結局、周りに追及された俺と梨花ちゃんのお互いの恩義はあの6月の鷹野さんたちとの戦いの事で他のみんなにも話せる範囲の事を持ち出したり、以前に罰ゲームとはいえ面倒を見て貰ったりしたという事でなんとか誤魔化し、その場を乗り切った。
何かと鋭いレナが追及にあまり積極的に加わらなかった事も大きい。……しかし、あのレナの全て知っているよ、というような顔はなんだったんだろうなぁ。何も言わなかったが、それが逆に怖ろしくもある。レナは梨花ちゃんみたいにこれまでの世界の記憶がある訳でもないのに何かと達観していて大人な一面があるからなぁ。どこまで推し測る事が出来ているのやら。
「とりあえず夕食を作ろうか」
なんて思っていたらレナから提案だ。皆、当たり前のように俺の家で夕食を作ってくれて、俺の家で食べていくつもりのようだ。みんながいないと俺はカップ麺で済ませるつもりだったので嬉しいのだが。
「みんなに悪いだろう」
形だけでもと俺が遠慮する様子を見せるが真っ先に梨花ちゃんに否定された。
「別に悪くはないのです。ボクたちの腕を振るわせて欲しいのです」
にぱー、と笑って梨花ちゃんが俺にそう言って来る。他の面々も続く。
「まぁ、圭一さんを放っておく訳にもいきませんしね」
「圭ちゃんは大人しくおじさんたちの世話になっていればいいよ~」
「はぁ、圭ちゃん。ホント、恵まれてますね~」
沙都子と魅音は笑っていたが、詩音は呆れている様子だ。俺も自分でも女子たちに食事の面倒を見てもらいおんぶにだっこ状態なのはどうかと思う。別に結婚している訳でもないのに。……なんて事を言うとさらに火種になりそうだとは俺でも分かっていたので口には出さなかった。
「お、俺だってなぁ! その内、料理くらい身に着けてみせるさ!」
「明日やろうは馬鹿やろうだよ、圭一くん」
「圭ちゃんのその内は何年、いや何十年先になる事やら」
俺の言葉にレナと魅音が突っ込みを入れて来る。た、確かに、俺が料理出来るようになる日がいつ来るかは全く見通しが立たないのも事実であるが……。
「いいのですよ。圭一のご飯はボクが毎日作ってあげるのです」
「おお、梨花ちゃま。大胆な事言いますね~」
そんな中、梨花ちゃんがそう言って詩音がからかい混じりの声をかける。梨花ちゃんが毎日ご飯を作ってくれるのなら幸せだろうけど、申し訳なさすぎる気もするなぁ。
「梨花ー、圭一さんなんて甲斐性なしですわよ、きっと」
「それは承知の上なのですよ、にぱー」
沙都子が苦言を呈するが、梨花ちゃんは分かっているとばかりに言い切る。こうも断言されると異論を唱えたくもなるのだが、甲斐性のある男になれるか自信がなかったので何も言わないでおく。
「だからこそ面倒を見る甲斐があるのです。圭一はだらしなさでは部活メンバー1なのです。ダントツで」
「それは……褒められているのか……?」
「多分、褒めてはいないんじゃないかな、かな?」
ニコリとして梨花ちゃんが言い切った事に俺は疑問を投げかけるとレナも首を傾げて言う。やっぱり褒められてはいないよな、これは。
「俺だって一人暮らしとかすれば身の回りの事くらい自分でするさ」
「一人暮らしでもカップ麺で毎日過ごす圭ちゃんの姿が見えるねー」
「っていうか圭ちゃん。一人暮らしの予定あるんですか? 雛見沢から出て行くんですか?」
何気なく詩音が言った言葉だったが、それに他の面々は反応して俺の方を見る。な、なんで、そんなに過剰に反応するんだ。
「んー、それは分からないな。高校進学、大学進学……それに就職。今はあまり考えていないけど、将来的にはそういう事も有り得るのかもしれない」
俺の言葉にみんな黙り込む。気楽な会話から入った話であるが、意外と重い話になってしまったという感じを覚える。梨花ちゃんも聖ルチーア学園に通ってみたいと言っていたが、俺も高校や大学は興宮や鹿骨市を飛び出してもっと離れた所にある学校に通う可能性もない訳ではない。
こんな事を言うのも何だが、雛見沢も興宮も田舎だ。学校のレベルはそれなりに知れているし、就職口だって限られて来る。大きく社会に飛び出そうと思うのならいずれ雛見沢から飛び出さないといけない時が来るのかもしれない。
「まぁ、この雛見沢には小さな分校が一校あるだけですしねー。あの学校だっていつなくなっちゃうか……」
しんみりとした雰囲気になってしまった場に詩音が追い打ちをかける。雛見沢分校は一応、学校として正式に認められているが、所属する先生は知恵先生と校長先生の二人だけで雛見沢自体の少子化もあっていつなくなってもおかしくない。本来なら興宮にある学校に通う方が自然なくらいなのだろう。俺たちは。
「世知辛い話なのです」
梨花ちゃんがぽつりと呟く。梨花ちゃんは幾度となくこの世界を繰り返している訳であの分校にも通いに通い慣れているだろう。それだけにあそこがなくなるという話になれば感慨深いのは俺たち以上なのかもしれない。
「そう言う梨花ちゃんだって聖ルチーアに行きたいとか言っているじゃないか」
「ええっ、そうなの、梨花ちゃん?」
「私としては大反対なんですけどねぇ……」
俺の言葉にレナが反応し、詩音が苦い顔をする。周りの注目を集め梨花ちゃんは「みぃ」と言った。
「ボクは雛見沢を嫌いな訳ではないのですが、外の世界というものを知ってみたいのです」
「まぁ、そう思うのも当然かぁ。雛見沢は小さい世界だしねぇ~」
そんな梨花ちゃんに肯定的な意見を返すのは魅音だ。自由奔放が信条の魅音らしい意見であるが。
「……でもそれで圭一と離れる事になるのは少し嫌だとも思うのです」
と思っていたらまた梨花ちゃんから爆弾発言が。これみよがしに詩音がそこに食い付く。
「それならやめておいた方がいいですよ、梨花ちゃま。聖ルチーアなんてロクな所じゃないんですから」
「以前、通っていた詩音はそう思うのか?」
「勿論ですよ、圭ちゃん。あそこは酷い! そもそも挨拶がご機嫌よう、なんて世界がこの日本に存在している事自体が驚きですよ! もう華族とかもないんですよ! 今は!」
熱弁を振るう詩音。それ程、嫌な場所だったのだろう。詩音にとっての聖ルチーアは。
「それにこんな事言うのも何ですが、学費とか払えるんですか、梨花ちゃま」
「みぃ……それは悩みの種なのです」
お嬢様学校だってくらいだから聖ルチーアは学費は高いんだろうな。普通の学校より。両親を亡くしていて一応、公由村長が保護者という事になっているらしい梨花ちゃんであるが、高額な学費を頼むのはいかに梨花ちゃんを猫可愛がりしている村長さんに対してでも遠慮なく言える事ではないだろう。
「うーん。圭一くんも梨花ちゃんもあまり雛見沢から外に出て行くのはよくないとレナは思うんだけど……」
そんな中、黙って話を聞いていたレナが口を開く。一度、雛見沢から出て行って、戻って来たレナだ。そこの所に思う所があるのだろう。
「そうですわよ。梨花も圭一さんも。そんなに雛見沢から出て行きたがる事もないのではなくて?」
それに乗っかり沙都子も言う。これに梨花ちゃんは少し考え込んだ様子を見せる。
「またじっくり考えてみるのです。まだボクたちに時間はたっぷりありますし」
「そうだな、梨花ちゃん。俺たちが勝ち取った時間はたっぷりある」
すぐに決めないといけないという事もないだろう。進学の事については。デリケートな話題である事もあって、その後、この話題を口に出す者はおらず、みんなが作ってくれた夕食を俺は堪能した。
それにしても進学、就職か……。いずれは向き合わないといけない事なのは分かっているが、今は、まだ。
今は、まだこの雛見沢での楽しい日々を満喫したいな。