ひぐらしのなく頃に圭梨   作:山屋

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 あけましておめでとうございます。
 新年を迎えましたが、本年度も圭梨を推しに推して圭梨派の未来のために少しでも貢献していこうと思います。
 今年もよろしくお願いします。


 ひぐらし令? ……そんな世界線は知りませんね。



第50話:乗り越えた先には

 興宮は雛見沢に比べれば遥かに施設が充実しているとはいえ、それでも片田舎の地方都市に過ぎない。見て回る場所など限られているし、圭一はともかく私のように幼い身で服屋でいいデザインの服を探すというのも場違いだろう。

 いずれは私のような小学生でもファッションに凝ったりする時代が訪れるのかもしれないが。

 結局、いつまでも炎天下を歩いているのも何だと言う事で適当な喫茶店に落ち着いた。二人してアイスティーを頼んで、喉を潤す事にする。コーヒーは苦くて苦手だが、紅茶なら透き通ったような味わいで私好みだ。庶民の夏の飲み物と言えば冷えた麦茶と相場が決まっている中で贅沢ではあるが。

 

「うーん、大体、見て回ったかな。梨花ちゃんはどこか行きたい所とかあるか?」

「あまり思い浮かばないわね……」

 

 不覚。圭一に任せておいてもロクなデートコースなどにならないだろうと思って私が主導したのだが、私もまだまだと言う事か。大体、小学生が気軽に入れる所というものが少なすぎるのよね。将来的には変わっていくといいんだけど。

 それでもなんとか頭を回転させて、行く場所を探してみる。

 

「そうね。ゲームセンターとか。私、一回、行ってみたいのだけど……」

「ゲーセンだって? ダメダメ。そんな危ない所に梨花ちゃんみたいな可愛い女の子を連れて行けないよ」

「そんなに危ないの……?」

 

 喜一郎にもゲームセンターはダメだ、と言われた事がかつてある。確かに煙草の匂いで充満している薄暗い場所であるというようなイメージであるが、ゲームセンターと言えば。

 

「ゲーセンなんて不良とかおっさんとかのたまり場だって。とても梨花ちゃんみたいな女の子の行く所じゃない」

「そうなのね……。いつか女の子でも気軽にゲームセンターに行ける時代が来るといいわね」

「来るかなぁ? まぁ、ともかくゲーセンは却下だ」

 

 却下されてしまったが、それも仕方がないか。私もせっかくの圭一とのデートを不良などに邪魔されて嫌な思い出を作りたくはない。

 

「今が夜ならバーにでも行ってギムレットと洒落込むんだけどね……」

「おいおい、未成年がカクテルとかダメだって」

 

 私の言葉に圭一が慌てて、制止をかける。そもそもそんなお洒落なバーなんてこの興宮にはないけれど。

 

「あら、ベルンカステルワインの味を知らないの、圭一。あれは絶品よ」

「冗談、だよな? そんな日常的にワインを飲んでいるような言い方……」

「ふふふ、どうかしらね」

 

 けむに巻く私の言葉に圭一の顔が困惑に染まる。そういう顔も私好みだ。圭一は感情豊かで表情がころころ変わる。笑っている顔、困っている顔、焦っている顔。それにかつての惨劇の時に見せた理不尽な事に対して怒っている顔、悲しんでいる顔、怯えている顔、思案している顔。何よりも私が好きなのは、運命を打ち破ると宣言し、それを有言実行する時の、ヒーローの顔であるが。

 かつての受験ノイローゼで過ちを犯してしまった時期は根暗な顔で淀んだ目をしていた、と本人は語っているが、今の圭一を見ていると想像が付かない。

 これも雛見沢という場所の恩恵だろうか。田舎育ちの私は都会に憧れてしまうが、都会で育った圭一は田舎で心癒されるものがあったのだろう。勿論、レナや魅音、沙都子、それに思い上がりかもしれないけど私といったかけがえのない仲間に恵まれた事もあるのだろうが。

 私は、その仲間という域を飛び越えて、もう一歩先に進みたいのだけれども。

 

「ここのお茶も美味いけど、やっぱりエンジェルモートには及ばないかな……」

「あら、圭一はエンジェルモートの可愛い制服を着た女の子を見たいだけじゃない?」

「そんな事は……!」

 

 私の言葉に圭一は慌てた顔を見せる。この顔も、好きな顔だ。

 

「女の子とのお茶の途中に別の女の事を考えるなんてやってくれるじゃない」

 

 だからつい意地悪してみたくなる。私の言葉に圭一は少し困った顔の後、照れ臭そうに続けた。

 

「今は、梨花ちゃんの事しか考えていないよ」

「えっ」

「今は、な。梨花ちゃんの事しか頭にない。梨花ちゃんが楽しんでくれているのか、退屈していないのか、とかな。なんせ、俺は女の子と二人っきりでお茶をするなんてあまり経験がないからな……」

 

 今度は照れ臭く、いや、赤くなるのは私の番だった。

 圭一がそこまで私の事を考えてくれていたのか……。

 基本的にはデリカシーのない癖に、要所要所では抜群の気配りを見せる男だ。相変わらず。

 その秘められた思慮の深さがあったからこそ、あの6月の牢獄を、惨劇を打破する事が出来たのであろうが。

 

「ふふっ、嬉しいわ、圭一」

「いや、俺なんかがこんな事を考えるなんて思い上がりかも知れないけど……」

「そんな事はないわよ。私は嬉しいわ」

 

 赤面しそうになる自分を堪えて、自分の想いを圭一に告げる。圭一は顔を真っ赤にして視線をそらした。

 

「ま、まぁ、今日は梨花ちゃんとの一日だって決めているからな……。最低限のエスコートはするよ」

「心強いわ、圭一。あの6月の戦いの時みたい」

「あの時の俺は、いい意味でどうにかしていたよ。あんな真似は二度と出来ないさ」

「そうかしら?」

 

 圭一なら再び困難に直面したとしてもそれを打ち破ってくれる気がする。本人が言ったように金魚すくいの網を破るかの如く、簡単に、あっさりと。

 

「本当の俺はあんなデカい事が出来るような人間じゃない。もっとちっぽけで矮小で、大した事のない男さ」

 

 それはある意味、私の事を信頼しているから言える言葉なのかもしれない。

 自信過剰なくらいで丁度いい。それが部活メンバーの鉄則だ。その中でも圭一は根拠のない自信とハッタリでこれまでやって来た。

 周りの人間を引っ張っていく着火剤としての役割、赤い炎としては迂闊に弱音を吐く事も出来ないであろう。

 その圭一が今は弱音を吐いている。本当の自分を吐露しているように私には思えた。

 どちらが本当の圭一なのかと少し思う。部活の時みたいな自信過剰な圭一、今みたいな弱気な圭一、6月の戦いの時みたいな圭一。

 いや、どれが本当とかはないか。どれも合わせて前原圭一という男なのだ。

 時には狂気に飲まれてレナや魅音を殺して惨劇を起こしてしまうのも、私にとっての救世主として抜群の洞察力と行動力をもって、惨劇を未然に防いでくれる圭一も。

 全部、同じ人間なのだ。

 人間というものはそういうものだろう。強いだけの人間はいないのだ。誰もが弱い一面を持っていて、それでも強がって、強い自分でいられるように願って生きている。

 それが人生を生き抜くという事か。

 

「圭一はちっぽけなんかじゃないわよ」

「そうかな……?」

「だって」

 

 だけど、圭一がちっぽけなだけの人間であるはずはない。それを私は良く知っている。

 

「だって、私を救ってくれたじゃない。昭和58年の6月から、100年の牢獄から」

 

 そう言うと圭一はポカンとした顔をした後、フッと笑った。

 

「俺がやった事なんて大した事はないさ」

「そんな事はないわよ」

「いや……だって、俺は」

 

 圭一は言い淀み、その末に言った。

 

「あの娘を、羽入を救えなかったからな……」

「…………」

 

 忘れかけていた、いや、忘れようとしていた胸のつっかかりがズキリと痛んだ気がした。

 この世界、昭和58年の6月を突破したこの世界に、羽入はいない。

 それは確かに私にとって、大きすぎる損失であり、心残りだ。

 だけど。

 

「羽入がいなくても、私には圭一がいるわ」

「梨花ちゃん……」

「羽入の代わりになってくれるんでしょう? 圭一」

 

 フッと私は圭一に笑いかける。圭一は最初は戸惑っていたようだったが、やがて笑みを私に返してくれた。

 見ている、羽入。私は幸せになるわよ。この昭和58年の6月を突破した世界で……。

 圭一と一緒ならば、きっと、それも出来る。

 私は幸せな未来を掴み取る事が出来る、と。

 確信していた。

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