お墓参りを終えて、流石にエンジェルモートで一服という気分でもなかったので葛西さんに車を回してもらい、ひとまず俺の家で集まる事にした。園崎家を除けば家の広さではこの面子では俺の家が一番大きい。
園崎家は広いのだが、そう簡単にみんなで集まる場にする訳にはいかないだろう。今はお盆で各地にも散らばっている大勢の親戚たちも集まっているだろうし。
「お姉は親戚一同に挨拶するのが面倒で逃げ出して来たんですよね」
「マジか。そんな事でいいのか? 次期頭首」
「うっさいなぁ、詩音。圭ちゃんも便乗しないで。おじさんの勝手だよ」
詩音のからかいに乗ってみたものの、実際、面倒臭そうだろうとは思う。園崎の親戚筋となるとその数はかなりの人数になるだろう。次期頭首としてそれら全員の御機嫌取り……とまではいかずとも毅然とした態度で出迎えるのはなかなか肩の凝りそうな事だ。
「詩音だって挨拶くらいはしなよ」
「私は忌み子ですから。正統後継者のお姉とは違いますよ」
「こういう時だけ都合良く……」
魅音が詩音を睨み付けるが詩音は気にした様子もない。そう言えば、と俺は梨花ちゃんの方を向く。
「梨花ちゃんも一応、御三家だろう? 園崎家の人や公由家の人たちに挨拶しないでいいのか?」
梨花ちゃん自身の古手家は梨花ちゃん一人を残して全員亡くなられているが、それでも御三家の一人としては他の二つの家の人たちに魅音程ではないにせよ顔を見せるくらいはしないといけないのではないのだろうか。
「みぃ、本当はそうなのですけど、ボクも魅ぃと同じで面倒なのです」
「そうかぁ。まぁ、仕方がないな」
「ちょっと圭ちゃん。おじさんの時と反応が違うように思うんですけどー」
梨花ちゃんの答えに頷いていると、魅音が唇を尖らせた。
「いや、梨花ちゃんはまだ小さいしな。かたっくるしいのが嫌なのは当然だろ」
俺は気遣いを言ったつもりなのだが、この言葉は魅音と梨花ちゃん、双方を怒らせてしまったようだった。
「ぶーぶー、贔屓ずるーい」
「圭一、ボクが小さいとはどういう意味なのですか」
「え、あ、いや……」
二人に睨まれ、俺は助けを求めるようにレナを方を見る。
「ダメだよ圭一くん。女の子に小さいなんて言ったら」
窘められてしまった。デリカシーがなかったか、俺は。
でも、お盆や正月で集まった親戚への挨拶は面倒臭いものだからな。俺も都会にいた頃は毎年二回それを経験しているからよく分かる。今回はまぁ、ボイコットさせてもらった訳だけど。
「着きましたよ」
そんな事を話している内に葛西さんの車が俺の家の前で停車する。乗っている間、感じていたが、急発進もなければ急停車も、急な加速・減速もなかった。葛西さんの本業は詩音の運転手ではないのだが、運転手としても一流だ。これがプロフェッショナルというヤツだろうか。
俺たちは葛西さんに礼を言い、車から降りる。詩音も俺の家に付いて来るようだ。葛西さんは流石に詩音が俺の家にいる間、ずっと待っているという訳にはいかないのか帰って行った。もっとも、詩音が帰る時にはまた呼び出される羽目になるのだろうけど。
「圭ちゃんの家ですか。私はあまり来た事がないんですよねー。せっかくなので噂の前原屋敷の全貌を解明してみましょうか」
詩音がそう言い、興味深そうに俺の家の中を見回す。
「あんまり面白いもんじゃないぞ」
そんな詩音に苦笑しながら俺も家に入る。
「この夏休み。よく圭一くんの家に来るね」
「圭一の家は広いから集まるのにはもってこいなのです」
レナと梨花ちゃんがそんな事を言う。その他にも罰ゲームでメイドさんとして俺に仕えるとかもあったしな。かつての世界の事はよく思い出せていない身だが、この世界は他の世界よりもみんなが俺の家に来る事が多い気がする。
まぁ、かつての世界は昭和58年の6月で終わっていたみたいだから、それを乗り越えた後の8月になっているこの世界は必然的に俺の家を訪れる事も多くなるというだけかもしれないが。
「皆さん、圭ちゃんの部屋でいかがわしい雑誌の類がないか、しっかり捜索しましたかー? あったら吊るし上げですよー」
詩音がまたとんでもない事を言う。そう来ると思って以前、みんなに来てもらう時から事前に対策済みだ。その手の雑誌は全部捨ててある。断腸の思いで。
「詩ぃ、ボクたちも圭一の部屋を探したのですが、残念ながら見つからなかったのです」
「こっちのリビングとかに隠してあったりするのでしょうかね」
「リビングなんかに隠すかよ……」
何が残念なんだ、梨花ちゃん、と思いながら沙都子の言葉に応える。リビングなんかにそんなもの隠したら両親に見つかるだろうが。
「圭一のオットセイを刺激するのはボクの役目ですから、そういう本に頼る必要などないのです」
そんな事を言っていたらさらに梨花ちゃんが爆弾発言。
「は、はうぅぅぅ、圭一くんのおっとせい……ダメだよ梨花ちゃん、そんな事言っちゃ!」
「げふぅっ!?」
何故か興奮したレナのレナパンを俺が喰らう羽目になった。何故、俺を殴る……。
「みぃ。レナ、落ち着くのです」
「あはは、梨花ちゃんにそういうのはまだ少し早いって」
梨花ちゃんがレナをなだめ(梨花ちゃん自身のせいなのだが)、魅音がそんな梨花ちゃんに苦笑いを漏らす。
「梨花ちゃまに圭ちゃんが手を出したりしたら、村のお年寄りたちが黙っていませんよ、圭ちゃん」
「だからなんで俺に言う」
手を出すつもりなんてないっての。などと口に出して言うとまた地雷踏みそうな気がしたので言葉にはしないが。
「ボクとしては構わないのですよ?」
「梨花~。そういう悪ふざけもほどほどになさいませ」
「悪ふざけではないのですが……」
なにかと積極的な事を言う梨花ちゃんに沙都子も呆れた様子で苦言を呈する。本気じゃない、よな? 梨花ちゃんの事が図れないのは前からだが、最近はさらに、だな。
何度も昭和58年の6月を経験して100年の年月を生きた事を考えれば、少なくとも俺の意識では10数年しか生きていない俺では全てを察するなど出来なくて当然か。
「圭一さんのご両親はお留守でしょうか」
「ああ。親父もお袋もお盆って事で都会の方に帰ったよ。俺だけ雛見沢に残ったんだ」
「それはあまり褒められた事じゃないかもしれないけど、圭ちゃんが雛見沢を優先してくれた事については素直に嬉しいかな」
「ボクもなのです」
勿論、雛見沢をあまり離れたくはないという気持ちがあったのは事実だが、今更、元の住み家に戻る気がしなかったんだよなぁ。進学校での受験戦争、モデルガンでの傷害事件。どれも戒めとして忘れてはいけない事だが、積極的にその出来事があった場所の近くに戻って平然としていられる程、俺のメンタルは強靭無比ではないのだ。
「圭一のご両親が留守ならばボクたちが面倒を見てあげないといけないのです」
何故か嬉しそうに梨花ちゃんがそう言う。随分、張り切っている様子だ。
「ふふふ、またレナたちがご飯作ってあげるね、圭一くん」
「お、おう。みんな、悪いな」
「お気になさらないでくださいませ」
梨花ちゃんに限らずみんな乗り気だ。他人の面倒を見るのがそんなに楽しいのか?
「うーん。圭ちゃんは恵まれすぎですねぇ。いつかバチが当たりますよぉ?」
詩音だけが少し冷めた目で俺を見ていた。
確かに俺なんかのためにみんなが世話を焼いてくれるのは恵まれすぎという自覚はある。
「いいのですよ、詩ぃ。圭一には返し切れないくらいの恩義があるのです」
「何を言うか、梨花ちゃん。俺の方こそ梨花ちゃんには返し切れない恩が……」
そう二人で言うと周りの視線が一斉に集まる。
「圭ちゃん~。梨花ちゃんに返し切れない恩って何~?」
「梨花~、圭一さんに恩義なんて何があるんですの~?」
二人して失言だった。俺と梨花ちゃんは互いにしまったという顔を見合わせるのだった。