ひぐらしのなく頃に圭梨   作:山屋

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第45話:お墓参り

 夏休みも過ぎ去るのは早いものでもう8月の半ば。お盆だ。

 毎日、みんなと遊んだり、部活したりしているから無為に日々を過ごしている感じは全くないのだが。むしろ毎日が充実している。

 雛見沢に来ての初めての夏休みだが、これまでこんな楽しい夏休みはなかったな……。

 そんな事を思っていると、

 

「圭一、私たちはご先祖様に挨拶しに帰るが、お前はどうする?」

 

 親父とお袋がそんな事を言って来た。まぁ、お盆だしな。前原家は別に俺と両親の三人だけを残して他はいないなんて事はない。他の親戚への挨拶とか前原家の墓へのお墓参りとかもあるから普通は元住んでいた場所に一旦、帰らないといけない所だろう。

 

「んー、俺は雛見沢にいるよ。お盆もみんなと過ごしたい」

 

 俺がそう言うと親父とお袋は俺を無理に連れて行く事もなく、了承してくれた。一人で留守番となると、毎日の食事が不安になるのだが、そこは大好きなカップ麺たちやレナやらが料理を作りに来てくれるだろうという楽観的な予測もあった。

 そんな訳で今、自宅に一人である。何をしたものかと思っていると家のチャイムが鳴った。出て見ると、レナに魅音、沙都子に梨花ちゃん、さらに詩音も加えての全員集合であった。

 

「みんな。どうしたんだ?」

「圭一くんも一緒がいいだろうと思って呼びに来たんだ」

「一緒?」

 

 何の事がすぐには分からなかったのであるが、魅音が言う。

 

「お盆だよ、お盆。おじさんたちはみんなでお墓参りに行くんだ」

「沙都子と梨花ちゃまのご両親は亡くなられていますからね。私たちがお墓参りに行かないと」

 

 姉の言葉に続き、詩音も言い、そういえばそうだと気付く。俺やレナや園崎姉妹の周りでは亡くなった人はいないが、沙都子と梨花ちゃんはこの五年間の祟りで両親を亡くしている。それに沙都子の叔母と叔父も。ロクでもない人物だったとしても、死んだら仏。お墓参りをしてやるのが日本人としての義理であろう。

 

「まぁ、わたくしは両親にはとても顔向け出来ないのですが……」

「みぃ、それはボクも同じなのですよ、沙都子」

 

 少しだけ気落ちした様子で沙都子と梨花ちゃんが言う。沙都子の両親の事についてはよく知らないが、梨花ちゃんの両親は山狗に殺されたんだっけな。それを梨花ちゃんは自分は見捨てたと罪の意識と後悔の念を抱いている。それを知っている俺は二人に声をかける。

 

「大丈夫さ。二人の両親も二人の顔を見れば天国で安心して暮らせる。そのためにも元気な顔を見せてやろうぜ」

「……そう、ですわね」

「……そう、なのです」

 

 俺の言葉に沙都子と梨花ちゃんは頷く。こうして今日の予定はみんなでお墓参りに決定した。

 興宮の方にあるというそれなりに大きな墓地にみんなして向かう。詩音が来ているという事で葛西さんも一緒であり、車を出してくれたので快適だった。夏場ではあるが、車の冷房が効いた車内でくつろいでいるとお墓の前の所で葛西さんは車を停めて俺たちはお墓に行く。

 お墓参り用のセットは揃えてあるようだ。捧げるお花に新聞紙にマッチ棒。お墓参りの基本だ。

 墓地の中に入るとまずはお墓の掃除から始める。これも様式美。北条家と古手家の墓にお水をかけて、綺麗に洗い、その後、花を捧げる。

 沙都子も梨花ちゃんもそれぞれのお墓の前で長い事、手を合わせて、天国のご両親に語り掛けていた。俺たちもその友人として、北条家の墓と古手家の墓の前で手を合わせる。

 沙都子の両親に梨花ちゃんの両親か。あいにく、俺は顔を合わせる事は叶わなかったが、二人は今も元気に立派に生きているという事を報告する。それで少しは天国で安心して暮らせるだろうか。

 そんな事をしていると、声がかかった。

 

「おんやぁ。これは皆さん。奇遇ですねぇ」

 

 大石さんだ。相棒の熊谷刑事を連れて二人して、墓参りに来たようだ。

 

「大石さん。ダム工事の現場監督のお墓参りですか」

「おや、前原さんはお詳しいようで。その通りですよぉ。おやっさんが帰って来るんだから。迎えてやらないといけませんからねぇ」

 

 いつも通りの掴み所のないくせ者刑事の顔と口調ではあったが、それも少し和らいでいるように思える。大石さんも現場監督の事件の真相を解き明かすという妄執から解き放たれて、大分、気楽に過ごせるようになったのではないだろうか。

 

「俺たちも一緒に参らせてもらっていいですか?」

 

 なので、自然と俺の口からはそんな言葉が出ていた。オヤシロ様の祟り。そう呼ばれる事になった毎年の事件の最初の犠牲者。ある意味、全ての始まりとなった人。その死を悼む事は俺たちにも必要だろうと思った。

 

「構いませんよ。おやっさんは賑やかなのが好きでしたからね。人が多い方が嬉しいでしょう。生きていればきっと前原さんの事も気に入られたと思いますよ」

 

 許可を頂いたので大石さんと熊谷さんと一緒に現場監督のお墓の前に行く。そこに新たに現れた人物が一人。

 

「おや……皆さん」

「監督……」

 

 入江監督だ。彼もお墓参りに来たようだ。彼の身近で亡くなられた人はいないと思うのだが、本人は申し訳なさそうな顔でやや所在無さげに墓地に突っ立っている。

 

「私も山狗と結託していた者として責任がありますからね。許される事ではないとは思いますが、山狗の犠牲になった古手夫妻や山狗が祟りとして利用した北条夫妻、それにダムの現場監督さんのお墓にお詫びの言葉をお届けしようと思いまして……」

 

 監督は本当に面目なさそうにそう言う。本人も言ったようにやはり、責任を感じているのだろう。特に梨花ちゃんの両親を山狗が殺した事に関しては止めようと思えば止められたかもしれないのだ。彼の立場ならば。鷹野さんや山狗が独断でやった、などというのはなぐさめにもならないのだろう。

 

「そんな事はないのですよ、入江」

 

 そんな監督に梨花ちゃんが駆け寄り微笑みかける。

 

「ボクの両親も入江の事を恨んだりはしていないと思うのです」

「そうでしょうか……」

「わたくしの両親もそうだと思いますわ、監督」

「沙都子ちゃん……」

 

 梨花ちゃんと沙都子。二人にそう言われ、監督は幾分か背負っていたものの重みが軽くなったような感じで表情を和らげる。

 一連のオヤシロ様の祟りにおいてある意味、最大の被害者と言える二人からの言葉は胸に染み入った事だろう。

 

「んっふっふっふ。後悔しても何も始まりませんよ、入江医師。その後悔があるのならこれから先の事を考えましょうや」

 

 大石さんも監督にそう言葉をかける。

 

「……そうですね」

 

 フッと、監督は笑みを浮かべた。俺も全てを知っている訳ではないが、彼の立場は複雑なものだったのだろう。名目上はこの地に来ていた自衛隊のトップという立場にありながら、実際は富竹さんのように鷹野さんや小此木たちにいいように利用されていた節がある。そんな自分も許せないのだろうが、監督にとっては。

 

「オヤシロ様の祟りの終わりを天国のみんなに教えてあげるのです。ボクたちが」

 

 梨花ちゃんがそう言って微笑む。そうだ。雛見沢でオヤシロ様の祟りなんていう血生臭い事はもう起こらない。もう祟りは終わったのだ。それが亡くなられた人たちにとって何よりの供養になるのではないだろうか。

 

「んっふっふ、それでは皆さん。良いお年を」

 

 大石さんがいつもの去り際の決まり文句を言って、熊谷さんが一礼して、墓地から去って行く。それを見届けた後も俺たちはしばらく残り、亡くなられた人たちへの追悼の想いを伝える事にした。

 こんなに真剣にお盆という日に向き合った事はなかったかもしれないな。

 俺はみんなと一緒に亡くなられた人たちに祈りを捧げながらそんな事を思うのであった。

 

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