉を発するが、言った後で否定するのもそれはそれでマズい事に気付いた。
「圭一くんはレナや梨花ちゃんのエンジェルモートの制服姿なんて部活で見慣れているんじゃないの?」
「そ、それもそうなんだが……それでも魅力がない訳じゃないって」
「そうなのかな、かな」
レナが赤い顔をする。マズいな。地雷原をどんどん突き進んで行っている気分だ。
「ボクの小さなお胸でも圭一を悩殺出来ますか?」
「そ、それは……」
即答しかねる。悩殺されるのならそれはそれでマズい気もしたし。
「みぃ~。前に色気があると言ってくれたのは嘘だったのです」
「いやいやいや、あの時の梨花ちゃんは確かに色気があったぞ! それは嘘じゃないって!」
必死で否定するとレナがこちらを白眼視していた。
「梨花ちゃんに色気を感じたの? 圭一くん」
「あー、いや、それはだな……その」
「みぃ、やっぱり嘘だったのですか?」
「そ、そういう訳でもなくて、その……」
やっぱり地雷原だ! 何を言ってもアウトな気がする。正解の選択肢がない。全部、爆弾に繋がっている!
「く、レナも梨花ちゃんも魅力的な女の子だよ。俺なんかには勿体ないくらいのな!」
無理やり締めるべく声を大にして言う。街角の往来で少し恥ずかしかったかな。
この言葉にレナと梨花ちゃんは沈黙。マズかったか? 良かったのか?
「圭一はやっぱりジゴロの素質があるのです」
梨花ちゃんがぽつりとそんな事を言った。
「あはは、でもレナたちは自分たちが圭一くんには勿体ないなんて思っていないよ」
「圭一は少し自己評価が低い気がするのです」
「そうかぁ? 俺なんて家事も買い物もロクにこなせないしなぁ。それに比べてみんなは大人だと思うよ」
部活メンバーの中で俺だけ子供な気がするんだよなぁ。みんなと一緒に過ごす時間が長くなればなるほど。勝っている所を探すとすれば……勉強が出来る事ぐらいだと思うが、これはあまり自慢にならないと自分では思う。勉強が出来るというのと頭がいいというのはまた別だからだ。勉強が出来るのはそういうのを要領よくこなせるというだけで人間としての価値にはあまり繋がらないと思う。
勉強が出来るのが立派な人間なら、あんな傷害事件なんて起こさないしな……。
「でも、圭一には未来を切り拓く力があるわ」
梨花ちゃんが大人びた口調で言う。レナが側にいるが、レナにならある程度聞かれても不審がられないという判断だろうか。実際、レナはあまり気にした様子はない。
「そうだね。圭一くんにはみんなを引っ張っていく才能があると思うよ。それは梨花ちゃんと一緒で私もそうだと思うな」
「そ、そうかなー。みんなを引っ張るのなら魅音とかのがよっぽど出来るんじゃないのか?」
「魅音にはない種の才能よ。圭一。貴方が持っているのはね」
真摯な目で梨花ちゃんに見据えられて言われる。俺にそういう才能があるのかな……。魅音から部活の部長と学校の委員長の座を譲り受けたものの、キチンとその役目がこなせているのかに関しては自信がない。
「運命なんて金魚すくいの網みたいに簡単に打ち破って見せると言ってのけた自信を普段から持っていて欲しいわね」
梨花ちゃんはそう言うと笑みを浮かべた。あの時の自分は自分でも知らない得体の知れない力が自分自身を突き動かしていたというか。自分が自分じゃないみたいだったな。あの時は過去の障害事件やかつての世界での自分の罪への後ろめたさもなく、前を向いて突き進む自信に溢れていた。
「レナも圭一くんは自信満々の時の方がいいと思うかな、かな」
レナの方も微笑んでそう言ってくれる。く、この前原圭一様とした事が、とんだ事で自分を信じられなくなっていたのかもしれない。あの6月の戦いの時のように、自信に溢れて何が何でも運命の牢獄を打ち破るくらいの気概を普段から持たないといけないな。
「へっ、任せろ。これからも俺は奇跡を見せ続けてやるぜ。この前原圭一様を信じていな、二人共」
あの時のようにもう一度出来るかは分からないけど、やってみせるという気概を持って何事にも挑む。当たっても砕けたりはしない。俺の中の赤い炎が全ての運命を打ち破って幸せな未来を切り拓いてやるぜ。
俺の言葉に二人は微笑むのだった。